昭和38年(1963)10月29日、大阪市生まれ。中学1年生のときに長崎に転居。長崎北高校を経て、長崎大学・教育学部に入学。卒業後小学校教諭となり、今年18年目を迎える。川平小学校には3年前に赴任。現在、4年生を担任し、ビオトープをメインとした校内の研究主任もしている。
取材・文/西島 京子
長崎市は九州の西端にある長崎県の南部にあり、市内には長崎港に注ぐ中島川と浦上川、東部地区を流れる八郎川の3つの川が流れている。
川平小学校は長崎市の東北部に位置する川平町にあり、その校区は山々に囲まれ、市内とは思えないほど自然が豊かに残されている。さらに学校のすぐ裏には、浦上川の上流部がある。
今年の2月16日に完成した「川平小 学校ビオトープ」、愛称「川平っ子ビオビオワールド」は、浦上川の自然の水を、既存の用水路と塩化ビニルパイプを使って取り入れており、浦上川の取水口からビオトープの給水口までの総延長は約270mある。さらに、ビオトープを流れた水は再び元の浦上川に戻るという仕組みだ。
●ビオトープ学習
●第1回ビオトープ集会
学校ビオトープの活動計画と実施を中心に担当してきた川平小学校の朝長先生は「ビオトープは教師だけでなく、地域の方々の協力を必要としたので、私1人がお話するのは大変おこがましいこと」と話す。
「ビオトープとは、簡単に言うと『生き物が生活している空間』のことです」
ドイツ語でBIOTOP、英語でBIOTOPEというスペルで、生命を意味するBIOと場所を意味するTOPの合成語だ。現在では「自然の生態系」とほとんど同義語で使われており、ホタルやメダカ、トンボなどの具体的な生き物をイメージしたときに、それらの生物が生息している環境を示す言葉でもある。
最近では多くの小学校にビオトープが作られているが、そのスケールはそれぞれに違い、防水性のビニールで池を作って、周辺の生物を自然飼育し観察するというスタイルが多いようだ。
●ビオトープ学習
●学校周辺の環境調査
●浦上川クリーン作戦
「川平小学校では、数年前から周辺の生態系の観察や学習に取り組んできており、玄関でカワムシやヨシノボリをはじめとする川の生物を子ども達は飼育してきました。そこで、もっと毎日生き物に触れて観察したいという気持ちが高まってきたのです。私たち教師も、もっと自然に触れ合えないかなということを考え始めていました」
そんな時「ビオトープ」に出合い、職員会議を開いた。そして、ビオトープを作る過程でも、できた後でも子どもたちが学習でき、ビオトープを育てていくことができると考え、一昨年度から取り組み、昨年度から実際に活動し始めた。
この決断には、防災上の視点から進められた浦上川の護岸工事により、自然の生き物が減少しているということも背景にあった。
●全校と地域ボランティアが汗を流したビオトープ作業
「最初はできるのかなと不安でした が、どうせ作るなら本物の自然環境を作りたいと思ったのです」
学校ビオトープづくりへは、3年以上は総合学習で、1、2年は生活科でと全学年80名で取り組んだ。昨年の4月には全校で「ペンギン水族館」のビオトープを見学した。「子ども達は、『人間が作ったものだけど、生き物がすみやすいようにしてあるなあ』という感想を持ったようです」
5月にはグループや学級でビオトープの小さな模型を作り、第1回ビオトープ集会で発表された。
第2回のビオトープ集会では「低学年からは『アメンボや魚は捕まえてくるのですか』という質問があり、6年生が『アメンボは勝手に飛んできますよ』と答えたりして、たくさんの意見を交換することができました」と朝長先生は目を細める。
「この集会の時に、専門家の方から『いろんな生物が生息できるようにいろんな環境を作った方がよい』という助言をいただき、5、6年生が再度ビオトープ案を作りました」
6月11日にはくわ入れ式を行い、その後、具体的なビオトープ作業に入る。「昔ながらの川を再現するため、水がしみ込まないように粘土質の土を叩く作業を繰り返し、石と土とのすき間をふさぐために、お年寄りの知恵をお借りして、赤土に少しセメントを混ぜて団子にして詰めました。地域ボランティア作業では、地域の方々や各自治体の方が出てくださって、大きなクレーン車2台で大きな石を運んだり、水を引き込む作業もしました」
大がかりな地域ボランティア作業は、6月から10月までに4回行われた。子ども達も夏休み中に作業をして、7月30日には学校および学校周辺の環境調査と昆虫標本、植物標本づくりを行った。そこで、水の取り入れ付近の浦上川に人工的に作り出されたヒメダカと在米種のクロメダカがいることも発見した。9月2日には通水式を行い、25日に6年生が育てていたヨシノボリやカワムツなどを放流する。
●通水式
●放流会
●全員の協力のもとに「川平っ子ビオビオワールド」が完成
「学校ビオトープづくりから、子ども達も教師もいろいろなことを学びました。川が汚れていると、ビオトープ内に泡が立ったりしますから、浦上川クリーン作戦をしたり、山から木を選んで植栽をしたり。子ども達は『僕達が作った』とビオトープづくりを喜び、自慢に思っているんですよ」
今年の5月、学校ビオトープでホタルが2匹発見された。「子ども達と昨年の6月に浦上川中流の犬継で種ホタルを採集し、卵を生ませ、孵化させました。その幼虫を9月中旬まで世話し、放流しました。そのときのホタルなのか別の所から来たのか、それはわかりませんが、一番の夢がホタルが飛び交うビオトープづくりだったので、夢がかなったねと子ども達と喜び合いました」
朝長先生と子ども達を感動させ続けた学校ビオトープには、取材の日もおだやかに浦上川の水が流れ続けていた。何とも贅沢な自然の庭だ。
「これからは、学校ビオトープを出発点とし、地域の良さを生かした環境教育を進めていきます」と朝長先生は胸を張った。
●通水式
●放流会