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都市交通の変化からみた30年間
~福岡都市圏の交通変遷~

国土交通省 九州地方整備局
 企画部 広域計画課長
赤 星 文 生

1.はじめに
交通需要は、社会・経済活動から派生するもので、生活の根幹的な源となるものである。
交通需要の実態を把握する調査としてパーソントリップ調査(以下PT調査)がある。
PT調査は、交通発生の主体である「人」に着目し、移動する個人属性、移動目的、時間帯及び全ての交通手段を同時に把握できる調査である。
北部九州圏では、これまでに昭和47年、昭和58年、平成5年にPT調査を実施し、これらの成果を基に、都市圏の総合的な交通体系の提案を行ってきた。
第1回PT調査が行われてすでに30余年近くが経過しており、その間に計画を提案した福岡市営地下鉄、北九州市モノレール等が供用し、現在、都市活動を支える主要な交通機関としての役割を担っている。
近年、少子・高齢化の進展、産業構造の多様化、ライフスタイルの多様化等の諸要因から、地域の交通環境は大きく変化しており、都市圏の交通体系マスタープランもその変化に応じた見直しが必要となってきた。
このような状況のもと、北部九州圏都市交通計画協議会においては、平成17年度から第4回PT調査を実施している。調査対象圏域は福岡県の大半に佐賀県鳥栖市・基山町を加えた26市50町1村である。
本稿では、福岡市を中心として、PT調査と歩んできた交通の変遷について紹介する。

写真-1 昭和48年頃の路面電車(福岡市荒戸地区)

2.社会の動きと交通の変遷
2-1 社会の動きと交通施設
福岡市が政令指定都市となった昭和47年、第1回PT調査が実施された。福岡市人口が100万人を突破した昭和50年には山陽新幹線の博多乗り入れ、九州縦貫自動車道古賀~熊本間が開通し、本格的な高速交通時代へと突入した。昭和53年から延べ287日間続いた給水制限が解除された昭和54年には、福岡市と北九州市が高速道路で結ばれ、高速バスの運行も開始し、両市間の交流拡大に大きく寄与する広域交通基盤が構築された。
一方、都市内においては、明治43年から65年の長きにわたって市民の足として親しまれてきた西鉄市内電車が昭和54年の循環線、貝塚線の廃止により活躍の場を終え、代わって福岡市営地下鉄が登場することとなった。
福岡市営地下鉄は旧西区が西区、城南区、早良区の3区に分割された昭和56年に、九州初、全国で8番目の地下鉄として天神~室見間5.8キロが開通した(初乗り運賃:当時140円、現在200円)。その後順次延伸を重ね、1号線、2号線全通後、全国都市緑化フェア(人工島アイランドシティ)が開催された平成17年には地下鉄3号線が開通し、鉄道空白地域であった福岡市西南部と都心部天神地区が直結され、さらに鉄道利用圏域が広がった(全営業キロ29.8㎞)。
また、モータリゼーションの進展とともに自動車交通が増大し、その一端を担う道路として、福岡都市高速道路が昭和55年から段階的に供用され、平成15年までに九州縦貫自動車道、西九州自動車道と直結された。これにより、都市内交通のみならず、広域交通においても定時性が確保される高速ネットワークが形成され、福岡市と九州各地を結ぶ高速バス(H16:系統数32)も多く運行されることとなった。

表-2 社会の動きと交通施設

写真-2 福岡市営地下鉄2号線(空港線)

写真-3 福岡市営地下鉄3号線(七隈線)

写真-4 モノレール,JR,バスが結節する複合ターミナル(小倉駅前)

2-2 人の動きの変化
福岡市内及び周辺での交通施設整備の進展に伴い、福岡市都心部への自動車利用における時間圏は、広がる傾向にある(図-1)。

図-1 福岡都心からの時間圏

時間圏の拡大に伴い、福岡市中央区での集中量は30分圏以上で大きく増加している(図-3下)。

図-2 人口集中地区(DID)

図-3 福岡市中央区への所要時間別集中トリップの変化

人の動きをみると、福岡市関連の1日の総交通量は昭和58年には2,956千トリップであったものが、22年後の平成17年では31%増の3,871千トリップとなっている(500人乗りのジャンボ機約6,000機の移動量と同じ)。特に高齢者トリップの増加が著しい。
一人あたりの動きの回数は減少傾向にある一方、高齢者1人あたりの動きの回数は増加しており、外出機会が増えていることが伺える(図-4)。

図-4 福岡市関連トリップの推移

目的別では、福岡市の人口増加、居住地の外延化とともに、通勤目的の構成比が高くなっている。
一方、通学目的の減少は少子化の影響も考えられる。
手段別にみると、自動車及び鉄道利用は道路整備や地下鉄網の充実によりその構成比は変化している(図-5上)。
一方、徒歩シェアの減少と併せてマストラ(バス、鉄道)や二輪車のシェア変動がないのに対し、自動車利用が増加傾向にある。自動車利用はドア・トゥ・ドアの利便性や随意性の高い交通手段であるため、徒歩シェアの減少を招いていると思われる(図-5下)。

図-5 福岡市関連トリップの目的、手段構成の変化

2-3 都市交通の変化
ここでは福岡市における都市間、都市内及び都心部の交通の変化を見てみる。
(1)都市間交通
昭和47年と昭和58年の北九州市と福岡市間の交通流動の手段構成の変化をみると、鉄道利用とバス利用は増加している。これはこの11年間に新幹線の開業とともに、九州縦貫自動車道も延伸されており、鉄道から自動車および高速バスへの転換が生じたと思われる。
昭和58年から平成17年の手段構成では両市の交流拡大を背景に、各手段とも増加している。中でも自動車利用は両市とも都市高速道路と九州縦貫自動車道の直結により、大幅に増加している(図-6)。

図-6 北九州市・福岡市間交通流動の手段構成の変化

北九州市小倉北区と福岡市中央区間の、手段別所要時間の変化をみると、自動車利用は昭和47年で平均121分要したものが、昭和58年の平均88分と33分の短縮、平成17年では更に13分短縮が実現しており、これは福岡北九州都市高速道路をはじめとする高速道路網ネットワークが形成されたことによるものと思われる。このように、新幹線開業や高速道路網の供用により、両100万都市の近接性を一層高めていると言える(図-7)。

図-7 北九州市小倉北区・福岡市中央区間交通流動の手段別平均所要時間の変化

(2)都市内交通(福岡市営地下鉄)
福岡市営地下鉄は昭和56年に開業して以来、昭和58年までに(第2回PT調査時)姪浜~呉服町、中洲川端~博多駅間が開業し、昭和58年以降、呉服町~貝塚間、博多駅~空港間までの延伸により、鉄道(JR、私鉄)と地下鉄のネットワークが形成され、昭和58年に比べ平成5年では、地下鉄利用圏域は大きく広がった。
延伸沿線地域である貝塚、空港方面はもとより、既整備沿線の西新、姪浜方面での利用率も増加し、地下鉄利用の定着化が進んだ(図-8)。
さらに、平成17年の3号線の供用により、軌道系手段がなかった西南部地域は、選択肢の増加と定時性の確保面で交通環境が改善しつつある。一方、福岡市東部や西部の一部では都市高速道路経由の路線バス増も影響し、利用率は減少となっている(図-9)。

図-8 第3回PT調査(平成5年)での地下鉄利用率

図-9 第4回PT調査(平成17年)での地下鉄利用率

(3)都心部交通
九州最大の都市機能が集積している福岡市天神地区は、昭和50年の山陽新幹線の乗り入れに伴い、天神地下街や博多大丸が相次いで開店し、既に営業していた岩田屋等とともに第1次天神流通戦争といわれた。
平成元年には、ソラリアプラザやイムズなどが開店した第2次天神流通戦争、平成8年の岩田屋Zサイド(現岩田屋本館)や平成9年の西鉄福岡駅の南側移設に伴い出店した福岡三越などは第3次天神流通戦争といわれた。
平成17年には、福岡市営地下鉄3号線(七隈線)の開業に伴い、天神地下街が南へ延伸した。
このような変遷は、天神地区の重心を南下させるとともに、天神の商圏を更に拡大し、人の動きも拡大することとなった(図-11)。

図-10 主要商業施設の変遷

図-11 商業集積度の推移

天神地区に集中する人の動きの変化をPT調査データを用いてみると、昭和58年から平成5年にかけては、天神地区以外への集中量の伸びが大きかったが、平成5年から平成17年にかけては、天神地区以外への集中量の伸びはほぼ横ばい状況となり、逆に天神地区の集中量の伸びが大きくなっており、天神への集中度合が高まったことが伺える(図-12)。

図-12 天神地区への集中量の変化

次に天神地区への集中量の変化を通勤と私用目的の手段別構成比で評価する。
通勤では、二輪車利用が平成5年から平成17年に大きく増加しており、平日ピーク時の渋滞時を避けるために、一部地域では自動車から転換したものと考えられる(図-13上)。
私用では、平成5年から平成17年にかけて徒歩利用が減少、バス利用が増加に転じている。これは100円バスの導入効果と捉えられる(図-13下)。
これは買物の行動パターンや商業施設をうまく結んだバスルートや低廉なワンコイン(100円)が利用者に受け入れられたためと考えられる。

図-13 都心地区別集中量の変化

3.社会環境変化に向けてのPT調査データ
3-1 社会環境変化への対応
(1)東アジアとの交流拡大
福岡空港は地理的特性からアジアを中心に定期便を運行しており、国内では成田空港、関西空港に次ぐ国際空港として年間約1,730万人、そのうち国際線は約200万人が利用している(図-14)。
また、海の飛行機といわれるビートル(福岡~釜山)が平成3年より就航し、海外行動に係る交通手段の選択肢が増えた。現在ビートルは1日最大5往復運行し、利用客は増加傾向にあり、交流が拡大しつつあることが伺える(図-15)。

図-14 福岡空港の国際定期空港路線

図-15 ビートル利用客の推移

このように、福岡市の交流ポテンシャルの高さは、今後の交通計画を考える上で社会環境変化の事象として取り扱っていくことが必要である。
そのためには、PT調査では捉えられていない外国人居住者をはじめ域外者(域外←→域内流動)の動きについて、付帯調査等でデータを補完し、シームレスな交通サービス、案内標識等ビジター交通に対応した交通計画に役立てることが重要である。

(2)地球環境問題への対応
地球環境問題となっている二酸化炭素排出量の内、運輸部門が約20%を占めている(図-16)。
温室効果ガスの削減に向けては、自動車交通総量の抑制、他の交通機関への転換等を促す地域構造、交通体系を形成していくことが必要である。
PT調査データは、自動車,公共交通徒歩・二輪車等の全ての利用交通手段が把握できる調査である。当データは輸送あたりの二酸化炭素の排出量(g-CO/人キロ)が自動車(自家用乗用車:175,営業用乗用車:387)に比べて大幅に少ない公共交通(鉄道:19,バス:53)への転換を促す等のデータとして活用でき、環境面からも貢献できる貴重な調査として位置付けられる。

図-16 部門別二酸化炭素排出量(福岡県内)

(3)高齢化への対応
将来、人口減少が予想される中、福岡市等の都市部では、今後とも人口が増加し、特に高齢者人口は大幅に増加すると予想される(図-17)。
このような中、高齢者の交通事故は増加傾向にあり、その背景には、特に自動車免許を有する方の外出機会の増加が考えられる(図-18)。
高齢者が自ら運転、あるいは同乗し外出する機会に合わせた交通施設サービスの提供等が今後必要と思われる。

図-17 高齢者数の変化(H12年~H42年)

図-18 高齢者交通の要因分析例

(4)安全安心への対応
平成17年3月に発生した福岡県西方沖地震は、過去に地震経験が少ない福岡都市圏に大きな被害をもたらした。
大規模災害発生により、交通体系に大きな障害が生じれば、帰宅困難者の安全確保が重要となる。
PT調査データは、災害発生時刻規模や施設被害等の災害を想定することにより、初期行動や広域避難計画等の現状評価や見直しに役立つ。
このようにPT調査データは、交通計画の基礎データの他、防災計画をはじめとして中心市街地関連、環境、福祉等の様々な分野での活用も考えられる貴重なデータである(図-19)。

図-19 防災計画への活用例

3-2 第4回PT調査の新たな仕組み
(1)調査方法
PT調査は、一般的に調査員による家庭訪問配布・訪問回収法によって実施するが、PT調査での回収率は低下しており、第4回PT調査においても低下が懸念された。
また平成17年の個人情報保護法の影響により更に低下することが予想された。
そこで第4回PT調査では、近年のインターネット利用環境の進展や、インターネットを利用したアンケート調査の実績・動向を踏まえ、調査の効率化、回収率の向上及び調査対象者の負荷軽減を目的として、インターネットを利用した調査(以下Web調査)を実施することとした。
インターネットを使って回答できる調査対象者は限定されるため、従来の家庭訪問調査とWeb調査を併用した調査体系とした(図-20)。

図-20 調査方法のイメージ図

実施の結果、データの精度が保てる回収率53%を得た。そのうちWeb調査の回答は、13%であった(紙回答87%)。
また、両者間のデータを検定した結果、従来の調査方法で実施したデータとあわせて使用できるといった有効性が確認された。
Web調査システムの改善の必要性はあるものの、今後のWeb調査のニーズが高まることが予想されることから、PT調査においても、積極かつ意識的にWeb調査を活用していく事が望まれる(表-3)。

表-3 今後の課題

(2)新たな交通計画へのアプローチ
従来の交通計画・調査では、土地利用計画を前提として将来の交通需要を予測し、これを基本要素として需要量に対応できる交通計画の提案を行ってきた。交通計画は、元々あらゆる分野との関連が強く、最近では社会、経済、環境問題等の幅広い視点からのアプローチが更に重要となってきている。都心部では環境意識の高まり、施設整備期間の長期化、財政的課題などから、ソフト的な施策が重要度を増しつつある。地方部においては、交通需要の有無というより、最低限の交通利便性の確保、あるいは生活を豊かにするという観点からの交通施設整備も求められている。この他、高齢化、マストラ問題、防災問題、地域問題等に着目した交通施設整備のあり方への関心も高まっている。
このような状況のもと第4回PT調査では、社会環境変化に対応し、かつ目指すべき都市像として都市及び都市圏の成長管理を施しつつ(拡散型から集約型都市像への転換)、その実現に向けては戦略的な取り組み(PDCA)を行う予定である。

4.おわりに
21世紀初頭には人口のピークを迎え、本格的な人口減少・高齢化社会の到来に伴い、交通需要構造の大きな変化が予想される。
また、地球レベルの環境問題や、安全で快適な都市空間づくりへの意識の高まりとともに、良質な社会資本ストックとしての新たな交通施設の整備と既存交通施設の有効活用の視点から総合的な交通計画が求められている。
PT調査は、このような点に対応できる有効な交通計画調査であることから、今後その役割は益々高まると考えられる。

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