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福岡空港の総合的な調査~PIステップ3について~

国土交通省 九州地方整備局 港湾空港部
 空港PT室 副室長
吉 﨑 将 人

はじめに
福岡空港の総合的な調査は、将来予想される福岡空港の混雑問題などに対処するために、平成15年度から国、福岡県、福岡市が連携して、調査・検討を行なっているものです。
調査に当たっては、多くのみなさんに調査内容の情報を提供するとともに、より多くの意見をいただきながら進めていく、パブリックインボルブメント(PI)を4つの段階を踏んで実施しています。
平成17年はPIステップ1、平成18年はPIステップ2を実施し、対応方策を検討するための前提条件などをまとめました。
それを受け平成19年9月から、評価の視点と検討すべき対応案についてのPIステップ3を実施しましたので、その内容と情報提供及び意見収集方法を紹介します。

1 福岡空港の概況
○ 福岡空港の現況
福岡空港は福岡市中心部に近い場所に位置し(都心から7㎞)、福岡市都心部から空港へのアクセスは、福岡市営地下鉄空港線が国内線ターミナルビルへ乗り入れており、JR博多駅から5分、天神から11分と非常に利便性に優れた空港です。
空港の周辺地域は市街化が進んでおり、周囲に住宅密集地や事業所、福岡都市高速道路、国道3号、さらには南東側に丘陵地が近接しています。

福岡都市圏中心部

福岡空港周辺図

福岡空港平面図

滑走路は2,800mが1本で、周辺の騒音問題から利用時間は7:00~22:00までに制限されています。
空港面積は353haありますが、そのうち約1/3は借地をしています。
これは、元は旧陸軍の席田(むしろだ)飛行場を終戦後米軍により接収され板付基地として運営してきましたが、その過程で民有地の強制接収が行なわれたことが源流となっています。
昭和47年に我が国へ返還され、福岡空港として運輸省へ引き継がれましたが、民有地に関しては国が地権者から賃貸する状況が続いています。
平成17年度の借地料は約84億円、騒音対策費は92億円で過去5年間の平均は約60億円でした。
○ 福岡空港の利用状況
路線数は平成19年5月現在で、国内線は東京、大阪、名古屋及び南九州を中心に24路線320回(発着)/日、国際線は中国、台湾、韓国及び東南アジアを中心に17路線304回/週、平成18年度速報値で年間旅客数は国内線1,589万人、国際線224万人、年間発着回数は13.9万回にのぼっています。
航空旅客数は羽田、成田、新千歳についで全国第4位、年間発着回数は羽田、成田に次いで全国第3位です。(ともに平成18年度速報値)
滑走路1本の空港としては、旅客数、発着回数とも国内で最も多い空港です。

国内主要空港の年間発着回数

国内主要空港の年間旅客数

2 PIステップ3レポートについて
○ 福岡空港の総合的な調査とは
福岡空港は平成14年12月の交通政策審議会航空分科会答申において、「将来的に需給が逼迫する等の事態が予想され、将来にわたって国内外航空ネットワークにおける拠点性を発揮しうるよう、各圏域における今後の航空需要の動向等を勘案しつつ、既存ストックの有効活用方策、近隣空港との連携方策とともに、中長期的な観点からの新空港、滑走路増設等を含めた抜本的な空港能力向上方策等について、幅広い合意形成を図りつつ、国と地域が連携し、総合的な調査を進める必要がある」とされました。(九州地方整備局・大阪航空局)
これを受けて国、福岡県、福岡市は平成15年7月に福岡空港調査連絡調整会議を設け、協力しながら調査を行なっています。
調査に当たっては、パブリックインボルブメント(PI)の手法を取り入れ、みなさんにとってわかりやすく、意見を出しやすいように、4つの段階を踏んで課題や解決方法の検討を行い、そのステップごとにPIを実施しています。

総合的な調査の進め方

○ これまでわかったこと
平成17年度に実施したステップ1では、「福岡空港の現状と課題」、「空港能力の見極め」についてまとめました。
福岡空港は福岡都心部の建物の高さ制限や、周辺の騒音、航空機の混雑などの課題があるとともに、年間滑走路処理容量は14.5万回と見込まれ、旅客の利用や航空機の運用に制約が出始めていることがわかりました。
また、現空港敷地内で有効活用方策(国内線平行誘導路二重化)を実施した場合、年間滑走路処理容量は14.9万回と見込まれることがわかりました。
平成18年度に実施したステップ2では「地域の将来像と福岡空港の役割」「航空需要の将来予測」についてまとめ、地域が目指す7つの将来像と、その実現に必要な福岡空港の4つの役割を導きました。
また、航空需要予測の結果2010年代初期には年間滑走路処理容量に余力がなくなり、需要に十分に応えられなくなることがわかりました。
○ 何もしなかったら?
みなさんから多く聞かれることは「最近の需要は横ばいだが、本当にこんなに伸びるのか」ということです。
需要は2001年度をピークに近年は横ばいですが、これは大阪と南九州路線での新幹線と高速バスとの競合に伴う減少と、滑走路処理容量上限域での運用を行なっているためではないかと考えています。
実際に福岡空港では現在でもピーク時間帯(9時~11時、17時~19時)の増便ができないなど、制約が生じはじめています。
また、この需要予測は潜在的なもので、実際の需要は航空会社の便数設定などの影響を受けますので、需要予測値と実際の需要は必ずしも合致するものではありません。
今後の航空需要そのものは、GDPが伸びること、福岡都市圏の将来人口の増加、アジア諸国の経済成長が見込まれることなどから、増加していくと予測されています。
したがって、このまま何もしなかったら、ピーク時以外でも増便が困難になったり、慢性的に遅延が生じやすくなるなど、利用者の利便性や地域の将来像などに影響を及ぼすことが予想されます。

年間発着回数の予測結果

○ 将来需要への対応方策
PIステップ3で検討した対応方策は、交通政策審議会航空分科会答申において示された、4つの対応方策うち、近隣空港との連携、滑走路の増設、新空港の建設の3つです。
① 近隣空港との連携
近隣空港との連携は、福岡空港の利用を制限して需要を移転させる利用制限型と、新北九州空港と佐賀空港の需要を誘発する需要誘発型があります。
利用制限型は、福岡空港の国際線などの乗り入れ制限や、羽田などの高需要路線の便数制限などが考えられますが、航空自由化の流れに逆行するもので実現は困難です。
また、福岡空港の利用者は、福岡都市圏が中心であり、非常に利便性に優れていますので、新北九州空港や佐賀空港を利用するかは疑問です。
したがって、利用制限型は対応方策とはなり得ません。
需要誘発型は、近隣空港のアクセス整備や駐車場などの利用者負担の軽減などですが、PIステップ2において、アクセス整備を行なった場合の効果を検討したところ、福岡空港の需要逼迫緩和効果が少ないことがわかっています。
したがって、需要誘発型は抜本的な対応方策とはなり得ません。
② 現空港における滑走路増設
滑走路増設案の検討にあたっては、空港南東部の丘陵地や福岡都市高速道路などの周辺地域への影響や、滑走路処理容量など、考慮すべき事項が多数ある上に、滑走路長や配置間隔など多数の組合せが考えられることから、様々な視点から総合的に検討する必要があります。
これらを踏まえ、現滑走路の東側と西側への標準的な配置と、最も周辺地域への影響が軽減される配置を代表例としました。
・東側配置(滑走路間隔300m)
現滑走路の300m東側へ2500m精密滑走路を増設するものです。
国内線ターミナルビルの移転が伴いますので、国際線ターミナルビルに一体化し地下鉄の分岐又は延伸が必要です。
また、用地拡張面積は空港の東西両側へ合計約90ha、南東側丘陵地が増設滑走路への進入の障害となるため除去が必要です。
概算事業費は約7500億円、工事期間は14年程度を見込んでいます。
滑走路処理容量は、航空機の地上走行がシンプルになることから、3つのなかで最も優れています。

東側配置(滑走路間隔300m)

・西側配置(滑走路間隔300m)
現滑走路の300m西側へ2500m精密滑走路を増設するものです。
用地拡張面積は空港の西側へ約60ha、福岡都市高速道路が増設滑走路への進入の障害となるため付替えが必要です。
概算事業費は約5,000億円、工事期間は10年程度を見込んでいます。
滑走路処理容量は、旅客ターミナルビルが東西に分離されているため、航空機の地上走行が複雑になることから、東側配置より劣ります。

西側配置(滑走路間隔300m)

・西側配置(滑走路間隔210m)
現滑走路の210m西側へ2,500m非精密滑走路を増設するものです。
用地拡張面積は空港の西側へ約30ha、3つの中で周辺地域への影響が最も小さくなります。
概算事業費は約2,500億円、工事期間は8年程度を見込んでいます。
滑走路処理容量は、旅客ターミナルビルが東西に分離され、また滑走路間に大型機が一時待機できないことから、航空機の地上走行がさらに複雑になり、3つの中では最も劣ります。
なお、滑走路増設方策の場合は、毎年借地料と騒音対策費が別途必要です。(最近5年間の年平均約150億円)

西側配置(滑走路間隔210m)

③ 新空港
新空港は現空港にかえて他の場所に新しい空港を造るもので、有力な候補地ゾーンを2箇所選定しました。
これによって騒音や建築物の高さ制限など、現空港が抱える課題を解消することができるとともに、跡地の有効利用によって、新たな都市機能の付加や、一体的な市街地形成が可能になります。
候補地ゾーンを選定するにあたっては、平行滑走路3,000m×2本、間隔300mで、用地は530haとしました。
選定方法は、JR博多駅から30㎞以内の福岡都市圏で、地形、水深、横風、空域など選出条件を設定し、滑走路配置の可能性を検証した結果海域6ゾーンを選出しました。
さらに、活断層や港湾機能との関係など、現状で考えられる課題を整理した結果、有力候補地として三苫・新宮ゾーンと志賀島・奈多ゾーンを選定しました。
概算事業費は約1兆円~1.1兆円、工事期間は13年程度を見込んでいます。

新空港の選定ゾーン

○ 評価の視点
評価の視点は、将来対応方策を比較評価するにあたって基本となるもので、現状と課題及び地域の将来像から導き出された福岡空港の役割を基に、これまでのステップでの意見を踏まえつつ、「需給逼迫緩和」、「利用者利便性」、「環境・安全」、「まちづくり・地域振興」、「事業効率性」の5つの評価の視点を設定しました。
○ PIステップ4に向けて
ステップ4ではみなさんからの意見を踏まえ、評価項目を設定し、滑走路処理容量の検討や新空港の具体的な滑走路位置を設定するとともに、将来対応方策の長所短所を整理した上で、今後の方向性案を示します。

3 PIステップ3の実施について
○ PIステップ3の開始
PIステップ3は平成19年9月18日から約4ヶ月の予定で始まりました。
同時に福岡空港を利用される方、されない方、福岡県民、県外の方など、幅広いみなさんに参加していただくように、各種イベントを開催しました。
また、報道機関への情報提供や関係行政機関の各広報メディアによる広報なども行ないました。
PIステップ3レポートは7万5千部、詳細版は3千部準備し、各種イベントやインフォメーションコーナーにて配布しました。
また、ホームページにも掲載しました。
○ イベント
イベントは約2ヶ月間行なわれ、約9,000人が参加して行なわれました。
みなさんから寄せられた意見数は、PIステップ3で初めて将来対応方策を示したことで、これまでのステップよりかなり多く、また内容も対応方策の賛否だけではなく、福岡空港の将来のあり方についてに関することが多く、みなさんの関心の深さが伺えます。
・インフォメーションコーナー
PIに関する総合的な情報提供窓口で、福岡空港の国内線ターミナルビル、福岡県庁、福岡市役所及び九州地方整備局博多港湾・空港整備事務所に設置しました。

福岡空港内のインフォメーションコーナー

・説明会
説明会はPIレポートの内容について説明し、みなさんから意見を伺うもので、福岡市、大野城市、北九州市、飯塚市、久留米市、直方市で、延べ約200人が参加して行なわれました。

北九州市での説明会

・出前説明会
出前説明会は要望に応じてみなさんのところへ出向き、PIレポートの内容について説明し、みなさんから意見を伺うもので、県内各地の市民講座や学校などで24回行いました。
・懇談会
懇談会は空港利用企業、航空会社、地元経済団体及び福岡空港に関心をお持ちの団体などが集まり、ファシリテーターを中心にPIレポートの内容について意見交換を行なうもので、各分野ごとに12回に分けて行ないました。

空港関連事業者との懇談会

・公開懇話会
公開懇話会は、懇談会参加メンバーから募り、公開の場で議論いただき意見を伺うもので、ファシリテーターを中心に毎回テーマをかえて3回行ないました。

公開懇談会(第1回)

・オープンハウス
オープンハウスは、PIレポートの内容についてのパネル展示や説明を行って、みなさんの意見を伺うもので、福岡市、春日市、志免町、北九州市、飯塚市、久留米市、佐賀市の大型ショッピングセンターなどで16日間行ない、延べ約5,000人が来場しました。

THE MALL春日のオープンハウス

・空港見学会
空港見学会は、福岡空港と北九州空港の現状を見学していただき意見を伺うもので、37名が参加しました。

福岡空港国内線ターミナルビルの展望室から

・意見発表会-福岡空港PIどんたく-
意見発表会は、PIステップ3のテーマに関しての、みなさんの研究成果を自由に発表していただき、一般参加者を含めた中で意見交換会を行なうものです。
主催者挨拶の後、第1部では意見発表者に1人8分以内で、PIレポートの賛否ではなく、自ら考えた意見を公表していただきました。
意見発表者は11人で、将来対応方策や評価の視点について、8分という短い時間の中でそれぞれの思いや研究成果について熱弁をふるっていただきました。
第2部では、発表者同士の意見交換や一般参加者からの質問、有識者からのコメントなど、活発な議論が展開されました。

意見発表会-福岡空港PIどんたく-

○ みなさんの意見
意見の収集は各種イベント、意見はがき及びメールなどで行ないました。
意見のまとめは現在(11月初旬)作業中ですが、寄せられた意見の数は、開始1ヶ月でこれまでのステップを大幅に上回っており、初めて具体的な将来対応方策を示したことで、これまで以上にみなさんの関心が大きくなっていると思われます。
意見の内容で多かった項目は、近隣空港との連携については、近隣空港へのアクセスに関すること、現空港の滑走路増設については、利便性と周辺環境や危険性に関すること、新空港については利便性と費用に関することでした。
また、直接一般の方と話す機会があるオープンハウスや出前説明会などでは、地域ごとに意見が分かれているように感じました。
空港周辺の航空機の進入直下以外の方の多くは、空港と共存していると認識しており、また福岡都市圏の西側と中心部の地下鉄沿線の方の多くは、利便性を重視していました。
一方で、航空機の進入直下に住んでいる方の多くは、騒音対策や事故の危険性を重視しており、また福岡都市圏の東側の方は新空港の効果に期待していました。
これは、現空港のメリットである利便性や地域振興などの恩恵を受けている地域と受けていない地域、またデメリットである航空機騒音被害や事故の危険性に直接さらされている地域の方の、福岡空港に対する価値観などの違いが表れた結果であると思います。
このみなさんから寄せられた貴重なご意見を、PIステップ4の対応方策の評価に反映させ、またこれを踏まえて、今後の対応方策の検討に生かしていきたいと思います。

おわりに
PIステップ4では、現在検討中の項目や対応方策の方向性案を、みなさんにわかりやすく情報提供するとともに、これまでの各種イベントなどの反省点を踏まえ、幅広いみなさんの参加に向けて、情報提供や収集方法を工夫して実施したいと思いますので、たくさんのご意見をお寄せください。
また、ご近所でイベントが開催される折には是非お立ち寄りいただければと思います。

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