鋼製樋管の設計と施工
建設省武雄工事事務所調査課長
上 村 恭 一
建設省武雄工事事務所調査課
浦 山 洋 一
1 まえがき
従来の樋管は,基礎形式を支持杭とするPC構造にて築造されてきた。しかし,これら樋管において堤体と管体との間に不同沈下が生じ,この不同沈下により管体に過大な応力が発生し,クラックが生じるばかりでなく,管体周辺の空洞化現象や堤体にもクラックが生じ,樋管や堤防本来の機能が著しく低下することがある。
そこで,鋼管のもつ可撓性と高い強度に着目し,圧密沈下に対する追随性や耐久性が期待される樋管として鋼製樋管を採用し,松浦川支川徳須恵川で試験的に施工した。
なお,鋼製樋管については施工事例もなく,設計等において不明確な点も多いため,試験施工後の動態観測によって挙動を計測し,その結果を踏まえて設計手法にフィードバックして鋼製樋管の設計手法の確立を図る必要がある。
本文は,当該樋管施工後の動態観測を行い鋼製樋管の挙動と適用性について検討を進めてきたので,概要を報告する。
2 試験施工樋管の構造と概要
樋管名 石志6号排水樋管
設置箇所 松浦川支川徳須恵川
計画排水量 Q=8m3/s
樋管断面 φ=2,100mm
樋管長 L=16m
管体構造 鋼構造(円形,部材厚=11mm)
継手構造 鋼製可撓管1ケ所
3 構造設計
構造設計は,構造型式・荷重の種類及び基礎型式を条件として進められる。
石志6号鋼製樋管は,沈下が予測される地盤上に直接基礎型式で設置されることより,地盤の沈下と樋管の変位を考慮のうえ設計を行った。
設計のフローは,表ー1のとおりである。
4 基礎地盤の検討
直接基礎形式で樋管を設置する場合,築堤盛土に伴う地盤の沈下は,㋑樋管の流下能力の低下,㋺樋管と堤防との間の空洞化,㋩樋管本体の応力増加,㊁ゲートの開閉障害などの問題を派生する可能性がある。
今回は,直接基礎形式の樋管において許容沈下量が未だ確定された値でないこと,当該樋管の試験施工の目的の一つが,地盤の沈下と樋管の変位,堤防の機能上の問題点の関係を探ることにあることから「許容沈下量の設定」はしないものとする。
ここでは,上記㋑~㊁の問題点を検討するための条件とされる築堤盛土の沈下量と,圧密沈下について検討した。その結果が図ー2である。
5 動態観測の概要
① 計測項目
イ 地盤および管体の沈下
ロ 管体や門柱の傾斜・ねじれ
ハ 管体の応力度・変形
② 計測測線
A測線:樋管中心線(管軸方向)において管体の沈下量,傾斜,ねじれ,応力度などの計測を行った。
B測線:管軸方向に平行な樋管側面の線上において,地盤の沈下量,間げき水圧,水位変動などの計測を行った。
③ 計測頻度
6 動態観測結果と解析
① 地盤および管体の沈下
管体据付後の地盤および管体の沈下の経時変化を図ー3に示す。最終観測時点で堤体盛土後約7カ月が経過しており,地盤沈下,管体沈下ともほぼ収束した状況にある。
最大沈下は,地盤,管体いずれにおいても堤防中央部で発生している。
図ー4に地盤および樋管の沈下分布を示す。それによると地盤沈下は堤防中央部より堤内側が堤外側より小さくなっているが,これは堤内側に向かって軟弱層厚が小さくなっているためと思われる。
一方管体は,中央に設置した可撓管部で沈下量が最大となり,この可撓管で屈折するように沈下している。管体の沈下の傾向はおおむね地盤沈下に沿う形となっているが,管体そのものの可撓性よりも可撓管の効果によるところが大きいといえる。沈下に伴う可撓管の折れ角は約2.6°になっており,可撓管変位は塑性域に達していると思われる。(可撓管は折れ角約1°で変位が塑性域となる。)
② 管体や門柱の傾斜・ねじれ
イ 管体の傾斜・ねじれ
管体は管軸方向について,可撓継手を最下点として川表側≒1.1°,川裏側≒2.0°の傾斜をもっている。管体そのもののたわみ量は小さいが,門柱部~管体一般部の剛性が変化する付近で比較的大きなたわみがみられる。
管軸直角方向については,門柱部と呑口部の管軸直角方向の水準測量結果(図ー5参照)よりいずれもほぼレベルを保っており,ねじれはほとんど発生してないものと思われる。
ロ 門柱の傾斜・ねじれ
下げ振りと傾斜計および沈下量から算定される領斜角は次のとおりであった。
図ー6に示す3箇所の傾斜角についてθ1>θ2>θ3となる関係がみえる。床版に固定された片持梁となっている門柱は,管体の沈下に伴い堤体盛土の大きな受動土圧を受けてたわんでいるとも思われる。
門柱にねじれはほとんど発生しておらず,傾斜によるゲート操作の支障も現時点では発生していない。
③ 管体の応力度・変形
イ 管体横方向(管軸直角方向)
管体は周辺に補剛材を有しており,管体横方向に対して剛性が高い構造となっている。よって,管体横方向の設計は管体を剛性管と仮定して行った。
計測で得られた補剛材の応力度を設計結果と比較すると図ー7に示すとおりである。管体横方向の応力度は許容値内にあり,設計値も計測結果と同じ傾向を示している。
ロ 管体縦方向(管軸方向)
管体縦方向の応力の状況は図ー8のとおりであった。
地盤沈下は,推定沈下量の2倍以上生じており,管体の沈下および管体に発生する応力も設計値との差が大きくなっている。
管体縦方向の設計手法を確立するために地盤と管体の相互作用の他に,可撓管の特性や遮水矢板の影響等を明らかにしていく必要がある。
また,管体縦方向には管頂面,管底面ともに圧縮応力が発生する傾向にあるが,この圧縮応力の原因についても明らかにする必要がある。
7 鋼製樋管の適用性
石志6号排水樋管の動態観測および解析の結果次のことがいえる。
イ 管体は地盤沈下に対して追随する
ロ 樋管機能は維持されている
ハ 堤防の機能障害もみられない
ニ 管体の応力はほぼ許容値程度である
地盤の最大沈下量が30cm程度以下の場合においては,鋼製樋管の適用性が十分考えられる。
8 今後の課題
① 設計上の課題
イ 鋼製樋管の地盤沈下への追随性は,可撓管の効果によるところが大きいと判断されるため,可撓管の設置位置,箇所数の決定をどのようにするか。
ロ 樋管機能を維持するために許容される沈下量をどのように決定するか。
一方,あらかじめ管体設置地盤を上げ越し(キャンバー盛土)しておき,管体の最終たわみ量を小さくするなどの考えを取り入れる検討も必要と考えられる。
ハ 管体縦方向の解析を行ううえで,可撓管や遮水矢板の影響等,不明な点がある。
② 施工上の課題
イ 樋管断面が円形であるため,床掘が繁雑となり,また,埋戻しの施工が難しく管体下の締固めが期待できない。
ロ 現場作業は据付が主体となり,工期は大幅に短縮できる。しかし,構造の規模が大きくなると現場溶接量が多くなり工期が長くなる。
9 あとがき
鋼製樋管の事業化の目的に,管体の規格化によって大量生産を行いコストの低減,工期の短縮,均質的な施工性の確保等がある。
このためには,もう少し試験的な施工事例をもって設計手法の確立,施工性の諸検討を進める必要がある。
また,地盤沈下に追随する樋管は鋼製樋管のほかにも,可撓継ぎ手を有するRC樋管・PC樋管あるいは,地盤処理(地盤改良や摩擦杭等)を併用した樋管等も考えられる。
今後,これらの総合的検討をもって早期に樋管構造型式の確立が望まれる。