宮崎海岸におけるサンドパックを適用した埋設護岸の検討及び施工
真鍋将一
下田勝典
下田勝典
キーワード:海岸侵食、養浜、突堤、埋設護岸、サンドパック、ジオテキスタイル
1.はじめに
宮崎海岸は、ヘッドランド(L=300m,7 基)及び養浜(V=210m3)の対策工からなる侵食対策計画を以って、平成20 年度から国土交通省直轄事業に移行した。その後、環境・景観・利用にさらに配慮するため、改めて各種調査及び検討を実施し、東京大学大学院佐藤愼司教授を委員長とする「宮崎海岸侵食対策検討委員会」(以下、「委員会」という。)において計画の見直しを行うこととなった。
行政、市民、専門家による議論を重ねた結果、平成23 年8 月には、「浜幅50m の確保」「新たに設置するコンクリート構造物は出来るだけ減らす」等を示した「宮崎海岸保全の基本方針」が、同年12 月には、養浜(V=280万m3)、突堤(L=300m、150m、50m の計3 基)及び埋設護岸(L=1,600m、1,100m の計2 区間)の3 つの対策工を示した「宮崎海岸の侵食対策」が、委員会に了承された1)。
養浜は平成24 年1 月から施工を開始し、突堤は同年秋以降の高波浪期明けに着工することとした。一方、埋設護岸は、適用候補として期待されていたサンドパック工の安全性、耐久性等の検証が不十分であったことから、宮崎海岸における現地実験の結果を待って判断することとなった。本稿では、現地実験の開始から、埋設護岸の諸元の検討を経て、宮崎海岸の大炊田海岸地区(以下、「大炊田海岸」という。)における全国初の本施工が完了に至るまでと、その後の状況を報告する。
2.サンドパック工の現地実験
現地実験は、国土技術政策総合研究所と民間企業3 社による共同研究の一環として、宮崎海岸動物園東地区において、平成24 年2 月から開始された。3 月上旬には現地見学会を開催して設置作業の様子を一般の方々に公開し、コンクリートではなく合成繊維(ジオテキスタイル)で造られる護岸とは一体どのようなものであるか、施工方法やその規模感等を見学していただいた(写真ー1)。
3 月中旬の埋設前には、サンドパックを越波した場合の背後土砂の挙動を確認するため、放水による模擬越波実験を行った。なお、吸い出し等の問題は確認されなかった(写真ー2)。
サンドパックは、各社20m の区間に上下2 段積み(もたれ構造)で設置した。養浜による覆土で埋設する前の時点で、下段のサンドパックは砂浜面より下にあることが確認できる(写真ー3)。
サンドパックを埋設した後、しばらくはその状態を保っていたが、台風等による高波浪等が原因で8 月にまず上段が露出し、9 月には下段が露出した。その後、露出と覆土を繰り返しながら、冬の静穏期には、上段は露出、下段は覆土という状態に収束した(写真ー4)。
現地実験では、後の本格施工に反映された様々な成果が得られた。主なものを以下に示す。
(1)袋材及び堤体の「安定性」の確認
サンドパックは露出したものの、袋材が損傷したり、中詰材が流出したりすることなく、堤体も安定していた(なお、被災した種類もあった)。
(2)背後養浜盛土の「安定性」の確認
サンドパックが露出しても、その上部の養浜は残存した。また、利用上問題となる陥没等もなく、砂丘も侵食されなかったことを確認した(写真ー5)。
(3)「安全性」の確認
突合せ部背後へフィルタ材を設置する吸い出し防止対策を実施し(写真ー6の丸囲み)、問題が発生しなかったことを確認した。
(4)「環境」への配慮
大炊田海岸の養浜(内部に袋詰め玉石を埋設した擬似的な埋設護岸)上において、アカウミガメの産卵やコアジサシの営巣を確認した(写真ー7)。
(5)「景観」への配慮
袋材と砂浜との色調の整合については、現地実験終了後の大炊田海岸及び動物園東地区において、晴天時、曇天時、日向、日陰、乾燥時、湿潤時等の条件別に現地調査を行うなどした上で、検討を行い改良した(写真ー8)。
3.マニュアルの公開及び成果報告会の開催
現地実験と並行して各種室内試験が行われ、素材の耐摩耗性、難燃性、引張強度等の耐久性等が定量的に確認されるなどして、平成25 年6 月に「浜崖後退抑止工の性能照査・施工・管理マニュアル(Draft)」が公開された2)。宮崎海岸の現地実験により得られた知見も多く採用され、同年7月上旬には茨城県つくば市において成果報告会も開催された。
このマニュアルの作成をもって、第10 回委員会時点では検証が不十分とされていた安全性、耐久性等が検証された。
4.埋設護岸の諸元の検討
その後、7 月下旬に第21 回宮崎海岸市民談義所を開催して市民意見を聴き取るとともに、8 月には第8 回技術分科会を開催して技術的な議論を詰め、最終的には9 月の第12 回委員会において、埋設護岸にサンドパック工を適用することを決定した。検討の過程を以下に示す。
まず、埋設護岸への適用の可能性がある4 つの工法について、目的達成性、耐久性、安定性及び安全性の観点から比較した(表ー1)。その結果、評価に差はあるものの、いずれの工法でも埋設護岸に適用することは可能であると評価された。
次に、「宮崎海岸保全の基本方針」における配慮事項との適合性について比較を行うとともに、初期費用及び施工性についても併せて評価を行った(表ー2)。その結果、配慮事項に最も合致し、初期費用及び施工性の問題も特にないことから、浜崖後退抑止工(サンドパック)を埋設護岸の工法として選定した。
埋設護岸の諸元は図ー1に示すとおりである。裏込め土(養浜盛土)も護岸として扱い、護岸上への越波は許容する(砂丘への到達は許容しない)ことが特徴である。なお、現地実験で得られた知見を踏まえ、サンドパックはもたれ構造から自立構造に変更し、根入れ高をT.P +1.5m からT.P. + 1.0m に引き下げた上で、洗掘対策工を追加した3)。
また、当初はサンドパック3 段積みでの整備を検討していたが、砂浜から松林を見た際の眺望が著しく阻害されるとともに圧迫感があるため(図ー2)、サンドパックと砂丘の間に一定の離隔(18m 以上)を取ることを条件に(図ー1)、2 段積みでの整備を行うこととした。
5.大炊田海岸における全国初の本施工
平成25 年11 月上旬にサンドパックの1 体目の施工を開始した4)。サンドパックへの土砂充填は、海水と土砂を混合しスラリー状にして、サンドポンプで行う(写真ー9)。最低限必要な重機は、1 班あたり、海水供給用の水中ポンプを吊るバックホウと土砂を投入するためのバックホウ、計2台である(洗掘対策工に必要なクレーン等の重機は別途)。
12 月には現地見学会を開催し(写真ー10)、平成26 年1 月には最後の237 体目の設置を完了した(写真ー11)。その後、3 月末にかけて、護岸延長1m あたり約50m3の養浜により埋設し、竣工を迎えた。
6.工事完了後の状況
現状では浜幅が狭いことが影響し、波浪が高くなくても、大潮の満潮時等にはサンドパック前面の養浜が削られることがある。下段のサンドパックは概ね埋設状態を保っているものの、上段は露出しているものも多い(写真ー12)。この状況は、短い周期で変化するため、簡易測量も兼ねた出張所職員による巡視を週に1 回実施するなどして、挙動の把握に努めている(写真ー13)。
一方、埋設状態が保たれている区間において、アカウミガメが埋設護岸を登って産卵していることが、5 月下旬に確認された(写真ー14、15)。環境に配慮した工法の成果である一方、養浜勾配が急なために引き返したり護岸下で産卵したりする個体もいることに加え、養浜が固いために産卵しにくい可能性もあることから、継続的な調査を行った上で、必要に応じて改善していく必要がある。
7.現地状況の変遷
平成20 年度の直轄事業移行後から埋設護岸が完成するまでの大炊田海岸の変遷を年次変化としてまとめた(写真ー16 ~ 24)。桟橋状の管(宮崎市佐土原浄化センターの排水管)を基準にすると、位置感、規模感等をつかみやすい。なお、写真ー16 は北から南を望む写真であるが、写真17~ 24 は南から北を望む写真である。
8.留意点及び今後の課題
以上報告してきたサンドパック工による埋設護岸の役割は、あくまで養浜及び突堤の補完的なものであることに触れておきたい。他海岸での適用を検討する際は、特に留意していただきたい。
(1)埋設護岸の整備は養浜及び突堤の補完的なものであり、埋設護岸のみによる侵食対策は成立しない。サンドパック設置箇所に摩耗外力が小さいことが必要であるため、前面の砂浜の存在が求められるからである。
(2)また、埋設護岸の整備が汀線の前進に寄与することはない。埋設護岸の効果発現は砂丘の侵食対策に特化したものである。
(3)仮に摩耗外力を無視することができたとしても、汀線の前進に資する対策を行わなければ砂浜地盤高が低下することから、いずれ洗掘対策工の限界を超えることは明らかである。
また、今後は維持管理のあり方の確立が焦点となる。コンクリートと比較すれば、素材の耐久性という観点からは明らかに手がかかる構造物であるため、維持管理の費用対効果(例えば、養浜覆土対サンドパック長寿命化)を如何に引き上げていくかが重要である。埋設護岸設置初年度である平成26 年度の現場状況を注視しながら、具体的に検討して行きたいと考えている。
9.おわりに
埋設護岸の整備開始により「宮崎海岸の侵食対策が本格的に始動したことを機に、平成26年2月から3 月にかけて、「宮崎海岸侵食対策事業に伴う市民意識アンケート調査」を実施した。宮崎市(旧宮崎市、旧佐土原町、旧清武町)にお住まいの20 歳以上80 歳未満の方々2,000 人に無作為抽出でアンケートを郵送したところ、3 割を超える623 人から御回答をいただいた。それによれば、宮崎海岸の魅力の第1 位は「眼前に広がる太平洋」、不満の第1 位は「砂浜が狭い」であった。また、回答者の半数近い方々は、自由記述欄に思い出話等の記入があり、関心の高さを伺うことができた。
このアンケート結果からも、当事務所が目指す砂浜の回復を基調とした侵食対策のあり方と、市民の期待の方向性は一致していると考えており、「眼前に広がる太平洋」という“ 環境” を保持しつつ、「砂浜が狭い」という“ 利用” 上の課題を解決することも念頭に置きながら、背後地の“ 防護” を図るために、浜幅50m を確保する養浜の実施と突堤の建設も着実に進めていきたいと考えている。
最後に、全国初の本格施工として埋設護岸を整備するにあたり、当事務所の計画・設計を信頼してくださった大炊田海岸背後の住民の方々、その計画・設計を共に検討した学識経験者、市民、国・県・市の各行政機関、建設コンサルタント、そして、た初めての施工に試行錯誤しながらも施工を完遂し建設業者の皆様の御尽力に謝意を申し上げます。
【工事概要】
工 事 名:宮崎海岸埋設護岸等(1 ~ 5 工区)工事
発 注 者:国土交通省九州地方整備局宮崎河川国道事務所
設 計 者:株式会社東京建設コンサルタント
施 工 者:(1 工区)株式会社山本組、(2 工区)龍南建設株式会社、(3 工区)株式会社志多組、(4 工区)株式会社桜木組、(5 工区)吉原建設株式会社
施工場所:宮崎県宮崎市佐土原町下田島地先(大炊田海岸)
実 工 期:平成25 年10 月~平成26 年3 月
主な工事内容:埋設護岸L=1,580m(1 区間20m あたりサンドパックを3 体使用× 79 区間=237 体)、養浜V=95,106m3(一部はサンドパックの中詰材にも使用)
総 工 費:約1,205 百万円
【参考文献】
1)鶴﨑秀樹、真鍋将一:「宮崎海岸の侵食対策」に至るまでの経緯とその検討結果、九州技報、No.51、pp.67 ~ 74、2012
2)諏訪義雄:浜崖後退抑止工のマニュアル作成、土木技術資料、第56 巻、第4 号、pp.55 ~ 56、2014
3)真鍋将一、下田勝典:サンドパック工による宮崎海岸の砂丘の保全対策、土木技術資料、第55 巻、第11 号、pp.39 ~ 42、2013
4)真鍋将一、下田勝典:全国初のサンドパック工本格施工、土木施工、第55 巻、第2 号、pp.20 ~ 21、2014