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大分川河川災害復旧工事における3Dレーザースキャナー測量
大分県 橋邉秀樹
1.はじめに

由布市湯布院町は大分県のほぼ中央に位置し、北部から南西部にかけては由布岳を中心とした標高1,000m級の山々が連なり、ふもとには、湯布院盆地が形成されている。観光面では、九州の軽井沢と呼ばれ、年間に約400万人が訪れる温泉観光地である。
大分川は、由布市湯布院町由布岳(標高1,540m)を源とし、湯布院盆地を貫流し、阿蘇野川、芹川等を合わせて中流を流下し、下流の賀来川、七瀬川を合わせ別府湾に注ぐ、幹川流路55㎞、流域面積650㎞2の一級河川である(図-1)。
本箇所は、梅雨前線豪雨による異常出水で護岸が被災したものである。被災箇所は、JR久大本線(九州旅客鉄道株式会社管理)が隣接し、さらにその上部には並走する一般国道210 号(国土交通省管理)が存在している(写真-1,図-2)。
河川の増水、崩壊の危険性、JR線により、立ち入りが困難となった現場において、早期に復旧するため、3Dレーザースキャナーによる測量を実施した例を紹介する。

2.被災状況について

梅雨前線による降雨は、平成20年6月19日早朝から降り続き、連続雨量111㎜、最大時間雨量37㎜を記録した。さらに降雨は、20日朝から23日未明まで断続的に降り続き累計雨量126㎜を記録した。
20日夕方に国土交通省より、護岸が決壊し、隣接のJR久大本線の路肩を巻き込む形で崩壊しているとの一報が入った。
九州旅客鉄道株式会社の協力のもと、久大本線の立入調査を行った結果、崩壊地は幅20m高さ20mの規模であった。また、線路内のレールから2m付近、路肩から1m付近まで進行しており、今後の降雨によっては、線路及び直上部の国道まで拡大することが予想され、早急に対策を講じる必要が生じた(写真-2、図-3)。

3.現地の観測及び復旧方針

現地の観測から、JRは営業中であり列車は運行中(徐行運転)であった。また、被災箇所は急斜面であることから、崩壊の拡大が懸念された。さらに、断続的な降雨により河川は増水傾向にあった。
以上により、被災箇所への立入りが困難な状況であるとともに早急に復旧工事を行うことが必要と判断された。
検討の結果、測量作業の迅速化による新技術の活用を検討することとした。
① 計画の迅速化
通常の測量作業では、計画準備から打ち合わせを行い現地踏査、図面作成まで全工程で13日程度必要とされた。しかし、新技術である3Dレーザースキャナーを使用することで、現地の崩壊箇所に立ち入ることなく測量を実施することが可能で、全工程は3日程度で完了することとなる(図-4)。
② 安全性の確保
通常の測量作業は、崩壊地へ立入りを行うことから、法面の拡大崩壊による2次災害の危険性がある。
また、JR線内及び国道内においては、列車及び一般車両との接触が考えられるため、交通誘導員の配置は不可欠である。しかし、3Dレーザースキャナーは、遠方からの観測が可能であるため、崩壊地付近及び通行に対する危険箇所への立入りを回避できる(図-5)。

以上のことから、3Dレーザースキャナーを活用することとした。

4. 3Dレーザースキャナーとは

3Dレーザースキャナーの特徴は、照射したレーザーパルスにより、最大で1秒間に8,000点もの大量の点データを取得することが可能である。範囲は、観測距離として2~800m、鉛直方向に80度、水平方向に360度まで設定が可能であり、広範囲に使用可能である。
従来の測量では、1点づつ座標を求めているが、多くのデータを必要とする地形測量では、3Dレーザースキャナーの使用により圧倒的な効率化を図ることができる。

5.3次元データ(点群)による写真化

測量作業によりターゲットを現地の両岸の起終
点4箇所に設置し、3次元データ(XYZ座標、デジカメ画像の色要素、照度)を収集し3次元モデルを構築した結果を示した。写真-3は通常のデジタルカメラによる画像(写真)であるが、写真-4はデータを3次元化したものである。このように点群で収集したデータに色表示を行い3次元化することで、写真と遜色なく写し出すことができる。

6.3次元データ(点群)による図化

観測による3次元データ(点群)を基に簡単な処理で地形図に変換できるため、平面図を作成し、次に点群データから必要な断面を抽出し、横断図を短時間で作成した。図-7は図化した成果を示している。
このように3次元化データ(点群)を基にどのような方向からも断面図作成が容易にできるため、河川法線での断面やJR中心線からの断面なども早急に対応でき、追加等の再測量の必要もなく時間とコストを省くことが可能となる。

7.仮応急工事

図化した図面等により、国土交通省、九州旅客鉄道株式会社と協議を行った。その結果、九州旅客鉄道株式会社により、大型土のう及び大型シートを設置するなどの仮応急工事を行うこととなり、被災の翌日には拡大崩壊の防止対策を講じることができた。

8.事前協議

本復旧工事の施工に備え、観測データ(3Dデータ)を基に査定設計書の図面を作成し、さらに、図面を3次元化し、イメージ図として本省と事前協議を行った。その結果、応急工事及び査定事前協議の内容をスムーズに伝達することができた(図-9、図-10)。

9.河川災害復旧工事完了(竣工)

復旧工事延長L=20m、環境保全型ブロック積みA=152㎡を大分県が施工し、その後上部の法枠工を九州旅客鉄道株式会社が施工し、事故もなく無事に竣工した。

10.3Dレーザースキャナーのまとめ

今回の測量により、次のコスト縮減が図られた。
  1. 人件費の削減として、通常の測量では、1週間程度は必要な作業を半日で完了することができ、また作業上不可欠である交通誘導員も必要としなかった。
  2. 今回の測量は、比較的小規模な範囲であったことから費用は割高となったが、規模が広範囲となればコスト縮減は可能となる。
  3. 時間的コスト縮減として、断面図作成がどの方向からでも抽出できることから、追加測量の必要がなく関係機関との協議が必要最低限で行うことができた。また、現地から通信設備により測量データを容易に転送できたため、設計業務の時間が短縮となった。
測量上の課題として、3Dレーザースキャナーでは、河川測量の場合、河川水位、植生高、河床高(礫径)の数値が基本的に取得できない。このため、補助的な測量による数値(座標、基準高)の取得が必要となる。また、ソフト使用時の入出力等については専門業者の指導が必要となる。
3次元化した完成予想図の作成、説明に必要なプレゼンテーション等は非常に有効であるが、現場の施工管理で使用する場合は、改良の必要がある。

11.おわりに

3Dレーザースキャナーを活用することで、立入り困難な被災現場でも、安全で迅速な測量が可能となる。
今後は、災害査定時に従来のような図面や写真を用いたものではなく、パソコンで3次元化した映像を用いた机上査定も可能となるのではないかと考えている。
最後に、災害発生以来、応急工事の対応や2次災害防止に昼夜を問わず取り組んで頂いた九州旅客鉄道株式会社社員の皆様、ご指導ご支援を頂いた国土交通省をはじめ関係機関の皆様方に心より感謝申し上げたい。

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