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諫早大水害から60年 本明川の治水対策について
~本明川ダム、河川改修、ICT土工~
穴井利明
中山雅文
遠山修平
山村健志

キーワード::諫早大水害、ICT土工、本明川ダム

1.はじめに
本明川は、その源を長崎県諫早市五家原岳に発し、急峻な山麓を南下し、河口部の調整池に注ぐ、幹線流路延長28㎞、流域面積249km2の一級河川である。
本明川は急流河川で、流路延長が短く、上流の急流部から、一気に干拓地に流れ、その勾配の変化点に諫早市街地が広がっているため、急激な水位上昇が起こり、ひとたび大雨が降ると洪水となりやすく、昔から繰り返し洪水被害が発生している。
また、大村湾、有明海、橘湾という3 つの海と多良山系に囲まれており、梅雨末期には湿った空気が集まり、短期間に大雨が降る特徴がある。特に、6 月から7 月の降雨量が多く、過去の災害の多くは、梅雨期に発生している。
昭和32 年7 月25 日の諫早大水害は死者、行方不明者630 名と、諫早市街地に壊滅的な被害を与えている(写真- 1)。
その諫早大水害から今年は60 年目の節目の年であり、ここに、現在までの治水対策の取組状況を紹介する。

2.河川改修について
諫早大水害を契機に昭和33 年より、国により事業が着手され、昭和36 年までに本川上・中流部(市街部)の川幅拡幅工事(40 → 60 m)、中流部の特殊堤工事、橋梁の架替工事が実施され、現在の本明川の原型ができた。その後も幾度となく被害に見舞われながら、下流部堤防嵩上げ、半造川引堤事業、内水対策、河道掘削を実施してきた(図- 1)


現在、流下能力が著しく低い半造川において、平成5 年より引堤事業を継続的に実施している。また、平成25 年から島原鉄道橋の架け替えに着手し、継続的に実施している(写真- 2)。

その間、平成12 年に河川整備基本方針を策定、平成17 年に河川整備計画を策定、平成28 年には現計画の点検を行い、河口部7㎞延伸、ダム規模の縮小、新たな知見等を踏まえ、河川整備計画を変更している。整備計画目標は昭和32 年諫早大水害規模の流量を安全に流下させることで、河川整備及びダム事業を計画的に進めていく。

3.半造川引堤事業におけるICT土工の活用
本明川水系半造川において、河道の流下能力向上を目的に、下流より引堤による河川整備を鋭意実施している。引堤とは、既存の堤防の背後に新たに堤防を構築し、新堤完成後既存堤防を撤去し完成となる。半造川は有明海沿岸に位置し、特有の有明粘土層、いわゆる超軟弱地盤であるため、築堤に当たり事前に地盤改良を実施することになるが今回のICT 土工は、地盤改良完了後の築堤盛土での活用となる。
さて、ICT 土工とは「土工へICT を全面的に活用する」ことだが、一連の流れとしては① 3 次元起工測量、② 3 次元設計データ作成、③ ICT 建設機械による施工、④出来形・品質管理、⑤ 3 次元データの納品、⑥ 3 次元モデルによる検査となる。
施工業者によると、「丁張りが不要で、現場作業員の作業量軽減につながる。」、「熟練のオペレーターでなくても、満足する施工が出来る。」、「リアルタイムにて施工状況の確認と数量の把握が出来る」など多くのメリットがある。一方で、「予算面で官積算と合致しない。」、「形状に変更が生じた場合、3 次元データの作成を再度必要となり時間を要する。」などの声も頂いている(声があがっている)。また、既往の測量・設計データにより発注されるが、そのデータが3 次元データとなっていないまま発注されることも多くある。
コスト面については、現在は導入後間もないため、ICT 建設機械のリース費用や3 次元データシステムの導入費や作成費など、割高と感じる部分があるが、今後の更なる普及により改善が図れるものと思われる。安全面についても、建設機械の近くでの現場作業員の作業の軽減が図られるため、接触事故防止に格段の効果があると感じる。更なる安全面の向上として、旋回スピードに制限を設けたり、架空線の高さに余裕を見込んだ高さを入力することで、それ以上ブームやバケットが上がらないように設定できるようにするなどについて提案したい。
今後、間違いなく到来する建設現場の労働力不足を補うためにも、また、技術者1 人1人の生産性を向上させるためにも、積極的なi-Construction の活用をお願いしたい。

4.本明川ダムについて
4.1 本明川ダムの概要と事業経緯
本明川ダムは、洪水調節と流水の正常な機能の維持を目的としており、ダム高約55.5 m、堤頂長約340 m、有効貯水容量約580 万m3の九州で初めてとなる砂と礫をセメントで固めて造る台形CSG(Cemented Sand and Gravel の略)ダムである(図- 2、3)。

本明川ダムは、平成2 年に実施計画調査に着手し、その後平成6 年に建設事業に着手し、地質調査や環境調査、設計等を行ってきた。平成20 年6 月に長崎県条例に基づく環境影響評価「方法書」、平成21 年4 月に「準備書」の公告及び縦覧を行ったが、途中検証ダムとして選定され、平成25 年に新規利水事業を除いた事業継続の方針が出されたことから、平成26 年度に「評価書」の公告及び縦覧を行った(表- 1)。

また同年度より用地調査を開始し、本明川ダム建設対策協議会と損失補償基準に関し幾度となく協議を重ね、平成29 年2 月に長崎県知事及び諫早市長立ち会いのもと、本明川ダム建設対策協議会会長と国土交通省九州地方整備局長は、「本明川ダム建設事業に伴う損失補償基準協定書」に調印した(写真- 3)。

4.2 付替道路等計画と地域振興計画
本明川ダム建設事業では、影響する県道及び市道の付替やダム工事を行うための工事用道路を予定しており、ダム完成後の道路のあり方について地元の意見を出来るだけ反映するため関係自治体や地元協議会と協議を重ねており、これまでに計画ルートや幅員構成などが確定した。
また本明川ダムは、平成28 年3 月に水源地域特別措置法に基づく「指定ダム」に指定されており、現在水源地域整備計画策定に向けて関係機関や地元協議会と協議を重ねている。水源地域整備計画では、ダム本体母材山の掘削跡地整備やダム上流域に位置する富川渓谷付近整備、ダム貯水池最上流部の河川公園整備等を検討している。

4.3 ダム建設に向けた課題等
本明川ダムは、諫早市街地から15 分程度と大変近い場所に建設されること、またダム予定地周辺にも多くの集落があり人里とダムが近接した「里のダム」であることから、景観整備のコンセプトを「時・水・人の流れを包み込む里のダム」として、ダム完成後も地域活性化が計れるようダム建設中からインフラツーリズムや学校関係見学会の開催などダムを通して地域をよく知って頂く取り組みが必要である。また、地元住民や地権者等の方に、わかりやすい説明を行うため計画段階からCIMを用いたイメージ図の作成や動画の作成を行い、地元説明会などで活用している(図- 4、5)。

ダム建設に向けた課題としては、工事中の騒音振動問題、付替道路工事中の生活道路の確保や安全対策などがある。これらの問題を解決するためには日頃よりコミュニケーションを図り地域との信頼関係が重要である。

5.本明川流域減災対策協議会について
平成27 年9 月の関東・東北豪雨災害を踏まえ、ハード・ソフト対策を一体的、計画的に推進する「水防災意識社会」の再構築を目的として、本明川においても平成28 年5 月に、諫早市、長崎県、長崎地方気象台、長崎河川国道事務所からなる「本明川流域減災対策協議会」を発足し、8 月には、本明川の減災に係る取組方針を策定した。
5 年間で達成すべき目標は、「諫早大水害の教訓を生かし、これを超える大規模水害に対し、『地域防災力の強化による災害に強いまちづくり』を目指す」としている。
主な取り組みとしてハード対策では、本明川ダム建設、半造川引提事業に加え、越水等が発生した場合でも決壊までの時間を引き延ばす、いわゆる粘り強い構造の堤防整備も進める。
一方、ソフト対策として、最初に「タイムライン」の策定について紹介する。
タイムラインとは、災害対応時に防災関係機関等が事前にとるべき行動を「いつ」「誰が」「何をするか」に着目して時系列で整理した行動計画表のことである。
本明川においても、住民の生命を守るために先を見越した災害対応を検討し、平成29 年6 月に試行版を策定し、検討会から諫早市長に手交した。これにより、今出水期、試行・検証していく(写真- 4)。

次に、洪水ハザードマップの作成についてである。平成28 年5 月に想定最大規模による浸水想定区域図を公表した(図- 6)。

これは、近年、大雨や短時間強雨の発生頻度が増加し、想定を超える大規模な氾濫、水害が増えており、諫早市による避難勧告等の適切な発令や住民の主体的な避難に役立つよう、新たに想定最大規模の降雨による洪水浸水区域図を作成したもので、合わせて、洪水時の家屋倒壊の危険ゾーンや浸水継続時間も作成しており、これらの情報により、洪水時に水平避難や垂直避難の可能な区域の判定、住民の避難判断に活用し、諫早市や自治会等と連携し、避難計画に役立つハザードマップの作成支援を行っていく。
もう1 つ、避難を促す情報提供として、緊急速報メールを活用した洪水情報のプッシュ型配信を平成29 年5 月より開始している。本明川の氾濫危険水位を越えたり、氾濫が発生した情報を諫早市内全域で携帯電話、スマートフォンに一斉配信する。
これらの取り組みについては、5 月14 日、長崎県内で初めて九州地方整備局、長崎県、諫早市主催で開催した「本明川総合水防演習」で想定最大規模の降雨に対し、タイムラインに基づいたシナリオで、緊急速報メールを配信する等訓練の中でも生かされている(写真- 5)。

6.最後に
近年の災害を踏まえると、いつ、どこで起こってもおかしくない状況で、本明川でも60 年前に諫早大水害を経験しているが、これを越える大規模災害が起きることを前提として、ハード、ソフト対策を一体的、計画的に推進する必要があり、特に今年は諫早大水害から60 年の節目の年であり、先に紹介した本明川総合水防演習、防災・減災フォーラム、10 年前のタイムカプセル開封・埋設、継続実施の出前講座、巡回パネル展の強化など関係機関や地域住民と連携を図りながら、「逃げ遅れゼロ」「社会経済被害の最小化」を目指し、取組みを実施していく。

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