情報化施工に関する最近の取組について
多田幸平
キーワード:情報化施工、i-Construction、生産性向上、ICT
1.はじめに
1-1 情報化施工の概要
情報化施工は、建設事業の調査、設計、施工、監督・検査、維持管理という建設生産プロセスのうち「施工」に注目して、ICT(情報化通信技術)の活用により各プロセスから得られる電子情報を活用して高効率・高精度な施工を実現し、さらに施工で得られる電子情報を他のプロセスに活用することによって、建設生産プロセス全体における生産性の向上や品質の確保を図ることを目的としたシステムである。情報化施工により実現するICTを利用した機械制御や計測、ならびに技術者判断の高度化は建設イノベーションと呼ぶに値する革新であり、建設事業の諸課題へ対応する手段となり、これまでの建設施工のイメージを画期的に変え得る可能性をも有している。
1-2 情報化施工推進戦略について
平成20年2月に産学官の有識者による「情報化施工推進会議」(事務局:国土交通省総合政策局公共事業企画調整課)を設置し、建設施工のイノベーションを実現する情報化施工の戦略的な普及方策を検討し、平成20年度から24年度を期間とする「情報化施工推進戦略」(前推進戦略)を平成20年7月にとりまとめた。
前推進戦略の主な成果としては、平成25年度より、10,000m3以上の土工を含む工事について一般化することとした他、標準的な施工・施工管理方法として採用できるように、平成23年度にTSによる出来形管理技術(土工)、TS・GNSSによる締固め管理技術、TSによる出来形管理技術(舗装工)に関する施工管理要領、監督・検査要領を策定・改定し、平成24年度より運用を開始した。
また、本推進戦略よると、建設事業を取り巻く課題として、熟練技術者・技能者不足が挙げられており、建設投資のピーク時(平成4年度)には55歳以上が22%、29歳以下が18%であったが、平成23年度には55歳以上が33%、29歳以下が12%となっている。今後、少子高齢化が進んでいくと考えられることから、生産効率の向上が課題として挙げられている。
そのため、中長期的な目標となる、平成25年度からの5年間は、5つの重点目標と10の取り組みを設定しており、情報化施工の特性を活かしたルールの見直しの推進や、特性を活かした効率的な運用ができる人材を広く育成していく仕組み作りなど、情報化施工を「活かす」ための目標や取り組みを設けている。また、本推進戦略の継続的な実効性を確保するための体制と施策を示し、定期的にフォローアップを実施することとしている。
1-3 第四次社会資本整備重点計画について
平成27年9月18日に閣議決定された第四次社会資本整備重点計画では、4 つの構造的課題と13の政策パッケージが設定され、その政策の中に『社会資本整備の生産性を高める生産管理システムの強化』が掲げられている。事業現場の効率化のために情報化施工等による施工の効率化を推進すること、これらを支える3次元モデルを導入・活用したCIM等の導入により、調査・計画・設計から維持管理に至るプロセスのシームレス化を図るとともに、受発注者間の工程管理情報の共有化、受発注者間の協議の迅速化など、現場のコミュニケーションの円滑化を推進することとしており、構造的課題解決のために更なる情報化施工の推進が求められている。
2.情報化施工の普及促進について (平成26年度の九州地方整備局での取組)
2-1 情報化施工の活用状況について
九州地方整備局における平成26年度の情報化施工活用状況については次のとおりである。
TS出来形管理(土工)については、10,000m3未満の土工工事(10,000m3以上は使用原則化
となっているため)を対象に6割程度実施している。MCグレーダについても、5,000㎡以上の舗装工事を対象に6割程度実施しているものの、TS・GNSS締固め、MC・MGブルドーザ、MC・MGバックホウについては、10,000m3以上の土工工事を対象に、いずれも3割に満たない活用状況となっている。情報化施工への理解や機器台数の問題もあるが、今後更なる推進が求められる。
となっているため)を対象に6割程度実施している。MCグレーダについても、5,000㎡以上の舗装工事を対象に6割程度実施しているものの、TS・GNSS締固め、MC・MGブルドーザ、MC・MGバックホウについては、10,000m3以上の土工工事を対象に、いずれも3割に満たない活用状況となっている。情報化施工への理解や機器台数の問題もあるが、今後更なる推進が求められる。
2-2 現場講習会等の開催について
平成27年度は自治体・施工者・九州地方整備局職員等を対象に情報化施工に関する現場見学会・講習会を11回開催しており、九州6会場で、約320名の参加があった。その内、自治体からも50名の参加者があり、情報化施工について周知を行った。
2-3 JCMAとの意見交換会について
情報化施工を活用するに際しての現状と課題等について、(一社)日本建設機械施工協会九州支部と九州地方整備局の情報化施工の担当職員とで、平成26年度より毎年意見交換会を行っており、昨年度は10月17日、今年度は12月3日に開催した。平成26年度はブレーンストーミング形式で実施し、出された意見に対して批判しないというやり方で、自由な意見を頂いた。現状と課題では、情報化施工機器が高いことやメリット、デメリットが理解されていない等の発注者、施工者の理解不足があるとの意見があったほか、方策としての意見としては、コスト面での分析により、ペイしない工事の把握が必要等の意見が出た。JCMAとの勉強会を参考に、情報化施工での作業において、メリットのある施工量、作業内容を整理して、メリットのある施工での活用促進を図っていくことが必要となる。
2-4 情報化施工に関するアンケートについて
九州地方整備局では平成26年度に九州管内の一般土木Cランク業者の内、510社を対象とした情報化施工に関するアンケートを実施した。
アンケート結果によると、直轄工事を受注した約半分の業者が情報化施工の実績があり、実施の理由としては、「仕様書等で実施の義務づけ」や「工事成績での加点」のほか情報化施工の効果である「省力化」や「工事の品質アップ」が多かった。この結果から、実施されている施工業者は情報化施工の利点をよく理解していると考えられる。
実施しなかった理由としては、「工事コストが増加する」との意見が多くあるため、使い方によっては、効率的な施工に結びつくということを広報していく必要がある。
機器の保有状況については、TSで直轄受注業者の8割の業者が1台以上保有しており、直轄受注していない業者でも3割の業者が保有しているという結果であった。一方、MGバックホウでは、直轄受注業者でも5%しか保有がない状況であった。機器が高価なこともあるが、情報化施工機器の購入に際しての長期融資制度については、3割の認知度しかなかったため、融資制度の広報も必要と考えている。九州地方整備局では平成27年10月20日に情報化施工に関係する全事務所の職員を集めた担当者会議を開催し、情報化施工の概要や融資制度について説明し、業者への周知を呼びかけた。
また、情報化施工普及施策の認知状況として、工事成績の加点については、ほとんどの業者が認識していた。
3.情報化施工に関する最近の取組について
3-1 情報化施工のWEBアンケートについて
活用目的、施工規模、導入効果等の把握を目的に簡易アンケート調査を実施しており、九州地方整備局においては、平成27年度より情報化施工技術の簡易アンケートをWEB化している。また、施工前・施工後にアンケート調査票を提出頂くと工事成績評点の対象となる。
3-2 総合評価落札方式の一部見直しについて
九州地方整備局では、情報化施工の普及促進と生産性向上のため、情報化施工が活用できる工事について総合評価落札方式で評価項目とする運用を、平成27年10月1日以降に手続きを開始する工事から適用している。「情報化施工技術の活用」を原則、評価項目とした評価対象工事は以下のとおりである。
①一般土木:施工量1,000m3以上10,000m3未満の河川土工、道路土工を含む工事でTS出来形管理技術(土工)を使用
②一般土木:施工量10,000m3以上の河川土工、道路土工を含む工事でTS・GNSS締固め管理技術、MC・MGブルドーザ技術、MC・MGバックホウ技術のうちいずれかを使用
③舗 装:施工量5,000m3以上の路盤工を含む工事でMCモーターグレーダ技術を使用
④舗 装:出来形管理においてTSを用いた出来形管理要領(舗装工事編)」が適用できる舗装ランクA工事でTSによる出来形管理技術(舗装工)を使用
3-3 「i-Construction」について
平成27年11月24日に国土交通省として、生産性向上や建設現場に携わる人の賃金の水準の向上、死亡事故ゼロを目指し、「i-Construction」と名付けた取組を開始した。情報化施工もその一角を担うこととなり、ICT技術の全面的な活用を目指している。
背景として、バブル崩壊後、建設投資が労働者の減少を上回って、ほぼ一貫して労働力過剰となっていたが、近年の少子高齢化の影響もあり、技能労働者約340万人のうち、約110万人の高齢者が10年間で離職の予想がされている。また、トンネル工事などは、約50年間で生産性を最大10倍に向上している一方、土工は、図-6のとおり改善の余地が残っていると考えられる。
具体的な取組としては、これまで情報化施工の部分的試行として測量・設計・施工計画を2次元で行い、その後3次元データの作成を行い、施工後再度2次元データで検査を行っていた。
「i-Construction」では、測量から検査まで3次元データを用いて一連で行うことを目標としている。なお、各段階としては以下を想定している。
①ドローン等により3次元測量を行うことで短時間に面的(高密度)な3次元測量を実施。
②3次元測量データ(現況地形)と設計図面との差分から、施工量(切り土、盛り土量)を自動算出し設計・施工データを作成。
③3次元設計データ等により、ICT 建設機械を自動制御し、建設現場のIoT(Internet of Things)を実施。
④ドローン等による3次元測量を活用した検査等により、出来形の書類が不要となり、検査項目が半減
九州地方整備局としては、レーザースキャナの出来形管理要領の作成や普及・促進の取組として事務所の監督・検査職員向けの説明会、見学会などを行い、i-Constructionを周知し、使うマインドの醸成を行っている。
4.おわりに
今後、深刻な労働力不足が懸念され、いかに生産性を上げていくかが大きな課題となる。情報化施工技術においては、そのような課題に対して有効な解決策の一つになると考えており、九州地方整備局としても引き続き普及促進に尽力していく。