五ヶ瀬川激甚災害対策特別緊急事業の完成とその効果について
川野晃
キーワード:五ヶ瀬川激甚災害対策特別緊急事業、隔流堤、みずからまもるプロジェクト
1.はじめに
五ヶ瀬川は、延岡市街地上流で大瀬川と分派し、延岡市街地を貫流し河口付近にて支川祝子川、北川を合わせ日向灘に注ぎ、水量も豊富で自然環境豊かな河川である。その下流部に位置する延岡市は、その豊かな自然環境と歴史・文化に育まれ、「水郷のべおか」としても名高いところである。
一方で、過去はもとより近年でも平成5年、平成9年、平成16年、平成17年と幾度となく洪水による甚大な浸水被害が発生しており、中でも平成17年9月に発生した台風14号による洪水では、軒並み戦後最高となる水位を記録し、延岡市内5箇所で堤防を洪水が越水するなど、外水はん濫や内水はん濫により、床上浸水1,315戸、床下浸水399戸、浸水面積431haに及ぶ甚大な被害に見舞われた。
このような被害を軽減するため、平成17年11月18日、「五ヶ瀬川激甚災害対策特別緊急事業」(以下「激特事業」という)に採択され、平成22年度までの短期間に、集中的な河川整備を進めてきたところで、平成23年3月にその事業が完了したので紹介する。
図-1 五ヶ瀬川激特事業の概要
2.激特事業の概要
今回の激特事業では、外水はん濫への対策として、五ヶ瀬川と大瀬川を分離する「隔流堤」の整備、約140万m3にも及ぶ大規模な「河道掘削」、五ヶ瀬川の「河口開口」、流下阻害を起こしていた「橋梁架替」など、洪水時の河川水位を低減させる対策を実施するとともに、「築堤」による堤防の嵩上げで洪水の流下に必要な河川断面を確保し、平成17年台風14号規模の出水が再び発生した場合でも、堤防から溢れることなく洪水を流下させることが可能となった。
また、内水被害対策として、3箇所で新たに排水ポンプ場を設置し、10年に1回の頻度で起こると考えられる洪水に対して、家屋等の床上浸水被害を解消できるようになった。(うち1箇所は宮崎県激特事業で実施)
更に事業実施にあたっては、ハード対策のみでは浸水被害を完全に防止することは困難なため、災害に強い地域づくりを進めるため、国・県・延岡市からなる「五ヶ瀬川水系浸水被害軽減対策協議会」を設立し、防災情報の提供や防災まちづくりの推進、激特事業の進捗状況のレポート作成(公表)など、ソフト対策も併せて行ってきた。
これらのハード対策とソフト対策を併せて「みずからまもるプロジェクト」と銘打って、地域と一体となって事業を実施してきたところである。
なお、本誌2009年7月号で激特事業の進捗状況を一部紹介済みなので、本稿では、主に激特事業の後半に実施したものを中心に事業箇所を紹介する。
3.隔流堤 の設置
五ヶ瀬川は河口より9㎞地点で大瀬川と分派した後、2.8㎞地点で再び合流後、更に河口付近で支川祝子川、北川を合流し、日向灘に注ぐ複雑な河川形態を呈している。
これまで、洪水時には大瀬川からの合流により五ヶ瀬川の水位が上昇し、市街部が氾濫する危険性が高かったことから、隔流堤により洪水の流れを分離し、合流による五ヶ瀬川の水位上昇を防止するため、総延長760mの築堤と河川環境の保全や舟運確保のための水門1箇所を設置した。
隔流堤箇所は、JR日豊本線や国道10号が河川を跨いでおり、盛土等による隣接構造物への影響に配慮しながら工事を実施し、平成23年3月に完成した。(一部はJR九州に施工委託)
4.河道掘削
洪水時の流下能力の確保や水位低下を図るため、約140万m3にも及ぶ大規模な河道掘削を実施した。
なお、事業の早期効果発現を図るため、平成20年度までに全体掘削量の9割以上の河道掘削を行ったが、市街部である五ヶ瀬川右岸の本小路地区においては、周囲に城跡や歴史的な施設である畳堤や水神様があり、河川敷の利用なども多い地区であったため、地域住民等の意見も取り入れながら、生態系や景観、親水等に配慮した整備を行った。
また、五ヶ瀬川の亀井橋から天下橋までの約4㎞の区間で行う河道掘削(河川敷の盤下げ含む)にあたっては、「川で遊び学び、人々が集い出会う、活力ある地域づくりに向けた川づくり」をコンセプトに、学識者・地域住民・関係機関からなる「五ヶ瀬川野田地区周辺川づくり検討会」を開催し、地域協働の維持管理を前提とした住民と行政の協働による利活用に向けた整備計画(掘削形状や整備内容)及び完成後の維持管理計画を検討し具体化して、整備を行った。
平成22年3月に整備が完了し、各地区にある河川敷多目的広場については、地域住民の方が定期的に除草を行うなど維持管理を実施し、利活用を図っている。
5.築堤による堤防嵩上げ
洪水が堤防より越水して浸水被害が発生した岡富地区においては、土地区画整地事業(延岡市)と国道218号拡幅事業(宮崎県)と連携し、堤防の高さが不足する箇所の堤防の嵩上げを行った。また、それと併せて老朽化や流下断面が不足する2箇所の樋門等の改築を行った。
なお、土地区画整理事業と国道拡幅事業は、平成23年度も事業継続中であるため、一部区間において嵩上げ工事中のところもあるが、堤防の必要断面による高さは確保しており、激特事業による洪水への対応は図られた。
6.安賀多橋の架け替え
市内中心部の大瀬川に架かる旧安賀多橋(橋長268m)は、昭和12年に建設され多くの市民に愛され続け延岡市を代表する橋であったが、桁下が低いことや橋脚が9本と多く、阻害により洪水を安全に流しにくかったことから、激特事業により架け替えを行った。(道路管理者である宮崎県に施工を委託)
新しい安賀多橋は、橋脚を4基に減らし桁下の高さを約1.5m高くし、洪水を流れ易くすると共に、新しい橋のデザインや色彩については、「風景に調和し、市民に愛され、歴史を受け継ぐ橋に」と、元の安賀多橋の親柱を使用することや、高欄のデザインも引き継ぐことで、歴史の継承を図った。
平成23年3月に新橋が供用を開始し、現在は仮橋の撤去を行っている。
7.排水ポンプ場の設置
台風14号では、河川の水位上昇により水はけが悪くなり、市内5箇所で内水被害が発生した。
激特事業では、川島地区、夏田地区、追内川地区の浸水被害の軽減のため、新たに3箇所の排水ポンプ場を設置した。(夏田地区は宮崎県が事業実施)
追内川地区では、台風14号で床上浸水41戸、床下浸水26戸の浸水被害が発生したのを受け、毎秒12m3(6m3×2台)の排水能力をもつ排水ポンプ場を設置することとし、平成22年3月に完成した。
これにより当該地区では、10年に1回の頻度で起こると考えられる洪水に対して、家屋等の床上浸水被害を約40戸から0戸に解消することができる。
8.水害に強い地域づくり
激特事業による様々な河川整備(ハード対策)で、五ヶ瀬川の治水安全度は大幅に向上したが、近年全国各地で頻発している記録的集中豪雨や台風の大型化等に見られるように、これらのハード対策のみでは浸水被害を完全に防止することは限界があり、災害から身を守るためには、災害に強い地域づくりを進める必要がある。
今回の激特事業の実施にあたっては、ハード整備と並行してソフト対策にも取り組んできたが、国・県・延岡市からなる「五ヶ瀬川水系浸水被害軽減対策協議会」を設立し、関係機関が連携し様々な減災のためのソフト対策を展開してきた。
延岡河川国道事務所では、インターネットや携帯電話等を通じて、雨の状況や河川の水位、河川監視カメラ映像など防災情報をリアルタイムで提供するための「五ヶ瀬川防災情報システム」を構築し、住民の方に広く活用頂くため、色んな機会に使い方などを紹介している。
また、五ヶ瀬川では、激特事業により治水安全度が大幅に向上したこと等から、水防活動や避難行動の目安となる危険水位の見直しを平成23年3月に行った。これらの住民への周知についても、九州川標プロジェクトの一環として、橋脚等への水位危険度レベルの表示や危険箇所での水位表示を行うなど、住民の方が判りやすく、いざという時の避難行動に役立つよう、取り組んでいるところである。
9.おわりに
今回の激特事業では、平成17年度から約6年という短期間に、国土交通省関係で200億円の事業費により、隔流堤設置や河道掘削、築堤、橋梁架替等の対策により、洪水時の流下能力の確保や水位低下が図られ、平成17年台風14号と同規模の洪水に対して、堤防から溢れることなく洪水を流下させることが可能となった。
その事業が完成し、洪水に対する地域住民の方の安全・安心が大幅に向上することができたが、整備効果を持続させるため、適切に維持管理していくことが重要な課題である。
特に河道掘削を行った箇所では、再堆積している箇所や樹木の繁茂が見られるところもあり、今後は河道管理に重点を置き、その効果が維持できるよう適切に管理していく必要があると考えている。
最後に、五ヶ瀬川の豊かな自然環境と個性ある歴史・風土・文化が未来に継承され、今後も、住民の方が安全・安心に暮らせる、災害に強い地域づくりが推進されることを願い結びとする。