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災害復旧用測量システムの開発

国土交通省 九州技術事務所
 機械課 機械設計係長
今 林 美 代

国土交通省 九州技術事務所
 所長
藤 本  昭

国土交通省 九州技術事務所
 機械課長
河 崎 英 己

1 目 的
九州地区は,年平均約70件(全国の50%)の土砂災害が発生し,土砂災害に対する迅速な災害復旧が求められている。大規模な災害が発生した場合には,被害の拡大防止,二次災害防止対策および被災地の復旧などを迅速かつ適切に実施することが,被害の拡大や社会不安の増大を防ぐ上で極めて重要である。「災害復旧用測量システム」は現在実用化の進められているリモートセンシング技術,GIS,IT(情報通信技術),コンピュータによる画像解析技術等を積極的に活用し,災害復旧の迅速化・効率化,精度及び施工の安全性向上を図り復旧作業のサポートを行うものである。

2 システムの概要
土砂災害に適したシステムの構築を行うため,土砂災害等の発生から復旧計画に至るまでの流れをまとめ,各段階での復旧作業に必要な情報を整理し,現場で求められている情報を明確にした。
その結果,土砂災害の規模や発生状況によるが,現在最も処理時間の短縮,あるいは精度の向上を求められているものは現地被災図の作成・被災量の把握である。また被害把握のための現地調査や復旧工事開始の重要な判断材料となる二次災害の予測も必要であると考えられる。これらの結果より復旧作業のサポートに有効な次の項目についてシステム化を行った。
1)リモートセンシング等による測定機器
2)被災量の測定
3)被災後の図面作成
4)工法選定の提案
5)二次災害の状況判断材料の提供

3 システムの開発
(1)システムの開発方針
システムは,下記の事項を考慮し開発を行った。
① 技術が著しく進歩している状況で,当システムが陳腐化しないよう,常に最適なシステムとして維持できるように配慮する。そのために市販のソフトウェアをベースに今回業務の機能にあわせて改造し,安価で汎用性のあるソフトウェアの製作を検討する。
② 整備途中や想定外の事態でも全機能が全て停止することが無いよう,サブシステムが単独でも効果を発揮するとともに,データが全て揃わないと結果が全く得られないことがないように配慮する。
③ 既存のヘリコプターによる情報収集体制や衛星通信,各種GISなど,現在整備の進められているものについては積極的に利用するものとし,それらとの整合性を考慮する。
④ 災害時に限定するものでなく平常時でも活用可能な汎用性のあるシステムを展開する。

(2)リモートセンシング技術による位置・地形情報の取得
コンピュータを用いて被災量の算定や図面作成を行うためには,被災前の地形と被災後の地形を,三次元のデジタル情報で取得する必要がある。また,災害直後の現場は,崩壊の拡大や落石等により安全性の確保が困難で現地立ち入りができない場合がほとんどである。そこで現地立ち入りを要しない三次元地形計測方法として,レーザーによる直接計測,画像相関による間接的な計測手法がある。
これらの計測は,主に高分解能衛星,航空機・ヘリコプター,地上型と計測機器の搭載物により計測範囲や精度,計測時間等,取得できる情報の量や質が異なる。このため,被災現場の規模別に最適な計測方法の組み合わせを検討した。
表ー1中の①②③は,持ち運び可能な可搬型の計測機器であり,災害対策車に搭載し現場への搬入が可能である。しかし,災害復旧等での計測実績はないため,被災量算出・図面作成までの精度が得ることが可能か既存の崩壊地をモデルに実証試験を行い災害復旧への適応性を評価した。

(3)被災量の測定及び図面作成
被災量の算出には,災害前の地形情報と災害後の地形情報を比較する必要がある。あらかじめ被災前の地図は,GISに取り込まれていることから被災地のリモートセンシング技術で取得した地形情報と三次元的に比較し,被災量を算出する。
現在市販されているGISの機能では地形ボリュームの比較のみであるため,土工計算のできるCADへの互換連携ソフトの開発を行い,同一のテーブルで図化から工事数量の算出まで一貫した作業を可能とした。
被災後の図面作成は画像処理や三次元プロットで得た空間情報をCADにて二次元に変換し,平面図や縦横断図として出力する。単なる図化でなく災害復旧事例を蓄積し,今後の復旧作業や情報の共有化を図るためにCADソフトとGISをリンクさせインターフェイスを整備した。

(4)被災量測定・図化現地実証試験
情報収集機器の選定と被災量の算出・図面作成システムの確証を行うため実際の崩壊法面現場を用いて実証試験を行った。
 試験日時  平成13年3月11,15日
 試験場所  管内
 使用機器
  ① 画像相関による三次元地形測量(デジタルカメラ)
  ② レーザー光を用いる三次元地形測量(ノンミラーレーザー測距儀,3Dレーザ ースキャナー)
 試験方法
 (a)崩壊以前の地図はデジタル化されたGISデータを活用する。
 (b)現地にて①②の機器を使用して測量し,画像処理をその場(出張所)で行う。
 (c)被災量算出・図面作成システムは現地に搬入できないため画像データを送信したと仮定しデータを持ち帰り処理を行う。その際算出・図化までの処理時間と精度を計測する。

崩壊前の地形が1/2,500の地形図程度でしか得られない場合,概略の土量算出においてはどの機器で計測しても大差ないことがわかる。容易性やコストからみると写真画像相関の手法が最も導入し易いが,ノンミラー測距儀と組み合わせて用いることで機動性や精度が増し,使用範囲が飛躍的に広がる。また被災量の算出や図面作成も計測を行って1日以内に出力可能であるという結果を得られた。

(5)工法選定の提案
従来,経験によるところの大きかった災害復旧工法の選定において,現場の地形ひずみより地盤応力を解析し,最適な対策工法を評価するシステムを検討した。しかし,地盤応力の解析には土質力学や地質的な解釈が必要であり,専門家による判断を必要とする場合が多い。このため,現場のセンサー情報や現地状況を専門機関等に送信できる機能についても検討した。

(6)二次災害の状況判断材料の提供
二次災害の監視は,土砂災害の発生誘因である降雨の予測(今後降る雨の強度と量)と現場の地盤応力状況より危険性を評価する。降雨予測は,気象庁の提供する短時間降雨予報と現場に設置する可搬型雨量計を用い(財)日本気象協会にて詳細で高精度な予測を行う。地盤応力の解析は,災害現場と事務所間の情報通信の高度化をはかり,リアルタイムに近いかたちでの監視体制を確保する。

a 災害現場での地盤応力の解析方法の検討
従来,斜面の安定性を評価する為にはボーリング調査や土質試験,伸縮計や歪計等による観測など多くの地盤に関する情報を収集する必要があったが,本システムは地表の歪み状況の観測のみで安定評価を行う。このため,GPSやレーザー機器等を用いることにより,ある程度現場内への立ち入りが制限された場合であっても短期間に二次災害に対する監視体制の構築が可能となる。これらを検証するため下記項目について検討を行った。

(a)現行の斜面の安定性評価法と新しい評価手法について
従来の安定解析は極限応力状態の力の釣り合いを求め,その状態で地盤の強度と滑動力の検討をすることがほとんどであった。(図ー3)しかし今回提案する計測変位を用いた斜面の安定性評価法*1は,任意期間内の計測値から斜面内の応力状態とすべり層の強度分布を推定できるものである。その結果,斜面の安全率が時系列的に推定可能となり,変状の開始時点を特定できない場合や,変状が認められてから計測されている場合でも有効である。

(b)計測変位を用いた斜面の安定評価法
1)すべり面の設定
斜面上にはいくつかの計測点が配置されて,ある期間の計測結果から各計測点の相対変位ベクトルが得られれば,すべり面頂部の形跡が認められる箇所から図ー4の方法ですべり面を設定することが可能である。

2)初期応力解析
計測点とすべり面を含む斜面の横断面モデルを作成し,すべり層の厚さを設定してFEMの要素分割を行う。このようなFEMモデルに対し,地山のE(材料の弾性係数)とν(ポアソン比)を用いた単体重量γtを外力とする自重解析を実施し,初期応力を求める。
3)計測変位の同定解析
地山の材料のせん断強度τ(一軸圧縮強度σc)とせん断剛性G(または限界ひずみγ)には材質や損傷土に依存しない指数関係にある。すべり挙動はすべり層のせん断剛性の低下によって引き起こされるものと考え,せん断剛性の損傷を表す「異方性損傷パラメータm(m=Gせん断剛性/E変形係数)」を用いて最大せん断ひずみを求めていく。
地山のすべり土塊は,変状計測を開始した時点で既に損傷を受けていて,損傷パラメータはm1に低下していると考えると,新たな損傷によってm1はm2に低下し,これに伴う地山変位が計測されることになる。従って,計測変位を用いた逆解析によってm1,m2を固定できれば,変状後の地山状態(せん断剛性G,純せん断強度C)を把握できることになる。

4)すべり安全率の評価
計測変位データを用いた逆解析によって得られた異方性損傷パラメータの値を利用してせん断強度τcを求め内部摩擦角φを仮定し,粘着力Cを推定する。

推定したすべり面に対して一般的な極限平衡法を用いて安全率を求める。

b 二次災害監視におけるGPS計測の利用性検証実験
今回の実証試験では,対象斜面の変位に関する観測実績がなく,ある程度長期間の観測が予測されることから,長期間安定した連続観測が可能で,三次元の変化量が観測できるGPSを選定した。
実験は,伸縮計や光波測量による精度比較,データ通信による遠隔地からの監視や観測結果の配信を行い,GPSの災害復旧への適応性を調査した。
GPSによる観測値は,ノイズを含みばらつきがある。今回の実験ではトレンドモデルによる平滑化処理を試みた。あわせて精度等確認のため,光波測量と伸縮計を設置し,計測結果の比較検討を行った結果,計測値の精度は,水平成分で±2.5~3.7㎜(公称精度±5㎜±1ppm),鉛直成分で±7.1~9.7㎜(公称精度±10㎜±2ppm)という高精度な結果を得た。

c 災害復旧への適応性検討
迅速な災害復旧を行うためには,関係機関へ適切な災害情報を早く伝達することが肝要である。本システムでは,現場で計測した地形情報を電話回線等のデータ通信により集約し,リアルタイムで地表変位観測,斜面安定性解析を行い,インターネットを用いて解析結果を配信することにより,迅速な災害復旧の実現を図った。
データ通信やインターネット技術を利用することは,斜面安定解析と降水予測解析を結びつけ二次災害の監視を行うなど,これまで個別に存在していだ情報を総合化することにより,災害復旧ヘ向けてのより的確な情報配信を可能とする。また,解析作業のアウトソーシング化がはかれることから,多大な設備投資なしで最新の解析技術が利用できる他,同時期に多発するような大規模な土砂災害時への対応(解析の分散処理)が可能となる。

4 まとめ
(1)複数の計測方法の組み合わせと各機器間の入出カデータ形式の共通化により,被災量の算出・図面作成が可能である。またそれらの開発したソフトウェアは災害対策車搭載用情報収集機械のハードウェアヘの展開も可能である。
(2)二次災害の監視については,非接触のレーザー機器を用い,地表の歪み状況の観測のみで安定性を評価が可能である。また計測結果を電話回線で集約し解析をアウトソーシングでリアルタイムに行うことで斜面安定評価をインターネットで随時事務所にて閲覧可能であることも確認した。
(3)汎用性のあるソフトウェアのカスタマイズ化を行った結果,GISを使用し平常の工事使用の場合でも測量や出来形管理の面で使用可能である。

5 今後の方針
災害現場での実用性を図るため,実際複数の崩落危険現場で上記のシステムについて,試験的にシステム構築を行い検証を行う必要がある。また今後災害対策車等への搭載を展開し,フレキシブルな災害復旧支援の調査・検討を引き続き行う。特に,計測変位を用いた斜面の安定性評価は,最近開発された手法であり解析実績は少なく一般的に公認されたものはない。また,解析の特性上,地すべりや崩壊以外の土石流や落石や崩落といった土砂災害には対応できないので,これらに対する二次災害監視の有効な手法の提案が必要である。また,リモートセンシングの調査を行った結果,災害対策車への搭載が可能であるためハードウェアヘの展開も行う。
九州技術事務所インターネットホームページ : http://www.qsr.mlit.go.jp/kyugi

参考文献
*1櫻井春輔,安達健司,武石朗:計測変位を用いた斜面の安定性評価法,土と基礎,Vol.49,No.7,pp.10-12,2001

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