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大淀川水系激甚災害対策特別緊急事業を終えて
~大淀川における治水安全度の向上と減災対策について~
鶴﨑秀樹

キーワード:治水、環境、防災情報

1.はじめに
大淀川は、平成17年9月の台風14号により、記録的な豪雨に見舞われ、計画高水位を上回る洪水により多くの家屋、田畑が甚大な被害を受けた(写真-1)。この洪水被害を受け、国土交通省と宮崎県では「大淀川水系激甚災害対策特別緊急事業」(以降、激特事業という)が申請・採択され、平成21年度までの5カ年で大規模な河川改修を行った。(一部については平成22年度まで事業を実施)

本事業は、築堤や河道掘削などの河川改修に加えて、輪中堤・宅地嵩上げ、下水道との連携強化等の流域対策を実施している。また、まちづくり段階からの治水の取り組みや住民がわかりやすい防災情報の提供などのソフト対策も実施する等、『「みずからまもる」プロジェクト』(※みずからまもる:水からまもる、自らまもる)と名付け、水害に強い地域づくりを目指している。
本稿では、激特事業を行うにあたり、特に環境や景観に配慮した事業の一部と減災対策として実施した河川情報システム等の整備について、その概要を紹介する。

2.大淀川の特徴

大淀川は鹿児島県曽於市末吉町中岳(標高452m)に発し、大小の支川を合わせて日向灘に注ぐ、流域面積2,230㎞2、幹川流路延長107㎞の一級河川である。
流域の気候は、年平均気温が15~17℃あり、日本でも温暖な地域に属している。年平均降水量は2,700㎜程度であり、一部では3,000㎜を超す多雨地域となっている。6~7月の梅雨期及び8~9月の台風期に雨量が集中しており、特に既往の大洪水のほとんどが台風によることが特徴となっている。この温暖多雨な気候により、生息・生育する生物も多様性に富む。流域の自然環境としては、上流部のスギ・ヒノキ等の森林地帯、中流狭窄部は樹齢100~300年の自然林と人工林が混在し、宮崎の河川を代表する大淀川の原風景を見ることが出来る。下流部においては都市化が進み人為的環境が色濃いものの河口付近ではアカメが生息し、また、アカウミガメの産卵場が存在するなど豊かな生物環境が保持されている。
さらに、支川本庄川流域においては日本有数の「原生の照葉樹林帯」など豊富な森林資源を上流に抱え恵まれた自然環境から、九州屈指の清流で豊かな生態系が形成されている。

3.自然環境や景観に配慮した主な事例
以下に今回の激特事業における自然環境や景観に配慮した主な事例を紹介する。

3-1 大淀川下流部河道掘削

当河道掘削は、激特事業の一環として、平成18年度に流下能力の拡大を目的として、多自然川づくりの思想のもと行った。当掘削箇所は、大淀川の5~6k付近の感潮区間に位置しており、左岸側湾曲内岸部にあたる。流下能力が低く水位上昇を引き起こすことから、河道(高水敷)を掘削することとした。掘削量は約18万立方メートルである。
工事前の状況は、堤防に近い場所は芝生広場として市民に広く利用されている一方、広場と水際の間はツルヨシやオギが広がるやや単調な草地であった。このため、河川利用の観点から芝生広場は現況のまま存置し、芝生広場から水際までの間を掘削することとした。
掘削にあたっては、流下能力確保の観点から現況の高水敷を約1.5m掘り下げた。また、多自然川づくりの思想のもと、既設のワンドを保全すること、掘削面に微少な凸凹によるアンジュレーションをつけ平坦に仕上げないこと、掘削面を平水位より若干掘り下げることをポイントとした。堤防法尻掘削部の浸食対策として施工する護岸については、覆土形式の護岸とし、植生の復元が容易になるような施工とした。工事前後の本地区の状況は、写真-2、3のとおりである。

なお、今後の多自然川づくり、掘削工事等に資するため、浸食、堆積箇所、量の分析といった土砂堆積に関わるモニタリング、工事前後の植生面積、群落、生育比高等の状況の把握といった自然環境にかかるモニタリングを各々関連づけながら実施している。
調査の結果についてはここでは詳細は述べないが、掘削面に微少な凸凹によるアンジュレーションをつけ平坦に仕上げないこと、掘削面を平水位より若干掘り下げるような掘削を行えば、河川固有の湿生植物群落を再生することが可能であることがわかったが、適度な洪水が発生しない場合は植生の遷移が進行する可能性があり、植生の維持が難しいことが示唆された。遷移を引き起こす主な群落としてはツルヨシ群落であり、ツルヨシ群落の繁茂により、洪水時の流速の低下、さらには土砂の堆積が生じている可能性も考えられる。
これらの点については、不明な点も多いことから、今後も引き続きモニタリングを進めていくことで、河道掘削と成立する植生及びその維持に関する知見が得られるものと考えている。

3-2 福島地区

福島地区は大淀川右岸の4~5k付近に位置する地区で、堤防天端幅及び断面が不足することから、堤防の腹付けとそれに伴う樋管の継ぎ足しを行うこととしており、激特事業の河道掘削等で発生した土砂を有効活用することにした。
本地区は宮崎市中心部に位置し、宮崎市景観条例において重点景観形成地区に選定されていることから、特に周辺の景観に配慮することが求められ、日常の散策利用等も考慮し下記のポイントに留意した。
  1. 堤防、低水路、水際含めたトータルバランスを確保する。
  1. 当地区は度重なる災害をうけたところであり、堤防や護岸の形状が不統一、不連続となっていることから景観的な一体感を確保する。(平面的・縦断的にある脈略のない凸凹を取り除く)
  1. 散策機能及び景観に配慮した堤防・護岸形状を決定する。
  1. いびつな石積み護岸の切り下げを行い、遠景眺望景観を改善する。また、現状の川原の散策路は水面まで5mもの高低差があることからできるだけ水辺へ近づける。
  1. ディテール・デザインの検討
  1. 堤防の勾配・表面の仕上げは適度なアンジュレーションをもたせ、石積み護岸はできるだけ角をつくらない。また、コンクリート面はできるだけ露出させない等。
検討にあたっては、現況の景観の把握から実施し、現在の良好な景観を構成する要素についてはできる限り活かす堤防構造とし、多くの樋管でデザイン性に優れる門柱レスの構造を採用するなど、景観デザインをトータルで検討した。検討にあたっては、学識経験者の指導を仰ぎ、模型によって完成後のイメージを具体化し、複数回の協議を行うことで築堤計画を策定している(写真-4)。
完成した状況は写真の通りである(写真-5)。

4.ソフト対策
流況を監視する固定カメラや防災ヘリからのリアルタイム映像等の迅速な配信をインターネット等を通じて地方公共団体等の防災関係機関、地域住民へ情報提供しているところであり、地域住民が適切な行動ができる一つの目安として、どういう形で情報提供するかが重要となる。主な情報のながれを図-1に示す。

このような各種情報の伝達・提供を含め、台風14号災害による深刻な被害の軽減を図るため、河川管理者による河川改修のみならず、流域全体でのハード対策・ソフト対策に関して、学識者等(報道・自治体を含む)による「大淀川水害に強い地域づくり委員会」を設置し検討を行った。検討結果については、「水害に強い地域づくりのあり方について(提言)」としてまとめられ国土交通省・宮崎県等に提出された。提言は、「水害発生前」、「水害発生中」、「水害発生後」の3段階を大きな柱とし取りまとめられており、国土交通省が行ってきたハード対策と併せて取り組んでいるところである。
特に各種情報については、どのような情報が配信されているのかを常日頃から周知しておき、いざという時に活用されることで効果が得られるものとなる。

ここで、提言に含まれるいくつかの取り組みについて紹介する。

①インターネットによる河川のリアルタイム画像の配信
平成18年4月から計13箇所の動画及び静止画を宮崎河川国道事務所ホームページで配信しており、地域住民を含めリアルタイムで河川の状況を確認することができる(図-2)。

②浸水情報板の設置による過去の災害情報の掲示
公園や公民館などの人が集まる場所に、過去の浸水情報や、浸水想定区域図による浸水深を記した看板を設置しており、災害への意識高揚を図ると共に、安全且つスムーズな避難行動と洪水による被害の最小限化を図る。また、古い民家などには浸水深等が記録されているところもあり、洪水が発生した際にどのような状況になるのか、避難場所や避難ルート等を、常時より想定しておくことも重要である (写真-6)。

③河川水位の危険度を表すレベル表示板の設置とホットライン
河川水位を危険度に応じて、レベル1~5の5段階で表示し、地域住民の方が、危険度の状況を理解しやすいように表現を変えた (図-3)。
また、レベルの状況に応じ出先の事務所長より市町村長へ直接連絡(ホットライン)し、避難勧告・避難指示等の判断材料にもなっている。ただし、この危険度レベルは避難に必要な時間も考慮して設定されており、レベルに達してから必ずはん濫するということではないことを理解しておかなければならない。

④水門等操作状況把握システムの導入
平成19年度から携帯電話を利用し、既存システムを活用した現地の状況を速やかに把握できるシステムの構築を図っている (図-4)。

⑤災害の記憶を風化させないための取り組み
自らが生活する地域で発生した過去の災害を風化させず語り継ぎ、防災意識の高揚を図ると共に、災害に対する心構えとして幼いときからの防災教育が重要と考えており、啓発活動を目的に各種冊子等を作成している (図-5、図-6)。

5.おわりに

大淀川水系激甚災害特別緊急事業等によるハード整備において、一定の治水安全度は向上したが必ずしも安全とは言い切れない。流域内の都市化(写真-7)、土地利用の変化、あるいは気象状況の変化などにより、それ以上の洪水が発生する恐れがあることを想定し地域住民の安全・安心を確保するため、ハード対策の進捗(写真-8、写真-9)とソフト対策との両輪を組み合わせ、いかに機能させるかにより、防災あるいは減災への対応がとれるものと考えている。
今後は、関係機関はもとより、地域と協働しそれぞれの地域に合ったソフト対策をより充実していくための取り組みを行うことが必要である。

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