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竜門ダム試験湛水結果について

国土交通省 竜門ダム工事事務所
 調査設計課 課長
藤 本 幸 司

国土交通省 九州地方整備局
 河川部 河川管理課 係員
(前)国土交通省 竜門ダム工事事務所
 調査設計課 係員
大 島 正 一

1 はじめに
竜門ダムは,九州地方における直轄ダムでは厳木ダム以来約10年ぶりとなる試験湛水を実施した。試験湛水は,1997/3/4に開始し2000/1/18に試験湛水終了と,約3年間の長期にわたり実施された。
本報告は,試験湛水中における貯水位の変動およびダム堤体内に埋設されている計測計器のうち,『河川管理施設構造令』で規定される,ダム安全管理上重要される変形量,漏水量,揚圧力の観測結果から,ダム堤体の安全性の評価を行ったものである。

2 竜門ダムの概要
竜門ダムは,世界一のカルデラ式火山である阿蘇外輪山を水源とし,熊本県北部を東西に貰流して有明海に注ぐ一級河川菊池川の支川迫間川に建設された多目的ダムで,洪水調節,流水の正常な機能の維持,灌漑用水の補給および工業用水の確保をその目的としている。
竜門ダムは,流域面積が26.5㎢と小さいため,菊池川本川からの導水(立門導水路)および下筌ダムからの導水(津江導水路)と全国的にも例が少ない県境を超えた広域的な導水計画となっている。ダム形式は,重力式コンクリートダム(堤高99.5m,堤頂長380m),フィルダム(堤高31.4m,堤頂長240m)の我が国最大級の複合式ダムである。

3 試験湛水中の貯水位変動
試験湛水は,1997/3/4より貯水位の上昇を開始し,1998/3/17に常時満水位(EL.274.5
m),1998/4/29に計画より約1年早くサーチャージ水位に(EL.281.0m)到達した。その後国民体育大会を含むボート競技開催のため,常時満水位を維持し,貯水位の降下は1999/10/1から開始して2000/1/11に最低水位(EL.219.0m)に到達,2000/1/18に試験湛水終了となった。
試験湛水中の貯留は,迫間川の自流と,菊池川本川からの導水(立門導水路)により行った。(図ー5参照)

4 試験湛水中における堤体の安定性の評価
(1)重力ダム部
① 漏水量
漏水量の異常の有無の判定は,貯水位と漏水量との関係から判断できる。正常な状態における漏水量は,貯水位とほぼ直線的関係にあり,漏水量が貯水の変化に対し急激な変化をしないこと,1孔当たりの漏水量が100ℓ/min以下程度であること,また漏水量が少なくても漏水中に濁りが認められないことである。
試験湛水中における重力ダム部全体の漏水量の履歴図を図ー6,継目排水孔のうち相対的に漏水量が多かったJ16~21の漏水量と貯水位の相関図を図ー7に示す。
図に示すように,漏水量は貯水位と追随した変化をしているが,湛水初期において継目排水孔(J21)の漏水量が,他孔に比べ20.25ℓ/min(EL.254.36m時)と高く,貯水位の上昇に伴いさらに増加することが懸念された。
そこで,この漏水の原因を判明し対策を検討するにあたり調査を行った。調査の結果,漏水の原因は基礎岩盤を介した浸透流である可能性が高いと判断し,1997/11~1998/1にかけてJ21付近の基礎岩盤を対象として追加グラウトによる対策を実施し,図に示すように貯水位の上昇に対し漏水量を軽減することができた。
ダム全体の漏水量は,最大漏水量で287.0ℓ/min(1998/4/25 EL.280.86m時)と同規模の他ダムの事例(概ね470ℓ/min)と比較しても少なく,問題となる量ではなかった。また,漏水の濁りも認められず,異常はなかった。

② 変形量
変形量の異常の有無の判定は,貯水位と変形量の関係から判断できる。正常な状態における変形量は,貯水位とほぼ二次の関数形にあり,変形量が貯水位の変化に対し急激な変化をしないこと,基礎岩盤の性状により若干異なるが,他ダムの実績を参考に判断することができる。
試験湛水中における変形量の履歴図を図ー8に示す。
ノーマルプラムラインは,ダム本体の変形量を計測するために重力ダムの本体に設置された計器であり,リバースプラムラインは,ダム基礎岩盤の変形量を計測するために基礎岩盤内に設置された計器である。
図ー8からノーマルプラムラインの変形量は,冬期に下流側,夏期に上流側へ変位しており,外気温の影響を受けていることがわかる。また,変形量は温度の影響を受ける中でも概ね貯水位に追随した挙動を示している。
ノーマルプラムラインの上下流方向の変位量は,-3.7mm~+6.2mmの範囲であり,同規模の他ダムの事例(±7.5mm)と比較して小さめである。また,リバースプラムラインの上下流方向の変位量は,1.4mmであり,同規模の他ダムと事例(2.5mm)と比較して小さい。
従って,変形量に異常はなかったと判断した。

③ 揚圧力
揚圧力の異常の有無は,貯水位と揚圧力の関係から判断できる。正常な状態における揚圧力は,貯水位とほぼ直線的関係にあり,揚圧力が貯水の変化に対し急激な変化をしないこと,設計値との比較を行うことで判断できる。
基礎ドレーンの揚圧力分布図を,基準となる貯水位時毎の図を図ー9,このうち揚圧力が,上流水深の20~50%程度と高い値を示したBL18,19の揚圧力と貯水位の相関図を図ー10に示す。
図から,各孔とも貯水位と高い相関を示している。

重力ダムは,ドレーン位置で上流水深の20%を設計揚圧力して設計されるが,本ダムの場合,実測値が設計条件を上回る箇所があった。そこで,堤体の安定条件(ミドルサードまたはヘニーの安全率4)を満足する揚圧力(以下,許容値と称す)を算出し,実測値と比較して堤体の安全性を評価した。
図ー11は,堤体の安定性を各ブロック毎に評価するため,揚圧力の実測値をブロック毎に平均し,許容値と実測値を比較したものである。図に示すように,常時満水位時では,いずれのブロックも実測値は許容値を上回らないが,サーチャージ水位時では,BL16~19の4ブロックにおいて,実測値が許容値を上回る結果となった。

そこで,許容値を上回ったBL16~19の4ブロックについて,サーチャージ水位時の設計条件で,揚圧力の実測値に対する安定計算を行った。その結果,BL16,17,19で上流端に極微量の引張応力(0.63~8.07t/㎡)を生じるのみであり,定常状態(地震無)では,引張応力が生じないことがわかった。
一方で,揚圧力の測定は図ー12に示すように基礎排水孔のコックを閉めて測定されるため,実際に基礎に作用する揚圧力よりも高い値が測定される。竜門ダムでは,基礎排水孔を全閉状態で測定したデータであることから,最も高い測定値(ドレーン無しの条件に近くなる)であったといえる。
以上のように,揚圧力が一部設計条件のより高い箇所があったが,安定計算の結果特に問題がないこと,揚圧力の測定機構から,測定される揚圧力は,実際の値より高い値であったことから,揚圧力は堤体の安定上問題のある値で無かったと判断した。

(2)フィルダム部
④ 漏水量
フィルダム部の漏水量の異常の有無は,重力ダム部と同様,貯水位との関係から評価できるが,フィルダム部においては,雨水の浸透水が漏水量に大きく影響を与えるため,降雨との関係を考慮して判断する。
試験湛水中におけるフィルダム部の全漏水量の履歴図を図ー13に示す。図から,フィルダム部の全体漏水量は,地山からの漏水がフィルダムの漏水の約10倍とそのほとんどを占めていることがわかる。フィルダムの漏水の多い時期は,履歴図から雨水の影響であるといえ,貯水池の影響自体は小さく,遮水性は良好であったといえる。なお,漏水量は降雨時の最大値でも47.9ℓ/minと重力ダム部と比較してかなり小さいものであった。

⑤ 変形量
フィルダム部の変形量の異常の有無は,重カダム部と同様,貯水位との関係から評価できるが,フィルダム部の場合,堤体のクリープ変形によることが多く,速度変化(経時的な変形量)で判断される。
変形量は,法面および天端に設置された標的を観測する外部変形量と,堤体盛土内に埋設された層別沈下計および堤内変位計により観測される堤内変形により把握できる。
外部標的の履歴図を図ー14に示す。
図から,上下流方向の変形量は,貯水位に追随して下流側に変位し,貯水位下降時の戻りは小さい塑性的な挙動を示していることがわかる。変形量は平均値で常時満水時(1998/3/17)で下流側へ8mm,サーチャージ水位時(1998/4/29)で20mmを示した。沈下量は,時間の経過とともに増加し,最大14mmを観測した。
いずれにしても,サーチャージ水位経験後は,大きな変動はなく,安定しており,問題はないと判断した。
また,内部変形量の測定結果については,ダム盛立時の沈下量が大半であり,試験湛水時は大きな動きはなかった。

⑥ 間隙水圧
間隙水圧の異常の有無は,設計時で仮定した間隙水圧または浸潤線と実測値を比較し,漏水量と合わせて判断される。
間隙水圧計は,コアの遮水性,堤体の安定性,基礎の遮水性の評価を行うため,堤体内および基礎岩盤内に設置されている。
コアの遮水性は,コア内に埋設された間隙水圧計の測定結果から作成した流線網図(図ー15参照)から評価できる。図から,図解法によりコアの透水係数を算出すると,いずれの断面においても透水係数は設計値1×10-5を満足するものであり,遮水性は十分であった。
堤体の安定性は,コア内に埋設された間隙水圧計の測定結果から作成した浸潤線と,管理目標値の浸潤線を比較することで評価できる。設計時の堤体の円弧滑りに対する安全率は,表層の滑りが最小となっているが,常時満水時,サーチャージ水位時のいずれも,実測値と管理目標値には大きな差がなく,浸潤線が滑り円弧の中に入ることはないため,堤体の安定性は問題ないと判断した。
基礎の遮水性については,フィルダムの基礎のASOとマサの境界面に埋設された間隙水圧計の測定結果から評価できる。測定の結果,いずれの断面においても測定値は貯水池水頭よりも小さく,また上下流の差も小さくカーテングラウチングは十分に施工されたと評価でき,基礎の遮水性は十分であった。

5 まとめ
試験湛水中における埋設計器の測定結果から,堤体の安定性を評価した結果をまとめると次の通りである。
(1)重カダム部
① 漏水量は,湛水初期にJ21において多かったため,対策工を行った。その後,漏水量は減少した。ダム全体の漏水量は,貯水位に追随した変動をしており,同規模の他ダムの事例と比較しても少ないことから,問題のない量といえる。
② 変位量は,外気温に追随した変動をしており,同規模の他ダムの事例と比較しても小さいことから,問題のない値といえる。
③ 揚圧力は,一部設計条件のより高い箇所があったが,安定計算の結果特に問題がないこと,揚圧力の測定機構から,測定される揚圧力は,実際の値より高い値であることから,揚圧力は堤体の安定上,問題のある値ではないといえる。
(2)フィルダム部
① 漏水量は,ほとんどが地山からの漏水であり,フィルダム部の漏水量は重カダム部と比較してもかなり少なく,貯水池の影響はほとんどないことから遮水性は良好であったといえる。
② 変位量は,内部変形・外部変形ともサーチャージ水位経験後は安定した挙動を示しており,問題はないといえる。
③ 間隙水圧は小さく,コアの遮水性,堤体の安定性および堤体基礎の安定性に対し,問題となるような値は観測されていない。

以上のように,竜門ダムの試験湛水は,一部ジョイント漏水量に対する対策を行ったものの,堤体の安定性に影響を与えるような結果はなく,試験湛水は無事終了した。

6 おわりに
竜門ダムは,試験湛水の終了に伴い,第一期から第二期へ移行する。第二期は,第一期とは異なりダムの安全性を確認するよりも,ダムの挙動が定常化するまでの状況を把握することが主目的となる。
このような状況において,今後は揚圧力の測定方法を,より実際に近い測定方法(1孔おきの交互閉塞)に変更するとともに,その他の計器(自動計測計器)については,今後のダム安全管理を行う上での資料と残すことを主目的として,1日1回程度の計測頻度に減らし,十分な管理を行う次第である。

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