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地域と大学との協働するまちづくりの実現に向けて
豊福晃弘
1.はじめに

近年、住民やNPO、地方公共団体による町づくりが各地で行われている。その中で大学と地域との地学連携によるまつづくり活動が多く見られるようになった。2005年に内閣官房都市再生本部が全国の自治体に対して行ったアンケート調査「大学と地域との取り組み実態について(2373件のうち1198件が回答)」によると、大学と地方自治体の包括協定は年々増加している(図-1)。また自治体の課題は、「地域と大学の協働」、「産官学の連携」などのキーワードが大半を占めていることが分かる(図-2)。
したがって、これからの地域社会においては、地域と大学による「協働」したまちづくり活動が肝要であると言える。しかし、地域はどのように大学と取り組めばよいのか、しかし、地域づくりにどのように大学を巻き込めばよいのかが不明確に感じている。
そこで、協働したまちづくりを行う際に何が重要であるのかを私なりに考えてみた。

2.大学地域まちづくりネットワークの取り組み
内閣官房都市再生本部は、都市の課題に対して関係省庁・地方公共団体・関係民間主体が参加して取り組む「都市再生プロジェクト」を創設している。このプロジェクトの1つに「大学地域まちづくりネットワーク」がある。これは、地域間相互で情報交換・意見交換をおこなうことにより、各地域の自主的・自発的な取り組みを促進することを目的としている1
活動内容は、参加団体(大学、地方公共団体、NPO等)間での電子メールのやり取り及び実際に集まっての意見交換の実施である。平成17年度に発足し、平成19年6月の時点で374団体が参加している。活動による最大のメリットは、団体が自分たちの活動状況を電子メールにより容易に情報を発信し、多数の参加団体から情報を入手できること、また当本部による経済支援等の協力を受けられることが挙げられる。
地域はこうした全国各地と繋がっているネットワークを有効に活用すべきである。しかし、情報交換やアンケート調査といった「分析」による協働に留まっており、団体間での協働したまちづくり活動には至っていないのが現状である。

3.大分県津久見市千怒地区のまちづくり活動
そこで、実際に地域と大学が協働した大分県津久見市の千怒地区での事例を述べる。
千怒地区では、新設される公園の設計に向けて住民(小学生も含む)、行政、大学の3者によるワークショップ(以下、WS)を半年間にわたり計4回行った(写真-1)。私の所属する大学の研究室がこの公園の景観アドバイザーとして関わっており、私たち学生はファシリテーターとして参加し、グループ内の要望や意見の集約等を図った。
WSでは、大学が専門家として入ることにより、景観配慮すべきポイントに基づいて住民や小学生達から積極的な設計案に対する意見を多く抽出できた(写真-2)。一方で、行政側の経済面・施工面等の意見にも留意し、設計案の合意形成を行った。また学生が加わることで、小学生達にとってのお兄さん的役割を果たしたことや会場準備といった若者のマンパワーがWSの雰囲気を高める場づくりを図っている。加えて、WSでの関わりだけではなく、地元住民や行政の方々と懇親会を催し「まちに対する思い」を直に聞くことができた(写真-3)。このような買いを設けることで、住民らとの意識共有が図られ、「公園づくり」という目標に向けての原動力となったと言えよう。

4.地域と協働するまちづくりに向けた大学の役割
上述した大学地域まちづくりネットワークの活動と私が体験した津久見市における事例をモデルケースとし、これからの協働するまちづくりに向けて私は以下の2つを提案したい。
(1)大学が先導していく地域づくり
まず、私は積極的に大学が先頭に立って地域づくりを支えていくべきだと考えた。
そのためには、大学が実際に現場に入り、地域に信頼される関係を築くことが必要である。前節の津久見市の事例では、半年間という短い期間ではあるが、地域のまちづくりに大学が関わることにより、結果として住民の意見が反映された設計案の作成に至っている。またWSの場だけではなく、別枠として懇親の場を設けることによって住民らとの意識共有を図れた。こうのうに、3者による協働が質の高い公園を造り出せる方向に導き、関係者間のネットワークをより強いものにした。さらに、このつながりが今後地域にとって大学との協働しやすい環境を生み出し、まちづくり活動の継続性という面において重要な仕組みが形成されたと言える。
また、大学は持続可能な地域支援体制を確立していく必要がある。現在、大学は「地域推進センター」等を設置し、教育・研究・医療の成果に基づく様々な事業展開を目指している。しかし、各大学・各学部によって体制にばらつきがある。こうした支援体制が地域に行き届くようにするには、今後は地域と大学を結ぶキーマンの存在が重要ではないだろうか。そこで、大学はNPO団体・企業等に向けた公開講座の実施、あるいは研究成果の発表や専門家らのまちづくりシンポジウムの開催によって地域の核となるキーマンを育成する必要がある。
(2)学生ら(若者)の地域密着型まちづくり
次に、近年学生らによって、実際の地域を対象としたまちづくり設計演習協議や住民らとのWS等が開催され、地域を盛り上げている。つまり、地域づくりの大きな手助けとなるのは、学生による活動やマンパワーではないかと考えた。
そこで、私はまちの既存ストックを活用した「サテライトテナント」を提案したい。これは空き家や商店街、大型店舗の一角を借り、学生がまちの魅力を通りがかる人々に情報発信する場である。
学生がまちの歴史や文化を学び、まちのよさや元気のもととなるモノを再発見していく。路地裏にあるお店の紹介や商店街の陽気なおじさんやおばさんの人柄、あるいは独特の建物や看板など、普段街の人が気付かないようなモノを見つけ、これらをテナントに展示していく。そうすることで道行く人もテナントに点在する展示物に目が行き、ふと立ち寄ってもらえると考える。また、イベントの実施、さらにこのようなテナントを写真にとり雑誌やフリーペーパーに掲載するなど企業とのコラボレーションを行うこともできるだろう。
学生らが地域に密着し活動を進めることは、地域住民らにまちの存在を気付かせ、よりよい地域づくりの「きっかけ」になると考える。加えて、学生にとっても地域への貢献を通じて、より実践的な教育を受けられると感じている。

5.おわりに
景気低迷による都市衰退や人口減少、情報技術の発展に伴うコミュニティーの希薄化など、まちづくりに対する課題は山積みである。しかし、こうした課題を解決できる手段に「大学」の役割が期待できる。先ほど、大学と学生の行動が重要であると述べたが、大学という場所も有効に活用できる。例えば図書館や体育館、大学構内の広場を開放することで地域や住民に開けた場となるだろう。
これまで地域をつくってきたのは行政であり、住民である。しかし、大学を交えた三位一体の「協働」を図ることによって、地域のネットワークが広がり、まちづくりの成果がより効果的に表れるに違いない(図-3)。つまり、各組織内による縦のつながりだけではなく、3者による横のつながりへ発展すべきである。地域に対する大学の役割は大きいと言える。

参考文献

1 杉岡秀紀:大学と地域との地学連携によるまちづくりの一考察、
 同志社政策科学研究9(1),77-96,20070700
2 内閣官房地域活性化統合事務局:都市再生本部HP

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