鹿児島県における今後の社会資本整備のあり方
鹿児島県 土木部長 渡正昭
1 社会資本整備の必要性
鹿児島県は、南北600キロという広大な県土を有し、2つの半島と28もの有人離島(全国4位)からなる地理的条件から、道路延長が長く(県管理延長4,400㎞・全国7位)、また、本土と離島をつなぐ多数の港湾・空港を有するなど、県土を結ぶ交通ネットワークの整備が重要な課題である。
また、シラスなど雨に弱く崩れやすい特殊土壌に県土を覆われ、毎年のように、台風や梅雨期を中心に災害が多発しており、さらに、桜島や新燃岳等の火山を抱え、県民の生活と暮らしを守るための公共事業の果たすべき役割は非常に大きい。
このようなことから、必要な社会基盤整備を進めてきたが、昨今の危機的な財政状況から、将来とも持続可能な行財政構造を維持・構築するため、平成17年に県政刷新大綱を策定、普通建設事業費を3割~5割程度削減することとした。
このため、限られた財源のより効率的な活用の観点から、メリハリをつけた社会基盤整備に努めることとして、平成19年2月に「今後の社会資本整備のあり方」をとりまとめたところである。
2 「今後の社会資本整備のあり方」
県政の基本的な考え方である「力みなぎる・かごしま」を実現するため、地域経済の着実な振興に寄与する基盤整備を図るとともに、県政の重要なテーマである県民の安全・安心の観点から、県内のどの地域に住んでいても、すべての県民が安心して暮らせる郷土づくりに努めることとしている。
具体的には、以下の4分野に資する事業を重点事業として位置づけ集中的な整備に努めている。
① 県土をつなぐ陸海空の交通ネットワークの構築
② 鹿児島が全国に誇る農林水産業のさらなる振興
③ 魅力ある観光かごしまづくり
④ 県民の生活と暮らしを守る安全な郷土づくり
なお、重点事業以外の事業については、「地域密着型事業」として、地域事業連絡会などにより、地域の実情や市町村の意向を踏まえ、優先度を判断しながら進めることとしている。
3 主要事業
① 道路整備
南の拠点かごしまを実現するため、東九州自動車道、南九州西回り自動車道の整備を促進するとともに、これらを補完する地域高規格道路を集中的に整備、高速交通ネットワークの形成を目指している。
また、離島幹線道路として国道58号の整備に取り組んでいる。
② 港湾整備
海上輸送網の拠点として位置づけられている鹿児島港、志布志港、名瀬港等の重要港湾の整備を推進し、国内外の輸送需要の増加や物流システムの変化等に対応するとともに、観光振興や県民の利便性向上を図っている。
③ 河川・砂防事業
川内川、米ノ津川の河川激特事業や南大隅町、奄美大島の砂防激特事業など、甚大な災害を受けた地域における防災対策を重点的に行っている。
また、整備及び自力避難が困難な高齢者等が利用する施設を保全する災害防止施設の整備に取り組むとともに、警戒避難体制を支援する防災情報の提供を推進している。
4 今後の課題
(1)「増やし」、「広げ」、「生かす」
平成23年、九州新幹線が全線開通、北部九州のみならず関西圏までダイレクトにつながり、観光など交流が活発化している。
開業効果を県下全域に「増やし」「広げ」「生かす」ために、観光をはじめとする様々な分野で取り組んでいるが、社会基盤整備にあっても、新幹線駅と各地を結ぶ道路整備など、引き続き取り組んでいく必要がある。
なお、新幹線開業時には第28回全国都市緑化かごしまフェア(「花かごしま2011」)を開催し、目標を上回る96万人の来場者を得た。これを契機とした県民による持続的な緑化活動が各地で展開され、このイベントの成果として結実することを望んでいる。
(2)「本物。鹿児島県」
鹿児島県の魅力といえば、手つかずの大自然、昔ながらの食文化など、多彩な素材の持つ飾らない力強さや質の高い本物の素材である。
独自の自然が残る奄美群島では、屋久島に続く世界自然遺産登録を目指している。屋久島や奄美など自然植生や独特の景観など、地域の素晴らしさを大事に、自然環境や景観への一層の配慮が求められている。
また、日本の近代工業化に大きな役割を果たした近代化産業遺産群の世界文化遺産登録に向けて、九州・山口の関係県市が連携して取り組んでいるところである。本県関係では、旧集成館(造砲、造船、製鉄などの工場群跡)をはじめとする産業遺産が該当、桜島を眼前とするエリアにおいて、周辺の基盤整備と相まって、如何に歴史的な景観を形成していくかが今後の課題である。
黒牛・黒豚など、国内有数の畜産地域である大隅地域の畜産振興に資するべく、飼料穀物(トウモロコシ)輸入量全国2位の志布志港が、国際バルク戦略港湾の一つとして選定された。今後、飼料穀物の世界的獲得競争に勝ち抜くための戦略港湾としての整備が課題となる。
(3)防災対策の取り組み
東日本大震災を踏まえた防災対策の構築が今後の課題となるが、本県においても奄美地方において、2年連続して時間雨量130ミリを上回る豪雨に見舞われ、また、新燃岳や桜島の火山活動が活発化しており、想定を上回る事象に対する危機管理も含めた総合的な防災対策の取組みが必要と考えている。
5 最後に
本県では、引き続き厳しい財政状況が予想される中、今後とも、「力みなぎるかごしま」づくりに向けて、メリハリをつけた社会資本の整備に積極的に取り組んでいきたい。
また、東日本大震災など近年の激甚災害への対応は、災害常襲県である鹿児島にとっても極めて重要な課題であり、今後とも県民の安心安全の確保に尽力していきたい。