沖縄都市モノレール延長事業の計画と進捗状況ついて
渡久山直樹
キーワード:沖縄都市モノレール、延長事業、進捗状況
1.はじめに
沖縄県では人口の約8 割が沖縄本島の中南部地域に集中しており、特に沖縄県の経済産業の中心地となっている那覇市おいては人口密度約8千人/km2 と名古屋市(7 千人/km2 )並みの高い人口密度となっている。そういった状況の中、陸上交通は、バス、タクシ-、自家用車等の自動車交通に依存している状況となっていたため、那覇市や浦添市を中心とする都市部においては、三大都市圏に匹敵(表- 1 参照)するほど慢性的な交通渋滞が発生し、都市機能の低下や排気ガス、騒音による生活環境の悪化などが問題となった。
このような問題に対処するため、昭和56 年の沖縄県総合交通体系基本計画において、「モノレ-ルの計画は那覇空港~西原入口間(沖縄自動車道との連結)にわたり整備を図る」と位置づけられた。
整備手法は段階的施工として、既存区間を第1期施工(那覇空港~首里駅)、また周辺の土地区画整理事業の進捗を勘案し、延長区間を第2 期施工(首里駅~西原入口(沖縄自動車道との結節))とし整備を行うこととなった。
既に運行が行われている那覇空港から首里駅区間においては、順調に乗客数を伸ばしており、平成27 年には、年間乗客数が初めて1,600 万人(44,145 人/ 日、モノ(株) 目標42,000 人/ 日)を突破するなど、4 年連続で過去最高を記録しており、県民および観光客の足として順調に定着している。今後も、延長区間の開業や駅周辺の区画整理事業などによる沿線開発により乗客数の増加が見込まれている。
本稿は平成31 年春に開業を予定している首里駅からてだこ浦西駅までの全長4.1㎞の延長区間について事業の紹介を行う(図- 1 参照)
2.沖縄都市モノレール延長計画の概要
事業概要(沖縄都市モノレ-ル延長整備事業)
・延長:4.1㎞
・駅数:4 駅
・需要予測:約5.1 万人/ 日(H42 予測)
・構造:跨座型
・事業費:525 億円(インフラ部380 億円、インフラ外部145 億円)
・事業期間:平成23 年度~平成30 年度
・所要時間:38 分(那覇空港~てだこ浦西駅)
・車両編成 1 編成(2 両)6 編成(追加)
・定員:170 人
・表定速度 約28㎞ /h
・最高速度 約65㎞ /h
・事業者:沖縄県、那覇市、浦添市、沖縄都市モノレール(株)
工事概要
・上部工:鋼橋(42 径間)、PC 上部工(306 径間)
・下部工:鋼製橋脚(15 基)、RC 橋脚(130 基)
・地下区間:NATM(241.5 m)、BOX(251.9m)、U型擁壁(117.2 m)
・分岐器:X 分岐器(1 箇所)
3.地下区間の概要
延長事業の一部区間は最大40 mの高低差を通過する事から、所定の縦断勾配を確保するため、浦添市消防本部からてだこ浦西駅付近までを地下構造物で計画している。構造形式はU 型擁壁、トンネル(NATM 区間)、ボックスカルバート区間が有り、地下区間の総延長は約600 mとなっている。現在浦添消防署側の工事を主に進めており一部完成している。また、NATM 区間については、てだこ浦西駅側から掘削を始めており、平成29 年5 月頃に完了見込み(図- 2、3 参照)。
4.進捗状況
延長事業は平成25 年度から本格的に用地買収を行っており、平成28 年6 月末時点において、モノレールインフラ事業に係わる用地取得は完了している。現在、モノレール延長整備を行う路線の拡幅工事や占用物の移設工事を進めながら、下部工、上部工、駅舎の工事を行っている。平成27 年度末時点における事業費ベースの進捗状況は34.0% となっている。また、地下区間は11 月末時点において上半の約100m の掘削が完了している。今年度は下部工や上部工、地下区間、駅舎の建築工事などを施工しており、工事のピークを迎えている(写真- 1、表-2参照)。
5.駅舎のデザイン
延長事業に新設される4 駅については、地域と一体となった景観を形成するため個性的なデザインとなっている。各駅のデザインは沖縄都市モノレール景観検討委員会(委員長:池田孝之琉球大学名誉教授)において検討されており、有識者の意見により地域の特性を生かしたデザインが選定されている。
5 ー1 石嶺駅
石嶺駅の景観等のデザインについては、優しさと潤いを周囲に広げる景観形成をコンセプトにしている。また石嶺地域における、現在から未来へ、地域を優しく結ぶ新たなシンボルとして、立体トラス構造を採用しているのが大きな特徴となっている。内部空間についても、伝統工芸品の展示やアートガラスを設置することで、地域を尊重し個性を表現するデザインとしている。
5 ー2 経塚駅
経塚駅については、沖縄の優しさと歴史文化を感じる景観形成をコンセプトにしている。
また駅舎デザインについては、地域周辺の緑と調和する構造形式として、屋根を支える構造柱をY 柱とし、またこれらのY 柱を連続して配置することで駅舎側面を形成している。
さらに近隣住民のプライバシーを確保するため、使用頻度の高いコンコースを住居の無い南側へ、限定的な使用となる駅務室及び、電気室等を北側へ配置している。
5 ー3 浦添前田駅
浦添前田駅は、浦添グスク等の歴史的・伝統的な空間と一体となった浦添の顔となる景観形成をコンセプトとしている。
また駅舎については、ホーム階のスリガラスのトーンを変え、その明暗で浦添グスクの稜線を表現している。駅舎の屋根についても、ステンレス菱葺( ひしぶき) きを用いることで、グスクの石門のイメージし、菱( ひし) 目( め) のデザインとすることで沖縄の浦添らしさを表現できるよう配慮している。
5 ー4 てだこ浦西駅
てだこ浦西駅は「新たな交流の場を生み出し、新しいまちづくりを先導する景観」をコンセプトにしている。
また駅舎下部の外壁に琉球石灰岩を用いる事で沖縄らしさの演出を図っているほか、屋根を円筒形にすることで他の駅とは異なる斬新な外観としている。さらに側面にガラスを配置することで通気性と可視性に配慮している。
6.モノレール沿線のまちづくり
モノレール駅の周辺においては、再開発や区画整理事業により新しいまちづくりが行われている。
既存区間においても、駅を沿線における旭橋再開発や真喜志・安里再開発により新しいまちなみが創出されたほか、延長区間においても最終駅のてだこ浦西駅周辺において浦添市(組合施行)や西原町の区画整理事業が行われるなど、駅を中心としたまちづくりが進められている(写真- 6)。
7.交通ネットワークの構築
新設される幸地インターチェンジにより、てだこ浦西駅と沖縄自動車道を連結することで、渋滞している那覇都市圏をモノレールで移動し中北部にアクセスすることが可能となる(写真- 7)。
観光においてはてだこ浦西駅から、レンタカーやバスで観光地やリゾートホテルの集中する中北部に移動することで、観光客の移動利便性の向上が図られる。
また、てだこ浦西駅に新設して約1000 台規模のパークアンドライド駐車場が計画されており、中北部から那覇都市圏へ通勤や通学で乗り入れている自家用車がモノレールや公共交通機関へ転換することで、那覇都市圏の渋滞緩和が図られることが期待される。
さらに新設する4 駅にはすべて交通広場の設置を予定しており、キスアンドライドやバスなどの公共交通機関への乗り継ぎをスムーズにするなど、交通ネットワークの構築を図る計画となっている。
8.おわりに
平成15 年8 月に開通した沖縄都市モノレールは現在順調に乗客数を伸ばしており県民や観光客に広く利用されている。三大都市圏並みの交通渋滞が慢性化している那覇都市圏において定時定速で運行するモノレールの特性などからも今後も乗客数が増加することが期待されている。
一方、既存区間では、朝夕のラッシュ時において観光客や通勤通学者の利用増加に伴い、乗り残しの問題が生じている。また延長整備を行っている首里駅からてだこ浦西駅間においては、駅周辺における区画整理事業など新しいまちづくりに伴い、利用者の大幅な増加が予想され、今後はハード・ソフト両面から、利便性や快適性を向上させる対策を行うことで、更なる利用推進が図られ、那覇都市圏における慢性的な交通渋滞の緩和に繋がると期待される。