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河口堰貯水池内の水位変動特性を考慮した操作の改善

国土交通省 九州地方整備局
 企画部 機械施工管理者
岡 本 正 美
国土交通省 九州地方整備局
 遠賀川河川事務所 管理課長
田 中 友 瑞
国土交通省 九州地方整備局
 遠賀川河川事務所 調査課
 専門調査委員
宮 内  信

1 堰操作の現状
遠賀川河口堰の堰操作状況を整理すると2003/1/1~2006/12/12で日平均60.4回(表-1参照)と頻繁にゲートが駆動する状況となっていた。遠賀川河口堰では、平常時定水位制御により常時満水位1.5mを保つ操作が行なわれている。平常時定水位制御は、常時満水位1.5mより下方に許容水位変動幅を設定し、貯水位が許容水位変動幅を外れないようゲートからの目標放流量を計算し、流量規模に応じたゲート開度と放流ゲートを選択していく操作方式をとっている。当時の許容水位変動幅は流入量が24m3/S以下のケースで3cm、24m3/Sを超過しているケースで8cmとなっていた。よってそこから次のような事態とリスクが予測された。
・貯留量の変化以外の変動と思われる水位の振動が数cmから10cm程度の幅を持つため、流入量が24m3/S以下のケースでは、本来動く必要のない状態でゲートが駆動する。
・ゲート駆動回数増加に伴い、劣化による部品の機能低下のリスクが高まる。

図-1 遠賀川河口堰許容水位変動幅

このような水位変動の除去については、水位計自体の構造により除去する方法と数学的な除去方法が適用されているが、遠賀川河口堰では、それらだけでは充分といえない状況にあると判断されたため、対応策として立屋敷地点(6K地点)への水位計移設を実施した。
本報告では、河口堰貯水池内の水位変動特性の整理、特性の解析と対応策として実施した立屋敷地点(6K地点)への水位計移設に伴う効果、得られた効果に対する評価・考察・課題について報告する。本検討の検討フローを図-2に示す。

図-2 検討フロー図

写真-1 遠賀川河口堰

写真-2 立屋敷水位計

2 水位変動特性の整理
2.1 貯水池内水位変動特性
河口堰貯水池内では、風やゲート駆動によりセイシュ1)のような固有振動が発生していると仮定し湖沼の水面振動周期を算定する以下の式に、河口堰の水位記録や形状データを代入し、節の数mより検討した
1) 閉じた領域内(内湾や湖など)で共振現象によって水位変動が強められることによって起こる長周期の水面変動

ここに、
  T  :周期(20分=1200秒)
  a  :河口堰縦断距離(9448m)
断方向接点数m :整数で節の数
  h  :水深(平均的な深さとして3.5m)
b、n:横断方向の節数については考慮しないものとして、値は仮定せず
計算結果では、ほぼ単節振動(m=1.3)と判断された。単節周期の確認であれば、節と腹部分の3地点の水位観測で可能となるが、貯水池内の水深や幅は一定でないことや、直線水路でないことにより計算どおりに節の確認をおこなうことは難しいと判断されたため、補足の意味で節と腹の間にそれぞれ1地点設け、以下に示す縦断方向に5側線とし、横断方向のうねりを確認するために左右岸合わせて10箇所に水位計を設置した。
・河口堰上流水位計付近:2k200付近
・1/4地点:4k200付近
・中間地点:6k200付近
・3/4地点:8k200付近
・上流観測地点:10k200付近

図-3 貯水池内観測点イメージ図

貯水池内水位観測は、平成16年1月31日~3月5日に実施した。この結果、次のような水位変動特性が把握された。
・貯水池内の水位変動としては、貯留と放流にともなう緩やかな水位の上下動に加え、1時間周期程度の振動、30分周期程度の振動、数分周期程度の振動が認められた。
・1時間程度の周期成分は上流端と下流端で逆位相となっていた(図-4)。

図-4 位相の逆転現象

・1時間程度の振動の増幅により、許容水位幅を超え、ゲートの駆動回数が増加したケースがあった(流量の増加に伴わないゲート制御)。
・南風による吹きつけでゲート付近の水位が上昇していた(図-5)。

図-5 南風卓越時

・風向の変化により振幅の減衰が発生していた。
・西風による1時間周期の振幅が増幅していた。
・北風による吹き寄せで上流端水位が上昇していた(図-6)。

図-6 北風卓越時

従来の水位計は、堰操作に直接反映できる水位を得るために、堰の比較的近傍に設置されている。しかし、貯水池内の水位観測結果では、堰駆動に起因する水位変動や風による吹き寄せ現象の影響を受けやすいことが判明した。
堰駆動に起因する水位変動は、堰地点を起振点として貯水池全般に伝搬していくが、貯水池中間点付近でその振幅が小さく、さらに中間点付近を境として上下流で位相が反転する「節」を形成しているため、節の位置で水位観測を実施することにより堰駆動の影響を軽減することが期待できる。また、南北方向の風が強い場合に発生する吹き寄せ現象も貯水池上下流端部で水位上昇・下降が顕著であるため、中間点付近では風による影響も回避できる可能性が高いことがわかった。

2.2 立屋敷水位計切替前の水位変動特性
遠賀川河口堰では、貯水池内の水位観測結果を受けて、平成17年度に立屋敷水位観測所を設置し平成17年12月19日より観測を開始した。その後、平成18年度の河口堰制御装置の切替に伴い、平成18年12月13日より立屋敷水位計水位による運用を開始した。
本項では、水位計切替前(河口堰上流水位計による運用)における水位観測状況を整理し立屋敷地点における水位の変動特性をとりまとめ、観測場所による効果を把握した。
結果は、ゲート駆動による振動が発生したと考えられる平成18年9月25日の水位記録(図-7)に明らかなように、堰上水位計の水位は10cm以上の振幅となっているのに対し、立屋敷水位計水位の振幅は3cm程度に収まっており、堰駆動の影響が小さくなっていることが確認できた。

図-7 平成18年9月25日の観測水位の比較

3 特性の解析と立屋敷水位計移設に伴う効果
3.1 特性の解析(立屋敷水位計切替前後の水位相関)
風の弱い日と強い日の切替前後の堰上水位と立屋敷水位の相関解析を行いデータを比較した。
【風の弱い日のデータ比較】
切替前(堰上水位計で運用)では、4cm程度の水位差で変動しているが、切替後(立屋敷水位計で運用)では、±1cm の水位差となっており安定的な水位変動を示している。

図-8 切替前の水位相関

図-9 切替後の水位相関

【風の強い日のデータ比較】
切替前(堰上水位計で運用)では、10cm程度の水位差が発生している。相関係数が低いのは振動による位相のずれが大きくなっているものと考えられる。切替後(立屋敷水位計で運用)では、風の弱い日に比べ水位差は大きくなっているものの最大でも4cm程度の差となっており、振動が小さく抑えられていると判断できる。

図-10 切替前の水位相関

図-11 切替後の水位相関

3.2 立屋敷水位計移設に伴う効果
平成18年12月13日の水位計切替以降における河口堰の運用状況を整理し、水位計の移設による効果を評価する。
ここでは、平成15年1月1日から平成19年3月15日までの操作記録を元にゲートの駆動回数を整理し1日あたりの平均ゲート駆動回数により比較を行った。
結果は、表-1及び図-12に示すように、切替前12月平均では28.4回/日であったものが、切替後は、15.4回/日と半分になっている。同様に1月では35.9回/日が12.8回/日に、2月では46.6回/日が7.1回/日に、3月では52.2回/が7.1回/日に減少している。
次貢に切替前の平成18年10月20日と切替後の平成18年12月17日の堰上水位の変動とゲート駆動状況の比較図を示す。平成18年12月17日は北風が強かったにもかかわらず、これまでみられていた振動現象は発生せず,安定したゲート駆動状況にあることが確認された。

表-1 日平均ゲート駆動回数一覧

図-12 日平均ゲート駆動回数

図-13 水位変動とゲート駆動状況
(平成18年10月20日)

図-14 水位変動とゲート駆動状況
(平成18年12月17日)

以上の結果より期待される立屋敷水位計の効果を以下に示す。
・機械類の損耗の減少による効果:
駆動回数の減少により、機械類の損耗が減少するため、機械類の耐久性は向上するものと考えられる。
・維持管理費の軽減効果:
平成18年度の実績から見ると、ゲート駆動回数の半減により電気使用料金の軽減が考えられ、年間約10万円の軽減効果が期待される。
・CO2削減効果:
電気使用量の削減をCO2へ換算すると年間で約3トンの削減量となる。

4 評価・考察・課題
本報告は、立屋敷水位計への切替から4ヶ月程度での検討であることや流動変動の小さい時期であったため、中小洪水時や洪水低減時の現象が評価できていない。
したがって、河口堰運用全般に関する効果の評価には至らないが、現時点までのデータによればゲート駆動や風による影響は軽減され、そのため貯水位の変動が小さくなりゲート駆動回数の低減に寄与していると推測される。
なお、今回の現象は、遠賀川河口堰の貯水池形状に起因した、遠賀川河口堰特有の現象ともいえるが、他のダム、堰管理の参考とするため、今後さらに追跡調査を実施し、立屋敷水位計への移設効果を検証する必要があると考えている。

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