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有川港マリンタウン
~にぎわい空間の創出~

長崎県五島地方局上五島土木事務所
 河港課 港湾漁港班
草 野 和 郎

1 鯨で栄えた町 有川
長崎県新上五島町有川は古くより捕鯨の町として栄えた港町であり,五島列島,中通島の東北部有川湾の奥部に位置し,上五島の海上交通の要衝となっている。
有川湾には昔から鯨が回遊していた。有川捕鯨は慶長3年(1598)鈷(もり)突きで始まった。元禄4年(1691)江口甚右エ門正利えぐちじんえもんまさのり が有川鯨組を組織,正徳2年(1712)までの21年間に懸網(かけあみ)による方法で1300頭以上を捕獲した。鯨1頭で7浦潤うといわれた時代に多い年で83頭,少ない年でも36頭捕獲していたという。明治に入り砲殺捕鯨に近代化された結果,わが国有数の捕鯨場だった同湾に鯨が激減,明治44年(1911),有川捕鯨は幕を閉じた。
「鯨のみなと」として栄えた有川港であったが,有川捕鯨が途絶えた後,有川捕鯨人は,国内捕鯨事業所へと移され,南氷洋捕鯨に進出。ピーク時には八百から九百の人々が捕鯨に従事した。しかしながら,昭和62年(1987)商業捕鯨の全面禁止とともにそれに変わる産業もなく,賑わいは次第に薄らいで行った。

2 有川港マリンタウンプロジェクトの経緯
このようなことから,かつての賑わいを取り戻そうと平成元年,新たな有川港の整備計画の策定に取り組んだ。
上五島の玄関口としての役割を果たしながら加えて,新たな機能を導入し,「人々が働き,集い,憩い,遊ぶ,’’港,ありかわ”」の実現を開発のコンセプトに平成元年基本計画に着手し,翌平成2年度「有川港マリンタウンプロジェクト」が策定された。本計画は平成3年度より,工事に着手し,平成16年度,計画の中心をなすウォーターフロント・シンボルゾーンの完成に至った。
今回はこのメインの施設を中心に説明致します。

3 有川港マリンタウンの概要
図ー1が有川港マリンタウンプロジェクトの全体構想イメージである。
このうち,ウォーターフロント・シンボルゾーンは当プロジェクトの中心を成すもので「上五島の玄関口,中心地を象徴するにぎわいあふれる空間」と位置付けをしている。
その施設は,県事業で整備したフェリーや高速船の接岸施設,駐車場の機能施設,イベント広場等の緑地施設および新上五島町の町事業で整備された旅客ターミナル,商業施設から構成され,それらを機能的に配置している。

4 有川港の施設
図ー2がウォーターフロント・シンボルゾーン内の施設配置図である。

岸壁(-6.0m)は,フェリー岸壁として平成16年9月から供用開始している。フェリー乗降客は新ターミナルからボーディングブリッジを通じて乗降船ができ季節風や夏の日差しに左右されることなく,安全に利用できる。
有川港と佐世保港を結ぶフェリーの発着所として,年間約16万人(乗降客数の合計)が利用している。
浮桟橋は高速船の発着所として利用されている。ターミナルから浮桟橋へ結ぶ通路および浮桟橋上は屋根付きで,乗降客が雨天時や日差しが強い時などでも安全に利用できるバリアフリー対策を実施している。

ターミナル施設は,町事業で整備され,当地区がかつて捕鯨の町として栄えた経緯から,外観は鯨をイメージした柔らかな曲面の大屋根を持ち周辺の山並みに調和したイメージとなっている。
ターミナルは旅客船への乗降機能の他,鯨賓館ホール等が整備されている。ミュージアムでは有川ならではの鯨に関する貴重な資料を展示。ホールではコンサートや映画が上映される等文化活動の中心的役割を有している。

ターミナル内エントランスホールには,クジラの実物大模型が展示されており,入館者を圧倒する。

ターミナルの前面には,鯨とイルカのモニュメントを配置し,親鯨と子鯨が戯れ泳ぐ様子を表現し,噴水やスポット照明が臨場感を誘う。

その海側には道路を挟んで花壇を配置,ボードウォーク,インターロッキング舗装を施し,やわらかみのあるものとした。
海に臨み親水性の高い,その空間には,港内で快適に釣りができるよう,旧可動橋を改良した釣り場も設けた。

商業施設として,町事業で「五島うどんの里」を配置しているが,ここでは島の特産である「五島うどん」の手打ち作業が体験でき,実際にうどん作りに参加できる試行になっている。
ここには,「五島うどん」を始め,「椿油」,「かんころもち」等の地元特産品が販売されている。また,食堂もあり,「五島うどん」を味わうことができる。

緑地広場は地域住民,フェリーターミナル利用者及び観光客の憩いの場として整備され,緑豊かな空間を創出した。広場内に芝生,さまざまな種類の樹木,遊歩道を整備し,自然の風を感じながら心地よく散策できるようにした。
埋立の際に,取り崩すことなく周囲を埋め立てた島には,鯨を奉っている「海童神社Jや町指定文化財の指定を受けている「アコウの木」が存在している。この「海童神社」から島の反対側へ縦断する遊歩道を樹木を伐採することなく整備し,自然環境を出来る限り残した。

イベント広場は,相撲の土俵兼用の屋根付きイベントステージとなっている。ここでは地元有川出身,第50代横綱,佐田の山(日本相撲協会 境川前理事長)の偉業を称えるとともに,青少年の育成を目的として毎年,町内の小学校で行われていた「佐田の山杯,こども相撲大会」が昨年度から当広場で開催された。その他,さまざまなイベントに幅広く使用されている。また,災害時の避難地としての役割も担っている。
今後,地元住民,及び,観光客の散策の休憩所としても大いに活用されるものと思われる。

5 おわりに
有川港マリンタウンブロジェクトは周辺の道路,岸壁,緑地等の整備を補助事業である港湾改修事業,港湾環境整備事業によって行った長崎県と,旅客船ターミナル等の整備を行った新上五島町とのコラボレーションにより実現したものである。
このプロジェクトの完成により今後,港が多くの人々に愛され,旅客ターミナルとしての機能だけでなく,イベントや休息,災害時の避難場所等,幅広く地域の皆さんに活用され,人々の交流の場そして,にぎわい空間の場として活用されることにより,江戸時代より鯨で活況を呈したあの,ありかわ浦の活力を取り戻すことを大いに期待したい。

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