鶴田ダム再開発事業における大深度水中施工報告
内田智彦
櫻井祥貴
櫻井祥貴
キーワード:施工水深65m、機械化施工、飽和潜水、ダム再発、大深度水中施工
1,はじめに
鶴田ダム再開発事業は、平成18 年7 月に発生した川内川水系における大水害を契機に鶴田ダムの洪水調節容量の増量(最大7,500 万.から最大9,800 万.)を目的として平成19 年度事業着手、平成23 年3 月本体工事に着工した(図-1)。
一方、洪水調節容量の増量に伴い最低水位が低下するため放流能力を増強する必要が生じ、新たにダム堤体に放流管3 条(直径4.8m)の増設、発電用取水管2 条(直径5.2m ~ 4.8m)の付替を実施する計画である(図-2)。
しかし、本工事はダム運用を行いながら実施する必要があることから、ダム上流側の水位を極力下げず(最大水深65m)施工しなければならない。従って、堤体削孔を安全に施工するため、ダム上流側に大規模仮締切を設置する必要がある。
本論文では、ダム運用を行いながら不確定要素の多い大深度水中施工を効率的に実施するための施工方法、施工状況、技術的検討項目について報告する。
2,上流締切台座工
2,1 目的
上流締切台座工は、堤体呑口部削孔、制水ゲート、ベルマウス等の据付工事をドライ状態で行うため、堤体に大規模仮締切を設置する工事である。上流仮締切は、本工事を安全に施工するために最も重要な構造物の一つである。また、本工事における上流仮締切の支持方式は現地条件を精査し、
「台座コンクリート方式」を基本とした(図-3、表-1)。
「台座コンクリート方式」を基本とした(図-3、表-1)。
2,2 台座コンクリートの施工
台座コンクリートの施工フローを図-4に示す。本工事における台座コンクリートは規模が従来の事例と比べてより大きく、増設放流管部については大規模なフーチングの取り壊しが必要なことから、台座コンクリートの施工に当たっては、入札時に技術提案を求め極力水中施工を減じた船上からの施工方法を採用した。
次節に各工種の施工概要及び特筆すべき事項について述べる。
2,2,1 掘削工(岩盤掘削、フーチング撤去)
最大水深65m、視距50㎝程度の不陸のある湖底にて、潜水士が水中ブレーカーを操作して行うフーチング撤去や岩盤掘削では、効率が悪く作業日数が増える可能性がある。
本工事では、フーチング撤去と岩盤掘削は、潜水作業日数の軽減及び施工の確実性を目的に、ケーシング掘削機による機械化施工を採用した。施工方法は、船舶に搭載したGPS 施工管理システムで掘削位置を決定するが、予め掘削箇所の中心位置座標を登録しておき、それに基づき位置決めを行っており(図-5)ケーシングで掘削出来ない箇所については、掘削同様GPS 施工管理システムを用い、クラムシェルによる岩浚い及び水中ブレーカーによる掘削を実施している。また、掘削後水中コンクリートを打設することから、水中での岩級判定区分基準を策定し、CL 級以上の岩盤であることを確認するため、掘削ズリによる陸上での目視に加え、潜水士のハンマー打撃による判定を実施した(図-6、写真-2)。
一方、当掘削工事は予想以上に難航し、ケーシングによる施工能力が当初想定された能力に至らず、工程が遅延する状況であり、施工能力が著しく低下した要因として、①岩盤掘削箇所に、様々な支障物(ワイヤー等)が多々見受けられ飽和潜水士による除去作業を要したこと(写真-3)、②貯水池底部不陸面の影響を受け、ケーシングが噛み合うまで時間を要すこと、③フーチングの位置、形状が当初の図面と若干異なる等、不確定要素が多いことが考えられる。
そのため、ケーシング掘削工法に加え堤体フーチングに自由面を持たせ破砕しやすさを目的とした補助工法としてダウンザホールハンマによる削孔を追加で実施しており、工程の遅延を最小限に留めている。
2,2,2 飽和潜水システム
本工事は、前述のとおり機械化施工の補助工法として人力での潜水作業が必要となる。しかし、潜水作業は深度が深くなると潜水時間の制限、減圧時間の増大、呼吸ガスの管理などの制約条件が厳しくなる。このため、作業期間中ダイバーを作業水深と同じ気圧のチャンバー内で生活させ、作業終了後に減圧し、大気圧に戻す飽和潜水を採用した(図-7)。これまでに飽和潜水士が減圧症等の症状は発生しておらず、安全性を確保された潜水技術である。
2,2,3 チッピング、スライム除去
台座コンクリートと堤体の一体化を目的として堤体面にチッピングを実施し、コンクリート打設前にスライム除去を行っており(写真.4)、本作業は機械化施工をベースとし、機械で施工出来ない箇所のみ飽和潜水士による人力施工を実施した。特に、スライム処理においては、木材等支障物が多く見受けられたため、エアーリフト呑口において人力除去作業を行う必要が生じた。
2,2,4 大型パネル型枠設置
当初計画では、湖面上にて型枠を組立し、専用の台船にて一括据付としていたが、安全性確保の観点から分割してダム天端作業構台上からオルテレーンクレーンで吊り上げ、GPS 及び飽和潜水士による位置確認のもと設置した。また支柱部の掘削においても「ケーシング掘削機」を用いて施工を行ったが、2,2,1の記載の通り予想以上に難航し、特に②・③の影響が大きく、また、削孔の鉛直性の精度を重要視していたことから、ケーシング先端部に鋼材等による補強を飽和潜水士による作業を行い、削孔の施工能力の向上と鉛直性の精度向上を図った。これにより所定の位置に据付が行われた。
2,3 台座コンクリート設計変更
大水深での施工において、仮締切内抜水時に最大1,822t の浮力が作用する。当初設計において、台座コンクリートは、その重量により浮力に対する浮き上がり及び滑動について安定性を確保することとしており、重量で浮力に抵抗できない発電側台座コンクリート(1 号、2 号)のみ水中グランドアンカーを併用した設計とした。しかし、水中グランドアンカーの設置は水中作業を伴うため、飽和潜水士による作業を軽減し、工程短縮を目的として施工実施する発電側2 号台座コンクリートのアンカーを当初の3 本から0 本に省略することとした。
2,3,1 せん断キーの設置
発電側2 号台座コンクリートのアンカー省力に伴い、発生する最大浮力1,822t に対して、台座コンクリート、仮締切、大型パネル型枠、根固めコンクリートの重量で抵抗する構造とした。本工事では、台座コンクリートと大型パネル型枠間の荷重伝達を確保するため、剪断キーを設置することとした。
2,4 水中コンクリート
今回、台座コンクリートは水中不分離性コンクリートを使用した。水中不分離性コンクリートは、自己充填性の確保と台座コンクリートの発熱量低減及び要求される不分離性(水中気中強度比80%以上)を満足するものとし、現地の実機による配合試験を実施し、品質を確認して施工を行った。
3,まとめ
本工事における大深度水中施工は、作業期間に制約があり、不確定要素の多い工事である。それ故、日々全体工程に遅延が生じないよう適切に設計変更、工程短縮に向けた施工方法の検討を実施している。再開発事業は非常に難しい事業であるが、今後も安全かつ円滑に工事を実施していくこととする。