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2010年7月豪雨による災害と大規模災害時の応援体制について
中野道成

キーワード:応援体制、ゲリラ豪雨、大規模災害

1.はじめに

宮崎県の南西部に位置する都城市や小林市、串間市などでは、平成22年7月2日から4日にかけて、梅雨前線に伴う集中豪雨により、都城市の一級河川大淀川水系丸谷川や串間市の二級河川本城川、市木川の3河川の観測所で氾濫危険水位を突破し、河川の氾濫や土砂災害など甚大な被害が発生しました。
本県では、大規模災害の発生に備えて、平成22年度から大規模災害時の公共土木施設災害復旧における全県的な応援体制を開始しており、今回の災害で初めて当該体制の運用を行ったことから、本稿では今回の豪雨状況と応援体制の実施状況について報告します。

2.大規模災害時の応援体制について
○応援体制設置の目的

近年は、ゲリラ豪雨とも呼ばれる豪雨が各地で相次いで発生し、大規模な水害や災害をもたらしています。本県においても、平成19年には県北の一部地域で局地的な豪雨があり、その周辺地域での災害は少ないものの、その豪雨のあった地域では河川の氾濫や土石流の発生により、道路の崩壊などが数多く発生し、集落の一部が孤立するなどの災害が発生しました。このようなゲリラ豪雨は、その発生の予測が困難であり、また局所的に非常に激しい雨をもたらすことから、その地域では大規模な災害が発生することが予想されます。
大規模な災害が発生した場合、これまでの本県の事例では、大規模な災害を受けた地域を管轄する土木事務所長等からの応援要請を受けてから、県土整備部の本庁各課及び部内の他土木事務所等から災害業務の応援職員を派遣していましたが、応援する職員の選定や旅費、派遣する期間などの事務手続きをその都度取り決めていたため、短期間で応援職員を派遣することが困難でした。このため、災害時の応援職員を予め選定しておき、県の所管する公共土木施設等が大規模な自然災害によって著しい被害を受けた場合に、災害復旧事務に習熟した職員を災害が発生した土木事務所等へ速やかに派遣し、迅速な被害情報の把握や緊急工事の実施等を行うことで、当該地域の生活・社会基盤を早期に回復し、民生安定を図る「大規模災害時の応援体制」を平成22年4月から開始しました(図1)。

○チーム体制

災害時の応援職員を被災直後からの初動対応期間(概ね10日間)に派遣するチーム(初動対応チーム)と被害の全体概要が判明してから災害査定までの期間に派遣するチーム(査定応援チーム)に編成し、被災した地域の災害復旧の業務応援を行う体制としています(図2)。
初動対応チームは被災直後から派遣されるため、情報の錯綜など想定外の事態が起きた際にも臨機に対応できるよう、応援職員の中から本庁各課の課長補佐級職員をチームリーダーとして任命します。また、査定応援チームは災害査定の経験が豊富な職員を任命しておき、被害の少ない事務所の応援職員を大規模な被災のあった事務所へ派遣し、原則2週間で次の応援職員へ引き継ぐこととしています。

○任命及び派遣

県土整備部の災害対応のない本庁各課及び各出先機関の長は、毎年度当初に所属職員の中から、災害復旧事務に習熟した者を選定し、その選定された職員を県土整備部長が災害時応援職員として任命します。
県土整備部長は、大規模な災害を受けた現地機関の長の要請に基づいて、災害時応援職員の所属長と協議し、応援チームの派遣を決定します。

○主な業務

初動対応チームは、国土交通省や市町村及び関係機関等との連携、被災施設等の調査や災害対策に必要な情報の収集及び伝達、災害対策の技術的指導及び応急措置の指示、応急工事の必要箇所及び工法等の調査や検討などを行うこととしています。
査定応援チームは、災害復旧事業の計画立案に必要な測量や設計委託等費用の積算、災害復旧工法の検討や工事費の積算、実施している応急工事等の現地確認、災害査定申請に必要な資料の作成などを行うこととしています。

3.7月2日から4日にかけての豪雨の概況

平成22年7月2日から3日にかけて、九州南部は太平洋高気圧の周辺部となり、湿った空気の流れ込みによって大気の状態が非常に不安定な状態となりました。このため、宮崎県南部では2日夜遅くから降り始め、都城市では時間134㎜、24時間で400㎜を超す局地的な大雨となり、大淀川水系丸谷川等ではん濫危険水位を超過する状況となりました。
この豪雨によって、人的被害は行方不明者1名、住家被害は全壊2棟、半壊1棟、一部破損2棟、床上浸水41戸、床下浸水81戸の被害が発生したほか、都城市の丸谷川や庄内川では急激に水位が上昇し、護岸等の被災、流域の住宅及び水田が溢水により浸水するなど、沿川で甚大な被害が発生しました(写真1)。

今回の災害の特徴として、県管理河川全体の災害報告106箇所のうち、都城市域を管轄する土木事務所の河川災害は76箇所と7割を超え、また1箇所に複数工区が多く存在し、最終的には約200工区程度の河川災害であることが判明しました。

4.応援チームの派遣

本県では、今回の災害において、測量設計業協会との災害協定による支援協力を受け、被災箇所の調査を実施した結果、特に浸水被害が集中していた丸谷川と庄内川で大規模な災害が発生していたことから、現地の土木事務所長から災害応援チームの派遣要請を受けた県土整備部長は、7月5日から9日までの5日間に初動対応チーム(6名)を、さらに災害測量の成果が集中する7月中旬から査定終了予定である9月3日までの約40日間に査定応援チームを派遣することを決定しました。
特に、初動対応チームの派遣に関する調整が土日に重なったため、5日の月曜からの派遣について調整が難航することも考えられましたが、予め任命している応援職員の中から被災地域の地理に詳しいメンバーを中心に選定を行うことができました。
また、査定応援チームは、査定までの作業行程を考慮し、毎週2名から最大4名の応援職員を派遣することとしました。
7月5日朝には、河川課から初動対応チームの職員へ当該豪雨の被災概況や応急工事の留意点、派遣期間での主な作業内容などを伝達し、初めての応援チームが被災地である都城市へ出発し、現地では災害箇所の現地調査や応急工事の検討、関係機関との連絡調整や管内の被害状況のとりまとめ、資料作成等を実施しました。応急工事は、建設業協会との災害協定に基づいて緊急工事の調整や資機材の調達等を行ったため、迅速な対応を行うことができました。
また、6日には九州地方整備局の防災ヘリ「は
るかぜ」から被災地の画像をリアルタイムで伝送
してもらうことで、現地と離れている河川課でも被災状況を把握することができました。
今回の豪雨災害を受け、本県では特に被害の大きい丸谷川や庄内川などの被災施設の早期復旧に向け、被災状況の把握や今後の改修に向けた復旧方針等の技術的支援や助言を受けるため、国土交通省に対して災害緊急調査を要請し、8日には本省防災課の大谷総括査定官などの専門家による調査(写真2)が実施されました。再度災害防止の観点から改良復旧の必要性などに関することや被災施設状況から査定申請で考慮すべき事項などの助言を頂くことができ、その後の事前協議や査定申請、災害関連事業採択までの一連の作業を円滑に進めることができました。
さらに、7月20日から査定終了予定の9月3日までは査定応援チームを合計20名派遣し、応援職員は、査定までの作業行程に応じて査定図面の作成や査定設計書の積算等を行い、査定期間は査定設計書の修正業務等を行いました。

5.応援チーム派遣制度の結果検証

初動対応チームは被災直後から土木事務所と一体となって資料作成を行い、災害緊急調査に同行するなどし、事務所職員の負担の軽減を図れたものと思われます。また、査定応援チームは、災害の少なかった他の9事務所から総勢20名の応援職員を派遣してもらい、災害査定に向けての作業を行いました。
災害測量成果の納品の遅れなどで一時、査定準備の作業が滞ることもありましたが、約200工区もあった河川災害をはじめ、2箇所の災害関連事業を申請できました。さらに査定期間中も昼夜を徹して査定設計書の修正作業などを行い、無事査定を完了することができました。今回初めて災害時応援チームを派遣し、期待された成果を挙げることができましたが、大規模災害時の応援体制の改善と拡充を図るため、応援チームに動員された職員から意見聴取を行ったところ、次のような意見がありました。

○初動対応チームより
  1. 現地調査等で複数の班に分かれて業務を行うことも考えられるので、2人1組で作業遂行できるように公用車、パソコン、カメラ等を準備する必要がある。
  2. 災害の規模がさらに甚大である場合は、応援要員を増員させ、より短期間で初動対応を行う必要がある。
○査定応援チームより
  1. 事務所職員と応援職員の作業スペースは同じ場所で行う方が効率がよい。
  2. 2週間で次の応援職員に引き継ぐため、進捗が判りにくい。
  3. 災害関連事業等を申請するような災害の場合は、被災直後から査定終了まで同じ応援職員が一貫して支援する方が良い。
  4. 応援職員は他の事務所から派遣されるため、被災箇所の地理情報が非常に重要である。
  5. 事務所職員と応援職員それぞれの進行管理を行い、業務を適切に配分する総括リーダーが必要である。

6.おわりに

今回、災害緊急調査や工法検討、事前打ち合わせなど、国土交通省をはじめとした関係機関の多くの皆様のご支援を賜り、迅速な被害状況の把握と復旧活動の実施に取り組むことができましたことを深く感謝します。
今回初めて、大規模災害時の応援体制を実践してみたことで、様々な課題等が確認することができました。いつ発生するか判らない自然災害によって被災した土木施設を早期に復旧することは私たちの使命でありますので、今後も応援体制の検証を行いフォローアップしていくことで、より効率的に運用が図られるよう取り組んでいきたいと考えています。

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