建設残土の再利用に関する調査結果について
—北部九州圏における再利用の実態調査から―
—北部九州圏における再利用の実態調査から―
建設省九州技術事務所長
猪 須 哲 夫
(前)九州技術事務所 材料試験課
材料試験第二係長
(現)遠賀川工事事務所
河口堰管理支所長
材料試験第二係長
(現)遠賀川工事事務所
河口堰管理支所長
城 戸 勝 廣
1 まえがき
建設事業に伴い発生する土砂(建設残土)の処理は,都市の膨張に伴う周辺空地の減少,環境保全の面からの空地利用規制,海面埋立事業の減少等によりその適正な処理が困難となりつつあるとともに,不法投棄の増加,土砂運搬の騒音・振動の問題,さらには遠距離への運搬・処理に伴う建設事業費の増加等の諸問題を惹起する状況にある。特に首都圏では,昭和40年代後半から残土の処分費が大きな社会問題となった。
このため,建設省では昭和51年度,首都圏を対象に残土の発生,処分の実態を把握した。その後,昭和56年2月には建設事務次官通達「建設残土対策に関する当面の措置方針」が出され,昭和56年度から5箇年間「建設省総合技術開発プロジェクト(総プロ)」が実施され,建設事業への建設廃棄物の利用の可能性に関する研究等が実施された。
さらに,昭和63年9月には「総合的建設残土対策研究会」を発足させ,①残土発生量を極力少なくする(発生量の抑制),②発生した残土は可能な限り利用する(利用の促進),③処分せざるを得ない残土に対して適性な処分地を確保する(処分地の確保),という基本方針に沿って残土処理対策を検討している。一方,首都圏および近畿圏では,公共工事に伴う建設残土の有効利用を図るための調査や情報交換を行っている。
このような状況のなか,今後九州地方においても,総合的な残土処理対策を検討するための事前調査として,昭和63年度より2箇年にわたり残土処理の実態を調査する一方,残土処理システム(案)等について検討したので報告するものである。
2 調査の概要
2.1 昭和63年度調査
福岡・佐賀両県の国関係機関および地方自治体(以下「公的機関」という。)の233(国31,自治体202)機関へ,昭和63年度の土砂の残土処理に関する一般事項(困窮度とその理由,処分地の現状等),残土処理の実績(処理件数,取扱い土砂量,処分先,運搬距離,土質等)についてアンケートを主体に調査し,一部公的機関においてはヒアリング調査も実施した。
2.2 平成元年度調査
昭和63年度の実態調査から北部九州圏においても残土の再利用(有効利用)を図ることは有意義なことであり,また,その検討時期にきているものと推察され,再利用を一歩進めるための基礎調査として,補足調査を実施した。
調査は残土処理の困窮度や実際の運用の便宜を考慮し,図ー1に示す北部九州の9市23町と,福岡県(出先機関を含む)の49公的機関を対象として,残土処理の現況と再利用システムについての意識をアンケートおよびヒアリングにより調査した。この結果を参考として,残土処理システムの基本構想(ハード,ソフト)(案)を検討した。
また,民間建設業者(154社),採石業者(30社)に対しても,残土の実態をアンケート調査により把握した。
3 調査結果と考察
3.1 昭和63年度結果
アンケート集計の結果,明らかとなった残土処理(搬入,搬出)の現況は以下のとおりである。なお,調査対象は1件当たり100m3以下とした。
(1)残土処理に関する一般事項
① 残土処理の困窮度
残土処理に困っている公的機関は,全体の約78%もある(図ー2)。
② 残土処理で困っている理由
困っている理由は「処分地がない」26%,「処分地が遠い」約20%,「処分地の条件が厳しい」約14%などとなっている(図ー3)。
③ 残土処分地の現状
処分地・仮置場などの保有については,回答数236件のうち,59件(約25%)が「持っている」と答えている。
区分は,国機関が17件(約29%),福岡県内28件(約47%),佐賀県内14件(約24%)となっており,国機関(31機関)での処分地の確保が比較的進んでいる。
(2)昭和63年度の実績
① 残土処理の件数
調査全域の搬入・搬出総件数は2,004件であり,約68%が搬出(処分)である(図ー4)。
件数を機関別にみると,国関係機関約15%,福岡県約69%,佐賀県約16%である。
② 取扱い総土砂量
取扱い量は,搬入169万m3,搬出462万m3であり,搬出量が搬入量の約2.7倍である(図ー5)。
③ 土砂の調達・処分先
調達(搬入)先は,調査全域でみると約68%は「購入土」であり,再利用を示す「工事現場から」は約19%にすぎない(図ー6)。
土砂の処分先についても,再利用を示す「工事現場へ」は約19%で,「内陸処分地」へ直接処分するのが約55%である(図ー7)。
処分先を全域でみると,全件数の約63%が「民有地」であり,そのうち約62%が「有償」である。
④ 土砂の運搬距離
運搬距離は,搬入で10km以下が53%を占めるが,国関係,福岡県内自治体で31~40kmが約10%あり,41~50kmから搬入する例も3%あった。
搬出では,全体の約78%が10km以下である。
⑤ 土質
搬出は,「礫まじり土」,「礫質土」,「粘質土」で3分している。
搬入で47%と最も多い「砂質土」は,搬出では約28%を占めており,土質からみても残土の再利用は可能性があるといえる。
3.2 平成元年度調査
3.2.1 アンケートおよびヒアリング調査
アンケートは郵送により行い,回収率は平均で約60%であった。
福岡市からは残土処理対策協議会として回答があり,3公的機関からは複数回答があった。
以下,一般工事に伴う建設残土と,採石に伴う派生材の処理の実態について個別に述べる。
(1)建設残土の処理の実態と再利用の可能性
① 残土処理の困窮度
公的機関の約72%が土砂の搬入・搬出に困っており,昨年度の78%とほぼ同様となった。
民間建設業者では「非常に困っている」55%,「困る場合もある」35%であり,公・民間に若干の意識の違いはあるものの,おおむね処理に困っている。さらに,公的機関の63%が「土砂の処分」に困っており(図ー8),その理由は「処分地がない」が最も多く約58%である(図ー9)。
② 残土の再利用の必要性と緊急性
建設残土の有効利用に関しては,公的機関の94%民間業者の90%が必要であるとしており,なかでも「今すぐ検討すべき」という意見が公的機関で44%,民間業者では46%となっている。
この結果でみるかぎり,再利用への要望や意識はあるものの,まだそれほど緊迫感がないという見方もできる。
③ 取扱い土砂の搬入・搬出量の比較
建設工事に伴う土砂の取扱い量の比は,その一部ではあるが,搬出量が搬入量の約3.7倍(昨年度2.7倍)である。
④ 建設業者の残土処理上の問題点
業者の69%が「設計通りの残土処理が出来なくて困っている」と回答しており,さらに,「土砂の処分に困っており,工事受注の障害になっている」が21%も存在する。
⑤ 情報システムの必要性
残土再利用のための情報システムの必要性については,公的機関33%,建設業者では77%が「ぜひ必要であり協力したい」と回答しており民間からの実施の要望が高い。
⑥ ヒアリング調査
ヒアリング調査結果を要約すると,特に,福岡市やその近郊の市町村が土砂の処分(搬出)に困っており,何らかの対策が必要と考えている。
福岡市は,既に市独自で「残土処理対策協議会」を設け検討している。
以上の結果から,公的機関,民間業者ともに建設残土の再利用についての意識は高く,緊迫感には若干欠けるものの,運営の仕方によっては,十分再利用の可能性はあると判断される。
(2) 採石に伴う派生材(残土など)の再利用の可能性
① 採石に伴う派生材
明確な定義はないが,概ね200~400mm大の礫を含む「表土(またはズリ)」と,径5mm以下の「石粉」に大別される。前者は「埋め立て・造成用土」として,後者は「砂(砕砂)」として道路工事等で利用されている。
② 残土の発生量と土質
福岡都市圏での14社(1社回答なし)の実績は,約100万m3,1事業所当たり約7.7万m3である。平成元年度は約120万m3程度が発生する見込みである。土質別にみると,「礫混じり粘質土」60万m3,「礫質土」26万m3,「石粉(ダスト)」5万m3,等が主なものである。
③ 残土の処分現況(再利用の実績)
「工事現場へ有償」約39%,「民間業者へ有償」約36%等であり,有償で流用されていることが多い。
しかし,約50%の業者が「処分に困っている」としており,「時々困ることもある」を含めると全体の約70%が処分に困っている。
困っている理由は,「処分地がない」,「処分費が高い」が共に約33%等であり(図ー10),
逆に困っていない業者の理由は「ストックヤードがある」というのが50%を占め,再利用がうまくいっているという理由からではない。
④ 残土の再利用について
再利用についての意見は,「有償・無償に関係なく,積極的に利用すべき」,「処分に困っており,有償で再利用すべき」,「自社で十分処理できるため,必要ない」がいずれも22%で意見が分かれた。
しかし,「必要ない」は少数意見であり,再利用は必要であると考えられる。
⑤ 再利用の情報システムについて
情報システムについては,「積極的に実施する必要があり,協力する」が60%,「条件により,協力してもよい」が40%であり,「必要ない」という意見はない。
以上のことから,再利用の方法(有償か無償かなど)や,各社の事情(ストックヤードの有無など)で若干の意見の相違や緊迫感の違いはあるものの,再利用に対する意識は高いものがある。
また,一般の建設残土と異なり,現在,再利用は比較的進んでいる。これは,土質が良好であることによるものと推察される。
(3)残土再利用のための情報システムヘの要望
① 情報システムの必要性
公的機関は「ぜひ必要であり,協力したい」が33%しかなく,「条件により協力」が67%となっているのに対し,民間業者は「ぜひ必要,協力する」が77%と,民間業社の方が必要性に対する緊迫感が強い。これは,公的機関が業者依存が強く,運営形態に行政的配慮が働いたためと推察される。一方,採石業者は60%が「積極的に実施すべきで,協力する」としている。いずれも,総括的には必要性を感じている。
② 情報システムの望ましい形態
公的機関,採石業者とも「建設省等行政機関が主体となった運営」に最も要望が高く,次いで「特にこだわらない」となっている。
③ 情報の内容
特に必要,または重要視する情報の内容は,公的機関では,㋐土質(25%),㋑有償か無償か(23%),㋒土量(19%)となっており,特に要望の高いものはないが,ヒアリングでも,土質,すなわち,安心して使える材料であるか否かが重要であるとの意見が聞かれた。
④ 運用の範囲
半径10km以内での運用が最も多く,全体の53%を占める。比較的近距離での運用が望まれている。
⑤ 情報の提供システム公的機関からの要望は
ⅰ データの提供は無料(圧倒的多数)
ⅱ 提供システムは,文書(41%),パソコン通信(27%),専用システム(20%)等
ⅲ 提供頻度は,月1回(41%),常時(35%),週1回(22%)等
すなわち,アンケート調査で望ましいとされた建設残土の再利用のための情報システムは,「建設省等行政機関が中心となった運営で,運用する範囲は半径10km以下,月に1回,文書により,無料で提供」ということになる。
3.2.2 建設残土の再利用のための情報システムの検討
(1)情報システムの基本方針
運用形態は,基本的には,建設省,財団法人,協議会(検討会)等を中心として,まず公的機関を対象としたものとし,その後,民間業者も考慮するといった運営形態が望ましい(図ー11)。
また,現在,公的機関には流用できるような汎用性のある通信システムはなく,独自のシステム開発が必要である。
運用範囲は,特に残土の処分に困っている福岡都市圏を中心とした地域を対象に実施し,様子をみて適宜拡大することが提案される。
(2)ハードの基本構想(案)
基本的には次の4種が提案されるが,いずれのシステムでも運用の主体となる「事務局」が必要となる。
ⅰ 郵送文書による情報システム
ⅱ ファクシミリによる情報システム
ⅲ パソコン通信による情報システム
ⅳ 専用回線によるパソコンネットワーク
これらの特徴などは省略するが,決定条件は情報提供の頻度および情報の質である。アンケート等の要望,各地の実施例等からは,まずⅰのような単純なシステムでスタートし,逐次レベルアップすることが考えられる。
(3)ソフトの基本構想(案)
アンケート等や,首都圏,近畿圏での実施例から,情報内容として次のものが提案される。
・連番 ・工事担当者 ・工事種別 ・工事場所 ・土工時期 ・処分先 ・土質
・土砂量 ・時間制限 ・道路制限 ・搬出土砂(m3/d) ・仮置場 ・料金
・次年度以降の予定
・土砂量 ・時間制限 ・道路制限 ・搬出土砂(m3/d) ・仮置場 ・料金
・次年度以降の予定
情報の提供頻度によるが,パソコン通信を利用する場合,最も重要な情報となる土質・土工時期で検索可能なソフトとすれば便利である。
4 運営上の問題点とその対策
建設残土の再利用を具体的に実施していく場合の問題点等は,①運営組織,②情報システムの形態,③有償か無償か(料金)の問題,④土質情報の精度向上などがあるが,①,②については,情報システムの基本方針で提案したことで解決され,③については,当初(工事発注者)から残土の再利用を計画する必要があり,公的機関での早期の調整が必要不可決である。④については,再利用者が安心して利用できるような土質区分や,表示方法の基準を提示する必要があるが,この点については,各種土質材料の基準とその適用性の判定基準が建設省において検討されている。
5 あとがき
今回検討した残土情報システムは,残土問題の解決のためには重要な項目の一つではあるが,総合的に解決する方向としては図ー12のようにまとめられる。
北部九州における残土処理の現状を把握するため,アンケートおよびヒアリング調査を実施し,大まかな実態と公的機関等の対応が把握できた。
ちなみに,昭和63年度の例でいえば,搬出量が搬入量の約2.7倍(平成元年度は約3.9倍)という結果であった。ただし,この土量は1公的機関当たりの件数(取扱い土量含む)を制限し算出したこと,および福岡・佐賀両県内の公的機関の全体を把握していないことなどから,当該調査地域の総量ではないことに注意を要する。
一方,再利用は搬入量の約20%程度にとどまっており,土質条件などからみて建設工事での残土の再利用は十分可能性があるものと考えられる。
今後の方針としては,関係公的機関と既に稼動している「福岡市」とが連絡調整し,「福岡都市圏」での「残土対策協議会」等の設置が望まれ,残土問題の総合的な施策について検討の実施が期待できるものと考えられる。
本調査にあたり,御協力いただいた公的機関,建設業,採石業の方々に心から御礼申し上げます。
参考文献
1)建設省:建設省総合技術開発プロジェクト
建設事業への廃棄物利用技術の開発 概要報告書 昭和61年11月
建設事業への廃棄物利用技術の開発 概要報告書 昭和61年11月
2)奥平:総合的残土対策研究会の中間報告について 月刊建設 1989年10月号
3)西畑:残土再利用のための情報システムとプラントストックヤードについて 月刊建設 1989年10月号
4)建設残土対策近畿地方連絡協議会:昭和63年度 公共工事土量調査リスト