九州新幹線鹿児島ルート全線開業を踏まえた
今後の交通のあり方について
今後の交通のあり方について
城麻実
キーワード:九州新幹線、鹿児島ルート全線開業、公共交通
1.はじめに
平成23年3月の九州新幹線鹿児島ルート全線開業により、博多―鹿児島中央間が最速1時間19分で結ばれるとともに、関西をはじめ九州以外の各地との結びつきも強くなる等、九州をめぐる交通体系が大きく変わることが予想される。
また、九州新幹線の開業効果を最大限に活用し、福岡・佐賀・熊本・鹿児島といったいわゆる縦軸だけでなく、九州全体の活性化に繋げることが期待されている。
九州運輸局では、こうした状況を踏まえ、平成22年5月に、九州新幹線鹿児島ルート全線開業を踏まえた交通のあり方等(注:この他、地域住民の移動手段の確保等、地域公共交通のあり方についても同検討会で検討)について検討を進めるため、「九州における今後の交通のあり方に関する検討会」を設置、平成22年12月まで検討を行い、とりまとめを行ったところである。
本稿では、同検討会における検討状況も含め、九州新幹線鹿児島ルート全線開業を踏まえた今後の交通のあり方について、論点や取り組むべき課題などについて、提示したい。
2.九州新幹線鹿児島ルートについて
九州新幹線鹿児島ルートは、平成3年8月、八代―西鹿児島間の工事着手で始まり、平成16年3月、新八代―鹿児島中央間が部分開業した。これにより、博多―鹿児島中央間の到達時分(最速)が3時間40分から2時間12分に短縮された(図1参照)。
平成23年3月12日に、九州新幹線鹿児島ルートは全線開業が予定されており、これにより、博多―鹿児島中央間が最速1時間19分で結ばれるとともに、関西方面との直通運転も決定され、最速達サービスを提供する列車「みずほ」で、新大阪―熊本間は2時間59分、新大阪―鹿児島中央間は3時間45分で結ばれる予定である。
3.全線開業を控えた沿線各地域の主な取組み
全線開業を控え、各地域では、開業効果を最大限に活用すべく、様々な取組みが行われている。
沿線各県では、全線開業に向け、その効果を最大限活用すべく、地域振興策などを検討するための部門横断的な会議の設置や、プランの策定を行い、新幹線開業効果の最大化・県内全体への波及を目指している。
【沿線各県の主な取組みについて】
- ○福岡県:「新幹線活用推進会議」を設置し、新幹線効果の拡大・活用や地域の活性化に資する各種施策(観光・交通、産業、まちづくり、イベント・広報)について庁内横断的に取り組んでいる。
- ○佐賀県:県内各分野の民間団体、県内全市町からなる「新幹線さが未来づくり協議会」を設置し、新幹線開業効果の佐賀県内への拡大に取り組んでいる。
- ○熊本県:新幹線開業を発射台とした地域づくり「新幹線元年戦略」、関西・中国地方での熊本の認知度向上等の「KANSAI戦略」を策定し、県民総参加の地域づくりに取り組んでいる。
- ○鹿児島県:「観光・交通」「産業」「まちづくり・イベント」の3つの分野ごとに、県内各地域が取り組むべき方策をまとめた「新幹線効果活用プラン」を策定、県全域の活性化に向けて取り組んでいる。
4.九州における今後の交通のあり方について
以上、九州新幹線鹿児島ルートの概要及び開業に向けた地域振興策の概略を述べたが、以下、本稿の主題である、九州新幹線鹿児島ルート全線開業を踏まえた今後の交通のあり方について述べる。
4.1九州における今後の交通のあり方に関する検討会の設置
九州運輸局では、平成22年5月に、九州新幹線鹿児島ルート全線開業を踏まえた交通のあり方等について検討を進めるため、九州経済界、地方公共団体(交通・観光の両方の担当部署から参加)及び交通・観光事業者団体の方々からなる「九州における今後の交通のあり方に関する検討会」を設置、検討を行った。平成22年12月までに合計4回開催し、とりまとめを行ったところである。
本検討会では、検討テーマに係る課題整理や方策の検討に加え、九州各地域の交通・観光関係者が一堂に会することで、情報共有を図っていくことも目的としており、構成員による取組み状況の報告や、九州新幹線全線開業を見据えた各地域の開業イベント・PR等を一覧できる「イベントカレンダー」の作成等、情報提供・共有の場としても活用していたところである。
4.2沿線企業等アンケート・ヒアリング結果
4.1の検討会での検討に資するため、九州運輸局では、平成22年6月、九州新幹線鹿児島ルートの沿線に立地する企業等に対して、開業後の通勤や出張などの人の流れや営業範囲の変化等経済活動に与える影響についてのアンケート(1,500社を対象に実施、有効回答数517社)及びヒアリング調査(18社及び2大学を対象に実施)を実施した。結果概要は以下の通り。
なお、調査結果全体については九州運輸局ホームページに掲載しているので参照されたい。
(URL: http://wwwtb.mlit.go.jp/kyushu/gyoumu/kikaku/file14.html)
4.2.1企業アンケート結果概要
九州新幹線鹿児島ルート全線開業については、プラスと評価する声が多く、マイナスとの評価は少ない(図2参照)。
通勤・出張時の人の流動について、全線開業によりどのような変化が生じると考えるか、という点については、出張時の利用交通手段・ビジネス流動に変化が生じるとの回答が多い。通勤時の人の流動については、比較的北部九州で変化が生じるとする回答が多い(図3参照)。
経済活動へ与える影響については、営業エリアの変化を挙げる回答が多く、全線開業による縦軸の時間距離短縮で、営業エリア拡大・活発化が予想される(図4参照)。
4.2.2企業等ヒアリング結果概要
企業・大学ヒアリングでは、アンケートとほぼ同一の設問で、18社及び2大学を対象にヒアリング調査を実施したが、この結果、以下のような傾向があると考えられる。
- ・緊急時の速やかな対応や地域密着型の顧客対応等要する支店・営業所は新幹線通勤が困難なことが多いため、こうした対応を要しない職員(例えば、本社の事務職の職員等)の通勤圏拡大が予想されること
- ・出張については、福岡―鹿児島間等、これまで宿泊出張であったところが日帰り出張になることで、九州北部と九州南部の移動が活発化すると予想されること(特に、鹿児島に本社を置く企業からは、情報が集積する福岡への出張が増えるのではないか、との意見があった。また、中国・関西方面への出張も増えるのではないかとの意見もあった。)
- ・通学圏については、通学費用が各自の手出しとなることもあり、どの程度変化が生じるか、運賃・料金が影響を与える部分が通勤以上に大きいが、時間的距離のみならず心理的距離の縮小により、より広範囲から学生が集まり、人流が活発化することが予想されること
- ・いずれも、生活コストの比較等、運賃・料金、ダイヤ次第というところもあり、様子見の傾向も見られること
4.3検討会における検討状況
4.2のアンケート・ヒアリング調査結果も含め、同検討会では九州新幹線鹿児島ルート全線開業後の交通のあり方について、課題・取り組むべき方策について検討を行い、とりまとめを行った。検討の結果、得られた主な論点について、現在、全線開業に向けて行われている主な各地域の取組みとともにご紹介する。ここで紹介する取組みの他にも、特に、新幹線駅からの交通アクセス向上等は、多くの取組みが各地でなされている。
(1)公共交通に関する情報発信強化
【取り組むべき課題・方策等】
- ・九州全体で公共交通に関する情報を一元的に発信するなど、情報発信強化、公共交通のPR・認知度向上が必要。
【現在行われている関連する取組み】
- ・九州運輸局HP内に「九州の交通アクセス情報」(九州の公共交通に関する情報の総合リンク集)を開設(H22.10~)
- ・各地域における交通ナビ、乗継ぎマップ等
(2)通勤・通学圏の拡大への対応
【取り組むべき課題・方策等】
- ・新たに新幹線駅が設置されるところ等新幹線各駅について、駅からの交通アクセス確保
- (開業効果を損なわないためにも開業時にアクセスが確保されていることが必要)
- ・全線開業後の動向を踏まえた継続的な検討
(3)開業効果の九州全体への波及(横軸の強化)、新幹線駅からの交通アクセス向上
【取り組むべき課題・方策等】
- ・新幹線駅からの広域アクセス確保や広域観光ルート形成による開業効果の九州全体への波及(横軸の強化)
- ・新幹線駅から観光地までのアクセス向上、公共交通を軸とした地域活性化
- ・県境に関わらず、九州一体となった交通アクセス向上
【現在行われている関連する主な取組み】
- ・九州新幹線と接続し、新八代―宮崎間を運行する高速バス路線「B&Sみやざき」の新設(H23.3~予定)
- ・熊本.雲仙間のフェリーと組み合わせたオーシャンシャトルバスの運行
- ・九州新幹線駅と宮崎県を結ぶ観光バス「つながるバス ぐるりんひむか号」(熊本駅―阿蘇―高千穂―延岡駅、鹿児島中央駅―霧島―えびの―宮崎駅の2ルートを運行)の実証運行(H22.10~)(図6)
- ・指宿地区における鉄道とバスが連携した観光周遊ルートの形成(指宿市内の広域バスフリー券発売とこれと合わせたバス路線の充実(H22.10~)、JRセットプラン利用旅行客に対する鹿児島中央―知覧―指宿間バス券のオプション用意(H22.10~)、指宿枕崎線への観光列車新設(H23.3~予定))
- ・霧島地区におけるバスネットワークの充実と鉄道との連携による観光ルート充実に向けた検討
- ・新幹線停車駅からの観光周遊バスの実証運行(出水駅発着「クレイン号」、川内駅発着「きゃんせ号」)(H22.10~)
- ・鹿児島中央駅―鹿屋間直行バスの実証運行(H21.12~)(写真2)
- ・熊本の観光地へのバスアクセスの改善(県内のバスアクセス情報を一冊にまとめた「くまもとバス旅」発行、熊本市内観光周遊バス「もりめぐりん」「みずめぐりんの新設(H22.10~)、2次交通(鉄道)との乗継を意識しながらの阿蘇ゆるっとバスの実証運行(H21.10~)など)(図5、写真3)
- ・阿蘇・竹田・高千穂、霧島・日南海岸など、県境にかかわらず九州の観光地間を結ぶ観光バス「なないろ九州バス」の運行(H22.10~)
(4)交通結節点の機能向上(乗継利便性の向上)
【取り組むべき課題・方策等】
- ・乗り場近接化など交通結節機能向上、乗継情報等の情報提供充実、外国人旅行者の受入環境整備
【現在行われている関連する主な取組み】
- ・博多駅・熊本駅等新幹線駅における交通結節機能向上
- ・各地域における交通ナビ、乗継ぎマップ等
- ・博多港.博多駅等における外国人旅行者の移動円滑化に向けた関係者間での検討
(5)公共交通機関同士や旅行会社等との連携による利用者利便向上
【取り組むべき課題・方策等】
- ・周遊切符などの利用しやすい商品の検討や、公共交通に係る情報提供・PR
- ・公共交通側と旅行会社等との連携による公共交通の手配の容易化
【現在行われている関連する主な取組み】
- ・熊本県内バス網を旅行商品に組み込む「旅行商品造成システム」構築
5.まとめ
以上、特に、九州新幹線全線開業後の交通のあり方に焦点を当てて述べてきたが、中国・関西方面や海外など国内外から九州各地への誘客促進、開業気運の醸成といった、交通に限らず地域全体としての観光振興・地域活性化の観点も重要な論点であることは言うまでもない。
いよいよ、全線開業を目前に控えることとなったが、九州運輸局としても、全線開業効果を最大限活用し、九州全体の活性化につながるよう、努めてまいりたい。