【特集】平成29年7月九州北部豪雨災害について
河川・砂防事業と地域の対策が連携した本格的な復旧について
国土交通省 九州地方整備局
河川部 河川計画課長
河川部 河川計画課長
坂 井 佑 介
キーワード:九州北部豪雨、筑後川右岸流域河川・砂防復旧技術検討委員会
1.はじめに
平成29 年7 月5 日の昼頃から夜にかけて九州北部の福岡県から大分県に強い雨域がかかり、短時間に記録的な雨量を観測した。この平成29 年7 月九州北部豪雨により、同時多発的な斜面崩壊等が発生し、大量の土砂や流木が流下した赤谷川や白木谷川流域などの筑後川右岸流域で、人的被害や多数の家屋被害が生じた。
今回の筑後川右岸流域での甚大な災害では、気象変動等の影響により今後ますます豪雨が高頻度化、集中化し、災害の規模が大きくなる傾向が予想される状況下において、都道府県が管理する中小河川において直面している課題が浮き彫りとなった。このため国土交通省九州地方整備局と福岡県では、このような激甚な災害を再び繰り返すことのないよう、河川事業・砂防事業・地域の対策が連携した復旧の基本的な考え方並びに中小河川の治水対策に資する知見をとりまとめるため、「筑後川右岸流域河川・砂防復旧技術検討委員会」(以下、「委員会」という。)を設置した。
2.委員会概要
委員会は、河川と砂防分野の学識者等によって構成され、第1 回を平成29 年9 月7 日に開催し、合計4 回の委員会を開催した。委員会では、今回の九州北部豪雨により、土砂や流木の流出等により激甚な被災を受けた筑後川中流部右岸の支川に関し、その被災実態を把握・分析を行った。これら支川の治水・砂防計画を立案するにあたっては、赤谷川流域をモデル河川として検討することとした。
3.河川・砂防事業等の検討課題
被害状況を分析した結果、土砂や流木については、既存のダムが捕捉したり、砂防堰堤が一部を捕捉したものの、想定最大規模の降雨に近い雨により、捕捉できる規模以上の土砂や流木が山地から流出し、中小河川に流入していた。また、洪水が大量の土砂や流木とともに氾濫したことにより、広範囲にわたって甚大な被害となった。中小河川の情報把握については、河川水位をリアルタイムに把握する手段がなかったことと、土砂災害警戒区域や浸水想定区域の指定の際の想定とは異なる現象によって被害が発生した(表- 2)。
4.河川事業・砂防事業及び地域の対策が連係した復旧の基本方針
通常の河川災害及び土砂災害の場合、二次災害の防止や再度災害の防止を目的として、発生した洪水の規模を参考に、洪水による災害は「河川事業」、土砂による災害は「砂防事業」といった、それぞれ災害復旧事業等を実施するのが一般的である。しかし、今回の災害は、通常の河川事業または砂防事業それぞれの考え方だけでは、復旧後の河道の安定性や流域全体の長期的な安全性を確保するには十分ではなく、河川事業と砂防事業が連携した洪水処理計画、土砂及び流木対策を講じることが必要であった。さらに、今回の災害のような想定最大規模に近い降雨により発生した計画規模を超える洪水に対しては、ハード対策のみで地域の安全性を確保することは難しいと考えられ、地域全体で大規模な洪水に対する安全性を確保できるよう住まい方や確実な避難を実現する環境(体制)の構築といった対策を含めた検討が重要と考えられた。
このため、復旧の基本方針として、河川事業・砂防事業・地域の対策が連携して実施することにより、以下のように地域の安全性の確保を目指すこととした。
(1)一定規模の降雨への対応
今回の豪雨で不安定化している土砂や流木が流域内に残存していることも前提に、河道対策と砂防堰堤等での流出抑制対策を効果的に組み合わせ、洪水被害の発生を防止する。
(2)今回の災害と同規模以上の降雨への対応
今回の災害と同規模以上の降雨への対応については、自治体等と一体となった対策や避難体制の構築も含めて、人的被害の防止を図るとともに、家屋被害の最小化を目指す。
5.赤谷川における復旧方策
5-1 一定規模の降雨への対応
4. で示した復旧の基本方針に基づき、一定規模の降雨への対応としてとりまとめた、河川事業、砂防事業による復旧方策の主な概要は以下のとおりである。
・河川事業における計画規模(洪水を安全に流下させる河道の規模)は、都市化の状況や想定氾濫区域、人口、資産及び既往洪水の規模、被害の状況等を勘案し設定。また被災前の縦横断形状を基本としつつ、多自然川づくりを実施する。
・砂防事業では、今次出水後の緊急点検で応急的な対策が必要と判定された渓流について、砂防堰堤等の整備を優先的に実施する。
豪雨による不安定土砂が残存し、不安定土砂が活発に動くことを前提に流出土砂量を算定、砂防域~河川域で連続した河床変動計算を実施し、顕著な堆積区間が存在する場合は、河道形状の工夫(複断面形状の採用、縦横断形状の変更)や砂防施設の工夫(砂防施設の追加配置、不透過型構造の採用)により土砂堆積を改善。
豪雨による不安定土砂が残存し、不安定土砂が活発に動くことを前提に流出土砂量を算定、砂防域~河川域で連続した河床変動計算を実施し、顕著な堆積区間が存在する場合は、河道形状の工夫(複断面形状の採用、縦横断形状の変更)や砂防施設の工夫(砂防施設の追加配置、不透過型構造の採用)により土砂堆積を改善。
・河道計画や砂防計画の工夫だけでは土砂の流出対策の調整が困難な場合には河道内の貯留施設について検討する。
・流木の流出対策として、河道内の残存している流木は復旧工事の際に撤去する。渓流内に残存している流木のうち、砂防堰堤を設置する渓流では、残存流木量を見込んだ施設設計とすることで下流への流出を防止する。これらの対応で、処理しきれない場合は、河道内の流木対策施設の設置を検討する。
・施設整備後のモニタリングを行ない、施設構造の変更、河道・砂防堰堤などの管理方法の見直しを行う。
5-2 今回の災害と同規模以上の降雨への対応
4. で示した復旧の基本方針に基づき、今回と同規模以上の降雨への対応としてとりまとめた。ハード対策と併せて実施する地域の対策の主な概要は以下のとおりである。
・今次出水の浸水実績や土砂災害警戒区域、地形等の情報を地域や関係者で共有し、住家や避難所等の設置を検討する際の参考とすることが考えられる。
・河道やその周辺に堆積した土砂は、その粒度構成からすれば、盛土材として再利用することが可能と考えられ、宅地の造成に有効活用することで、土砂処分と宅地造成の双方を効率的かつ経済的に実施することが考えられる。宅地盛土材として再利用する際には、流木と盛土材の分類、侵食に対しての配慮が必要である。
・洪水時の河川の状況をリアルタイムで把握することで、避難勧告等避難の目安となる情報を発令する首長への迅速な情報提供(ホットライン)につながることが期待できることから、中小河川においても水位計、河川監視カメラなどを設置する必要がある。
6.手交式
委員会は、被災した筑後川右岸流域の早期復旧・復興に資するため約2 ヶ月という短期間に4 回の委員会を開催し、報告書としてとりまとめられた。報告書は、平成29 年11 月22 日に小松委員長から増田九州地方整備局長・福岡県県土整備部小路次長(県知事代理)に手交された。
7.九州北部緊急治水対策プロジェクト
国土交通省は、九州北部豪雨で甚大な被害を受けた河川においてハード・ソフト一体となった対策を実施する「九州北部緊急治水対策プロジェクト」を平成29 年12 月に発表し、概ね5 年間で緊急的・集中的に治水機能を強化する改良復旧工事の対策に取り組んでいるところである。
プロジェクトでは、委員会の成果を踏まえ、河川事業・砂防事業・地域の対策が連携した本格的な復旧として、一定程度の降雨に対し、山地部では土砂・流木の流出を防止する砂防堰堤等の整備、河川上流では、土砂・流木を捕捉する貯留施設の整備、洪水・土砂を下流まで円滑に流す河道の改修・河道形状の工夫を実施し、土砂・流木を伴う洪水氾濫を防止することとしている。また、地域と一体となって、今回の災害と同規模以上の降雨に対してさらに安全性を高めるための検討を実施することとしている。
県管理の赤谷川においては、河川法第16 条の4 第1 項に基づく権限代行制度によって福岡県知事からの要請を受けて国が進めてきた二次災害防止のための工事において、本格的な改良復旧工事についても引き続き権限代行により実施することとしている。
また、砂防事業においても、福岡県知事からの要望を踏まえ、国が進めてきた直轄砂防災害関連緊急事業に引き続き土砂・流木の流出による土砂洪水氾濫を防止するため、特定緊急砂防事業に着手し、赤谷川上流部等において砂防堰堤等を整備することとしている。
8.さいごに
九州地方整備局では、九州北部豪雨からの復旧・復興に向けた事業が本格化していく中、事業を迅速に、強力に推進していくため、平成29 年10 月1 日、筑後川河川事務所に『九州北部豪雨災害対策推進室』を設置し、全力で復旧・復興に取り組んでいるとこである。引き続き、福岡県や各被災自治体、地域住民と連携しながら、筑後川右岸流域の早期復旧・復興と安全性の確保に向け、鋭意工事の進捗に努めて参りたい。