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西九州自動車道「唐津伊万里道路」における地すべり対策について
甲斐浩己
寺尾幸太郎

キーワード:地すべり、集水井、法面検討委員会、地域住民との情報共有

1.はじめに

西九州自動車道は、高規格幹線道路網の一環として計画された道路であり、福岡市を起点として、唐津市、伊万里市、松浦市、佐世保市を経由して武雄市に至る延長約150㎞の自動車専用道路です。西九州自動車道の整備により、所要時間の短縮や定時性・走行性の向上が図られ、地域の産業及び経済の発展に寄与するとともに、災害時における緊急物資の輸送や避難用道路としての役割が期待されています。
唐津伊万里道路は、西九州自動車の一部を構成する路線であり、唐津IC ~ 伊万里東IC(仮称)までの延長18.1㎞の道路です。これまでに「唐津IC ~ 唐津千々賀山田IC 間延長4.5㎞」を平成24 年3 月に「唐津千々賀山田IC ~ 北波多IC 間延長3.5㎞」を平成25 年3 月に供用した。
本論文は、唐津伊万里道路の北波多IC 付近で施工中に発生した切土法面の地すべり概要とその対策について取りまとめ、今後の類似事例の参考となることを期待し報告する。

2.地すべり地盤特性
2.1 地形概要

現地周辺は標高200m 程度以下の丘陵地を形成しており、東側斜面は急傾斜であるが、現地を含む西側斜面は緩勾配で、巨視的にはケスタ地形をなしている。今回の地すべり対象地は、丘陵地の山頂部平坦面から西側へ傾斜する斜面にあたり、全般に勾配の変化が激しく、起伏の多い地形をなし、滑落崖や末端部での石積みの変状等が明らかで、曲り地区と呼ばれているように河道が湾曲している状況である。
現地は、典型的な地すべり地形を呈しており、リニアメントに囲まれた地すべりブロックが形成されている。
2.2 地質概要

現地周辺の地質は、古生代第三紀の堆積岩からなり、周辺の一般走向は北西.南東方向で、南西へ5 ~ 20°程度傾斜している。地質構成は砂岩、泥岩、礫岩とそれらの互層を主体とする他、石炭層を挟んでいる。また、夾炭層周辺では凝灰岩を伴い、流れ盤すべりをなしている事例が多いことが報告されている(日本の古第三紀層と凝灰岩地すべり 横山ほか(2004 第43 回日本地すべり学会研究発表会講演集,PP.297 ~ 298))。
2.3 地すべり発生機構
(1)地質状況

過去の地すべりによる河道の湾曲やリニアメントで囲まれた地すべりブロックの地形、流れ盤(7 ~ 9°傾斜)と玄武岩の貫入と分布および過去の大規模な地すべり発生による撹乱帯を伴う地質構造がある。また、地下水は風化や亀裂の発達と開口で透水性が増し地下水供給を促進し、断層や難透水性の泥質岩が多層地下水面を形成している。
地すべり発生誘因としては、沢部の浸食、連続降雨・集中豪雨による斜面への地下水供給(平成22 年7 月6 日最大日降水量158㎜、7 月降水量470㎜で地下水位上昇と変位速度の増大)、切土による応力解放と土塊の荷重バランス低下、斜面の排水不良等が考えられる。
(2)地すべりブロックとすべり面

地すべりブロックは地形のリニアメント解読を行い、写真ー2の範囲とした。地すべり長さと幅の関係はL/W = 1.8 と一般的な平面形で妥当である。
地すべり面は、流れ盤(のり面に対する偽傾斜7~9°)構造で、特にスレーキング特性が高く粘土化しやすい夾炭層付近の凝灰岩攪乱粘土とし、地中変位も現地調査及び地盤傾斜計等により確認した。

3.地すべり対策概要
3.1 地すべり対策経緯

平成18 年度より道路掘削工事に着手したところ、5 段目法面掘削中に開削による応力解放と思われる表層崩壊が発生したため、防災ドクターによる助言を受け表層崩壊対策(のり枠+鉄筋挿入工)を実施するとともに、調査ボーリングを実施し地すべりの地盤変位観測を開始した。観測の結果、ボーリング孔内に設置した孔内傾斜計が大きく変位し、地すべりブロックの移動が認められたため、大規模地すべりの可能性も踏まえた地すべり対策工法を検討した。
3.2 地すべり調査モニタリング

北波多地区地すべりモニタリングは、想定される地すべり規模がA = 5.3ha と大きく、施工中の地すべり活動も活発であったため、以下のとおりとした。

(1)地すべりブロック内のWeb 自動計測

リアルタイム(1 時間間隔)に計測し、雨量と地中変位及びアンカー荷重に基準値を設け、それを超過した場合は関係者の携帯電話にメールを発信するシステムを採用し施工中の危機管理体制を構築し、安全を確認しながら施工した。

3.3 対策工法検討

地すべり対策工は「抑制工」と「抑止工」に大別されるが、一般的に抑制工+抑止工の併用で安定化に導くが、規模の大きな風化岩・岩盤すべりでは、抑制工の依存度が高くなる。
当該地すべりでは変状発生当初、防災ドクターの助言により抑制工の集水井工と抑止工のアンカー工12 段を対策工法としていたが、集水井工は道路用地区域外での施工となるため、追加の用地買収が必要であった。用地買収には、地権者の理解を得るため地すべり状況と追加工事内容について十分な説明と情報提供が必要不可欠であるため、学識経験者を交えた『北波多地区のり面対策検討委員会』を開催し、地元が見える形で対策工を再検討するとともに、自治体と協働しながら情報提供を行うことで追加工事の必要性についての理解を得た。

3.4 地すべり対策工法

地すべり対策工を図ー6、7に示す。
計画安全率はPFs ≧ 1.2 とした。
当該地すべりブロックの中央部はなだらかな沢地形を有し、ここに地下水が集中する特徴がある。「降雨に伴う過剰間隙水圧」の緩和を目的に、表面排水路工2300m と集水井工3 基の抑制工を採用した。また、地すべりの誘因である「開削に伴う地すべり末端部土塊の除去」に対しては、抑制工の押さえ盛土として道路縦断勾配の変更(当初計画高+ 3.1mUP)、抑止工にグラウンドアンカー工12 段と抑止杭工(鋼管杭φ 1200 × 34 本)を採用した。

4.当該地すべり対策を踏まえた課題対応
4.1 調査・設計段階

当該法面は、設計時に浅い調査ボーリング(10箇所)で岩盤(砂岩・頁岩)を確認できたため、一般的な法面保護工による対策を行った。しかし、今回施工中に発生した初期の地すべり変状に伴い、地中変位観測と間隙水圧計による地下水位観測を目的に12 箇所の追加調査ボーリングを実施し、すべり面を特定し対策の再検討を行ったため、大きな崩壊に至ることなく法面を完成した。
このように、周辺の地すべり地形や地質構造を伴う路線では、詳細な地表地質踏査とその分析で図ー8に示すような適切な調査ボーリング本数と深度を確保するなど、地すべり面になり得る地層が存在するかどうかを確認することが重要であったと考える。

4.2 施工段階

施工段階のモニタリングは、詳細設計段階の調査ボーリングを利用して行われることが多い。自然斜面状態で地すべり変動を起こすことは少なく、切土施工に伴う地形改変で発生することがほとんどであるが、地すべりの発生が疑われる斜面では、施工段階ごとに観測計画を立案し実施することが必要である。
モニタリングでは、連続雨量200㎜で地中変位とアンカー荷重が増大することを確認し、施工中の危機管理の基準とし、関係機関や地元へ周知した。
また、施工当初に観測態勢を整えたことにより、当該法面の地すべり活動を事前に想定することで変状初期段階での対策を可能とすると共に、切土による段階的な土塊の除去による変状の拡大や進行の有無を確認しながら、アンカー緊張荷重の調整や抑止杭の導入、集水井施工時期の選定など段階的に適切な対応を行ったため、適切な地すべり対策が実施できたと考える。
4.3 維持管理段階での課題

当該地の地すべり対策は、多数のグラウンドアンカー工、抑止杭工、集水井工を導入した。
供用後は、これら地すべり対策の効果確認とその後の維持管理に着目した対応が必要となる。
まず、対策の効果判定においては、これまでのモニタリングを継続し、地中変位と地下水位低下、アンカー荷重と集水井からの排水量を確認している。平成25 年8 月には、200㎜を越える豪雨を経験したが、地中変位や荷重の増加はなかった。
次にグラウンドアンカー工や集水井など多数の対策工は維持管理が必要となり、対策工の各諸元記録がなければ今後の適切な対応ができない。当該箇所においては、施工中のアンカー荷重増加による緊張力緩和対策を行ったデータが残っており、設計アンカー力やアンカー長などのアンカー工の具体的な諸元は施工段階から重要な情報であり、今後も活用が可能となっている。
近年その重要性が認識されているが、施工中の対策工のデータベース化が非常に重要であると考える。

4.4 住民からの意見

道路計画時の地元説明会で、住民の方から「土砂災害危険箇所付近にどうして道路を計画するのか」との意見があった。長年居住されている地元の方々は、自分が住んでいる地域の過去の状況等についての意見は、設計・施工を行うための貴重な情報となるため、積極的にヒアリングを行い、情報を収集することが必要と考える。
また、集水井工は地すべり発生誘因のとなる地下水位を低下させるために行うが、同時に周辺の沢水、井戸など水利用への影響もまぬがれない。そこで水利用調査を事前に実施し、集水井工や地表面排水路の排水を再利用し事業損失の対応とした。
このように地権者を含む現地からの情報は、計画段階から発注者だけでなく、設計者や施工者にも伝達し、共有していくことが重要と考える。

5.おわりに

西九州自動車道「唐津伊万里道路」における地すべり対策では、地すべりの状況やその対策・効果、地すべり対策を踏まえた今後の課題について取りまとめた。今後の地すべり対策に向けた参考となれば幸いである。
本事業の実施にあたっては、唐津市の関係者をはじめ、地域住民の皆様に多大な協力を頂き、心から感謝致します。

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