一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
魚がのぼりやすい川づくり
~荒瀬ダム魚道の遡上効果について~

建設省 八代工事事務所
 調査第一課長
榎 田 範 男

建設省 八代工事事務所
 調査第一課 洪水予報係員
弓 削 里恵子

1 はじめに
球磨川は,九州の中央部に位置し,流域面積1,880㎢,幹線流路延長115kmの九州で3番目に大きな河川であると同時に日本3大急流河川の一つでもあり球磨川下りなどで人々にも親しまれている。流域の多くを占める九州山地には自然が多く残っており,球磨川では,「アユ」,「オイカワ」,「ウグイ」,「ヨシノボリ」等を代表とする22科58種もの魚類が生息している。
平成5年に球磨川が「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」のモデル河川に指定され,球磨川全体の魚類の遡上環境の基本方針が策定された。
荒瀬・瀬戸石ダムが「ダム水環境改善事業」の魚道設置事業として採択された。
現在,下流から設置および改良が進み,新前川堰,球磨川堰,荒瀬ダムについて魚道の設置および改築を終えている。
今回は,これら球磨川の「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」のうち昨年度完成した荒瀬ダム魚道の設置および遡上効果について報告するものである。

2 荒瀬ダム魚道設置までの経緯
(1)荒瀬ダム諸元

(2)荒瀬ダム瀬戸石ダム魚道計画検討委員会
球磨川においては,平成5年に「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」に指定され現在下流より具体的な整備を進めているところであるが,特に荒瀬ダム・瀬戸石ダムについては,本川中流部に位置し,魚道が設置されていないことから,アユを主とした魚類の上流への自然遡上が全くできない状況であった。さらに,厳しい地形条件である上に,ダム高が25m,上下流の水位差16mと落差が大きく,発電用ダムのため発電量によって水位の変動が生じるなど,魚道を設置するためには高度の技術的検討が必要となった。そこで,学識経験者,研究機関,管理者である熊本県企業局,関係自治体の首長から構成する「荒瀬ダム・瀬戸石ダム魚道計画検討委員会」を設置し魚道計画の検討を行った。

(3)対象魚種
球磨川には,22科58種もの魚類が生息している。特に球磨川の下流域に位置する荒瀬ダム周辺に生息している魚類の代表的なものは「アユ」,「ウナギ」,「ヨシノボリ」,「モクズガニ」である。これらの魚種を設計対象魚種とした。これら魚類の内特に遊泳力が小さいと考えられる「稚アユ」を設計上特に配慮した。また,「ヨシノボリ」をはじめとする底生魚にものぼりやすい魚道となるように検討を行った。

(4)水理模型実験
実際の1/2の大きさの模型を使って土木研究所に委託し実験を行い,魚道内の流れの状況を測定,確認して魚がのぼるのに最も適した構造を工夫した。また,実際の大きさの模型を用いた遡上実験を行い,実際にアユがのぼることを確認した。

(5)魚道の形式および基本諸元
① 魚道対象流量
魚道流量は,電気事業者の要望および魚類遡上の実験より0.5m3/sとし,魚道全体に全量通水する。常時0.5m3/sに放流するために,ダムの貯水位の変動に対応できるように無動力式の流量調節ゲートを設置している。

② 魚道の形式および基本諸元
・基本配置:ダム本体左岸側に開渠方式
・魚道形式:アイスハーバー型
〈特徴〉非越流部と潜孔を有しているため,流れが安定する。非越流部の背面に静穏域ができ,ここが魚類の休憩場所になる。

・魚道幅:B=2.0m
・魚道勾配:I=1/15(平均流速1.0m/s)
・高低差:H=15~16m
・魚道延長:L=335mスイッチバックに配置
・越流水深:h=0.2m
・プール間水位差:h=0.1m

3 効果の検証
(1)調査概要
魚道が設置される以前の平成10年度より荒瀬ダム周辺の魚類調査を行っている。

(2)調査結果および考察
① 荒瀬ダム魚類調査
平成11年5月に荒瀬ダム魚道の試験通水を行い魚道内の遡上調査も併せて行った。
本格通水は,平成12年4月より実施されている。
設計対象魚種のアユやウグイ等の回遊魚やトウヨシノボリ,ウナギ等の底生魚が17種確認された。今年5月のアユが目視で200匹以上確認され,魚道には,アユのハミ跡も多く見られた。これは魚道を遡上期の移動経路として利用し,一時的には,生息場所として利用していることがうかがえる。

② アユの産卵場調査
平成11年秋季調査では,荒瀬ダムから瀬戸石ダム区間に流入する支川一の俣川で,アユの産卵が確認された。
一般にアユの産卵場は,河床が変化しやすい浮き石河床の瀬が適しており,支川等の合流部や端の周辺も水流が不規則になるために河床が不安定で浮き石状態となりアユの産卵場に適しているといわれている。
支川椿木川では,アユの生魚が初めて確認され合流部には産卵適所がある。

③ 底生生物調査
確認された底生生物は,2地点ともハエ目,カゲロウ目,トビケラ目の出現が多かった。確認された種類数は,設置前に比べて増加がみられ,これは魚道からの0.5m3/sの流量が下流地域の河川環境に影響を及ぼしていると考えられる。

4 荒瀬ダム魚道観察施設
荒瀬ダム魚道には,魚道側面に観察窓を設け間伐材を利用した2階建ての観察施設「球磨川あゆみ館」を隣接し,8月から一般開放している。観察窓からは,アユやヨシノボリが遡上する様子をガラス越しに観察することができる。

5 おわりに
荒瀬ダム魚道の効果は,魚道内でアユなどの回遊魚が確認されていることから,魚道が遡上期の移動経路となり,一時的には生息場所として利用されていることがうかがえる。
しかし,アユの降下や孵化後生態に関しては不明である。今後,荒瀬ダムを利用したアユが,降下する時期(10月の後半から11月)や,遡上する時期(2月から3月にかけて)に荒瀬ダム魚道および荒瀬ダム上流,下流区間で調査を行いアユの遡上と流況,魚道との関わり,環境の変化について引き続き調査,検討する必要があると考えられる。
また,魚道観察施設「球磨川あゆみ館」には,荒瀬ダム魚道には,子供達や一般の見学者が多数訪れている。今後,魚道を利用した散策路やサイクリングロード,観察施設を充実させ,周辺の活性化に役立ち,また,より充実した環境学習の場として大いに期待できる。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧