全国初の多色カラー保水性舗装の施工
国土交通省 九州地方整備局
大分河川国道事務所 大分維持出張所長
大分河川国道事務所 大分維持出張所長
船 井 敏 勝
日本道路株式会社 九州支店
森 清 広
鹿島道路株式会社 九州支店
村 田 冬 樹
1.はじめに
政府の「ヒートアイランド対策大綱:平成16年3月30日決定」に基づき,各省庁一致協力によるヒートアイランド対策への積極的な対応が実施されている。国土交通省も施策の一つとして「路面温度を低下させる等の可能性のある舗装に関する調査研究」の取り組みを推進しており,さまざまな路面温度低下のための新技術の開発が行われている。
この様な中,国土交通省大分河川国道事務所では,環境と景観に配慮し「保水性舗装に多色で自由なデザインを描くカラー保水性舗装(以下:多色カラー保水性舗装)」を全国で初めて施工した。本報告では多色カラー保水性舗装の施工事例と効果について紹介する。
2.経 緯
多色カラー保水性舗装を施工した大分県別府市は,大分県のほぼ中央に位置し湧出量137,040Kℓ/日,泉源数2,847孔1)と日本一の温泉施設規模を誇る“湯の町”である。
一般国道10号が通過する別府市北浜地区は,別府駅前に位置する別府市中心部であり,観光客を中心とした歩行者および自転車の利用者が多い地区である。北浜地区の歩道整備では,歩行者に安全・快適な歩行空間を確保するとともに,“湯の町別府”にふさわしい街並みの景観整備が望まれた。
そこで,「国道10号別府北浜地区景観検討会,委員長:大分高専亀野辰三教授」を設置し,委員の方々には現地踏査した上で,歩行者の視点で景観整備の検討をして頂いた。その結果,「自転車・車椅子の利用者には,平板ブロックはガタガタして不快なので,アスファルト舗装で景観にマッチしたデザインを考えて頂きたい」との要望が提出された。
要望を踏まえ各種の事例調査や技術調査等を行い,「構造は保水性アスファルト舗装とし,別府湾の海の波(青色)と別府の湯けむり(萌葱色)をイメージしたデザイン(図ー1参照)」を基本方針に定め,「多色カラー保水性舗装」による環境整備を実施した。
3.多色カラー保水性舗装の仕様とデザイン
3.1 多色カラー保水性舗装の仕様
多色カラー保水性舗装に用いる保水材の性状と保水量は,表ー1のとおりであり保水機能の確保に努めた。
3.2 多色カラー保水性舗装のデザイン
多色カラー保水性舗装の色彩は,「別府湾の海の波(濃青):B-42-30H 2)」「別府市のシンボル色(緑):B-42-40H 2)」「別府の湯けむり(萌葱色)B-22-80H 2)」の三色とし,三色をL=7.0m,R=4.0mの波形(図ー2参照)でデザインした。
4.試験施工
4.1 試験施工の概要
別府市北浜地区の環境整備に着手した平成16年10月時点では,多色カラー保水性舗装の施工実績は国内には無かった。そのため本施工に先立ち試験施工を実施した。
試験施工における確認ポイントは,デザインが三色の波形なので,①保水機能を確保する着色方法,②鮮明な色合いの確保等である。試験施工は目的コスト,施工時間を考慮し「開粒度Asに保水材を浸透させ表面にカラー着色する方法(以下A:案)」と「塗料を混ぜた着色保水材を開粒度Asに浸透させカラー着色する方法(以下:B案)」を基本に実施した。
4.2 A案の試験施工結果
基本案として表ー2のA案①で試験施工を行った。その結果,「表層の開粒度Asに保水材を全浸透するため空隙が無くなる。その表面にカラー着色するので着色材が被膜となり,水分が保水材に浸透せず保水機能が確保されない。」ことが問題となった。
A案①の問題解決には,「保水機能を確保するためカラー着色しても水分が保水材に浸透される。」ことが重要である。そこでA案①ー1,A案①ー2の改良案で比較試験を行い,A案①ー2を採用した。A案①ー2の特徴は,表ー2の検討断面に示すとおり「表層の開粒度Asを2層」にした点である。施工方法は,①表層下層部H=4cmを施工,②保水材浸透,③表層上層部H=3cmを施工,④カラー着色の順である。その結果,カラー着色は皮膜にならず,水分が保水材に浸透し保水機能を確保した。
4.3 B案の試験施工結果
基本案として表ー3のB案①で試験施工を行った。その結果,「着色保水材が鮮明な濃色を発色しない。また,雨天時に着色保水材が流出する。」ことが判明した。
問題解決には「鮮明な濃色の確保と保水材の流出防止」が重要である。B案①の着色保水材の材料配合は,水結合材比W/B=79%(結合材配合比:保水材93%,塗料7%)であり,B案①を基に着色保水材への着色方法と圧縮強度の強化を検討した。そこでB案①ー1,B案①ー2の改良案で比較試験を行い,B案①ー2を採用した。
B案①ー2の特徴は,表ー3の検討断面に示すとおり「表層の開粒度Asへの浸透材を保水材とカラーセメントの2層」とした点である。施工方法は,①表層H=4cm施工,②下層部H=2cmに保水材浸透③上層部H=2cmにカラーセメント浸透の順である。カラーセメントの材料配合は,水結合材比W/B=46%(結合材配合比:セメントミルク93%,塗料7%)とした。
その結果,下層部浸透の保水材で保水機能を確保し,上層部浸透のカラーセメントで鮮明な濃色を発色した。また,カラーセメントは,圧縮強度=20N/mm2を確保し着色剤流出が防止できた。
5.多色カラー保水性舗装の施工結果
5.1 着色効果
表ー4の完成写真より,「別府湾の海の波(濃青)」「別府市のシンボル色(緑)」「別府の湯けむり(萌葱色)」の三色が,鮮明な色で波形を描いていることが確認できる。よって多色カラー保水性舗装の着色方法は,A案①ー2,B案①ー2の方法で一定の成果を得られたと考えられる。
5.2 路面温度測定結果
5.2.1 路面温度測定方法
5.2.1.1 A案①ー2の路面温度測定方法
路面温度は,データロガーにて舗装体温度(1時間毎)を測定した。また,同時に人が感じる温度を測定するために路面上70cmの位置における外気温度を測定した。調査期間(2005.7.7~2005.7.21)
5.2.1.2 B案①ー2の路面温度測定方法
路面温度は,データロガーにて舗装体温度(1時間毎)を測定した。調査期間(2005.91.0~2005.9.19)
5.2.2 路面温度測定結果
5.2.2.1 案①ー2の路面温度測定結果
測定期間における日毎の各舗装体の温度(深1さcm)の日最高値をまとめると図ー33)に示すとおりとなる。
(1)舗装体およびアメダス気温の日最高温度
各舗装体の日最高温度は,通常舗装>青>緑>黄の傾向となっている。
通常舗装の最高温度は,晴天時の気温32℃程度で60℃を超えており,一般的にいわれるアスファルトの年間最高温度の60℃と同程度である。この時の多色カラー保水性舗装の温度は,青が57℃,緑が54℃,黄が49℃(7/20の測定値)となっている。
(2)多色カラー保水性舗装と通常舗装の温度
多色カラー保水性舗装と通常舗装の温度差の関係を図ー4に示す。なお,図中①は降雨時,②は降雨後③は晴天時を表している。
測定結果より,③の晴天時の多色カラー保水性舗装と通常舗装の温度差は,青が4~5℃,緑が7~10℃,黄が10~13℃であり,②の降雨後は青が5~7℃,緑が8~11℃,黄が12~15℃となっている。このことから,降雨後の多色カラー保水性舗装の「路面温度上昇の低減効果(以下:温度低減効果)」は着色と保水の両方の効果が確認できる。
また,温度低減効果は淡色ほど大きくなっている。これは,日射蓄熱量の違いのよるものと判断される。
5.2.2.2 A案①ー2の外気温度測定結果
図ー5は舗装周辺の外気温度(H=70cm)とアメダス最高気温4)をとりまとめたものである。
(1)外気温度およびアメダス気温の日最高温度
図ー55)より,外気温の日最高気温は,通常舗装>青>黄,土,アメダス気温は同程度の傾向となっている。
7/9~7/14の期間は,日射量が少なく,各舗装周辺温度およびアメダス気温は同程度であり,7/15~7/21の日射量が多い期間では,日射蓄熱量が大きい濃色系の通常舗装および青の周辺の温度が高くなっている。なお,黄,土およびアメダス気温については日射の大小に関わらず,期間を通して同程度となっている。
(2)多色カラー保水性舗装と通常舗装の外気温度
多色カラー保水性舗装(H=70cm)と通常舗装(H=70cm)の外気温度およびアメダス日最高気温の差を,降雨時,降雨後,晴天時に分けて結果を整理すると,図ー65)の通りとなる。
測定結果より,降雨後における多色カラー保水性舗装の周辺気温の差は通常舗装周辺気温に比べ,青が0.5~2.0℃,黄が1.0~3.5℃,土が1.0~3.5℃低くなっている。晴天時の温度差は,青が1.0~1.5℃,黄が2.0~3.0℃,土が2.0~3.0℃低くなっている。
このことから,降雨後,晴天時とも土周辺と黄の外気温は同程度であることが確認できる。つまり黄は外気温の温度低減効果に優れ,舗装による外気温度の上昇がほとんど発生しないと推測される。
5.2.2.3 B案①ー2の路面温度測定結果
測定期間における日毎の各舗装体の温度(深さ1cm)の日最高値をまとめると図ー7に示すとおりとなる。
(1)舗装体およびアメダス気温の日最高温度
各舗装体の日最高温度は,通常舗装>青>緑>黄の傾向となっている。
通常舗装の最高温度は,晴天時の気温31℃程度で52℃である。この時の多色カラー保水性舗装の温度は,青が42℃,緑が40℃,黄が38℃(9/12の測定値)となっている。
(2)多色カラー保水性舗装と通常舗装の温度
多色カラー保水性舗装と通常舗装の温度差の関係を図ー8に示す。図中①は降雨時,②は降雨後,③は晴天時を表している。
測定結果より,③の晴天時の多色カラー保水性舗装と通常舗装の温度差は,青が5~7℃,緑が8~9℃,黄が11℃程度であり,②の降雨後は青が7~9℃,緑が9~12℃,黄が11~14℃となっている。
このことから,B案①ー2もA案①ー2と同様に,温度低減効果には着色と保水の両方が確認できた。
この温度低減効果も同様に淡色ほど大きくなっている。
6.多色カラー保水性舗装の効果と今後の課題
6.1 多色カラー保水性舗装の効果
■保水機能確保と着色方法
保水機能を確保し自由な着色でデザインするには,“保水機能”を確保する保水材浸透部と,“着色機能’’を有するカラー着色(または着色保水材浸透)部に機能分離する手法が有効と考えられる。
保水機能を確保し自由な着色でデザインするには,“保水機能”を確保する保水材浸透部と,“着色機能’’を有するカラー着色(または着色保水材浸透)部に機能分離する手法が有効と考えられる。
■多色カラー保水性舗装の特徴
多色カラー保水性舗装の温度低減効果において,降雨後は着色と保水のダブルの効果が確認できた。また,睛天時も着色による遮熱効果等で一定の温度低減効果が確保された。
多色カラー保水性舗装の温度低減効果において,降雨後は着色と保水のダブルの効果が確認できた。また,睛天時も着色による遮熱効果等で一定の温度低減効果が確保された。
■着色による温度低減効果の違い
着色による温度低減効果は,淡色の効果が大きいことが改めて確認できた。特に,黄は温度低減効果に優れており,舗装による外気温度の上昇がほとんど見られなかった。
着色による温度低減効果は,淡色の効果が大きいことが改めて確認できた。特に,黄は温度低減効果に優れており,舗装による外気温度の上昇がほとんど見られなかった。
6.2 今後の課題
■施工単価が高い
多色カラー保水性舗装の施工単価は,A案①ー2,B案①ー2とも直接工事費で約8,300円程度である。これは再生密粒(厚さ40mm)の約1,500円程度の約5倍強となる。
多色カラー保水性舗装の施工単価は,A案①ー2,B案①ー2とも直接工事費で約8,300円程度である。これは再生密粒(厚さ40mm)の約1,500円程度の約5倍強となる。
■施工時間が長い
施工日数を同じ施工面積で比較すると,再生密粒等の約1日に対し多色カラー保水性舗装は約3日程度が必要となる。
施工日数を同じ施工面積で比較すると,再生密粒等の約1日に対し多色カラー保水性舗装は約3日程度が必要となる。
6.3 多色カラー保水性舗装の導入方法
本報告で紹介した多色カラー保水性舗装は,集客の多い観光地のまちづくりニーズに答えたものである。しかし,まちづくりに求められるニーズや機能は,地域や周辺環境により違いがあるであろう。したがって多色カラー保水性舗装の有する機能を,ニーズや機能の違い(例:都市部の空間整備には温度低減効果機能を導入,公園整備にはカラー着色機能で景観整備を実施。)に応じて導入すれば,施工単価等の問題点が緩和され,まちづくりにより広く導入できると考えられる。
7.おわりに
地球規模での温暖化傾向や都市部のヒートアイランド傾向の高まりにより,今後のまちづくりには,温度低減効果を図る施設や機能がより強く求められる。しかし,一方でまちづくりには,バリアフリー機能や景観に配慮した空間整備が必要不可欠である。今回紹介した多色カラー保水性舗装は,舗装分野における「温度低減効果と景観配慮」を実現する対策技術の一つである。
今後も性能,耐久性,コスト縮減等の改良は必要であるが,まちづくりに求められるニーズや機能等の条件が適合すれば,本技術は十分に活用出来ると考えられる。
1)別府市ホームページhttp://www.city.beppu.oita.jp/
2)色番号は日本塗装工業参照
3)図ー3以降は本文・図・表において,多色カラー保水性舗装の青,緑,萌葱の各色を青,緑,黄と表現する。
4)アメダス気温とは,大分管区気象台内の芝の上に設置された専用の機器を用いて測定したものであり,温度測定部は断熱壁に覆われ,日射および雨,風の影響を受けない純粋な気温である。
5)図ー5,図ー6は外気温を比較するため緑を除き,土を加えて計測を行った。