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九州北部豪雨災害における測量設計業者の災害対応と課題
牧角龍憲
藤本聡

キーワード:災害対応、アンケート、測量設計業、官民協働、生産性向上

1.はじめに
わが国は、常に自然の脅威にさらされている。言うまでもなく九州も例外ではなく、数ヶ月前に熊本、大分両県を中心に大きな地震が襲ったことは記憶に新しい。九州北部豪雨災害から4年も経たない時間軸の中で再び大きな自然災害に見舞われたことになる。
こうした自然災害にあたっては、応急復旧やその後の本格復旧に、多くの建設業や測量設計業さらには建設コンサルタント業など、いわゆる「土木人」が昼夜を問わず先駆的に作業を行って貢献している。とくに、初動対応での情報収集や災害調査などの被災状況の把握においては、その業を専門とする測量設計業界の支援が欠かせない。
一方、近年の公共事業縮減に伴う受注競争の激化により、地場測量設計業界は疲弊しつつあり、協力支援するための企業体力は明らかに損耗してきている。こうしたことから、将来の災害時においても不可欠となる民間の協力支援が円滑に行われるためにも、災害時の活動における民間の人的・経済的負担を可能な限り軽減する策を講じておく必要がある。
本稿では、大規模災害における測量設計業者の災害対応の状況に関して、アンケート調査によりその実態を把握し、とくに業者の負担に係る課題に着目して、生産性向上の視点から問題点を整理した結果について述べる。

2.災害対応に係るアンケート調査
九州管内の測量設計業協会及び建設コンサルタンツ協会の会員を対象に、九州北部豪雨災害時の災害対応についてのアンケート調査を実施した。調査時期は業務多忙時期を避けた平成27年秋であり、177社から回答が得られた。
質問内容については、災害発生時から災害報告までの約10日間を「災害発生時」、その後の災害査定に向けての準備期間を「災害復旧時」とし、それぞれのフェーズごとに、実施業務内容、出動体制及び期間、作業の円滑さ、費用清算、本業への影響などについて問い、併せて問題点について自由記述による意見も求めた。また、出動動機につながる災害協定の状況についても調査した。
回答を得た177社のうち、九州北部豪雨災害に対応した社は、災害発生時が97社、災害復旧時が115社であり、その所在地の内訳を表-1に示している。被災県のみならず他県からも出動しており、数多くの測量設計業者が災害対応に迅速に従事し貢献してきたことがわかる。

3.災害協定の状況
災害発生時、様々な対応に追われる行政のマンパワーを支援し協力する形態で、民間業者が広範囲にわたる被災状況の調査に従事している。その業務は緊急対応であるため、行政からの民間への要請については災害協定が基本になる。
この災害協定については、177社のほぼ9割にあたる154社が、県(109社)、国(95社)、市町村(38社)および他公的機関(13社)のいずれか又は複数と締結しており、図―1に示すように、ほぼ全ての業者が地域貢献を理由としている。
このうち、国、県、市町村及び他機関のいずれか1機関のみと締結しているのは44%で、過半数は複数の機関と協定を締結している(図-2)。大規模災害の場合、様々な行政機関から支援要請はなされるが、業者にとって緊急対応できる人員には限りがあるため、支援先に優先順位をつけざるを得ない、あるいは条件が良くない業務は避ける場合もあるのが現状である。行政から民間に支援要請を行う場合、この点を十分に配慮しておかねばならない。

4.災害発生時における状況と課題
ここからは、九州北部豪雨災害の発生時に対応した97社の回答に基づいて述べる。
災害発生時の初動対応は、図-3に示すように、直接または所属団体を介して行政機関からの要請で出動している。そして、作業内容の大半は被災状況の把握あるいは測量、すなわち、被災直後の現地に出向いての外業である。これに関連して、今回の回答では、①被災箇所の確認に手間取った、②行政サイドとのコミュニケーションがうまくいかなかった、の2点の指摘が顕著であった。

4-1 被災箇所の確認について
今回のアンケート調査結果では、役所の指示内容の不徹底ならびに既存図面や資料の不備などの理由により、被災箇所の特定に時間を要したとの指摘が少なからず出されている。
どこが(where)被災しているのか、という被災箇所を特定するには通常、緊急パトロールや住民からの通報によるところが大きいが、これらの情報をもとに被災箇所を特定するには最新の河川台帳や道路台帳さらには地形図等の資料が不可欠であるとの指摘が多い。また、今回のような大規模災害の場合、被災情報の収集に上空からの空撮が威力を発揮するが、人命救助や報道関係など様々な利用と相まって上空利用の混雑について問題指摘する回答もみられた。
さらに、被災箇所に到着するに際し、道路損壊、倒木などにより困難を極めたという指摘も多く、重機等を保有している建設業者との連携を望む声が多く出されている。また、大規模災害の場合、他県業者の支援も多く必要となるが、こうした業者にとっては現地に不慣れな中での作業となることから、安全性確保や体調管理などの面で戸惑ったとの声もあった。

4-2 行政側とのコミュニケーション
発災直後の初動段階では、行政は住民への対応に多くの時間を要するため、民間各社の立場から指示等を求めたい場面でも思い通りにレスポンスがなく現場対応に苦慮したとの指摘が多い。そのため、今回のアンケート調査結果でも、「民間まかせ」、「後になって手戻り作業が生じた」といった苦情に近い回答が少なからず出されている。さらに、行政、民間を問わず災害対応経験者が不足していたとの指摘もある。
また、道路災、河川災、砂防災、農災(林災)などの行政区分けの間での作業方針の差異があり、それが官民協働のコミュニケーションを図る際の支障になっているとの指摘が多く出されている。さらに、この行政区分けあるいは行政機関による違いとして多くの業者が指摘しているのが、民間企業の実働に対する対価の扱い方である。
災害発生時においては、災害協定に基づく自主的な支援活動は本来無償であるが、行政側が要請した活動に対しては対価を支払うことが協定にも明記されている。ところが、今回のアンケート調査では、この対価についての認識でケースにより大きなバラツキがあることを示す結果となった。初動対応を円滑に行っていくためには、官民双方が金銭的な面も含め納得のいく環境を整えることが大事である。

5.災害復旧時における状況と課題
ここでは、①行政からの指示に対する要望、②災害対応以外の通常業務との調整を行政に期待する声、の2点が顕著であった。

5-1 行政からの指示について
災害査定に向けての準備段階では、災害箇所の起終点の確定及び災害復旧における工法選定という大きな意思決定プロセスがある。今回のアンケート調査結果では、これらの意思決定、さらには民間業者への指示が作業の過程で何度か変更されたことにより作業に手戻りが生じたとの指摘が多く出されている。また、意思決定ならびに指示に変更が生じた要因については、行政担当者によって判断基準、考え方が異なることによるとの指摘も出されている。
現地の作業においては、伐採や丁張りなど本来業務とは異なる作業や赤杭・青杭の打ち替えなどに多大な時間を要し、非効率な作業を余儀なくされることの指摘もあった。また、行政担当者が昼間は現場に出て不在がちで、設計協議等打合せは時間外に行うことが多く残業時間の増加を招いたとの指摘もあった。図-6に示すように、災害復旧時の作業が円滑に行えたという回答は4割に過ぎず、その状況を踏まえて改善すべき点は多い。

5-2 災害対応以外の通常業務との調整
自然災害が発生した際、それぞれの企業ではすでに手持ちの業務を抱えていることが多く、災害対応の業務との関係でマンパワーや工期の面で調整に苦慮することが多い。図-7に示すように、通常業務に影響があったとする回答は 70%もあり、その多くは災害復旧を最優先するため手持ち業務を休止せざるを得ず、そのしわ寄せから残業や休日出勤など社員の負荷が大きくなったという指摘であった。とくに、災害に無関係の発注機関からの業務では工期延長等の配慮がなされず、災害時の広域的な配慮を期待する声もあった。
最後に、災害対応及び災害査定に関しての意見を抜粋して表-2に示している。今後も献身的に災害復旧に取り組もうとする測量設計業者の声であり、参照していただきたい。

6.おわりに
自然災害発生時の現場における一刻を争う対応については、今回のアンケート調査でも伺われるようにまだまだ課題が山積している。引き続き具体の事象を調査しながら着実に改善に努めていく必要がある。
最後に、本アンケート調査にご協力いただいた、各県の測量設計業協会、建設コンサルタンツ協会九州支部の会員企業各位に感謝の意を表します。また、実施に際しては、土木学会建設マネジメント委員会「地方の公共工事の入札契約方式に関する研究小委員会」の委員各位に労をとっていただいた。あわせて感謝の意を表します。

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