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在来種による河川緑化に関する検討調査(第3報)

国土交通省 九州地方整備局
 九州技術事務所調査試験課
 課長
古 賀 唯 雄

1 はじめに
近年の生態系全体の保全と調和に関する国民のニーズの高まりから,平成7年には『生物多様性国家戦略』の制定(平成14年改定)に至った。
また,河川環境分野においても平成9年の河川法改正において,河川環境の整備と保全の観点から,生物の多様な生息・生育環境の確保や自然再生が求められている。
河川堤防工事においては,種子吹付等で外国産種子の導入による在来植生の減少や撹乱等が,問題視され,地域固有の在来種による堤防緑化技術の早期の構築が要請されている。
ここでは,六角川におけるフィールド実験および検討委員会からの提言を踏まえて,在来種による堤防緑化に関する調査結果を報告する(これまでの経緯は本誌No.32,33に掲載済み)。

2 調査内容および結果
(1)在来種の選定
六角川における在来種については,以下の要件により選定を行った(表2.1参照)。
<生育特性に関する要件>
 ●分布範囲が広い  ●採種が比較的容易
 ●多年草である   ●育種が比較的容易
 ●多年草に混入して播種可能な(混播法)1年草(越年草)
<法面保護・管理に関する要件>
 ●背丈が高すぎない ●土壌緊縛力が比較的強い

(2)在来種子の発芽特性実験
選定した在来種子を対象に,発芽促進のための3つの処理(種皮の傷つけ,ホルモン処理低温・湿潤処理)を行い,発芽特性を調査した。その結果を以下に示す。

植物種により発芽特性が異なるため,種子の前処理および保存方法等に配慮する必要がある。

(3)植生遷移調査
過去における築堤工事の履歴を基に,平成13年,平成12年,平成9年,平成4年の4工事箇所を選定して植生の遷移調査を行った。
河川横断方向に在来植生の割合を調査した。築堤から5年以上経過している平成4年および平成9年の在来植生の割合は約60%,築堤から5年未満の平成12年および平成13年の在来植生の割合は約40%となり,工事年代が古いほど在来植生の割合が高く,外来種は減少する傾向が確認された。

(4)築堤工事法面における育苗実験
築堤工事法面において以下の各種育苗実験を行った。各実験の評価結果は定性的に,◎:非常に良好,〇:良好,△:悪い,×:非常に悪い,で表記した。

(a)播種による育苗
六角川流域で採種した在来種の播種実験の結果は以下のとおりであった。
ヨモギが良好に生育し成長も早いため,法面緑化に有効である。ミヤココグサの生育も比較的よいが多量採種の困難さが課題となる。

(b)地下茎による育苗
六角川流域で採取した在来種の地下茎を植え込んだ実験結果は以下のとおりであった。
ヨモギ,シバの長く切断した地下茎の生育が比較的よいが,全体的に乾燥に弱く,法面緑化への使用には種子を用いることが有効であると考えられた。

(c)埋土種子による育苗
旧堤防の土壌を深さ別に撒きだした埋土種子の実験結果は以下のとおりであった。
採取深度が深いほど,シバの生育が多く,草丈も低くなった。そのため,法面緑化への使用には表層部を剥ぎ取り10cm以上深い土壌を使用することが有効であると考えられた。

(d)混播法による育苗
多年草に一年・越年草の種子を混合して播種した実験結果は以下のとおりであった。
ヤハズソウはどのように混播しても生育が良好であり,法面緑化への使用は有効であると考えられた。

(5)種子増産のための育苗園における実験
在来種の増産をめざして,六角川周辺に造成した育苗園に在来種を播種した実験結果を示す。

3 平成16年度の調査計画
平成16年度調査では,選定した在来種の中で比較的生育が良好であったヨモギ,ヤハズソウ,アキノエノコログサを対象に種子の播種密度別の生育比較実験を追加実施しており,その実験結果と既調査結果を踏まえ,六角川の「堤防法面緑化手引き」を策定する予定である。

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