九州技報 第7号 巻頭言
㈳建設コンサルタンツ協会九州支部
支部長
支部長
青 木 謙 三
先般4月16日の新聞の第一面に地球温暖化を防止するには,その原因となる二酸化炭素(CO2)などのガスの大気中の量を安定化するため排出量を50~80%も大幅削減する必要があるという記事が載った。「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の報告にもとづくものだが,火力発電所や自動車など世界でも温暖化ガス排出量の多い米国,日本などは,結果としてはエネルギー供給が落ち込み経済成長が大きい影響を受ける立場にあり,米国はこれでは発展途上国の支援もままならぬと主張し環境保全を優先するオランダ,オーストリアなど欧州勢とはげしく対立する形となっている。これほどまでには地球全体のことに関心はなかったというのが大方の人のいつわらざる気持だと思うが,地球全体の今後の経済成長をしばり上げる規制が21世紀に向け急がれるとすれば,究極の限界値を真の姿に早くまとめるべきではないだろうか。環境という言葉が毎日の新聞テレビなどに一日として出て来ない日がないだけに世の中の移り変りのはげしさに驚くほかない。
視点を変えて今後の建設にかかわる開発の問題はどんな展望になるのだろうか。公共事業による社会資本の整備といった開発は,道路網の整備や下水道の完備などといった形で不断の努力がなされているが,時代を先取りした分野での開発機運も見のがせない。建設省で大臣の私的諮問機関として「ニューフロンティア懇談会」が設置され,宇宙,海洋および地中の各分野での新たな展開が図られ,昭和63年2月「ニューフロンティア開発の展望」なる出版物が建設大臣官房技術調査室の御監修で刊行されている。宇宙,地中のことはさておき,海洋の分野ともなるとわが国の経済水域(200海里水域)面積は陸地面積に対して11.9で,世界第一級の面積であり米国0.8,イギリス3.9に比較してもその大きさがわかる。
いま福岡市はウォーターフロント都市というふれこみで大いに意気上っており,海の中道海浜公園,アジア太平洋博の跡地利用を含めたウォーターフロントの構想は21世紀をめざした海を活かした街づくりの創造につながるもので素晴しい。一方福岡市は別としても国内外には環境破懐,偽りの海浜造りという見方もあり,環境と生態学を重んずる学者や思想家などには快適さ,アメニティの追求が逆に非難されるケースがあることは否めない。古来自然環境そのままのものはなく,時代の進歩と共に開発され現在の住地はあるいは昔の海であったかも知れない。人間の知恵と感性,その時代の思想や遊び心を織り込みながら機能的な面も備えて造られてゆくものには,たとえ環境問題がつよく叫ばれても許される面はないだろうか。要はその間のバランス感覚が最も尊ばれることだろうし,地球温暖化などの問題を世界18ケ国から集まって4月17,18日ワシントンで行われたホワイトハウス会議などはそれなりに互いに批判と許容のはざまで進められたことだろう。環境の問題には,これまで経済成長に追われて今一つ後追い又議参加の感のあるわれわれ日本人には,90年代のこれから10年が地球温暖化のような大きい問題といわず種々開発の分野でも正念場になるかも知れない。