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温泉街地での騒音に配慮した古湯温泉トンネルの施工について
青山拓実

キーワード:トンネル、騒音対策、段丘堆積物、破砕帯

1.はじめに

一般国道323号(富士バイパス)は、佐賀県佐賀市を起点に佐賀県唐津市に至る、佐賀県を南北に貫く幹線道路であり、現在施工中の嘉瀬川ダム建設に伴い水没する佐賀市富士町の一部区間の付替道路として建設されている。
古湯温泉トンネルは、その付替道路の一環として、閑静な温泉地で知られる佐賀県佐賀市富士町古湯に計画された、トンネル延長348mの2車線道路トンネルである。本トンネルの特色としては、トンネル起点側坑口に近接して大型温泉ホテルや家屋があること、地下水位が高いことやトンネル中央部に熱水変化を受けた脆弱な地質が想定されていることである。本稿では、その施工について紹介する。

2.工事概要

古湯温泉トンネルは、閑静な温泉街で知られる古湯温泉(佐賀市富士町古湯)に位置し、一般国道323号富士バイパス建設工事の一環として計画されたトンネルで、延長348m、内空断面積約65㎡の2車線道路トンネルである。
平成19年8月に着工し平成20年5月9日に貫通、平成21年3月に竣工した。図-2にトンネル計画平面図、図-3にトンネル計画縦断図、図-4に標準横断図、表-1に施工概要を示す。

図-2 計画平面図

3.地形及び地質概要
3.1 地形概要

起点側坑口附近は佐賀花崗岩の風化が進み、層厚5~7m程度の緩い未固結土砂の段丘堆積物が堆積しており、地滑りに伴う舌端部も見られる。
またトンネル中央付近はなだらかな鞍部を呈し、終点部においては風化はそれほど進んでなく、急峻地形を有する一般的な山地地形を呈する。

3.2 地質概要

現場の地質は、中生代後期白亜紀の深江花崗岩(東松浦花崗岩)と佐賀花崗岩および段丘堆積物、河床堆積物よりなり、地質調査(ボーリングおよび弾性波探査)によると、トンネル中央付近の鞍部の直下にトンネルに斜交する様に熱水変質作用を伴う角礫混じり粘土を主体とする断層破砕帯が幅約5mで分布し、これより起点側では天河川河床部まで熱水変質作用を受けた花崗岩が広く分布し、岩盤の劣化が進んでいることが想定される。終点側は鞍部より熱水変質作用の影響は小さいものと考えられる。
トンネル起点側坑口周辺には、扇状地状の段丘堆積物が分布しており、表層部では分級が進んだ(粒度の揃った)砂主体であるが、下部では花崗岩の巨礫を含む砂礫層からなっている。地下水位については、起点側坑口天端附近から終点側に向かって最大1.5Dの位置まで上がり、終点側坑口の舗装高付近に収束しており、概ねトンネル天端高よりも高い位置に分布している。
破砕帯前後にはC級の地山強度が認められるものの、熱水変質作用が見受けられることや、コア状態及びトンネル天端~1.5D区間に1.7㎞/sの低速度帯があること等を勘案し、本トンネルの地山分類はDⅠとした。

4.施工報告
4.1 坑口付近の施工

起点側坑口附近の段丘堆積物の施工は、明かり部では通常の掘削工法であったが、掘削面には過去の滑動の形跡がはっきりと見られる箇所もあった。トンネルの坑口付近の施工は、天端付近に風化が著しく熱水変質脈を挟む土砂化した強風化花崗岩が分布し、施工時天端部からの「肌落ち」「崩落」「上部斜面の引き落とし」に注意しながら施工した。また終点側坑口は貫通側であり、地山勾配が約45度と急峻であるため、トンネル掘削時に、トンネル上部の著しく風化した礫混じり砂や強風化花崗岩の斜面が緩み、天端部からの「崩落」「上部斜面の引き落とし」の恐れがあるため、切羽及び天端が自立する程度に地山を改良する必要があった。そこで、起終点共にAGF工法で計画・施工した。また、起点側坑口上部法面保護工として連続繊維補強土工を採用した。
以下施工状況等を写真-1~3及び図-5に示す。

4.2 熱水変質帯付近の施工

切羽の進行にともない、岩質の割れ目がやや大きくなり、目に沿って風化・劣化が進み粘土が介在するようになってきた。№22+10m付近より緑灰色の部位が左踏前より現れ右の方に移動し、その後方には薄赤燈色のペグマタイトが現れた。このペグマタイトは岩脈自体は堅硬であるが、割れ目が多く一部礫状を呈し、その変質帯は既地質調査のとおり全体で約5m程度であった。
写真-4に破砕帯切羽状況を示す。

5.騒音対策
5.1 検討手法

当トンネルは坑口が大型温泉ホテルのすぐそばに位置し、かつ民家もすぐ近傍に位置するため、施工中の騒音対策が必要となった。当初は、一部発破区間を除き機械掘削工法を基本とし、夜間作業・発破に対し、坑口部に「防音シェルター+防音扉2基」が計画されていたが、現場が非常に狭く、材料のストックヤードや旋回箇所等のスペースが少なく作業効率に大きく影響するため防音シェルターと同等な性能・能力を持つ騒音対策の検討を行った。その解析の手法として「3Dサウンドマッピング」を用いてシミュレーションを行った。この手法は、距離減衰に地形の高低差による回折や反射、音源の方向角を要素に加えて解析するもので、より現場に近い解析結果が得られるものである。

5.2 検討結果

検討の結果、大型温泉ホテルとの境界部分に高さ7mの特殊複合型遮音パネル(グラスウール+砂)、坑口正面の民家側に高さ3mの遮音パネル(グラスウール)を設置し、コンクリートプラントと送風機を防音型とし、坑口には2層式砂充填密閉型防音扉とすることで目標値を満足することが分かった。また、この解析結果を踏まえ、近所の方に集まってもらい各民家における騒音をコンピュータと大型スピーカーにて再現し、対策前後の騒音を疑似体験してもらい、理解を得ることができた。実測で1~3dB程度の誤差に収まっている。
表-2・3に目標値、表-4に実測値を、図-8
にシミュレーション結果を、写真-5~9で現場状況を紹介する。

6.おわりに

他県に比べてトンネル本数の少ない本県において、私自身も初めてトンネル工事を担当しました。トンネル本体の設計思想や施工管理はもとより、本稿で述べた騒音対策、本稿で述べていない残土運搬経路上の安全対策等、地元に対する説明や理解を得ることが工事を進めるうえで非常に大事なんだということを痛感した工事でもありました。
トンネル初心者の私に懇切丁寧に御教示くださった諸先輩方やコンサルタント、施工業者のみなさんにこの場を借りて心から御礼を申し上げます。
今回工事で、多大なる御理解・御協力をしてくださった地元古湯温泉の紹介をさせていただきます。
古湯温泉は、佐賀駅の北方20㎞、標高200mの山峡にあって、昭和41年7月、厚生省から「古湯・熊の川温泉郷」として、国民保養温泉地の指定を受けています。
泉暦も古く、画家の青木繁やアララギ派の総帥として、日本歌壇の最高峰といわれた歌人の齋藤茂吉ら諸先生の曽遊の地として知られています。
泉質は、無色、無臭、無味、ph9.5は全国屈指。多数のイオンを含み、肌触りが柔らかく、癖がなく肌への刺激が少ないのが特徴で、温泉の成分としては全国的に優秀な温泉です。
佐賀に来られる際は、是非古湯温泉にお越しいただき、「ぬる湯」を御堪能いただけたらと思います。

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