有明海沿岸道路における建設コスト縮減
~CMの活用とプロジェクトマネジメント~
~CMの活用とプロジェクトマネジメント~
国土交通省 九州地方整備局
福岡国道事務所 有明海沿岸道路出張所
所長
福岡国道事務所 有明海沿岸道路出張所
所長
横 峯 正 二
1 はじめに
有明海沿岸道路は福岡県大牟田市と佐賀県鹿島市を結び,地域発展の核となる都市圏の育成や地域相互の交流促進,空港,港湾等の広域交通拠点との連携等に資する地域高規格道路である。計画図を図ー1に示す。
当該道路は全線において図ー2に示すように10m前後の厚さで存在する有明海周辺部特有の軟弱粘性土上を通過する。現計画では,橋梁と盛土部がほぼ同延長となっており,一般盛土部は一部を除き,5~9m程度,また,橋梁取付け部等では一部10数mの高盛土で計画されている。また,橋梁基礎においては,良好な支持層が50m程度より深い地区が多い。以上のことから,当該道路においては,盛土部の軟弱地盤対策および延長の長い橋梁部のコスト縮減が重要と考えられた。
このため,当該道路の設計・施工のより一層の合理化を目的として,軟弱地盤対策については「有明海沿岸道路軟弱地盤対策工法検討委員会」を組織し,種々の検討を行った。その結果を踏まえて,福岡県内の有明海沿岸道路独自の「技術基準」を策定した。また,長大橋となる(仮称)矢部川橋についても「有明海沿岸道路橋梁検討委員会」を組織し,上部・下部構造の合理化,コスト縮減を検討してきた。
今後の設計・施工をはじめとする道路建設事業の推進にあたり,これらの成果を十分に導入した建設コスト縮減を実現すべく,プロジェクト体制を整備し,また,CM(Construction Management)制度も活用し,効率的な事業の推進を図っている。
2 委員会における軟弱地盤対策の検討
「検討委員会」を中心として,軟弱地盤対策工法の検討において,以下のような項目を実施した。
1)道路土工指針等の性能規定化を考慮した地域高規格道路の設計水準
2)地盤調査の手法,結果の評価方法
3)実大試験盛土による,新技術・新工法を含めた対策工法の適用性の検討
4)設計・検討手法の合理化
5)軟弱地盤対策工法のコスト面からの選定
6)性能規定化を考慮した施工・品質管理方法の検討
7)深層混合処理による地下水流への影響,施工時の振動・騒音などの環境面の検討
以上の成果は,福岡県内の有明海沿岸道路独自の「技術基準」としてまとめた。以上の検討の流れを図ー3に示す。この中で,実大試験盛土は地盤特性の再評価対策工法の適用性の評価において,特に大きな成果が得られた。試験盛土については,計画路線上の既買収地を利用して実施し,動態観測終了後は,道路本体に流用することで,試験盛土に必要なコストを縮減できた。
試験盛土の実施場所は図ー1に示す二ヶ所で,大牟田市側が昭和開地区,大川市側が高田町地区である。両地区とも軟弱地盤の層厚は7~10m程度であるが,高田町地区のみ中間砂層を挟在する。
事前の検討結果から,地盤の力学特性の確認を目的とした無処理盛土と,新技術・新工法を含む対策工法の適用性の確認を目的とした7種類の工法を用いた盛土を施工した。表ー1に,試験盛土で採用した対策工法を示す。
また,写真一1に試験盛土地区の全景を示した。
試験盛土は,無処理盛土も含めて,安定管理上は全く問題なく構築できた。特に地盤条件の再評価に重要となる,無処理盛土(①)について検討を行い,地盤の再評価を行った。
無処理盛土の中心部における地表面沈下量は盛土立上り後約13ヶ月経過時で123.5cmである。この時点の水平変位の最大値は約18cmであり,十分に安定していると考えられた。この時点の盛土高が,7.2mであり,限界盛土高を5mとした当初の設計用強度定数は過小評価と考えられた。また,沈下が事前予測より早く進行していることから,圧密特性の見直しも必要と考えられ設計用地盤定数の見直しを実施した。以上の検討から,いたずらに「安全側」と称する設計用地盤定数の評価を行わず,適正に地盤調査を評価する事,また,一軸圧縮試験のみでなく,三成分コーンや三軸CU試験,SBIFTなどから,総合的に設計用地盤定数を設定することが重要であることがわかった。また,土質としてはシルトが多く,透水性も中間土の性質を示すことから,この地盤条件では,ドレーン等の圧密促進の必要性は低いことがわかった。
3 委員会における(仮称)矢部川橋の検討
「委員会」においては,(仮称)矢部川橋において以下のような検討を実施した。
1)スパン長の検討
2)橋梁形式の選定
3)主桁構造の軽量化の検討
4)曲線橋に対する対策検討
5)支持層の検討
6)基礎形式の選定
7)耐震設計方針の検討
8)耐風設計方針の検討
上記のような検討の結果,斜張橋による上部構造の軽量化が,コスト縮減に有効であることがわかった。具体的には上部工において,高強度コンクリートの採用による部材寸法の縮小,隔壁を省略した断面構成の採用,ケーブル張力の低減等で約5%,下部工では主桁の軽量化,免震支承の採用等による基礎の小型化で約34%,河川管理者との再協議により最大支間長を約40m縮小するなど,総事業費では約20%の縮減効果があることがわかった。図ー4に橋梁のイメージ図を示す。
4 CM制度の活用とプロジェクトマネジメント
有明海沿岸道路プロジェクトでは,CM制度を活用し,軟弱地盤対策と橋梁担当のCMR(Construction Manager)を導入している。ここでのCMRの担当業務は,地盤調査・設計の技術支援,施工管理,施工方法における技術支援と多岐にわたっている。
平成16年4月現在のプロジェクト執行体制を図ー5に示した。一般的な業務体制と異なり,発注業務以外は出張所において全ての業務を実施する。この際CMRによる技術支援を十分活用する体制とした。
この体制により,委員会の成果等を十分に,調査・設計・施工に生かし,又積極的な新技術・新工法の導入が可能となり,結果として大幅なコスト縮減が期待される。
また,新しい試みとして,全体事業の推進にあたり,複数の工区,工種を有機的に結び付け,工程,事業費も含めた合理化を目的とする新しいプロジェクトマネジメント手法も試みており,そのために,PMS支援担当も導入している。
5 軟弱地盤対策工法の適用
「委員会」の成果を軟弱地盤対策工法の詳細設計に生かすために,まず,試験盛土の動態観測結果から,対策工法の変位と沈下について,表ー2のような評価を行った。同表の中で,施工時変位とは,軟弱地盤対策工を施工する際に生じる変位を表している。また,盛土時変位とは,後続して施工される盛土のみによる変位の変化分を意味する。
近接施工等に留意が必要でない場合は,基本的には安定のみが確保されれば良い。以上の試験盛土を通じた検討から,表ー3に示すような対策工法選定を基本とすることとした。
実際の設計に当たっては,試験盛土で行った方法をそのまま用いるのではなく,更にコスト,効果の面から検討を重ねて実施工を実施することとした。具体的には以下のような方法をとった。
・地盤調査
地盤の力学特性の正しい評価は,必要な対策工法の選定やその諸元の決定に大きな影響を与える。このために,軟弱地盤の基本情報の評価に,三成分コーンを活用し,設計に必要となる場合に三軸CUやSBIFTなどを実施し,一軸圧縮試験では強度を過小評価しがちなシルト質の軟弱地盤の特性を,適正に把握することとした。
・補強盛土
補強盛土は,建設コスト縮減の観点から,高強度のジオテキスタイルを使用する事を基本とした。
・補強盛土+浅層混合
無対策では,円弧すべりの安全率が1.0を下回る場合,高強度ジオテキスタイルのみの補強では変形が過大となる場合も懸念されるため,浅層混合処理と組み合せる。
この際,ジオテキスタイルを引張補強材として有効に働かせるため,浅層混合処理の下部に敷設することとした。施工手順を図ー6に示す。改良材の混合は,コストの点からバックホーで行うことを基本とし,粉塵対策が必要な場合は自走式土質改良機を用いる。この浅層混合処理の施工方法は,スタビライザーなどの原位置攪拌方式の施工方法よりもコストが安く,かつジオテキスタイルを浅層混合処理層の下部に敷設できるということで,メリットが大きい。
この方法を用いると,高強度ジオテキスタイルの必要強度が低くなるため,結果的にはジオテキスタイルのみの対策と対策工費がほとんど変わらなくなる場合もある。
・浅層混合+低改良率DMM
盛土高が特に高い場合や,橋台の取付部,近接施工など,変位・沈下抑制が必要とされる場合にこの工法を用いる。DMMは洪積層に貫入させない非着底型を基本とする。浅層混合処理に関しては,前述の施工法と同様である。
従来のDMMを用いた対策工法と比較して,本工法の特徴は以下のようである。
1)従来工法が法下に改良体を配置しているのと異なり,盛土中央部に配置しているので,盛土荷重を有効に改良体が支えることができ,全体的な沈下抑制が可能なため,将来的な残留沈下の低減も期待できる。
2)低改良率であるため,DMM打設時の変位が小さい。
3)非着底型であるため,施工深度が相対的に浅くなり,小型機が使用できることが多く,コスト縮減につながる。
4)浅層混合処理と組合わせているため,不同沈下が起こりにくく,また法尻部での小崩壊等も起こしにくい。
基本的な施工方法の考え方を図ー7に示す。ここではジオテキスタイルを使用しないが,コスト的に見合えば浅層混合処理層の下部にジオテキスタイルを敷設しても良い。
また,DMMを浅層混合に先行して打設することもできるが,その場合には,浅層混合部の掘削時にDMMの固結した杭頭が突出することが多く,頭部を除去する処理が必要となる。
なお,本工法は,ボックスカルバートの基礎部の工法としても活用している。ボックスも基本的には沈下を許容する考え方とし,ほとんどの場合は,目地の目開きなど構造や上げ越しの可否をはじめ,周囲の状況等から決定される許容沈下量以下となるように,改良体の長さ,改良率等を決定する。
現在のところ,軽量盛土は後述する橋台背面への適用が主で,一般盛土部分への適用は無い。
以上の対策工法を適宜必要な箇所に適用していくが,その際,適用する対策工法の違いによって大幅に沈下量が異なる場合は注意が必要である。試験盛土では,隣り合う箇所の対策工法の沈下差が約80cmあるケースで,路体盛土にかなり大きなクラックが生じ,施工中の補修では修正できなかった。
この経験から,対策工法の違いにより,極端な沈下差が予想される場合には,適切な緩和区間を設けるものとした。
図ー8に,ある工区での軟弱地盤対策工法の適用例を示す。この例では当初のDMM中心の対策工法と比較して,70%以上のコスト縮減となった。
6 軟弱地盤対策工法の品質管理
有明海沿岸道路では,ここまで述べてきたような新しい軟弱地盤対策工法を活用している。例えば,浅層混合処理は従来トラフィカビリティ確保などの目的で仮設的に使われることがほとんどであったし,非着底低改良率DMMも,新しい対策工法と言うことができる。ここでは,新しい品質管理手法の試みについて紹介する。
従来,浅層混合処理,深層混合処理ともに,品質管理はサンプリングと一軸圧縮試験で行われてきた。しかし,適用可能な数量が限られるため,より簡便に実施できる試験が求められていた。
今回は,簡便で早期に実施できる試験として,浅層混合処理については舗装でよく使用される「FWD試験」,DMMについてはほぼ連続的なデータを取るために「山中式の針貫入試験」を実施した。
FWD試験は重錘を落下させた際のたわみ量を測定し,結果として硬さを測定するものであり,以下の式で変形係数が計算できる。
一般に,変形係数と強度には良い相関があるので,一軸圧縮強度との相関が求められれば,FWD試験を用いた品質管理が可能となる。図ー9に昭和開地区の実施工で行った,FWD試験から得られた変形係数と一軸圧縮強度(養生28日)の比較例を示す。
FWDは施工後の養生日数が3~5日で実施している。FWDの変形係数が養生日数が長くなるとやや大きくなる傾向を示しているが,全体の平均値では,EFWD=280quという関係になった。ある程度のデータのバラッキや安全を見た適正な係数の設定をすれば,品質管理に適用できると判断される。
図ー10には,DMMの改良体に針貫入試験を適用した例を示す。針貫入試験は,以下の関係式を用いて換算qu(kN/㎡)を計算した。なお,針貫入試験は28日養生で実施している。
結果としては,比較的良い相関が得られている。28日養生の一軸圧縮試験ではすべての結果が設計強度より約50%以上高い強度が得られているのと比較し,針貫入では,設計強度を若干下回る場合もある。設計的には不良率を15%程度見込んでも,強度のバラッキが正規分布に近いような分布を示せば問題はないため,的確に弱い部分が評価できる針貫入試験等のほぼ連続的なデータが得られる試験は有効な品質管理方法と考えられる。
7 橋梁における地盤の変形係数の評価
橋梁設計においても,地盤の評価がその建設コストに与える影響は大きい。当該地域のような軟弱地盤地帯では,基礎構造は杭基礎となるため,支持層の評価,摩擦杭の場合は,中間層の強度の評価も重要である。ここでは,変位の検討に大きく影響を与える変形係数の評価について述べる。
従来は安直にE=700×N(kN/㎡)などの経験式を適用したり,孔内水平試験結果をそのまま適用するなどの評価方法が往々にして見られた。しかし,前者の場合は,N値が0~1というような軟弱地盤に適用するには全く適しておらず,孔内水平載荷試験は,そのひずみレベルが想定している杭の変位よりずっと大きいこと,軟弱地盤では孔璧の乱れも大きくなるなどの理由から,試験精度が低くなりがちで,極めて小さな変形係数となる場合があるという問題点があった。
このため,種々の試験結果を勘案した図ー11に示すような図を作成した。ここで,ES1は一軸圧縮試験,ES3は三軸圧縮試験,Ebは孔内水平載荷試験で求めた変形係数である。この図を利用して,総合的かつ工学的な評価を行なうものとした。
8 橋台の背面における軽量盛土
軟弱地盤では,橋台背面に軽量盛土を施工し,地震時の土圧が橋台に加えられないようにすることで,橋台の基礎杭を縮減し,全体のコスト縮減を図る方法が知られている。有明海沿岸道路でも,この方法が適用可能な橋台は多いと考えられ,更なるコスト縮減の検討を行った。
具体的には,図ー12に示すように,軽量盛土と補強土擁壁を組合せ,軽量盛土の施工量を必要最低限とする。補強土擁壁は地震にも強いことが知られており,この方法によって2割以上のコスト縮減が見込まれる場合があり,鋭意検討を進めている段階である。
また,これ以外にも,軟弱層をDMMで固化させて地盤反力が十分期待できる層とし,基礎杭の縮減を図る方法も別途検討しており,成果が期待される。
9 おわりに
有明海沿岸道路建設に当たり,検討委員会を組織し,実大試験盛土を含めた種々の検討を行い,福岡県内の有明海沿岸道路における独自の「技術基準」を策定した。また,長大橋においても委員会を組織し,同様な検討を実施した。
この成果を十分に調査・設計・施工に生かすために,プロジェクト体制を整備しかつCM制度を導入して,新技術・新工法の積極的な導入を図り,当初計画より大幅なコスト縮減がはかれることが明確となった。
有明海沿岸道路では,新しいプロジェクトマネジメントシステムの試行も含めて,更なるコスト縮減へ向かって検討を続けているところである。