九州地方整備局における総合評価落札方式の取り組みについて
黒岩義文
キーワード:総合評価、品質確保、建設生産システム
1. はじめに
九州地方整備局では、平成25年度より総合評価落札方式(二極化)の本格運用を図り、「品確法」の基本理念である「価格」及び「品質」が総合的に優れた内容の契約がなされるよう努めてきた。
一方、受注競争激化による地域建設産業の疲弊や就労環境の悪化に伴う担い手不足等の課題を踏まえ、現在及び将来にわたるインフラの品質確保とその担い手の中長期的な育成・確保を図るため、平成26年6月に品確法、入契法、建設業法のいわゆる「担い手三法」の改正がおこなわれたところである。地域における災害対応や、社会資本の維持管理を担う建設業界の担い手育成・確保という観点を、いかに現在の入札・契約手続きに反映させられるかが今後の課題である。
本稿では、総合評価落札方式(工事・業務)に関連する現状と平成28年度の取り組み等を紹介する。
2.工事における取り組み
2.1 総合評価落札方式の実施状況
(1)平成27年度の実施状況
総合評価落札方式の実施にあたっては、全国統一である「国土交通省直轄工事における総合評価落札方式の運用ガイドライン」を基本としながらも、地域特性等を踏まえ、九州地方整備局独自の取り組みを行ってきたところであり、平成25年11月からは「二極化」の本格運用を図り、更なる手続きの簡素化による発注者・受注者相互の事務負担軽減、品質向上が図られる評価について見直しを行っている(図-1)。
総合評価落札方式は大きく施工能力評価型と技術提案評価型の2つのタイプに分けられ、それぞれⅠ型・Ⅱ型、S型・A型に分けられる。
平成27年度の総合評価落札方式の実施件数は、全体で1,116件、その内訳は、施工能力評価型Ⅰ型372件(約33%)、施工能力評価型Ⅱ型698件(約63%)、技術提案評価型S型46件(約4%)であった(図-2)。
(2)タイプの選定況
総合評価落札方式の発注タイプは、図-3に示すように、工事規模や難易度により設定している。
(3)タイプ選定毎の配点割合
技術評価点の加算点の評価項目は、①技術提案(施行計画)、②企業の能力等、③技術者の能力等とし、加算点合計及びその内訳は、表-1のとおりである。
(4)施工体制確認型の評価
調査基準価格未満の者において、要求用件を実現できる確実性の観点から施工体制確認を行なっている。評価方法は、施工体制確認において獲得した得点を施工体制評価点30点満点に対する割合を技術評価点に乗じて評価している(図-4)。
2.2 運用等の平成28年度からの変更点
前述したとおり、中長期的にも良好な品質が確保できる技術力(者)の確保を目指し、少数企業に受注が偏ることを是正し、地域における災害対応やインフラの維持管理に必要な技術力(者)が将来に亘って安定的に確保できるように努める必要がある。そのため、以下の4つの改善を図った。
①同種工事の施工実績の評価年数を拡大
・工事実績の少ない企業の入札参加意欲の向上及び受注機会の拡大を図るため年度当初より過去15 年間の実績を確保。
(変更前):当該年を含み15年間
(変更後):15年間+当該年
②技術者の工事成績を求める条件を緩和
・工事実績の少ない若手技術者の入札参加機会を拡大するため過去工事の実績を「同種工事(例:掘削又は切土の土量が○○.以上の工事実績等)」より「工事種別(例:一般土木工事、維持修繕工事等)」に見直し。
③登録基幹技能者の複数人配置による加点評価の見直し
・登録基幹技能者の評価を重視し、更なる登録基幹技能者の確保・育成を図るため登録基幹技能者を複数人配置した場合、優位に評価。
④企業表彰の加点評価の見直し
・表彰を受けていない企業や実績の少ない企業の入札参加意欲の向上及び受注機会の拡大を図ることから加点見直し。(変更前)2点→(変更後)1点
2.3 平成28 年度における試行工事の取組み
九州地方整備局では、日本の成長戦略の一つである女性の更なる社会での活躍や、次世代の担い手の確保、民間技術力の活用による更なる品質の向上等を図ることを目的に、下記のような様々な試行工事を実施している。
①女性技術者配置型
入札参加要件に監理(主任)技術者、現場代理人、担当技術者のいずれかに女性技術者を配置する者に参加資格を与える。
②若手技術者評価型
入札参加要件における配置予定技術監理者、監理(主任)技術者を若手技術者(40歳以下)とする。
③技術提案評価型(課題提案型)
本官工事において、当該工事の現地特性や目的物の構造特性を踏まえた課題及び技術提案を競争参加者に自由に求める。
④一括審査方式
複数工事の発注が同時期に予定されている場合、競争参加者からの技術資料(技術提案)の提出は1つのみとし、発注者・競争参加者双方の業務軽減を図る。
⑤技術提案チェレンジ型
受注実績の少ない企業や地域を支える建設業の入札参加意欲の向上を図るため、総合評価落札方式において、過去の実績と成績は評価の対象とせず、技術力の評価は提案された施工計画等により評価を行う。
2.4 ICT土工の推進
国土交通省では、i-Constructionの一環として平成28年度からICT土工技術の全面的な活用に取り組んでいる。対象工事は、1,000m3以上の土工工事(河川、道路、海岸、砂防)。
発注方式は表-2のとおりで、発注者指定型は、ICT活用を前提として発注する工事。施工者希望型については、受注者の希望でICT活用工事を選択できるもので、必要経費を設計変更で計上する。なお、施工者希望Ⅰ型については総合評価落札方式において「ICT活用計画」を評価項目(2点)としている。
3.建設コンサルタント業務等における取り組み
3.1 入札契約方式
建設コンサルタント業務等の入札契約方式は、業務内容等に応じて「プロポーザル方式」、「総合評価落札方式」、「価格競争方式」の3方式に区分される。
「プロポーザル方式」は、高い知識、構想力・応用力が必要とされる業務を対象に技術提案書の提出を求め、技術的に最適な者を特定して契約を行うもので、「総合評価落札方式」は、事前に仕様を確定可能であるが、入札者の提示する技術等によって、より業務成果の品質向上が期待でき、価格と技術提案書を評価し、最も優位となる者と契約を行うものである。また「価格競争方式」は、一定の資格、実績、成績等による条件を附することで、業務の品質が確保できる業務を対象に最低価格者を落札者とするものである。
入札契約方式に総合評価落札方式を導入することにより、価格による競争から価格以外の多様な要素も考慮し、価格と品質が総合的に最も優れた者と契約する方式で、より高い技術を持つ者を優位とし、調査・設計業務の成果品の品質向上を期待するものである。
3.2 総合評価落札方式の本格導入
九州地方整備局は、平成19年度から建設コンサルタント業務等における「総合評価落札方式」の試行を開始した。その後、平成20年5月に国土交通省と財務省との包括協議が整ったことから、建設コンサルタント業務等において「総合評価落札方式」を本格導入することとなった。
これにより、平成21年4月に建設コンサルタント業務等に関する調達方式の適切な選定等の考え方や各方式の運用を示した「建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方式及び総合評価落札方式の運用のガイドライン」(以下、「運用ガイドライン」という。)が策定され、その後の実施状況等を踏まえ、建設コンサルタント業務等の品質のさらなる確保・向上を図るために随時見直しを行い、最近においては平成27年11月に改定がなされている。
3.3 建設コンサルタント業務の実施状況
(1)発注方式別状況
平成27年度における調査・設計業務の契約件数は約1,500件となっており、発注方式別の割合は全業種でのプロポーザル方式が21.8%、総合評価落札方式が49.1%、価格競争方式が28.8%となっている。
業種別には、土木関係建設コンサルタント業務及び地質調査業務における総合評価落札方式の適用割合が高く、それぞれ約62%、約51%となっている。
また、測量業務、建築関係建設コンサルタント業務及び補償関係コンサルタント業務では、価格競争方式の適用割合が約65%~約86%と高くなっている(表-3、図-5)。
(2)落札状況
平成27年度は、落札率80.5%、低入札発生率3.7%となっている(図-6)。
平成27年度の低入札発生率は、測量業務、地質調査業務及び建築関係建設コンサルタント業務が全業種を上回っている(表- 4)。
3.4 運用等の主な変更点
(1)平成28年度財務省告示第23号に伴う政府調達対象額の見直し
現行対象額:6,000万円以上
見直し対象額:7,400万円以上
(2)業務内容に応じた適切な発注方式の設定(試行1)の本格運用
平成26年6月16日以降に公示する「河川事業」、「道路事業」、「地質調査」、「測量調査」で発注される全業務で試行業務(試行1)を実施してきたが、一部見直しを行い、本格運用を開始(次頁図-7)。
(3)技術者評価を重視した選定(試行2)の本格運用
契約手続きの簡素化及び技術点を算出する総合評価の配置予定管理技術者の業務成績・表彰における評価を重視し、業務の品質向上を目的として試行を行ってきたが、平成28年度も試行を継続して実施する(図-8)。
対象は河川事業の堤防・護岸設計、道路事業の道路予備設計(用地幅)、構造物予備(一般)、構造物詳細・補修設計(一般)、道路詳細(一般)の業務としている。
3.5 平成28年度の取り組み
建設コンサルタント業務等の入札契約の手続き等は、「運用ガイドライン」等に基づき実施している。
(1)入札契約方式の選定
入札契約方式の選定に当たっては、発注方式の選定フローに基づくことを基本として、実施している(次頁図-9)。
(2)企業表彰における災害支援の感謝状評価の追加
災害時に当該事務所から活動実績に対する感謝状をもらった業者に対し、九州地方整備局発注業務の企業の表彰における評価として、感謝状の実績を追加。
(3)配置予定技術者の資格要件の見直し(地質業務関連)
技術士の資格において地質関係の業務の場合、建設部門及び応用理学部門を設定。
(4)国土交通省登録技術者資格における適用業務の拡大
国土交通省登録技術者資格について、平成28年2月に、維持管理分野(点検・診断等)に加え、新たに計画・調査・設計分野を対象に資格を追加。
3.6 建設コンサルタント業務等における品質確保対策
公共事業を行ううえで上流側に位置する調査・設計業務は、その成果が事業に与える影響は大きく、設計業務等の成果の不備が工事施工段階において発見されるなど品質低下が懸念されている。成果品における品質確保の取り組みについては、プロポーザル方式及び総合評価落札方式において、「調査における具体的な手法・工夫等」の評価や調査基準価格(予定価格1千万円超えの業務に設定)未満で落札した業務を対象に、総合評価落札方式における履行体制確認型の適用を行うとともに、次のような取り組みも行っている。
①業務中の監督強化として、測量・地質業務においては主任技術者の現場常駐の義務づけ、土木コンサルタント業務においては現地調査を伴う場合の管理技術者の現場常駐の義務づけ
②測量・地質業務の担当技術者における資格の義務づけ
③請負者負担による第三者照査の義務づけ
④予定管理技術者の手持ち業務量の制限等履行中に管理技術者の手持ち業務量を超えた場合は管理技術者の交代措置を請求。
「品質確保基準価格」未満で落札された場合においても同様の措置としている。また、履行期限の平準化等の取り組みも実施している。
4.おわりに
九州地方整備局では、品確法の趣旨を踏まえ、公共工事の品質確保に向けた中長期的な担い手の育成・確保の施策を行うと共に、地域を守る建設業の担い手確保を含めた建設業界の発展に寄与できるよう、各地方公共団体とも連携して発注者の責務を果たすため、引き続き様々な施策に取り組んでいく。
なお、総合評価落札方式の詳細については「工事業務における総合評価落札方式の実施方針について[平成28年度版]」をホームページに掲載しているので参照願いたい。
(アドレス)http://www.qsr.mlit.go.jp/hinkaku/sogohyoka.html