7.19福岡豪雨災害被害状況及び総合防災対策について
福岡県 土木部河川課長
小 田 修 一
1 はじめに
2003(平成15)年7月18日夕方から19日朝にかけて,福岡県では九州北部に停滞した梅雨前線の活発化に伴い,記録的な豪雨になった。特に太宰府では1時間雨量と日雨量が,飯塚では1時間雨量が観測開始以来1位の記録となり,主に福岡地区の御笠川・宇美川,北九州・筑豊地区では遠賀川流域の河川が氾濫し,甚大な浸水被害が発生した。また,各地で土石流が発生し,太宰府市で土砂崩れにより,不幸にも1名の方が犠牲になった。
御笠川は,1999(平成11)年,遠賀川は1999(平成11)年と2001(平成13)年にも被災しており,国,県及び関連市町で連携し,河川事業及び下水道事業を進めていた途上の災害であった。
ここでは,今回7.19豪雨での気象・降雨状況,被害状況対策及び,今後の課題について整理する。
2 気象・降雨状況
福岡管区気象台によると,梅雨前線は18日夜から19日未明にかけ九州北部地方に停滞,南から暖かく湿った空気が流れ込み,前線の活動が活発化した。(図ー1参照)
18日午後,発達した雷雲が福岡県上空へ次々と流れ込み,局地的に雷を伴った激しい雨となった。その後も雷雲は福岡県上空に停滞,さらに発達して19日2時頃から各地で猛烈な雨となった。その後3時には.北九州市小倉南区頂吉で時間雨量73mm,飯塚で1937(昭和12)年以来観測史上最大となる時間雨量83mmを記録。さらに5時には,太宰府で1979(昭和49)年の観測開始以来最大の時間雨量99mmを記録した。その後も雨は降り続け,18日の降り始めから19日の9時までの総雨量は,頂吉で306mm,飯塚で329mm,太宰府で361mmと記録的な大雨となった。
今回の雨の特徴としては,狭い範囲で猛烈な雨が長時間降り続けたことがあげられる。総雨量が300mmを超える範囲は,太宰府市から北九州市小倉南区にかけての帯状の非常に狭い範囲に集中していた。(図ー2参照)また太宰府市では,日雨量が観測開始以来1位を記録したとともに,19日1時から6時までの5時間で312mmもの雨が降り,これは太宰府市の7月の月降水量(平年値322.3mm)に匹敵する雨量だった。
3 被害状況
福岡県での被害状況は,今回の雨が北部に集中していたことから,主に福岡地区と北九州・筑豊地区で被害を受けた。
福岡地区では,御笠川・宇美川流域で河川が氾濫し、福岡市,太宰府市など福岡都市圏において浸水被害が相次いだ。特に福岡市中心部のJR博多駅周辺ではビルや地下施設が浸水し,平成11年に続いて都市型の浸水被害を受けた。
北九州・筑豊地区では,遠賀川流城の河川が氾濫し,飯塚市を中心に浸水被害が相次いだ。この地区では,全国的に有名になった嘉穂劇場も浸水被害を受けている。
各地域ごとの被災状況を次のようにまとめた。
(1)福岡地区
① 御笠川流域
御笠川流域では18日夕方から豪雨になり,特に19日明け方には,太宰府で記録的豪雨となり,山王橋水位観測所において19日6時に危険水位を1m以上超えるピーク水位を観測した。河川の流量は平成11年の豪雨を超え,御笠川や支川の鷺田川,高尾川が氾濫し各地で浸水被害が発生した。福岡市では,JR博多駅周辺でビル,道路及び地下施設が浸水し,地下街や地下鉄の一部機能が麻痺するなど,都市型の被害を受けた。
・浸水面積 約400ha
・浸水戸数 約4,200戸
(福岡県河川課調べ:H15年9月時点)
(福岡県河川課調べ:H15年9月時点)
② 宇美川流域
宇美川流域では,御笠川流域同様18日夕方から19日明け方に豪雨があり,河川の流量が増大し,片峰新橋水位観測所で19日6時に危険水位をはるかに超えるピーク水位となった。今回は太宰府を中心とした上流域の雨量が多かったため,仲山川合流部となる上流域の宇美町と,井野川との合流点下流の中流域になる志免町において,河川氾濫による浸水被害をうけた。
・浸水面積 約200ha
・浸水戸数 約2,100戸
(福岡県河川課調べ:H15年9月時点)
(福岡県河川課調べ:H15年9月時点)
(2)北九州・筑豊地区
遠賀川流域では,飯塚で1937(昭和12)年の気象台観測開始以来第1位となる猛烈な雨を記録し,流域の14ある水位観測所のうち7箇所で過去最高水位を記録した。また支川の水位上昇とともに,本川の水位も高かった事から,内水による浸水被害が飯塚市街地を中心におこった。
・浸水面積 約540ha
・浸水戸数 約3,700戸
(福岡県災害警戒本部発表H:15年8月時点)
(福岡県災害警戒本部発表H:15年8月時点)
4 今回の災害に対する対策
今回被災した御笠川,宇美川及び,遠賀川流城においては,河川激甚災害対策特別緊急事業(激特事業)や床上浸水対策特別緊急事業等により河川整備を進めている最中であった。今回の出水に対しても激特事業等を申請し,更に河川の整備を進めていく。
それと共に,実効的な総合防災対策について協議を行うため,国,県及び流域の市町で構成される「7.19浸水対策連絡協議会」を設置した。また,協議会の下部組織として,個々の問題を検討するための部会を設置した。部会は御笠川・宇美川部会と遠賀川部会で,各部会において検討した内容を連絡協議会に報告することとしている。(図ー3参照)
5 今後の課題
(1)現状の把握
今回の出水は,御笠川では1999(平成11)年,遠賀川については1999(平成11),2001(平成13)年の大出水からわずか数年のうちにそれを更に超えるものだった。その特徴をまとめると次のようになった。
・ 今回の雨の特徴は,短い期間に強い雨が降り続いたことと,河川水位が急激に上昇したことである。
・ 流域の土地利用の都市化により,貯留効果が低下していることも,河川の急激な水位上昇に拍車をかけている。
・ 御笠川のように上流部の市で降った雨のため,下流部の市で出水があり県や市が単独で解決できない問題も起きている。
・ 今回の遠賀川や前回の御笠川の出水で見られる内水による浸水については,河川だけでは解決できず下水道との連携も必要になる。
・ 降雨が土曜日の早朝であり,担当者まで確実に情報を伝達するのが難しかった。
(2)今後の課題
現状より,今後の課題について整理する。
①治水施設等の整備
a 河川改修
河川自体の流下能力を上げることを目的として,河川改修を進めていく必要がある。
b 下水道整備
内水被害への対策として,河川計画との整合を取りながら下水道の整備をすすめていく必要がある。
c 流域対策
流域の都市化に伴う雨水の貯留能力の滅少等に伴う,河川への流入量の増加に対しては,貯留・浸透施設整備の検討をすることが必要である。
②危機管理対応策等
a 洪水予報
近年の洪水では気象条件などで水位上昇が急激なため,速やかに住民へ避難情報を伝達しなくてはならない。そのためにも洪水予報体制を充実させることが重要な課題である。具体的には,洪水ハザードマップの作成・公表を進めていき,洪水予測システムを作成し,洪水予報の実施が可能になるように進めていかなくてはならない。
b 水防・避難体制
今回の出水での水防・避難体制の問題点を抽出し,水防のための迅速かつ確実な連絡体制の確立と,住民への避難情報を速やかに伝えるためのシステム作りをすることが必要である。また,河川の水位や雨量などの気象情報をリアルタイムで,より多くの住民に伝えていく事が必要である。いずれの情報においても,いかにして24時間清報伝達を確実に行えるようにするかが課題である。
c 超過洪水時の対応
超過洪水時の内水排除については,河川と下水道が互いに連携をとりつつ検討を進めていくことが必要である。
6 まとめ
今回の浸水被害については,非常に大きな降雨が原因であることは間違いないことである。つまり,河川計画を超える豪雨があれば,河川は溢れる可能性があるということである。そのことを念頭に置くと,河川防災というものは河川単独でなく総合的に考えなくては対応できない。
また,既往の水害からの教訓を生かすことが重要である。御笠川で言えば,前回1999(平成11)年の出水からわずか4年間で今回の出水が起こったが,前回出水の後雨量・水位情報をHP公表するシステムを作成したところ,それを利用して被害を最小限にした例もあったように前回の教訓を生かせた部分もあれば,今回のような休日の早朝における出水では,水防連絡体制の不備があったように,新たな教訓が生じている。
今後は,これまでに得た教訓を最大限生かしていきながら,様々な機関と横の連携を取り,総合的な防災対策を進めていく必要がある。