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長崎県における今後の社会資本整備のあり方
長崎県 土木部長 村井禎美
1.はじめに

平成23年度は、「人が輝く、産業が輝く、地域が輝く長崎県」を基本理念とする新たな長期総合計画がスタートした年である。土木部は、総合計画の実現を下支えする幹線交通ネットワークの整備、安全・安心な暮らしを確保する自然災害対策や交通安全対策、美しく暮らしやすい街づくりなどを推進するとともに、ストックされた社会資本を適正に維持管理し、利活用しやすい仕組みづくりに取り組んでいる。

2.輝く長崎県の実現に向けて

具体的に進めている主要な事業として、まずは、九州新幹線西九州ルートがある。諫早~長崎間の認可・着工を実現し、工事中である武雄温泉~諫早間との早期の一括開業を目指している。また、西九州自動車道や島原道路など規格の高い道路のミッシングリンクの解消も必要である。これらの広域交通ネットワークは、地域づくりの基本となるとともに、住民避難や緊急輸送路として、災害時に果たす役割が極めて大きいことが、今回の震災により実証されており、強力に推し進めていかなければならない。

平成23年11月には上海航路が復活し、今春には定期航路となる。平成22年に完成した松が枝国際ターミナルが多くの観光客で賑わう。アジア・国際戦略をより一層強力なものとするためには、さらなる長崎港の拡充を目指すとともに、JR長崎本線連続立体交差事業をはじめとした長崎駅周辺の整備と連携をとり、アジアへの玄関口としての地位を確固としたものに仕上げていく。

また、平成26年の国体は、本県で開催される。
メイン会場となる、県立総合運動公園の再整備を急ピッチで進めている段階であるが、これ以外にも県土全域にわたって、県外からの人々を温かくもてなす街づくりに取り組まなければならない。
また、このような目白押しにある大型事業ばかりでなく、より地域に密着した、生活道路、ダム・河川、砂防・急傾斜事業などにも、しっかりと目を向け、県民ニーズをきっちり拾い、きめ細やかに対応していくことも重要である。

3.今後の社会資本整備の進め方

東日本大震災は、計画外力を対象とするハード整備中心の防災対策に、ある種の限界があることを教訓とした。これは、ハード整備を不要とするものではないが、社会資本整備に携わる技術者には、危機管理・危機対応に関して、その役割をもっと果たすことを課題として突きつけた。
ハード・ソフトの両面から、様々な災害に迅速に対応できる体制づくりが必要である。現在の状態が、どこにどんな問題があり、そこでは何が足りないのか、さらなる改善方法はないのかなど多くのことを検証しなければならない。

特に本県は、斜面の多い地形から土砂災害の危険が高い地域を多く抱え、諫早大水害・長崎大水害、雲仙普賢岳噴火災害など、数多くの激甚な災害に見舞われている。多くの困難をなんとか乗り切ってきているが、やるべきことはまだ多く残されている。

長崎では、まだまだ社会資本整備を望む声は強い。それに加え、防災・減災への対応を求める新たな社会的要請にも応えていかねばならない。一方で、年々、公共投資が減少するという現実がある。限られた予算の中で、最大限の効果が得られるよう取り組んでいく。
これらは、技術者の育成と同時に行わなければ効果が薄い。建設業は、ものづくりの点で、その品質が人的資質に左右される度合いが比較的高い。ましてや、災害時の対応は、技術者の判断力の差が、住民の生命・財産の損失の大きさを左右する。混乱が大きい災害初動時において、事態の収拾に向って、現場で堂々と対応できる理想の技術者像に近づけるよう努める。想定外の事象を想定する力やあらゆるケースを想像する力、データをより深く分析する力や、確率論的な思考能力など、従来よりも多くのことを身に付けた技術者が求められる。
また、建設投資が減少し、就業者の高齢化が進み、厳しい経営環境にさらされている地元建設企業を、今後、どういう方向に導こうとしているのかが喫緊の課題となっている。このままの状況が続くとすれば、優良な企業も疲弊し、共倒れを招くことが大いに懸念され、建設業者や作業機械が不在となる災害対応空白地帯が、特に離島を中心に生じることが心配される。
県としては、建設投資の減少に対応した産業構造への改革を進める一方で、技術と経営に優れ地域に貢献する意思と能力を有する企業を地域の中心に据えることを促すよう入札制度の改革を断行していく考えである。こうした取り組みにより、甚大な災害に備え、各地域にバランス良く、即応体制を備える健全な建設業者を定着させていくことが可能となる。

4.おわりに

県民に対して、安全・安心な生活を確保することが、社会資本整備のあり方として、最もベーシックな根幹にあたるものだと認識している。今回の震災を機に、もう一度、土木行政を見直し、技術者の責務を再認識する必要があると考えている。

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