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2017年度「土木学会景観・デザイン委員会デザイン賞」受賞
~最優秀賞:アザメの瀬 湿地の転生、優秀賞:嘉瀬川ダム~

国土交通省 九州地方整備局
武雄河川事務所 調査課長
上 野 勇 二

キーワード:土木学会デザイン賞、アザメの瀬、嘉瀬川ダム

1.はじめに
土木学会講堂( 東京都新宿区) において、2017 年度「土木学会景観・デザイン委員会デザイン賞」の授賞式(平成30 年1 月21 日)が行われました。受賞の13 作品(最優秀賞:4 作品、優秀賞:5 作品、奨励賞:4 作品)のうち、国土交通省九州地方整備局が事業者の2 作品(最優秀賞:アザメの瀬 湿地の転生、優秀賞:嘉瀬川ダム)の特徴や評価された視点を紹介します。

2.「アザメの瀬 湿地の転生」の特徴と評価の視点
最優秀賞「アザメの瀬 湿地の転生」は、松浦川河口より15.6㎞地点の佐賀県唐津市相知町(松浦川水系松浦川)に位置し、「氾濫原湿地の再生」と「人と生き物のつながりの再生」を目標として、平成21 年までに整備された再生湿地です。
延長約1,000m、幅約400m で面積約6ha を約5m 地盤高を掘削することによって治水機能を発現させ、冠水頻度や大きさの異なる6 つの池、その周りの湿地、学習田、松浦川本流と繋がるクリークからなる湿地環境の再生を行っています。

アザメの瀬の特徴は河川のダイナミズムにより再生された美しい自然風景と、人と自然の関係性の紡ぎあいの結果としてつくられ変化を続ける風景です。
その実現は、当該地の詳細な地質調査に基づき千年前の自然堤防と後背湿地の地形を目標とし、春出水で水がアザメの瀬に入る高さの地盤高を再生する事により、土砂や生物が運ばれ自ずと自然が再生されるという基本概念に基づきデザインされ、さらに様々な条件の池が豊かな生物を育む霞堤方式で洪水を導水し、上流に水害防備林を植えて湿地の荒廃を防ぐ等の地元地域の提案を採用しています。また、自然と人との睦み合いとにらみ合いが継続し、自然と人が関係しあい風景を作り出す舞台として、計画、設計、維持管理のための合意形成、ガバナンスの仕組み、子供が関わることなどにより持続性を担保するデザインとなっています。
なお、竣工直後は植生がほぼ皆無でしたが、ほぼ全てが自然の河川システムによって輸送され定着しています。出水時は、ほとんど流速が発生しない穏やかな空間となり、水辺の生態にとって、重要な避難場としての機能を有しています。

作品選集に記載している選考委員講評は、各選定委員の評価された点が記述してあります。
記述内容としては「施工後10 年を経ての応募、受賞である。人と自然とのたゆまぬ営為の蓄積。しかしそれは、あまりに自然で意図や作為が感じられない。だがこれは紛れもなく強い意志によって人が作り出した風景である。現代社会に最も必要な場である。原生的な自然ではなく、自然と人と関わりの歴史が生み出した風景。心にしみる。「人間のための田んぼを川(自然・生き物)に返そう」という合意形成の困難さを思うと画期的な事だと気づく。そのプロセスに思いをはせたとき、この作品のすごさが分かると思う。それは計画の合意形成過程だけでなく、整備のあり方や整備後の関わり方を含めて今日まで持続している。」(「作品選集」要約)など、現在の風景の論評だけでなく、合意形成の過程や風景が形成されてきた人と自然との営為の蓄積までも論評されています。

3.「嘉瀬川ダム」の特徴と評価の視点
優秀賞の「嘉瀬川ダム」は、佐賀県佐賀市富士町( 嘉瀬川水系嘉瀬川) に位置する重力式コンクリートダムで、嘉瀬川の治水、河川維持用水の補給、農地のかんがい用水の補給、都市用水の補給、発電等を目的とし、平成24 年3 月に完成しました。

ダム本体とその直近部分の景観検討を目的に、平成14 年に嘉瀬川ダム工事事務所(当時)が、「嘉瀬川ダム本体景観検討委員会」を組織して、その下に「堤体景観検討ワーキング」が設けられました。4 年間で合計21 回開催された同委員会のワーキングでは、ダム本体及び管理庁舎を含むダム直近の施設についても具体の景観検討が行われました。
全面越流式堤体の圧倒的な存在感が本ダム最大の景観的特徴であり、景観検討の作業では、主要付属施設のボリューム・形状・配置等を機能的に最適化すること、主要付属施設の質感をダム本体のそれに揃えること、機能と無関係な形態操作や意匠を排除すること等により、機能に忠実なダムの姿に近づけることに力点を置き、その結果として周辺の美しい自然風景の中に質実かつ控えめに存在するダムとなりました。

作品選集に記載している選考委員講評は、各選定委員の評価された点が記述してあります。
記述内容としては、「嘉瀬川ダムの第一印象は、“ コンクリート重力式越流型ダムの理想形が誕生した” であった。これすなわち、設計者が言う「機能に忠実な姿の追求」、「機能と無関係な形態操作や意匠を排除」の完璧な成果である。ダム天端の管理橋を支えるピアが均等に配置されていて、下流側から見た姿は美しい。下流側面から見るとシャープなピアが連続し、その連なりもまた美しい。ピアの均等配置による越流部の分節が、コンクリートの巨大な塊であるダム本体にいいリズムを与えている。一般にバラバラと出現する付属施設群は、その必要機能を咀嚼して最小化・形態調整され、橋脚のリズム感等を阻害しない位置に配置されている。実にこれらは、造形センスを併せ持つ技術者のみに実現できる特別なデザインなのである。」( 「作品選集」要約) など、コンクリート重力式越流型ダムの理想形を追求した結果について、造形センスを併せ持つ技術者のみに実現できる特別なデザインの成果の美しさとして論評されています。

4.おわりに
今回、「アザメの瀬 湿地の転生」の受賞にあたり、特別に、松浦川(の気候、風土、生き物)にも賞状にかわる感謝状が送られました。これは、風景の形成にあたり、松浦川が大きく貢献したことが評価されたものでした。自然の力を利用して、河川の環境をできる限り向上することを目指している多自然川づくりの事例として評価された、誇らしい表彰であると思っていますし、このような賞を今回、特別に用意して頂いた土木学会の柔軟性にも感謝しています。
土木学会デザイン賞を受賞した作品については、「2017 土木学会デザイン賞」等をパソコンや携帯電話などで検索して頂ければ、作品選集作品紹介や選考委員講評がご覧頂けます。他の作品も素晴らしい作品になっています。是非ご覧になって、今後の土木施設の設計や施工の参考としてください。
最後に、2 つの作品の表彰にあたり、「アザメの瀬 湿地の転生」にご指導いただいた、九州大学島谷教授、林助教、長くアザメの瀬を活動の場としていただいているNPO 法人アザメの会や相知小・中学校の皆さんを初めとする多くの皆様方、「嘉瀬川ダム」にご指導いただいた、佐賀大学古賀名誉教授、佐賀大学丹羽( 故人) 教授( 当時)、九州大学樋口准教授を初めとする多くの皆様方の多大なご協力に対して感謝を申し上げます。

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