環境共生住宅「ハーモニー団地」
-自然と共にある暮らし-
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鹿児島県 土木部 建築課住宅政策室
建築技師
建築技師
道 岡 弥々日
1 はじめに
21世紀を迎えた私たちは、物質的に豊かな生活を送れるようになった一方で、エネルギー問題と関連する地球温暖化防止、資源循環と関連する廃棄物の削減・再使用・リサイクル化、化学物質による人体や環境への影響等、地球環境から身の回りの環境まで、様々な環境問題に直面している。
近年、住まいやまちづくりの分野でも、こうした環境問題の存在が明らかになり、私たちの日常生活と深く関係していることから、その解決に向けた取り組みが強く求められている。『環境共生住宅』はこのような課題に総合的に応える目的で、国において産官学共同の研究開発として1990年に着手され、以来多くの知見や実例をもとに普及のための活動が進められてきた。その目指すものは、住まい・まちづくりを通して地域に即した「地域環境の保全」、「周辺環境との親和」、「居住環境の健康・快適性」と言う目的に資する住まいと地域環境を実現することに他ならない。本県においては、省資源、リサイクルの推進、地域資源の活用等による環境への負荷を軽減するとともに、シックハウス問題等にも配慮した環境共生住宅建設の普及、促進を図ることを目的とし、公営住宅において、市町村と共同で、モデル団地の整備を行ったところである。ここでは、その1つ「ハーモニー団地(南さつま市)」を紹介したい。
2 ハーモニー団地(南さつま市)
【計画概要】
計画地は、薩摩半島南部の南さつま市街地外縁部にある県住宅供給公社が開発した住宅地に位置する。
敷地は北側の市街地越しに東シナ海を臨む高台にある造成地で、三方を小高い山で囲まれた、平静な環境にある。
造成前の緑あふれる自然を復元することを心がけ、季節風を含めて、自然エネルギーを極力生かすような街づくりを計画した。団地の中央には、雨水、太陽光発電を利用したせせらぎが流れ、団地入口には、太陽光と風力を利用した外灯を設置し、屋上を緑化した木造の住棟とともに環境共生住宅のシンボルとなることを目指した。
【団地概要】
所在地 :南さつま市加世田ハーモニー
構造階数:木造2階建
建設戸数:県営75戸 市営75戸 計150戸
建設年度:平成13年度~20年度(予定)
県営住宅については平成13年度~17年度に建設済み。市営住宅については現在45戸完成しており、今後残りの30戸を建設する予定である。
【配置計画】
ハーモニー団地では、水・緑・風の豊かな環境共生のまちとして、住戸のみならず団地全体を緑と自然のエネルギーを利用した配置とし、次のような計画とした。
◇住棟計画
・夏季の通風と冬季の防風及び最大限の日射取得を考慮した南面並行配置を採用することにより、エネルギー消費の軽減を図る。
・住棟間に村落的なイメージで親しみのある歩行者専用の路地空間を確保する。
・団地内車道は、歩車が共存するボンエルフを採用、敷地全体において、快適かつ安全な歩行者空間を確保する。
・住戸の南側に専用庭を設け、住棟間には落葉樹を植える等、緑に囲まれた設計とし、夏季の日照遮断や照り返し防止を図る。
◇集会所
・雨水利用の池に囲まれた集会所は、団地の顔として玄関部分に配置し、コミュニティーの中心として機能する。また、池には夏の蒸散冷却効果を期待している。
◇中央緑道
・夏季の卓越風に沿ってせせらぎ・緑道を配置し、涼風をもたらす。
・雨水を再利用したせせらぎはクールスポットを形成し心地よい涼感をもたらす。また、雨水の循環には太陽光発電を利用する。
・ハイブリッド型発電システム(風力発電+太陽光発電)を利用した外灯を設置し、風力・太陽エネルギーを利用する。
・中央緑道とせせらぎの間には、遊具が置かれた児童遊園や竹林等を設置し、住民のふれあい・憩いの場の形成を図る
◇舗装
・団地内の通路には、循環型社会を意識し、産業廃棄物再生レンガブロックを使用している。
・透水性舗装、緑化ブロックの駐車場など、雨水の地下浸透の促進を図る。
◇植栽
・建物の屋上緑化を施して屋根面の遮熱性能を向上させ、躯体部の蓄熱量を減少させることにより、室内側への熱負荷を軽減する。
・人々の生活にうるおいや安らぎを与え、緑陰により局部的に涼しい場所をつくり建物への日射取得を軽減する。植栽した樹木によって風の流れを変え、夏の涼風を通路等に呼び込む。
・北側に常緑樹を植栽し、冬季の卓越風(北北西)の風力を減衰する。
屋上緑化仕様:ALC板(t=50)
下地・アスファルト防水(冷熱工法、植栽仕様)の上
耐根シート・保水層+軽量土壌の上 野芝張り安生
【住戸計画】
住戸計画では、地域の気候風土や伝統的な町並等を考慮し、次のように計画した。
・各住戸の南側に大きな開口部と庇を設け、冬の日射取得と夏の遮熟を行う。開口部ガラスは複層ガラスを用い、冷暖房負荷の低減を図る。
・住棟各所のピロティ空間は、この地方特有の強い風雨から守られた半屋外空間の確保を意図し、自転車置場や物干し場、屋外作業スペースとなるとともに、住民のふれあいの場として利用できる。
・住宅の使用は長寿命化を意識し、配管配線等は基礎に埋め込まず将来的な改修に対応している。
・室内の仕上げは県産の無垢材のほか、シックハウス対策としてホルムアルデヒド等の有害物質を含まない建材を使用している。
・専用庭を囲む木フレームは専用庭部分を明確化し、住民自身による庭作りを促進させる。アサガオやブーゲンビリアなどツタ性植物を植えることができ、緑に囲まれた生活を促進する。
3 おわりに
環境共生住宅の建設を進めてきたところだが、環境共生を体感し、実践していくのは入居者の方々となる。建物や住環境(ハード面)を整備しただけでは環境配慮の重要性を入居者に伝えることが難しいため、パンフレット・しおり等を配布して、環境に配慮した住まい方など環境共生の取り組みに対する適切な参加や心構えをお願いしているところである。
太陽の光や風の力、せせらぎやあふれる緑等、自然を感じながらの暮らしは、日々の生活をより豊かにしてくれる。また、これらの環境共生住宅の整備を通じて、入居者をはじめ、多くの方に環境の重要性の認識がますます深くなることを願っている。