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国道202号春吉橋賑わい空間のあり方について

国土交通省 九州地方整備局 
道路部 道路計画第一課 課長
駒 井 正 樹

キーワード:橋梁架替、賑わい空間

1.はじめに
国道202号は福岡県福岡市を起点とし、長崎県長崎市に至る延長約250㎞の主要幹線道路である。その中でも、福岡市博多区祇園町から同市中央区大濠公園までの約4.5㎞区間については、昭和23年に福岡市で開催された第3回国民体育大会に併せて整備されたことにより、「国体道路」と市民の間で呼ばれ、親しまれている。国体道路は人口150万人都市である福岡市におけるビジネスやショッピング等の2大集積地である「天神」と「博多」を結んだ4車線道路であり、春吉橋は那珂川に架かる橋で、福岡市都心部のほぼ中心に位置している。天神南駅と博多駅を繋ぐ地下鉄七隈線の新駅が建設中である等、いっそうの都市化が進む地域でもある(図-1)。

2.春吉橋架替事業の背景
春吉橋は、昭和36年に架設されて以来60年余りが経過しており、下部工の損傷が著しく、干潮区域(河口から約1.5㎞)にあるため、塩害も進行している。更に、基礎が木杭であるため、地震に対する十分な耐力が期待できないという問題もある。また、春吉橋が架かる那珂川は、平成21年7月の中国・九州北部豪雨で流域に甚大な浸水被害が発生した所であり、福岡県で河川改修事業が進められてきた。春吉橋は橋脚の間隔が短く、川幅も狭くなっているため、治水上のネックとなっている。これらの課題を解消するため、平成25年度より春吉橋の架替事業に着手した(図-2)。

3.迂回路橋の活用について
春吉橋周辺には、観光資源が多く点在しており、また福岡の都市中枢である「天神」と「博多」2つの都市を結ぶ中間に位置している。この「天神」と「博多」が「競争と協調」によって共に発展していく為には、「回遊性」を高める事が重要である。そこで、一般的な橋の架替の場合は仮設の迂回路橋を設置し、本橋の架替後にその迂回路橋を撤去するが、今回の春吉橋架替事業では、迂回路橋を永久橋として建設し、架替後も撤去せずに存置して「福岡の顔」となる賑わい空間として利用する計画としている(図-3)。

4.検討会の実施
(1)春吉橋を核とした空間利活用に関する技術研究会
回遊のクロスポイントとなる『春吉橋』を核とした空間利活用の将来ビジョンを技術的見地から検討し、福博連携のシンボルと呼ぶに相応しい空間づくりを産学官及び地域とが連携して推進する為の「春吉橋を核とした空間利活用に関する技術研究会(以下、「研究会」という)」が平成25年11月25日に設置された。研究会は、福岡市、福岡県、国土交通省九州地方整備局福岡国道事務所が事務局となり、九州大学教授の坂口委員長(現職:九州大学名誉教授)を始め、学界や経済界等、12人の委員により構成され、平成27年6月19日に提言が提示されている。研究会では、新たな水上広場のイメージとして人々の集い、憩いを触発する「マグネット」、バザール的な賑わいが年中絶えない「バザール」等、賑わいを連想させるようなキーワードが挙げられた。
また、春吉橋のこれからの取り組みとして「象徴性」、「話題性」、「事業性」、「快適性」、を兼ね揃えた賑わい空間の整備方針が示された。「事業性」においては、民間ノウハウを積極的に活用すること、架替橋梁を用いた空間であることを踏まえ、メンテナンスコストも考慮した今後の全国の先進例となるようなモデルを考慮していくことも重要であると述べられた(図-4)。

(2)博多と福岡を結ぶ国体道路の空間利活用検討会
研究会の提言を深化させる形で、「博多と福岡を結ぶ国体道路の空間利活用検討会(以下、「検討会」という)」が、平成31年3月25日に設置された。この検討会は、混雑が続く自動車交通に加え、更なる増加が予想される自転車、歩行者への対応や、都心の回遊性向上によるまちの活力維持・向上を目的とし、安心で快適な歩行者、自転車空間の形成と自動車交通が共存できる国体道路の空間再編及び博多と福岡のクロスポイントとなる春吉橋賑わい空間のあり方について検討する。検討会は福岡市、福岡県、国土交通省九州地方整備局福岡国道事務所が事務局となり、研究会同様に九州大学教授の坂口委員長を始め、学界や経済界、エリアマネジメント団体、自治協議会、道路利用者等、14名の委員から構成されている。
現在、第2回検討会を終えており、今後は民間サウンディング調査を実施し、第3回検討会に向け、賑わい空間のあり方について更なる検討を進めていく。そして、令和3年度上半期を目処に提言の取りまとめを行う予定としている。

5.賑わい空間試行イベント
(1)実施概要
試行イベントは、ここ春吉橋の迂回路橋が将来「賑わい空間」になることを踏まえ、春吉橋架替工事の路上工事縮減期間中であるゴールデンウィーク期間(以下、「GW期間という」)を活用し、地域等への事業に対する理解の促進を図ることとあわせ、検討会における春吉橋賑わい空間のあり方検討や、事業性を生み出すビジネスの仕組みづり検討の参考とするために、迂回路橋を活用した賑わい空間を試行創出し、今後の事業の参考とするものである。併せて今後の賑わい空間整備に向けた来場者へのアンケート調査も実施した。
イベント期間は、平成31年4月26日から令和元年5月6日のGW期間の10日間(4月29日は雨天中止)で実施した。「令和に架ける橋」して、イベント会場の入り口に、春吉橋架替事業の事業PRパネルを設置し、併せて事業に携わった技術者の等身大パネルを設置し紹介した。その他、福岡の人気飲食店が出店する「橋の上のにぎわひ横丁」や、ミュージシャン・パフォーマー等が会場を彩る「星空のステージ」、フォトスポットエリアの設置等を行い、賑わい空間を試行創出するための演出とした(図-5)。

(2)試行イベントの結果
長期休暇であることや5月3日から4日に開催された国内最大の動員数約200万人を誇る「博多どんたく港まつり」とも重なり、多くの人で賑わい、事業の役割等を伝えるイベントとなった。イベントの延べ来場者数は約14万人にのぼるほどの大盛況となり、改めて春吉橋のポテンシャルの高さを確認することができた。
本イベントに立ち寄った目的としては「他目的で外出し、通りがかった」と回答した人が約7割であり、内訳としては福岡市内で観光、買物、食事を目的に通りがかった人が立ち寄ったことが分かった(図-6)。

他目的で立ち寄ったにも関わらず多くの人が訪れたことから、春吉橋のポテンシャルの高さが窺える。また、本イベントの満足度としては、満足度が「非常に高い」又は「やや高い」と回答した人が約8割を占め、新しい春吉橋には、「ベンチやカフェなどがありゆっくりできる空間」や、「多様なイベントが実施され、多くの人で賑わえるような空間」を求める人が多いことが分かった。(図-7、8)春吉橋にベンチ等の休憩ができる空間を求める回答が一定数見受けられたが、これは隣接する国体道路に歩き疲れた時、休める場所が少ないことが理由であると考える。また、出店者へのアンケート調査も実施しており、今後必要と思われる設備等については、インフラ整備や風・雨対策の意見が多かった。

6.賑わい空間の方向性
賑わい空間のあり方検討を進める上で、利用者のニーズを把握するためにWEBアンケート調査を実施し、賑わい空間の方向性を検討するために、まちづくり団体、周辺店舗、バス及びタクシー事業者にヒアリング調査を実施した。

(1)WEBアンケート調査結果
賑わい空間へ求めるニーズを把握するために、国体道路と春吉橋周辺を通行したことがある人を対象としてWEBアンケート調査を実施した。調査項目は①福岡都心部の利用状況(利用目的、利用頻度、アクセス手段等)、②春吉橋における賑わい空間の創出及びGW試行イベントの認知、③賑わい空間ができた際のアクセス手段、④平成27年研究会で提示された5つのテーマに基づいた望ましい賑わい空間(方向性)の5項目である(図-9)。

④の望ましい賑わい空間に関する問いに対しては、中洲特有の性質上、昼と夜のイメージに分けてアンケート調査を実施した。人々が集まり、交われる憩いの空間となるマグネット機能、那珂川の川面や福岡らしい風景を楽しめるフォトジェニック機能、祭や行事など地域の催事やイベントを行う空間であるエンターテイメント機能を求める回答が多いことが分かった(図-10、11)。

(2)ヒアリング調査結果
春吉橋周辺のまちづくり団体、周辺店舗及びバス・タクシー事業者を対象に、賑わい空間の方向性を把握するためにヒアリング調査を行った。また、まちづくり団体へのヒアリング調査結果では、利用者へのWEB調査結果と同様に、マグネット機能、フォトジェニック機能、エンターテイメント機能の3つのニーズが高いことが分かった(図-12、13)。
周辺店舗へのヒアリング調査結果では、試行イベント期間中はGW期間であったこともあり、そもそも人が多い状況であったが、試行イベントにより更に賑やかさが加わった等の良い影響を受けたという回答もある一方で、ゴミ問題や売上低下など悪い影響を受けたという回答もあった。

7.賑わい空間の法的位置づけ整理
令和2年2月4日に道路法改正の閣議決定があり、歩行者利便増進道路の指定制度が創設された。本制度を利用することで、歩行者が安心、快適に通行、滞留できる空間の構築が可能となった(図-14)。

上記制度も考慮した上で、検討会にて春吉橋の賑わい空間のあり方について議論していくことになるが、パターンとしては①道路区域、②公園区域、③条例による広場の3つが挙げられる。今後実施する民間サウンディング調査の結果を踏まえて、春吉橋の賑わい空間に相応しい法的位置づけについても検討していく。

8.おわりに
これまでの研究会や、試行イベント、利用者WEBアンケート等の結果により、春吉橋架替事業に伴う迂回路橋には、「多様なイベントが開催される賑わい空間」を求めている人が多いことが分かった。試行イベントは工事中の迂回路上で行ったこともあり、位置づけは道路上でのイベント実施であったため、将来的に道路以外の位置づけとする場合には、制約が異なるので注意する必要がある。一方で、試行イベント時やアンケート時には予見が困難であった新型コロナウイルス感染症による影響は大きく、コロナウイルスと共存する「withコロナ」として賑わいを考えるのか、あるいはコロナウイルスが完全に収束した「afterコロナ」として考えるのかという両論で、この空間づくりを議論していく必要がある。今後は民間活力を最大限に活かし、隣接する国体道路との一体的な質の高い空間づくりをしていくことが重要である。春吉橋は福岡市中枢地区である天神、博多のおよそ中間地点に位置しており、多くの利用者が見込まれる。そのため、春吉橋が「福岡の顔」となる賑わい空間として利用されるように、産官学と連携しながら引き続き検討を進めて行きたい。

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