〈魏志倭人伝の世界〉
吉野ヶ里歴史公園「基本計画」
吉野ヶ里歴史公園「基本計画」
佐賀県土木部都市計画課
公園緑地対策室長
公園緑地対策室長
大 橋 謙 一
1 はじめに
現在では,知らない人はいないほど,有名になった吉野ヶ里遺跡は,平成元年,わが国最大規模の環壕集落や物見櫓跡の発掘によって,日本人の永遠の謎とロマンとされた「邪馬台国」の姿を彷彿とさせ,魏志倭人伝に描かれた弥生時代の「女王卑弥呼」の世界を垣間見るにふさわしい遺跡として評価された。
そして,4年と8ヶ月が過ぎた今,全国から繰り広げられた吉野ヶ里遺跡見物は約750万人にも上っている。
この間,発見以来2年余りという異例の早さで国の特別史跡の指定がなされるとともに,平成4年10月には22haの国の特別史跡を中心とした約54haが「国営吉野ヶ里歴史公園」として閣議決定され,念願の国営公園化が実現,県民の願いがかなえられた。
さらに,平成5年3月には,特別史跡を囲むような形で約63haの県営公園区域が決定し,合わせて約117haの「吉野ヶ里歴史公園」が都市計画決定され,5月には,今後の整備に向けた「基本計画」が承認されたところである。
2 区域と規模
吉野ヶ里遺跡は,国指定の特別史跡区域(約22ha)に主要な遺跡が集まっているが,環壕集落は約40haにおよび,また,特別史跡区域以外にも重要な遺跡が分布しており,これらの遺跡約28haについては,県の史跡指定が見込まれている。
特に,吉野ヶ里歴史公園は,国営飛鳥歴史公園に次ぐ全国で2番目の国営歴史公園として閣議決定された歴史公園であることから,吉野ヶ里遺跡の総合的な保存と活用を図るとともに,魅力ある歴史公園としての機能,環境を整える必要があると考え,周辺区域約63haを県営公園区域として取り込むこととした。
3 基本計画の概要
(1)基本テーマ
【弥生人の声が聞こえる】
(2)基本理念
・吉野ヶ里遺跡の保存を通じ,本物へのこだわりを大切にする。
・施設の忠実な復元や,わかりやすい手触りの展示など,遺跡の活用を通じて,弥生時代を体感できる場を創出する。
・歴史と文化のふるさととして,日本はもとより世界への情報発信の拠点とする。
(3)基本方針
① 遺跡の保存と活用
吉野ヶ里遺跡の保存を図り,雄大な環壕集落等,日本の「クニ」の始まりと,魏志倭人伝の世界を想起させる遺跡の全体的な特色を活かした整備を進め,わが国が世界に誇る歴史文化公園とする。
② 魅力ある風景・環境づくり
弥生時代の景観を感じさせる整備を図り,強く心に残り,歴史のロマンが感じられる魅力ある風景の公園とする。
③ 新しい歴史文化の創造
国際的なつながりを持つ遺跡の多様で豊富な内容を,わかりやすく詳しく理解できるよう,博物館などの展示施設や見学施設,体験・学習施設,研究施設を整備し,楽しく学び,集い,新しい歴史文化を創造する公園とする。
④ 国際交流の拠点として
世界の代表的な遺跡との連携を図るなど,歴史文化を通じて世界の国々と相互理解を深め,国際交流の拠点となる公園とする。
⑤ レクリェーション環境の整備
四季を通じて,誰もが一日中気持ち良く,楽しく過ごせるよう,広場や遊び場など,憩い,楽しめるレクリェーション環境を整えるとともに,多様な催しや親切な案内など,サービス機能の充実を図り,楽しい歴史文化公園とする。
⑥ 地域新興の一翼を担う
広域レクリェーションネットワークの拠点としての役割を担い,まちづくりの核として,地域の活性化など地域に寄与する公園とする。
⑦ 段階的な整備の推進
今後の発掘調査,研究に基づいた整備を継続的に行い,長い時間をかけて発展成長していく公園とする。
4 土地利用計画
吉野ヶ里歴史公園は,国の特別史跡である環壕集落を中心として,神崎町側,三田川町側,東脊振側の三つのまとまった区域が付随している。この公園の全体の区域を,地形や遺構の分布状況等を勘案して次ぎの4つのゾーンに区分した。
(1)吉野ヶ里歴史公園ゾーニング計画図
(2)環壕集落ゾーン
環壕集落を中心とする主な遺構の集まるところは,遺構の総合的,本格的な復元を図り,当公園のシンボルゾーンとして,100戸以上に上る縦穴式住居,高床式倉庫群,物見櫓など,弥生の環壕集落の再現をはかる。
(3)古代の森ゾーン
脊振山系から続く丘陵地である公園北側のゾーンは,緑豊かな森が続く区域であるとともに,甕棺墓列などの遺跡が分布するところでもある。よって,景観,および雰囲気を醸し出す観点から,森の保全,整備を図る。
特に,本ゾーン北側部分は,往時の森の再現を図り,キノコ狩りなど森を通して様々な自然学習や生活体験ができるゾーンとして整備する。
(4)古代の原ゾーン
環壕集落の西側は,現況は広々とした水田地帯で,環壕集落との景観上,重要な位置を占めるゾーンであり,水田遺構の再現や弥生の草地の風景の再現を図り,のびのびとしたオープンスペースの中で,憩い楽しめる場として整備する。
(5)入ロゾーン
田手側東側の用地は,国道385号線に接し,また,かっての環壕集落の入口につながるところであり,メインの入口にふさわしい機能,環境を整え,情報サービス拠点として整備する。
5 今後の事業スケジュール
平成4年度に実施した基本計画の策定に引き続き,平成5年度は,基本設計を実施しているところである。
また,用地買収に着手するとともに,調整池や用排水路などの一部実施設計を行う予定である。
整備の方法としては,県営公園部分については,当面,入ロゾーンの整備から進めていく考えであり,平成6年度以降についても,用地買収の促進に努めていく考えである。
今後,国営区域の用地買収,整備と合わせて,できるだけ早期の開園を目指したいと考えている。
6 周辺整備の方向
〈景観対策〉
吉野ヶ里歴史公園は,わが国を代表する歴史公園として位置付けられるが,このためには,公園内の整備とともに,周辺地域についても歴史公園の周辺環境としてふさわしい整備が必要であり,周辺部に高い建物や違和感のある構造物などが無計画に立地しないように努める必要があると考えている。
〈関連公共施設の整備〉
吉野ヶ里歴史公園の全体が完成すると,公園利用者は飛躍的に多くなり,基本計画での試算によれば,年間約300万人の利用者があると予測している。従って,公園へのアクセス条件の改善は不可欠な要件であり,公園周辺地域全体を視野に入れ,新たな街づくりの観点も含めた交通網の整備が必要になる。
また,吉野ヶ里歴史公園の計画区域には,入口ゾーンと環壕集落ゾーンの間に,一級河川「田手川」が流れている。
田手川は平成3年度「ふるさとの川モデル事業」に指定され,平成6年度に基本計画を実施,翌年度より本格的な事業を進めていく計画であり,計画に当たっては,公園と一体となり,周辺の景観と調和した空間づくりが望まれるところである。
いづれにしても,吉野ヶ里歴史公園の整備に当たっては,道路,河川など,関連公共施設の整備と歩調を合わせた整備促進が不可欠である。
7 おわりに
全国でも2番目,規模は最大という国営歴史公園が「工場団地造成」を契機として誕生した。大陸から伝わった稲作文化が,ここ吉野ヶ里遺跡を中心とした筑紫平野で花開き,弥生時代の「クニ」の姿が,2000年の時を越えて,今,私たちの前に蘇えろうとしている。
佐賀県は,現在も稲作を中心とした農業が盛んなところであり,古代の稲作文化を築き上げた「弥生時代」の「クニ」が,佐賀県から発掘されたことは,決して偶然とは思えないものがある。
この歴史的風土や自然環境のすばらしさを生かした「吉野ヶ里歴史公園」の整備を通して,ハイテク時代の「心のふるさと佐賀」イメージを大いに売り出したいと考えている。
今後とも,本プロジェクトの推進に,ご協力をお願いしたい。