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製鋼スラグの路盤材への利用

建設省九州地方建設局九州技術事務所
材料試験課長
西 村  博

日本鋪道株式会社九州支店
試験所長
小 西  徹

1 まえがき
わが国の製鉄は,技術,生産量とも世界の最高水準に達しており,「鉄は国家なり」と称されるとおりあらゆる工業の基幹としての位置にある。しかし,いわゆる重厚長大型の代表産業であって製品の輸出依存が高いために,昨今の国内需要の不振と円高に伴う新興工業国(NICs諸国)の追い上げによって,製鉄業界にとって依然厳しい状態が続いている。昭和62年度からの積極的な内需拡大への政策転換は,それまで低迷していた鉄鋼製品の国内需要を高め,製鉄各社はやや活気を取り戻しつつあり,研究開発をさらに進めて国際競争力を回復する努力を続けている。しかしながら,高炉の休止や人員削減など合理化も余儀なくされている現状である。
鉄鋼スラグは製鉄の過程で,原料から鉄鋼製品に不用な成分を溶融し排出させた副産物である。その生成過程により,高炉スラグと製鉄スラグに大別される。このうち高炉スラグは100%の有効利用が進んでおり,製品としての評価が確定している。しかしながら製鋼の過程で生成される製鋼スラグは潜在膨張性をもっているため有効利用が遅れ,大部分が埋め立てなどで処分されてきた。最近は臨海工業用地が需要減となり,処分地の不足がコストを増加させている。九州には,日本を代表する規模の新日本製鐵㈱大分製鐵所をはじめ,歴史が古い同社八幡製鐵所,住友金属㈱小倉製鐵所などがあり,地域経済にも極めて大きな役割を果たしている。
以上の背景のもとに,製鋼スラグの有効利用をめざす目的で,まず舗装用粗骨材としての検討が行われ,すでに実用化が進んでいる。しかしこの用途は産出量のごく一部であり,さらに路盤材としての検討を進める必要があった。
建設省九州技術事務所では,製鋼スラグ路盤材の実用化に向けてモデル路盤を設置し,昭和60年度から29ヶ月にわたって追跡調査を実施した。その結果,路盤材として要求される性質を十分満足することが確認できたので,その調査結果の概要を報告するものである。

2 鉄鋼スラグ製品とその用途
(1)鉄鋼スラグの産出工程
・高炉スラグ
溶鉱炉(高炉)で原料の鉄鉱石を還元・溶解し,銑鉄と高炉スラグが生成する。高炉スラグの生成量は銑鉄トン当たり約300kgであり徐冷と急冷(水砕)方式で処理され,それぞれ異なった物性になるため独自の用途がある。
・製鋼スラグ
高炉で溶かした銑鉄からさらに鋼に不用な成分を酸化除去する工程が製鋼工程であり,製鋼炉としては転炉と電気炉がある。転炉は炉体を傾斜することができる構造になっており,わが国では鋼の生産量の約70%を占めている。銑鉄に石灰石と少量の鉄屑をいれ,上部から高圧,高純度の酸素を吹き込んでC,Si,Mn,Pなどを酸化燃焼させて酸化物をスラグとして除去する。酸化反応熱を利用するので熱源は不用である。製鋼スラグのうち,この転炉によって生成するものを転炉スラグとも称する。
電気炉は,鉄屑を主原料にして製錬する場合と特殊鋼の製造に用いられる。転炉と異なり外部からアーク熱で加熱して材料を溶解し,製錬する。炉内を酸化性,還元性に自由に変えられるのが特徴であり,それぞれの製錬過程で酸化スラグと還元スラグが生成される。
製鋼スラグの生成量は粗鋼トン当たり約100kg~150kgである。
鉄の製造とスラグの産出工程を図ー1に示し,スラグの種類と用途を図ー2に,その用途別使用量を図ー3に示す。

(2)スラグの性状の比較
高炉スラグと製鋼スラグの組成例と性状の比較は,表ー1,2に示す。

3 製鋼スラグの路盤材としての利用
(1)製鋼スラグの性質と用途開発の経緯
製鋼スラグは,高炉スラグに比べて比重が大きいのが特徴である。表ー1に示すとおり鉄分の残留率が高いことに起因する。また緻密で硬質であるため,骨材として良好ではあるが,生成の際に銑鉄中に添加した生石灰が未反応のまま残留する場合があり,これが骨材として使用するときに水と反応して膨張する性質をもつ。そのために,一部の再利用以外には大部分が埋め立て等に使用され,必ずしも有効に利用されてはいなかった。
昭和40年代から,急激な高度経済成長による国内の骨材資源の枯渇と,省資源の機運が高まり,高炉スラグと同様に有効利用の研究が進められた。製鋼スラグは生産後一定期間,膨張の促進による安定化が必要であり,これを「エージング」と称している。十分なエージングを経た製鋼スラグは前述のように,硬質で骨材として良好な性質をもつので,まずアスファルトコンクリート用骨材としての用途開発が進んだ。
その結果,近年の重車両の増加による舗装の流動に対し,製鋼スラグを用いたアスファルトコンクリートは,耐流動効果が大きいこと,あわせて積雪寒冷地域におけるスパイクタイヤ等に起因する摩耗や滑りに対しても,抵抗が大きいことが確認された。これらは昭和50年頃から始められた試験施工とその追跡調査によって実証され,昭和57年に「製鋼スラグを用いたアスファルト舗装設計施工指針」として鐵鋼スラグ協会から発行されている。

(2)路盤材としての用途開発の経緯
アスファルトコンクリート用骨材としての評価は確定し,利用が進んだものの,この用途だけでは発生量に対する比率は少ないので,利用を広げるためにさらに路盤材としての用途開発が期待される。昭和54年から,建設省土木研究所において路盤材としての性状を確認するため製鋼スラグを使用したモデル路盤を設置し,追跡調査が実施された。その成果が同じく鐵鋼スラグ協会から「製鋼スラグ路盤設計施工指針」として昭和60年に発行されている。
九州は,製鋼スラグの生産量が多く,全国の約15%(転炉スラグ17%)を占めている。有効利用への取り組みも積極的に進められ,アスファルトコンクリート用骨材の検討が終了後,路盤材への利用に関する検討が,昭和59年から建設省九州技術事務所において計画され,昭和60年に同事務所構内のモデル路盤において,調査を開始した。

4 モデル路盤試験施工の概要と調査
(1)使用材料と試験路盤の構造
試験路盤は上層路盤に利用することを目的とした。モデル路盤の配置と試験路盤材の種類は図一6のとおりである。エージング材齢(6ケ月,2ケ年)の比較,および転炉スラグと高炉スラグの配合割合の組み合わせとし,天然砕石路盤材を加えて8種類とした。その他材齢が短期(1ケ月,3~4ケ月)の材料も膨張発現の現象観察のため採用し,合計10種類とした。天然路盤材以外の試験路盤材は新日鐵大分製鐵所産を使用した。
試験舗装の構造は図ー7のとおりである。
製鋼スラグは試験路盤の含水比を高めることによって膨張を促進する目的で,下層路盤と上層路盤の間に細粒度アスファルトコンクリートによる遮断層を設けた。また表層に透水性アスファルトコンクリート(最大粒径5mm)を使用して,路盤を湿潤に保つよう配慮した。

(2)試験,追跡調査項目
モデル路盤は昭和60年7月に施工し,試験は施工後から29ヶ月間にわたる追跡調査と,室内における材料試験について実施し,また路盤の膨張が温度によって促進されることが予想されたので,特に夏季を主体に現場調査を実施し,室内試験のうち80℃水浸膨張試験は施工時から900日間連続して実施した。試験調査項目は表ー3,表ー4に示すとおりである。
昭和62年12月に追跡調査を終了し,モデル路盤を開削して,施工時と同様に各層の強度特性および材料特性などについて試験を行った。

(3)調査結果
29ケ月後の膨張比を転炉スラグの割合とエージング材齢で比較すると,図ー8および図ー9に示すとおりである。モデル路盤の試験結果ではエージング材齢が6ケ月の材料は80℃水浸膨張比の管理目標値である,1.5%を越えている。高炉スラグの混合割合を増加させてもモデル路盤では転炉スラグが50%以上では1.5%以下にすることができない。(3,5工区)

路面の観察結果でもエージング材齢が6ヶ月では転炉スラグの割合が多いものほど,ひびわれが発生し3工区で56%となっている。その他の工区では1%以下であり,エージング材齢が24ヶ月の材料にはひびわれは全く見られない。参考のため設けた1,2工区ではひび割れ率100%に達している。
モデル路盤の膨張比の推移は図ー10に示すとおりである。エージング材齢が短い材料で膨張比が大きく,またその伸びも持続する傾向であり,室内での80℃水浸膨張比の伸びの傾向(図一11)と類似する。

平板載荷試験およびたわみ量測定結果の推移では,転炉スラグ路盤材は高炉スラグの混合割合が,20%を越えないと硬化が進まないが,路盤材の変形係数は約3000kgf/cm2で粒度調整スラグ以上の値を示した。

(4)調査結果から得られた結論
29ケ月(夏季3回の経過)の調査によって得られた結論は以下のとおりである。
スラグ協会による「製鋼スラグ設計施工指針」(以下指針と称する)における80℃水浸膨張比の規格である「1.5%以下」は,モデル路盤での基準にも適用することが妥当であり,この値以下ではひび割れ率も1%程度で維持される。ただし,指針で定める「エージング材齢6ケ月」では,膨張比が1.5%を越えるものもあり,エージングは6ケ月では十分とはいえない。また膨張を低減させるために高炉スラグを混合する方法もあるが,試験結果からは高炉スラグの割合を増やすより,エージング材齢を伸ばすほうが効果があることがわかった。膨張の促進には,水分の他に材料温度の効果が大きいことが,冬季と夏季の膨張比の伸びの違いで確認された。膨張比はモデル路盤,80℃水浸,いずれでも終始伸び続け,その持続性の強さがうかがわれる。
したがって,エージングは,その季節の指定がないまま期間の規定だけである「6ヶ月」では,十分でない場合もあり,少なくとも夏季を経過する期間の定め方が必要であると考えられる。本調査結果ではエージング材齢を24ケ月以上とすることが望ましいとする結果が得られた。また高炉スラグの混合比は,施工性および経済性からみて,20~30%が妥当であり,これによって路盤材としての性状および施工性を向上することができる。
モデル路盤は,膨張を促進するために表層に透水性をもたせ,さらに上層路盤の下で保水する構造としたように,実路に比べて厳しい環境下にあったと考えられ,したがって試験結果は実路に適用する場合にはかなり安全側となっていると判断される。
膨張比(現場および80℃水浸)とひびわれ率の関係は,試験舗装がピット内であり実路とは供用条件が異なるために明確でなかった。

5 実路における試験施工
モデル路盤の調査結果をうけて,国道10号大分県速見郡山香町における部分改良工事において,上層路盤および下層路盤に試験路盤として適用し,その経過について昭和62年5月より調査を継続している。舗装構造および試験材料の配置を図ー12に示す。ここで採用した材料の性状を,表ー6に示す。いずれも材料は新日鐵八幡製鐵所産を使用した。
また舗装のたわみ量や路面性状の他に,各層の上面に沈下計を埋設し,膨張量の経時変化を測定している。同時に路盤材を透過する水の水素イオン濃度(pH)も測定している。
約1年経廻した現在,各測定結果に異常は認められない。

6 製鋼スラグ路盤の設計への適用
製鋼スラグ路盤の設計は,アスファルト舗装要綱等に準じた方法によって行われる。すなわち,高炉スラグによる各路盤材と同等の性状および基準によることが,指針によって規定されている。指針において規定される製鋼スラグ路盤の種類および基準を表ー7に示す。

7 あとがき
現在調査を継続中の実路における試験路盤は,モデル路盤に比べて表層基層合計厚が大きく,上載荷重や走行荷重が作用し,また路盤への水分の浸透が少ないので膨張は小さいと予想され,ひびわれの発生などの現象が出るまで長期間かかるか,あるいはほとんど発現しないと予想される。
冒頭に述べたとおり,高炉スラグは,最近セメント原料をはじめとし,水砕スラグとして付加価値の高い利用が進み,そのため路盤材としての供給が不足している。転炉スラグは,エージングを十分行って膨張を事前に促進した材料について高炉スラグと混合したものは,従来の高炉スラグ路盤と同等な性状を示すことが,これまでの調査で確認された。今後,水硬性粒度調整スラグ等への活用が期待される。
最後に,これらの調査の実施にあたって御協力いただいた,建設省大分工事事務所ならびに鐵鋼スラグ協会の関係各位に深く感謝の意を表する次第である。

参考文献
(1) 製鋼スラグの道路用材への利用に関する研究報告書,製鋼スラグ共同研究委員会,1984
(2) 製鋼スラグ路盤設計施工指針,鐵鋼スラグ協会,1985
(3) 高炉スラグ路盤設計施工指針,鐵鋼スラグ協会,1982
(4) 製鋼スラグを用いたアスファルト舗装設計施工指針,鐵鋼スラグ協会,1982

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