油津港 世界最大クルーズ船受入環境整備の取組
宮崎県 県土整備部
港湾課 主幹
港湾課 主幹
脇 田 俊 也
宮崎県 県土整備部
港湾課 技師
港湾課 技師
後 藤 悠 介
キーワード:クルーズ船、受入環境整備、地域振興
1.油津港の概要
油津港は、風光明媚な日南海岸に位置する天然の良港で、江戸時代に飫肥藩主により堀川運河が開かれ、昭和初期には阪神、関門、朝鮮方面への木材搬出が活発になるとともに、昭和13 年には背後で製紙工場が操業するに至り、昭和27 年に重要港湾に指定された。
現在では、コンテナ船・RORO 船の定期航路やチップ船等の貨物船の利用があり、県南地域の物流拠点としての役割を担っている(写真- 1)。
そのような中、油津港背後には、堀川運河や飫肥城等の歴史的景観が魅力の観光資源が存在することから、日本や中国をはじめとした東アジア諸国のクルーズ人口増加に伴う数日~ 1 週間程度の日程で気軽に参加できるショートクルーズ需要の増加が起こり、日本の寄港地の中ではアジアに近くショートクルーズに取り組みやすい等の理由から、クルーズ船の寄港が急激に増加している(図- 1)(写真- 2)
2.大型クルーズ船の受け入れ整備
アジア等を中心とする世界のクルーズ市場の急成長を背景とし、日本へのクルーズ船による旅行人気が高まり、これに伴うクルーズ船の大型化が急速に進んできた。しかし、平成26 年時点で、本県には7.5 万トンを超えるクルーズ船の入港可能な港がなく、早急に大型クルーズ船に対応した港湾の施設整備が求められていた。
このような状況を受けて、平成26 年度より16 万トン級大型クルーズ船に対応した施設整備を実施した。
(1)貨物取扱機能と大型クルーズ船受け入れ両立
油津港は地域の核となる製紙工場等を支える港としての役割があり、木材チップの輸入や紙製品の輸出等、物流港としての機能を確保しながら、大型クルーズ船を受け入れる必要があった。
(2)着脱式係船柱と防舷材
16 万トン級大型クルーズ船の着岸にあたっては、係留索を張るための係船柱をコンテナターミナル中央付近に設置が必要であったが荷役作業の障害となる課題があった。このため、大型クルーズ船入港時のみ設置可能な着脱式の係船柱を考案することで解決を図った(写真- 3)。
また、大型クルーズ船が接岸する埠頭は、9号岸壁が185m、10 号岸壁が240m、総延長425m であるが、16 万トン級の大型クルーズ船の全長は約350m 近くあることから、両岸壁に跨がって接岸することになる。この場合、両岸壁の防舷材を全て大型防舷材に取り換えるのが一般的であるが、コスト削減のため防舷材の交換はクルーズ船に必要な範囲のみとした。
一方で、既存の防舷材を利用する定期貨物船には一部の防舷材が大きくなった場合、接岸の支障となる事が課題となることから、大型クルーズ船入港時のみ設置可能な着脱式防舷材を考案する事で解決を図った(写真- 4、図- 2)。
(3)世界最大級のクルーズ船受入整備
現在、日本に寄港しているクルーズ船は、16万トン級が最大であるが、世界最大のクルーズ船は、22 万トン級である。近年、急激なクルーズ需要から、アジアへ配船が見込まれており、日本への寄港も期待されている。このような中、平成28 年度に22 万トン級の大型クルーズ船寄港に対応するため、国土交通省の補助事業である官民連携基盤整備推進調査費を活用して、着岸時における防舷材、係船柱等の付帯施設の検討を行い、学識経験者や海事関係者等の専門家で構成される委員会で入出港の安全性を調査検討した。
検討の結果、現在の港湾施設において、既存岸壁の係留施設等整備を行うことにより、クルーズ客船の安全な入出港のための条件が満足され、22 万トン級の大型クルーズ船が入港可能であるとの結果が得られた。
上記の結果を受け、平成29 年度には、着脱式防舷材と係船柱それぞれ1 基の整備が完了している。
3.地元への効果
平成27 年6 月に16 万トン級大型クルーズ船の受け入れを開始し、平成30 年5 月までに、16万トン級外航クルーズ船が19 回寄港した。このような乗客4 千人を超えるクルーズ船の寄港増加により、経済面の効果と外国人観光客増加による教育面への効果がみられた(写真- 5) 。
(1)経済効果
平成27 年8 月に16 万トン級クルーズ船(Quantum of the seas167,800GT) の初寄港が実現し、平成27 年6 月~平成27 年8 月までに16 万トン級クルーズ船を含めて、4 隻の外航クルーズ船が入港した。4 隻の乗客数合計は、約13,300 人であり、このクルーズ客が使用した、バスのチャーター料、タクシー代、土産物品の購入、観光施設入場料などを合わせて、約1 億6千400 万円の直接消費効果(日南市調べ)となっている。
(2)地元学生への効果
クルーズ船寄港により外国人観光客と接する機会が増えたことにより、高校生による通訳ボランティア活動や市内の既存店舗と共同開発した外国人向けスイーツの販売実施など地元学生による活動が活発化している。このような動きは、世界に触れ、郷土を見つめ直す絶好の機会となっており、グローバル感覚に優れた人材育成につながっている(写真-6)。
4.快適性や利便性向上のための受入環境整備
前述のとおり、油津港においては、物流港としての機能を確保しながらクルーズ船を受け入れる必要があることから、旅客の安全性や円滑な移動においても課題があった。そのようなことから、油津港を訪れるクルーズ旅客の快適性や利便性を向上させるために、国土交通省の国際クルーズ旅客受入機能高度化事業を活用し、クルーズの利便性や安全性の向上及び物流機能の効率化を促進している。
平成29 年度より駐車場の舗装やトイレ設置を進めている(写真- 7)
(1)駐車場の舗装
クルーズ船寄港時におけるツアーバス等の発着所として、岸壁背後の埠頭用地と埠頭用地に隣接している空地を利用しているが、埠頭用地に隣接している空地が未舗装であることから、降雨時にバスへの乗降が不便であり、移動等に時間を要している状況となっている。このため、駐車場の舗装を行うことで、クルーズ旅客がスムーズにまた安全に乗降出来るよう整備を進めている。
(2)常設トイレの設置
埠頭内には旅客専用ターミナルが整備できないことから、常設トイレが設置されておらず、クルーズ船寄港のたびに簡易トイレを設置している状況で、クルーズ旅客やクルーズ船見学者等の利用も多く、衛生上の問題が発生している。このため、埠頭内に常設のトイレを設置することで衛生環境を改善し、クルーズ旅客及びクルーズ船見学者の不快感を解消するため整備を進めている。
5.みなとオアシスへの登録
油津港を含む周辺地域については、飫肥杉の積み出しや東洋一のマグロ基地港として古くから栄え、今日ではそれらの歴史的建造物による景観を活かした映画等のロケ地や国内外のクルーズ船寄港などで、年間約8 万人の乗船客と乗務員が訪れるなど、港を拠点とした人的・物的交流が盛んに行われている。このような観光客との交流や今後、港を拠点とした賑わい創出や地域の活性化等が期待される事から、平成30 年5 月20 日「みなとオアシス油津」として登録された(写真- 8)
みなとオアシスへ登録された事により、今後、油津港周辺の歴史的建造物等の施設活かした体験型メニューの開発・実施を進めることで、訪日観光客の交流や回遊性が期待される。
6.おわりに
クルーズ船の寄港により観光地や商店街の賑わいなどの経済効果や高校生の通訳ボランティアなど地域への効果が大きい。一方で、宮崎県日南市は人口が約5 万人の地域であり、クルーズ船の寄港によって、人口の10% にあたる約5 千人が観光に訪れる状態となっている。しかし、多人数で訪れるクルーズ観光客に対して、観光施設や交通施設整備等も十分でないため、官民が連携した受入を実施している。
また、油津港のクルーズ船入港にあたっては、貨物専用の岸壁である事から、港湾利用者の理解と貨物船とのバース調整を実施し、入港が実現している。
更なるクルーズ船の寄港拡大に向けて、関係機関との連携をこれまで以上に密にして、受入態勢の強化を進めていく必要がある。
平成30 年5 月23 日開催された公益社団法人日本港湾協会平成30 年度定時総会の表彰式において、油津港で平成26 年より実施した全国初となる着脱式の係船柱及び防舷材を考案し整備した事により、20 ~ 30 分の装着作業で、大型クルーズ船の着岸が可能となり、物流機能との共存が図られた事が評価され、技術賞を受賞しました。
最後になりますが、クルーズ船受入拡大にあたってご尽力頂きました関係者の皆様には心から感謝申し上げます。