一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
防災対策を考慮した九州におけるこれからの地域づくりや
社会資本整備の視点
西南学院大学 人間科学部 教授 磯望
1. はじめに

九州沖縄地方は、最近の20年間に限定しても1991-1995年雲仙普賢岳噴火災害、1994年北部九州大渇水、1997年鹿児島県北西部地震、1999年福岡水害、1999年台風18号高潮災害、2000年熊本地方地震、2003年九州豪雨による土石流・洪水被害、2005年福岡県西方沖地震災害、同年台風14号による宮崎水害、2006年台風13号前線豪雨による唐津・伊万里水害、2009年中国・北部九州豪雨災害、2010年奄美集中豪雨災害、2011年霧島新燃岳噴火など、台風・集中豪雨・地震・火山噴火などに伴う自然災害が次々生じている。
また、宮崎県の口蹄疫や鳥インフルなどの流行による被害なども含めると、九州地域は自然現象に伴う災害が生活や経済に与える影響は少なくはない。
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震による巨大津波は、従来の防災対応策がいかに不十分で、自然の猛威へ対応方法の原則を根底から考え直す必要があるほどの衝撃を与えた。またこれと同時に発生した原子力発電所事故は、原子炉の災害想定の在り方に根本的な問題があったこと、事故への対応と放射性物質への広域拡散と汚染物質処理に至るまでの激甚な事故想定の必要性と激甚事故想定への対応手法の開発が現実に必要であることを示した。
九州東部沿岸は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界である南海トラフ付近では、この30年以内に巨大地震が発生して巨大津波に襲われる可能性がきわめて高く、日向灘などの九州東部沿岸では、津波対策を緊急に見直すことが必要である。また、玄海と川内の2か所の原子力発電所を抱える九州にとって、事故は絶対に生じないとする想定を改め、激甚な事故がある場合でも、被害を最小にする技術や手法を考慮した地域づくりを目指すべきであろう。このために福島第一原子力発電所の事故への対応は注目しておく必要がある。
九州は自然災害の頻度が比較的高いこともあり、自然特性を生かした防災技術の発展と災害への対応についても考慮した地域づくりを、九州のこれからの地域目標の一つとして掲げておくことは、きわめて重要かつ緊急のテーマである。ここでは、最近の自然災害の特徴や過去の災害事例を検討し、九州の地域づくりや社会資本の整備に防災的視点をどのように盛り込むべきかを検討・提案したい。


 

2. 巨大地震津波への対策

東北地方太平洋沖地震に匹敵する規模で西南日本に影響を与えると考えられる地震は、東海地震・南海地震そして日向灘沖地震に至る南海トラフ付近で発生する海溝型巨大地震である。文部科学省地震調査研究推進本部(2011)は、今後30年間の地震発生確率を、東海道~紀伊半島沖の東南海地震で70%程度(東海地震については87%)、四国沖の南海地震では60%と極めて切迫していると考えられる予測をしている。日向灘では海溝型地震は10%程度と見込んではいるが、それでもいつ発生しても不思議のない値である。
東海地震・東南海地震・南海地震と日向灘沖地震が連動して生じた可能性が高い1707年の宝永地震では、大分県から宮崎県沿岸では、リアス式海岸で3.5~4.5mの波高の津波、砂浜海岸でも3m前後の波高の津波に襲われた(渡辺偉夫、1985)。
南西諸島では、南海トラフと連続する琉球海溝で、海溝型巨大地震を生じる可能性があるが、その地震履歴が明瞭ではないため、十分な予測値は得られていない。しかし、1771年の八重山地震・津波では、八重山諸島の石垣島で30m、宮古島でも20mもの波高を持つ津波が襲っており、南西諸島でも、波高の高い津波への対策は必要となる。
2011年の東北地方太平洋沖地震津波では、リアス式海岸の低地の集落を、20~30mを超す背の高い津波が襲った。宮城県南三陸町志津川では、波高さ18m以上の津波が襲来し、3階建て鉄骨造りの防災庁舎は、完全に波に呑まれ、壁面も押し寄せた津波や浮遊物によって破壊された。
避難放送をし続けた職員が犠牲になり、僅かに屋上アンテナ上部にしがみついた数人のみが救出された。一方、鉄筋コンクリート4階建ての志津川病院では、建物が残り、屋上も辛くも水没を免れたため、ほとんどの人が救出された(写真1)。

写真で示したように鉄筋コンクリート造りの建物は津波によってもその外壁の破損は比較的小さかった。津波に対して十分な高さの鉄筋コンクリートビルがあれば、生命を救うことができる。
仙台平野では、波高7~8m前後の津波が襲い、2階建ての民家は2階床面以上まで浸水すると、津波による衝撃による破壊だけではなく、浮力によって持ち上げられて流失していた。
これらの事実を考慮すると、高い津波が襲う可能性のある地域では、地震後に逃げ込んで安全を確保できる中・高層の鉄筋コンクリートビルを意識的に配置し、緊急時には夜間でも逃げ込めるように配慮できれば、かなりの人命を救えることがわかる。公共施設などは鉄筋コンクリート造りで、中層階以上の建物が多いため、このような防災機能を十分に満たす可能性が高い。それでも不足する場合には、防災機能を持つコミュニティーセンタービル等を新たに設置することが必要である。
ただし、学校を避難場所と指定し、体育館に避難させた場合は、津波で水没した事例もあり、低地の学校では、校舎の4階以上を利用したほうが安全である。また、避難実施が困難な老人福祉施設や病院棟などは、津波の想定波高よりは高台に設けておくことが必要である。


 

 

3. 陸域の浅い地震への対策

九州地方内陸部にある活断層についても、地震調査研究推進本部による報告がある。それによると、九州地方に位置する活断層のうち、「我が国の主な活断層の中では地震発生確率の高い断層」に分類され、今後の地震発生に注意を払う必要のある活断層は、警固断層帯南東部(福岡市~筑紫野市)、布田川・日奈久断層帯中部(八代平野東縁部)、別府・万年山断層帯(大分県中部)、雲仙断層群(島原半島中央部)の4断層帯が挙げられている。これらの断層帯の地震発生確率の評価は、その幅が大きく不明瞭な部分もあるが、30年確率で最大4~6%と見込まれており、地震避難の対策を講じておくことが望まれる。このほか、人吉盆地南縁断層や出水断層帯などがこれに次ぎ、「我が国の主な活断層の中では地震発生確率のやや高い断層」に相当する。
これらの活断層が地震を発生させた場合は震源域が比較的浅い性質があるために、強い震動や地盤の変形に伴い、被害が大きくなる可能性が高い。
また、九州中部は、正断層型地震が生じることが多く、マグニチュードが比較的小さくても大規模地すべりを誘発し、地震規模に比して変位量と被害が大きくなることも懸念される。
他方、鹿児島県北西部地震や福岡県西方沖地震などの近年九州で発生した被害地震は、地表の変形をほとんど伴わないこともあり、活断層を確認できていなかった。今後も活断層が確認されていない地域でも、新たな地震被害に見舞われる可能性は小さくない。これらの活断層や陸域の浅い地震への対応として、新耐震基準設定(1980年)以前の建物の耐震補強と改築を推進することが、被害を軽減する上で有効であり、建物の倒壊を防ぐことを優先して考慮する必要がある。特に被害が大きくなる可能性が高い活断層周辺地域にある公共施設などから、重点的な耐震化の実施が望まれる。

耐震化が進んでも、軟弱地盤や傾斜地の盛土などの地盤変形も建物被害を発生させる。福岡県西方沖地震でも博多湾岸の埋立地や玄界島の傾斜地などで地盤の変形に伴う被害が生じた。また、自然斜面の崩壊も生じ、緊急時の交通確保が困難になることも生じた。避難場所の確保と住民自身による被災者支援は、建物の耐震化が進んでも不可欠である。福岡県西方沖地震では、天神地区など福岡市の都心地区でも、学校の避難場所の設置・運営には校区自治会などが有効に機能し、近隣のデイサービスセンターやホテルなどからスムーズに避難者を受け入れることができた(吉岡、2006)。都市においても自治組織を中心とした住民自治が日頃からしっかり機能していれば、災害時の避難や安全確保に大きな貢献ができる。その意味では、市民の自由意思による自治活動の推進は、これから重要な意味を持つ。


 

4. 土砂災害と洪水への対策

日本の南西部に位置する九州・沖縄地区は、赤道気団に由来する台風や湿舌などの影響をしばしば受ける。また、台風や湿舌の影響で前線に大量の水蒸気が供給され、集中豪雨やゲリラ豪雨などが毎年のように各地で発生し、土砂災害や洪水を引き起こしてきた。
九州の山間部や中山間地域の渓流で生じる土石流災害の発生頻度は、本州中部の2倍程度に達しており、太宰府市四王寺山麓では、1つの渓流での平均土石流発生間隔は約160年である(磯ほか、1980・太宰府市、2005)。しかしこの値は土石流が出たらば160年間安心という意味ではなく、再発期間の短い事例も含んだ平均的発生確率を示したものである。
太宰府市では、三条原地区の原川で、1973年と2003年の2回ほぼ同じ地点で土石流被害を生じた。土石流による氾濫堆積区域は、2回ともほとんど同地点である。原川では、1973年災害後には砂防堰堤が建設され、ある程度土石の流下を防いだが、2003年には流木が堰堤上部を乗り越えたためにこれによる被害が拡大した。土砂災害の影響を食い止めるための砂防堰堤の建設はかなりの効果をもたらしたが、植林された杉林はその後の手入れが進まなかったこともあり、倒木や未搬出の間伐材が増加し、建物被害や氾濫区域が拡大することにつながった。同様の事例は国内各地で認められ、森林からの木材流出の防止は各地で重要な課題となっている。

2004年台風23号は、中・北部九州各地で風倒木をもたらし、これによる2次災害が懸念された。
その後風倒木処理が実施され、この風倒木災害による大規模な2次的災害は生じていないが、倒木の処理や、植林地を中心とした山林の維持・管理は、九州の河川の洪水被害軽減のための重要な役割を果たしている。
洪水被害の軽減のためには、水田等が果たしてきた洪水や土砂災害軽減の機能の再評価も重要である。近年都市地域では丘陵地や水田の宅地化が進行し、これに伴って洪水時のピーク流量が増加する傾向が認められる(宗建郎ほか、2011)。
また、福岡市内の樋井川流域では、土地利用の変化の結果、流域全体の流出係数が1割ほど増加する結果となった。
九州では火山噴火に伴って大量の噴出物が周囲に堆積することも洪水災害の原因となる。1990~1995年の雲仙噴火では、1991年6月の火砕流以後、1992年春~1994年にかけて、山麓の水無川沿岸を中心に泥流の発生を繰り返し、被害額は火砕流の被害を上回った。2011年には霧島火山の新燃岳が噴火し軽石質火山灰が渓流を埋めた状態となっており、今後は洪水の危険性が高まっている。


 

5. 防災を意識した地域づくり

九州は集中豪雨災害が多発するほか、地震・火山災害も決して少なくはない。そのため、耐震建築の推進や地域拠点の防災ビル等の設置は不可欠である。中山間地域では、安全な土地を確保することも困難な場所も少なくない。そのような場所にこそ、防災ビルを建築するとともに、普段は商店、役場農協支所、郵便局、学校、老人福祉施設等を兼ねた、自治体・省庁・民間横断利用型の施設とすることが有効であろう。
また、田畑や森林の維持管理そのものが、国土保全効果が大きいことを考慮して、農林業を実際に営む経営に対して、戸別に国土保全費用を補助し、土地の維持管理と後継者育成とが十分可能にすることも、今後の長期的な環境保全と国土保全につながると思われる。
都市地域は、耐震化の推進とともに、民間施設を含めた災害避難場所確保が必要である。また、消防団・自治会・防災組織・福祉協議会・PTAなどが、地域に顔の見える組織として有機的に編成され、災害時にその特性を生かせることが大切になる。財政的負担を増やさず少子高齢化社会で安全を確保するためには、人のネットワークが大切になるであろう。

 

引用文献
文部科学省地震調査研究推進本部(2011)長期評価
http://www.jishin.go.jp/main/index.html
渡辺偉夫(1995)日本被害津波総覧,東大出版会, pp.238
吉岡直子(2006)災害時における学校の避難所機能の実態と課題, 西南大人間科学論集,vol.1,no.2.
磯望ほか3名(1980)岐阜県高原川流域における土石流による岩屑供給と沖積錐の堆積速度, 地理評,vol.53.
太宰府市(2005)太宰府市史通史編Ⅰ ,pp.1124.
宗建郎ほか4名(2011)地形図を利用した河川環境変化の長期評価, 地域防災研究論文集,vol,3.p.57-63.

 

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧