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名島橋(RCアーチ橋)の補修経過報告

国土交通省 九州地方整備局
 延岡河川国道事務所 調査第二課長
(前 国土交通省 九州地方整備局
 福岡国道事務所 管理第二課長)
新 保 二 郎

1 はじめに
名島橋は、福岡市東区の多々良川に架かる全長204.1m、全幅24.0mの御影石に覆われた7連鉄筋コンクリートアーチ橋で、昭和8年3月に完成し現在74年を経過している。
この名島橋は、北九州市から鹿児島市に至る九州の大動脈である国道3号の一部であり、特に、北部九州地域と福岡都心部を結ぶ1日に約6万台の交通を支える道路橋として、産業・経済・文化の発展に大きな役割を果たすとともに、福岡の東玄関を飾るシンボルである。

図-1名島橋位置図

今回、アーチ下面で塩害による剥離やうきが多数発見されたことから、景観に配慮しライフサイクルコストも考慮した補修に関する検討及び補修工事の概要を紹介する。

2 名島橋の概要
構造は耐震性に優れたアーチ式で、おおらかな7連のアーチを描き、白く輝く御影石に覆われており、美しいデザインと当時の架橋技術の粋を集めた、非常に進んだ橋といえる。
また、全長204.1m、全幅24.0mと、架橋当時では破格ともいえる規模であり、自動車時代の幕開け期に、なぜ現在でも通用する規模の橋が架けられたのか、そこにはさまざまな謎が秘められているようでいろいろな説があるが未だに明らかになっていない。

写真-1 現在の名島橋

写真-2 架橋当時の名島橋

図-2 名島橋平面、側面図

3 損傷状況
7連アーチのうち5連において、広範囲にひびわれ、うき、剥離、鉄筋露出などの損傷が発生し、耐久性、耐荷力の低下が懸念されたため、コンクリート品質試験の詳細調査を実施した。

写真-3 アーチ下面の剥離・鉄筋露出

写真-4 アーチ下面の剥離・鉄筋露出

その結果、鉄筋位置での塩化物含有量は鉄筋の発錆限界量(1.2kg/m3)を上回っていた。アーチリブの損傷は塩害に因るもので、かつ、この塩害による損傷は「加速期」に位置し、これから増大することが予測された。
コンクリート品質試験は以下の通り。
① 中性化試験  ② 反発硬度試験  ③ 含有塩分量試験  ④ 一軸圧縮試験

図-3 塩害による劣化進行過程
出典「コンクリート標準示方書 維持管理編2001年土木学会」

4 対策検討
① 塩害対策
鉄筋にとって有害とされる1.2kg/m3を超えるコンクリートの深さは120㎜に達している箇所があったため、電気防食案、物理的脱塩工法として下面のはつりおよびポリマーセメントモルタルにおける断面修復案(付加鉄筋案、付加CFRPグリッド筋案)、高強度繊維コンクリートプレキャストパネル貼付工法について検討を行った。
結果として付着性が極めて高く、再劣化の可能性が無いCFRPグリッド筋を付加させた下面断面修復工法を採用した。(図-4参照)

図-4 アーチリブ補修断面図

CFRPとは樹脂を含浸させた炭素繊維で、隣接する炭素繊維を樹脂により結合し完全硬化した状態のものである。
名島橋は土木遺産としての評価も高いため、仕上がりが目立たないことも採用の一因となった。
また、ライフサイクルコストについても検討を行い、初期工事費が安価と思われた電気防食工法であったが、40年後にはトータルコストで安価となる本工法を採用した。(図-4参照)

② 耐震性能照査
上部工のB活荷重における照査は、基準を満足することは既往の照査で確認していたが、耐震性評価はそのモデル作成において留意点が多かったため、九州大学の大塚教授に解析手法について御助言を戴き設計を行った。
特筆すべき点は以下の通りである。
1) 動的解析は軸力変動を考慮し、併せて材料非線形と幾何学非線形の両方を考慮した複合非線形解析モデルとすることで部材の損傷を表現できるモデルを採用した。
2) コンクリートの圧縮強度は復元設計より実測値が大きく上回っているため、安全に考慮しても期待できる30N/㎜2を用いた。
3) 既存資料を基にケーソン基礎と橋脚の連結部耐力を考慮したモデルを作成し、基礎と橋脚の地震時応答を的確に表現できる解析手法を用いた。結果としてアーチリブの曲げ、せん断、軸力の照査、橋脚の曲げ、せん断の照査について基準を満足したため、主部材については塩害対策としての補修工事が主対策となった。図-5に動的解析モデル図を示す。

図-5 動的解析モデル図

5 補修工事
① 施工環境
架橋位置は河川区域であるが博多湾の河口付近に位置し感潮区間であるため台船による施工とし、潮の干満による安全性確保や、下流側では藻の試験施工も実施中のため水質管理の徹底も必要であった。
さらに、近隣は住宅地であり住宅団地もあることから、十分な騒音対策も行った。

写真-5、6 施工状況

② 施工状況
1)はつり量の決定
施工に先立ち、14本のコアを採取し詳細な塩化物イオン濃度を詳細に調査した結果、塩化物イオン濃度の深さにばらつきがあったため、アーチ下面を15ロットに分割し、有害とされる塩化物イオン濃度1.2kg/m3を目安としはつり量を40㎜、80㎜、120㎜の3段階に設定した。

図-6 はつり量

2)その他の事前調査状況
圧縮強度試験では、強度が2倍のばらつきがあり、実際にはつりムラが発生した。
中性化試験では、ほとんど中性化が進行していない状況であった。
3)はつり作業
はつり作業は、施工性、騒音を考慮しウォータージェットによるはつりを採用した。
作業使用した水はすべて台船上で回収し、浮遊物除去、中性化処理したものを放流することとし、常時水質管理を行った。
はつり作業後の鉄筋状況を確認したが、特段大きな損傷は見受けられず、当時の施工の良さが伺えた。

写真-7 WJはつり状況

写真-8 WJはつり状況

4) ポリマーモルタル吹付
はつり作業後、CFRPグリッド筋を配置し、河川への十分な飛散防止対策のうえ、ポリマーモルタル吹付による施工を行った。施工後でも景観は全く変わらない良好な状況である。

写真-9 吹付作業状況

写真-10 施工完了状況

6 おわりに
名島橋は、土木遺産に登録された貴重な構造物であるとともに、この橋をきっかけに地元名島校区の方々による国道3号のゴミ拾いや草花のプランター設置などの美化運動を行うボランティア・サポート・プログラムを締結し、地域の方々からも親しまれている存在である。

写真-11 ボランティア状況

写真-12 建設当時の状況

橋梁の長寿命化が求められる今日、この名島橋を未来にわたり健全な状態を保ち続けることで、地域のシンボルであり続けることを願う。

最後に、耐震・補修検討を行うにあたり熱心にご指導頂いた九州大学大塚教授に敬意を表すとともに、検討・施工を担当した中央コンサル㈱、オリエンタル白石㈱に謝意を表す次第である。

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