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鶴田ダム再開発事業における上流仮締切設備の工事報告
~国内初の浮体式仮締切による施工~
原堅次

キーワード:鶴田ダム、ダム再開発、仮締切、国内初、浮体式、大深度水中施工

1.はじめに

鶴田ダム再開発事業は、平成18 年7月に発生した川内川水系における大水害を契機に鶴田ダムの洪水調節量の増量を目的とし、新たにダム堤体に放流管3条の増設、発電用水圧管2条の移設及び下流側の既設減勢工の改造に加え新たに減勢工の新設を実施するものである。
本工事は、ダムの運用を行いながら実施する必要があることから、ダム上流側に大規模な仮締切を設置し、堤体削孔等の関連工事を安全に実施する計画である。
今回は、現在施工中である上流仮締切設備に国内で初めて採用される、浮体式上流仮締切による施工の進捗状況について報告するものである。
なお、鶴田ダム再開発事業の詳細な内容については川内川河川事務所HPをはじめ、本誌第51号及び今回の第53 号にも掲載されているので参考とされたい。
図-1に下流側から見た今回の再開発工事の対象となる新設放流管3条、移設を行う水圧管2条及び減勢工(新設・改造)の概要を示す。

2.上流仮締切設備の目的
上流仮締切設備の目的は、今後施工が行われる堤体呑口部貫通削孔時の水の流入を防ぎ、貫通後に施工される制水ゲート及びベルマウス等の据付工事をドライの状態で施工するためのものであり、今回堤体上流側に大規模な仮締切を設置するものである。
このように、上流仮締切設備は本工事を安全に施工するために最も重要な構造物の一つであることから、作業の安全確保や確実な施工が求められる。
なお、今回施工する仮締切設備は高さが最大で38.0 m と国内最大級の設備となる。図-2に上流仮締切の設置及び仮締切内作業の概要図を示す。

3.新技術の採用
3.1 緊定金物
当初計画していた緊定金物は、図-3の左図に示すように斜め方向に配置したものであり、戸当りと緊定金物のブラケットは別施工となっていた。
今回、緊定金物を戸当りと一体化し、かつ扉体の内外を固定する構造に変更することにより、地震荷重を緊定金物と戸当り相互を介して堤体に伝達することが可能となった。
これにより、仮締切の据付幅を狭くすることができるだけでなく、扉体をダム堤体に固定するためのアンカー本数及びダム堤体の不陸計測・整正箇所を低減することが可能となった。

3.2 浮体式仮締切
当初計画していた仮締切は、扉体を据付けるために、水中に台座コンクリートを設置し、堤頂から写真-1に示す仮締切扉体を1ブロック毎吊り下げて据付ける方法(台座コンクリート方式)であった。
今回施工した仮締切は、写真-2に示すように仮締切扉体の両側にスキンプレートを設け、気密室を形成することにより扉体を浮体化した構造である。これにより、図-5に示すように水上にて扉体を組立て、一体化した扉体を曳航して堤体に取り付ける方法である。

上記新技術を採用することにより、扉体が浮力をもっているため図-6に示すように仮締切設置時の台座コンクリートが不要となった。
また、大深度水中施工となる台座コンクリート関連工事を省略できること、扉体の上下の連結等を気中で実施することが可能となる等、水中作業の軽減を図ることも可能となった。

4.上流仮締切設備の製作について
4.1 工場製作
上流仮締切設備の製作は、工場において扉体1ブロックを3つに分割して製作し、現地へと搬入した。写真-3に工場で仮組立された仮締切の全体写真を示す。

4.2 現地仮工場内での製作

工場より3 分割で現地搬入されたブロックを写真-4に示す現地仮工場で組立・溶接を行い、クレーンによる現場内移動を行い、桟橋より吊り下げ運搬台船へと積み込みを行った。

5.浮体式仮締切の設置状況

浮体式仮締切の設置の様子を写真-5~ 12 まで連続的に紹介する。
①桟橋に設置されたクレーンにより運搬台船へと積み込み(写真-5)。

②運搬台船による湖内曳航(写真-6)。

③曳航されたブロックをクレーンにより組立台船に装備されたチェーンブロックへと掛け替え(写真-7)。

④扉体ブロックを底蓋から順番に連結していく。扉体組立台船は4つのチェーンブロックを装備しており、それぞれの荷重をロードセルを介して管理している。
  その後、扉間水密ゴムの当たりやつぶれを確認しながら扉間連結ボルトにて底蓋および8つの扉体ブロック全ての連結を行う(写真-8)。

⑤全ての連結が完了(写真-9)。

⑥扉体組立台船によりダム堤体側の据付位置まで曳航を行う(写真- 10)。

⑦組立台船からダム天端に設置された300t クレーンに掛け替えを行い、その後バラスト計画に従い浮力調整を繰り返しながら扉体を浮上させダム堤体へと設置を行う(写真-11)。

⑧写真- 12 に設置を完了した浮体式仮締切の設置状況を示す。

6.工事の進捗状況
上流仮締切設備の進捗状況としては、平成24年7月から現地仮工場において、発電側1号扉体(12 ブロック)の組立を開始した。その後、随時増設側2号の扉体(13 ブロック)の組立及び3号の浮体式仮締切扉体(8ブロック)の組立を完了した。
さらに、平成25 年3月中旬より増設側3号の浮体式仮締切の水上大組立を開始し、4月下旬までに設置を完了した。
なお、今回の仮締切の設置にあたっては最大水深65m での大深度水中施工が必要となることから、作業の効率化と作業員の安全確保を考慮し「飽和潜水」による施工を行った。飽和潜水とは、作業期間を通じてダイバーに作業水深と同じ気圧の居住空間内で生活してもらい、作業終了時に減圧して大気圧に戻す潜水方法である。
現在、増設側2号及び発電側1号の仮締切の扉体設置を施工しており、5月中旬からは堤体削孔に着手し、平成25 年11 月に貫通作業を行う予定である。
貫通作業完了後には、ベルマウスの設置並びに制水ゲート設置、更には取水管や増設放流設備の設置を行う予定である。

7.おわりに

我が国の厳しい財政状況や環境問題への関心の高まりを鑑みると、既存の社会資本の有効活用であるダム再開発事業の必要性は、今後ますます高まることが予想される。
また、本事業は地域住民の強い要望と期待を受け、早期事業化が実現した経緯もあり、一刻も早く洪水調節機能の強化が求められている。
今後、堤体の貫通作業が完了した後には、ベルマウスの設置や制水ゲートの設置を短期間の非出水期内で完了させる事が必須となる。
よって、この限られた期間の中で多工種にわたる工事を高精度で実施する必要があるために、機械及び土木関係業者の緊密な連携が不可欠である。併せて、関係する機関との調整を含めた発注者側の高いマネジメント能力も必要となる。
以上のことを踏まえながら、今後も安全対策に万全を期した上で作業を進めていくことが重要と考える。
最後に、今回の執筆にあたり貴重な資料の提供を頂いた施工業者である日立造船㈱の工事関係者の皆様に感謝の意を表す。

      

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