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桜島昭和火口の噴火活動活発化の現状と対応について
九州地方整備局 上江川良治
1 はじめに
1)桜島砂防事業の概要
桜島は、東西約12㎞、南北約9㎞、面積約77㎞2、周囲約55㎞で、約1万3千年前に出現したと推定され、過去に幾度となく大規模な噴火災害を繰り返してきた。
現在の噴火は、昭和30年の南岳噴火により活動を開始し、特に昭和47年以降活動が活発となり、爆発時に噴出される火山灰などにより山腹の荒廃が進み、これに伴い土石流が頻発するようになった。これらを契機に、昭和51年度から直轄砂防事業に着手し、現在、島内19河川のうち野尻川等の11河川において直轄砂防事業を実施してきている。

2)過去の大規模噴火の特徴
 ① 山腹からの噴火(南岳を挟み左右対称)
 ② 大正噴火時に大隅半島と陸続き

3)最近の噴火活動
南岳の噴火活動は低下傾向にあるものの、その東山腹の昭和火口では、2006年6月4日に58年ぶりとなる噴火活動が再開し、2007年5~6月、2008年2月、2008年4月~7月と噴火が繰り返し発生しているが、その後は比較的落ち着いて活動が推移している状況にある。

4)桜島での土石流発生回数
桜島では、火山活動と比例するかたちで土石流が発生しており、近年は低下傾向にあるものの年平均約10回の土石流が発生している。今年(2008年)に入ってからは、10月31日現在で野尻、持木、有村、黒神川で計13回発生している。ただし、土石流による被害は発生していない。

2 昭和火口の活動状況について
1)噴火活動の経過
① 2006年6月4日(平成18年)
・昭和火口において58年ぶりに噴火を再開し、6月20日ごろまで噴火活動は断続的に繰り返された。噴煙は、上空1,000mに達することもあったが、比較的穏やかな噴火活動であった。地震動や空気振動はほとんど検知されなかった。
・昭和火口の噴火に伴い、これまで南岳から半径2㎞圏内の立ち入り禁止区域が、昭和火口方向(東側)に約500m拡大された。

② 2007年5月~6月(平成19年)
・2006年の噴火活動から約11ヶ月後の5月16日から6月21日まで噴火活動が再び繰り返された。5月19日ごろからは夜間において火映が観察されるようになったり、発熱した噴石や火山灰の放出も確認された。
③ 2008年2月(平成20年)
・2月3日0時39分に2007年6月21日以来の噴火が発生。同日10時18分に爆発的な噴火が発生し、同日15時54分に発生した爆発的な噴火では火砕流を伴い、東方向に約1㎞流下した。
2月6日11時25分も火砕流を伴う爆発的な噴火が発生し、このときは東方向に約1.3㎞流下した。
2月3日16時10分に全国の火山で初めて噴火警戒レベル3(入山禁止)が発表された。その後、火口から2㎞程度の範囲に影響を及ぼす噴火の可能性が低くなったため、2月20日14時20分に噴火警戒レベルが3から2(火口周辺規制)へ引き下げられた。[「噴火警戒レベル」は気象庁が2007年12月1日より運用開始]


噴火警戒レベルの概要


H20.2.13 ヘリ(はるかぜ)より撮影

④ 2008年4月(平成20年)
・4月8日0時29分に発生した火砕流を伴う爆発 的な噴火が発生し、東方向に約1㎞流下した。その後、7月までの約4ヶ月間にわたり爆発を伴う噴火が断続的に発生した。
・4月8日10時30分に噴火警戒レベル3が発表され、その後7月14日15時00分に噴火警戒レベルが3から2へ引き下げられた。

⑤ ④以降から平成20年10月末時点
・7月28日7時5分と10時10分に噴火が発生し、昭和火口が2006年に活動を再開して以来初めて噴煙の高さが火口縁上3300mと3200mまで達した。
・7月28日11時5分に噴火警戒レベル3が発表され、その後8月28日15時00分に噴火警戒レベルが3から2へ引き下げられ、現在に至る。

3 大隅河川国道事務所の対応状況

昭和火口における一連の噴火活動に伴う大隅河川国道事務所の対応状況を紹介する。

1)関係機関との情報共有
2006年6月の昭和火口噴火以降、関係する機関で「桜島火山防災連絡会」を構成[①京都大学防災研究所火山研究センター、②鹿児島地方気象台火山観測課、③鹿児島県危機管理防災課,砂防課、④鹿児島市安心安全課、⑤大隅河川国道事務所]し、定期及び臨時的(多いときには週2~3回)に会議を実施して、情報の共有及び防災体制の確認を実施。

2)工事現場の対応
砂防工事の現場においては、噴火警戒レベル3が発表されたことに併せて、工事を一時ストップさせて安全点検を行っている。また、現場の安全点検の再徹底、噴火時の連絡系統確認、噴火に際しての注意事項等の周知を図るために、定期安全協議会(1回/月)を実施した他、噴火の状況に合わせて臨時の安全協議会を開催するなど、現場の安全管理について周知を行った。
実際の現場では、噴石監視員、ガス検知器、避難壕等など配置して安全を確保した。

3)ヘリコプター(はるかぜ)による現地調査
昭和火口の噴火に伴い、京都大学及び気象庁、独立行政法人土木研究所と連携し、ヘリによる観測・監視活動(火砕流の到達範囲の調査や土石流発生要因となる火山灰の堆積状況等)を実施し、情報収集を行った。

4)地形変状の把握(航空レーザ測量の実施)
航空レーザ測量を実施し、噴火前後のデータを解析した結果、火砕流堆積物の大部分は、昭和火口直下の勾配変化点に堆積しており、その量は約40,000m3であることが推定された。

火砕流堆積状況図

5)リアルタイムハザードマップの作成
噴火に伴う地形の変状を把握するために、航空レーザ測量の計測したデータを用いて、昭和火口からの火砕流発生を想定したリアルタイムハザードマップを作成し、関係機関と情報共有を行った。

火砕流を想定したリアルタイムハザードマップの事例

6)火山監視体制の強化
昭和火口からの火砕流発生を監視するため、新たに熱カメラ(赤外)の導入や火砕流の流下状況を監視するためのカメラを設置し、関係機関へも配信している。

7)無人化による除石工事の実施
桜島南部に位置する有村川において、火砕流堆積物が降雨による土石流化に伴い災害発生の恐れがあったため、有村川の1号えん堤堆砂地において緊急除石を実施し、約35,000m3のポケットを確保した。

その後の土石流等により、現時点ではポケットは土砂が堆積しており、今回除石したことで土石流等により流出した土砂を補足し安全に海まで流すことができた。

4 今後の対応
平成18年11月より、内閣府、消防庁、国土交通省砂防部及び気象庁により「火山情報等に対応した火山防災対策検討会」が開催され、効率的な火山防災体制を構築するための火山情報と避難体制のあり方について検討が行われ、平成20年3月19日に「噴火時等の避難に係る火山防災体制の指針」が発出された。今後は、この指針に基づき、関係者間にて各種情報の整理を行うと共に情報を共有することにより警戒避難体制を確立し、より円滑な住民等の避難を可能とする体制作りが必要である。
また、平成19年4月に策定された「火山噴火緊急減災対策砂防計画策定ガイドライン」に基づき、当事務所では、桜島火山防災検討委員会を設置して桜島における「桜島緊急減災火山砂防計画」の検討を進め、その中で昭和火口に特化した噴火による影響範囲や被害予測について検討を行っているところである。
5 最後に
専門家によると、姶良カルデラにおけるマグマの蓄積が継続してきており、桜島の地下深部からのマグマ上昇が続いてる以上、将来、近年の活動より激しい噴火活動を迎えることは間違いないと言われている。
そのため、今後とも関係機関と連携を図り不測の事態に備えた対応が必要である。

【参考文献】
京都大学防災研究所付属火山活動研究センター:
第10回桜島火山の集中総合観測(平成20年4月)

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