那覇港臨港道路浦添橋梁「なうら橋」の設計について
一浦添橋梁の塩害対策一
一浦添橋梁の塩害対策一
沖縄総合事務局 石垣港工事事務所
工事課長
前那覇港工事事務所
建設専門官
工事課長
前那覇港工事事務所
建設専門官
前 原 弘 海
1 まえがき
那覇港臨港道路(1号線・浦添線)は,那覇港4ふ頭(那覇,泊,新港,浦添)の一元化を図り那覇港全体としての機能を高めるために計画され,すでに国道58号の明治橋から那覇市港町小船だまりまでの延長4.5km区間が昭和61年4月に供用開始されている。浦添橋梁「なうら橋」はこの既供用区間を延伸し,現在建設中の浦添ふ頭と連絡するため,昭和63年度より着工し平成4年度の全面開通を目指し施工中である。
本橋は安謝川の河口部に位置し,那覇市と浦添市を結ぶ橋長240mの5径間PC連続箱桁曲線橋である。高温多湿の環境下と現道との摺付により,橋高が制限され常に波しぶきの影響を受けやすい場所に建設するため,塩害対策として鉄筋はすべてエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用している。
ここでは,浦添橋梁「なうら橋」の設計で特に塩害対策を中心に記述する。
2 工事概要
工事名:那覇港臨港道路浦添橋梁工事
工事場所:浦添市字勢理客城門原553番地36号地先
完成予定年度:平成4年度
事業費:約34億円
3 設 計
3.1 設計条件
◦施工区間……那覇市曙1丁目地内~浦添市西洲1丁目地内
◦施工延長……橋長 240m 支間長(39.0m+44.0m+72.0m+44.0m+39.0m)
◦道路構造規格……第3種第2級 平地部
◦橋格……1等橋(TT43荷重)および(TL20)
◦総幅員……20.00~21.25m(4車線+歩道)
◦設計速度……50km/h
◦最急縦断勾配……4.6%
◦横断勾配……2~8%
◦最小曲線半径……150m
◦クリアランス……5.7m(中央HWL上)
◦設計震度……Kh=0.17 Kv=0
3.2 橋の構造型式
●上部工
◦5径間PC連続箱桁曲線橋
◦支承(リング沓)移動制限装置
●下部工
◦橋脚:鋼管杭基礎(P1 P2 P3 P4)Φ=1,200mm t=16mm ℓ=31~36m
◦橋台(A1 A2) Φ=1,200mm t=16mm ℓ=33~37m
◦付属物:高欄(アルミニウム製) 照明灯(水銀灯) 展望バルコニー防衝工
3.3 設計上の特徴
(1)上部工
① 構造形式は,PC径間連続変断面箱桁(3室)の曲線橋である。
② 鉄筋のかぶりは桁外側70mm,張出床版下面で50mmにし,さらにエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用し塩害対策に考慮した。
③ 支承構造については,水平力を各橋脚に分散させる水平分散沓(リング沓)を採用し,また移動制限装置(BBストッパー)を設置することにより橋軸直角方向の移動を制限している。
(2)下部工
① 基礎工鋼管杭の局部腐食対策として,流電陽極式の電気防食を採用した。
② 橋脚には沓隠し壁を設けて景観的に配慮を施こすとともに沓の塩害対策にも寄与している。
(3)景観
① 海に向って大きくカーブを描き海に突出している曲線形にあった上部工,および下部工のデザインを採用した。
② 「ニライ・カナイ」海の向こうへをデザインテーマとし,海洋民族としての国際性と臨港地区を表現する親柱などの景観設計を行った。
(4)防衝工
① 本橋梁下を航行する船はほとんどないが,台風時において作業船が漂流する恐れがあり,またクリアランスが小さいことから上部工も防護できる防衝工を設置することを検討している。
4 浦添橋梁の塩害対策
4.1 塩害対策の概要
本橋は,高温多湿の塩害の発生しやすい環境下において建設されるPC構造の海上橋であり,「道路橋の塩害対策指針(案)・同解説」に基づき十分な塩害対策を施す必要がある。PC橋の場合ひびわれを発生させない設計・施工法を心掛けるため,RC橋に比べれば耐塩性が強いとも考えられるが,塩分の浸透に関してRC橋とほとんど変わらないという検討事例も報告されており十分な検討が必要である。
4.2 塩害対策の基本的な考え方
塩害対策の基本的な考え方については「道路橋の塩害対策指針(案)・同解説」の中で示されているとおり。
① 鋼材の最小かぶりを従来より大きくする。
② コンクリート密実性を高める。
③ コンクリートの材料中の塩分量を減ずる。
④ コンクリート塗装を施し塩分を遮断する。
⑤ 塗装鉄板の使用や電気腐食の実施を行う。
に大別される。
本橋は,上記指針(案)の中で対策区分Ⅰに位置付けられており,塗装鉄筋の使用,不使用に係わらず鉄筋のかぶりを最小7cmと決定している。
4.3 鉄筋かぶりの設定
本橋は,高温多湿の塩分環境下における沖縄県において建設される海上橋であり,「道路橋の塩害対策指針(案)・同解説」に基づき十分な塩害対策を施す必要がある。従って鉄筋のかぶりについても,上記資料およびその他の塩害対策についての既往知見に基づいて設定した。
(1)無塗装鉄筋の場合
塩害対策指針(案)において本橋は対策区分Ⅰに該当する。上部工についてはポストテンション形式のPC橋であることから最小かぶりは7cm,下部工については柱と考えて7cmとなる(表ー1)。
しかし,沖縄県内のコンクリート橋の劣化実態調査結果によれば,海岸部においてはコンクリート表面より20cm以上内側でなければ,鋼材の腐食を防ぐことはできないという厳しい状況にある。従って沖縄県内の海岸部においては,7cmのかぶりを採用したとしてもかぶり厚のみによる防食が可能とは言い難いと考えられる(図ー3)。
(2)塗装鉄筋の場合
「塩害対策指針(案)」および「エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いる鉄筋コンクリートの設計施工指針(案)」によれば,塗装鉄筋を用いれば「道路橋示方書」の「一般環境」における値以上,すなわち3.5cm以上とされている。しかし,エポキシ樹脂については,5年程度の早期劣化対策に対しては有効性が保証されているものの,5年以上の長期劣化対策に対しては保証されておらず,アメリカにおける報告でも無塗装のものとかわりないとの例もある。また,沿岸開発技術研究センターが実施した「港湾コンクリート構造物の劣化防止補修に関する技術調査報告」においても,塗装鉄筋を用いる場合も無塗装鉄筋と同様のかぶり厚を確保すべきとされている。
本橋の場合,航行船舶を想定してないことから最もクリアランスの高い所で5.7mと他の橋に比べかなり低くなっており「さん橋」に準ずることができると考えられる。また鉄筋かぶりを3.5cm,5cm,7cmとして経済性の比較を行ったが,コスト変動は0.2%程度である。従って,塗装鉄筋を用いた場合でも本橋の鉄筋かぶりについては無塗装鉄筋と同じ7cmとする。
しかし,鉄筋のかぶりを7cm以上確保したとしても沖縄の海岸地域という高塩分環境下においては,RC橋の場合十分な塩害対策となり得ないことが明らかである。また,PC橋の場合でも塩分の浸透状況は,RC橋とあまりかわらないとの検討結果も報告されており,かぶり7cmの確保のみで十分な塩害対策となり得るか懸念されるところである。そこで,鉄筋かぶり以外の塩害対策についても検討を行った。
4.4 塩害対策工法の概要とその評価
塩害対策工法の概要とその定性的な評価一覧を表ー2に示す。具体的な塩害対策工法の決定に当たっては,対象橋の構造形式(PC橋またはRC橋),部位(上部工または下部工)によって,その重要度,外力のかかり具合等を勘案しつつ,適切に行う必要があり目安としては,以下のような考え方となろう。
(1)RC橋の上部工
ある程度のひびわれを許容する設計の考え方であり,塩分のコンクリート中へのかなりの侵入が考えられるため,塩害環境の極めて厳しいところに位置する橋梁にあっては,鉄筋かぶりのみの対策では不十分であり,コンクリート塗装,塗装鉄筋の使用等が併せ考慮されなければならない。有望な対策としては,現時点では,エポキシ樹脂塗装鉄筋の使用があげられる(表ー2)。
(2)PC橋の上部工
コンクリートのひびわれ発生を極力防ぐ設計となっていることから,RC橋に比べ塩分の浸透は少ないものと考えられる。しかし,しぶき等により表面が湿潤状態で放置される時には,RC橋とほとんど変わらない速度で浸透が進むこと,および,ひびわれが発生しなくても塩分の浸透は徐々に進むことから鉄筋かぶりの確保以外の何らかの対策を検討する必要があろう。その際の有望な対策としては,低水セメント比のコンクリートを用いること,単位セメント量を増加させること,施工時の十分な鋼材の管理を行うことがまず挙げられる。しかし,沖縄においては,内地に比ベ一層コンクリートの塩害環境が厳しいことが予見されることから,塗装鉄筋の新しい塩害対策の実施を積極的に考える必要があろう。
(3)RC構造の下部工
RC構造の下部工の場合,断面が地震で決まることが多く,通常の活荷重および死荷重が掛かっている状態ではあまり大きな鉄筋応力,コンクリート応力とはならないと考えられる。したがって,所要の鉄筋かぶりを確保しておけば塩害対策としては十分と考えることもできるが,塩分の最も侵入し易いスプラッシュゾーンに位置することを考慮すれば何らかの対策を講ずる必要があろう。具体的な対策としては,死荷重鉄筋応力度を1,000kgf/cm2程度以下に押さえること,およびスプラッシュゾーンに鉄板を張り耐摩耗性と耐塩性を向上させている例もある。
4.5 浦添橋梁における塩害対策
(1)概 要
(2)試験的に講ずる塩害対策
PC橋における塩害の進行予測が未だ不明確である現状においては,所要のかぶり厚を確保し,水セメント比を下げる等の対策のみで十分な塩害対策をしたと考えることには問題がある。そこで試験的に現時点(昭和62年)において塩害対策として優位性の高いエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用することとし,その適用範囲,効果確認の調査計画を検討した。
① 塗装鉄筋の適用範囲
コンクリート断面のはく落を許さないことを塩害対策の水準として設定することとし,上部工については断面中の全部材の鉄筋に適用することとする。これは応力鉄筋だけに塗装鉄筋を用いる等のことを考えた場合には,無塗装鉄筋の部分が腐食することは防止できず,コンクリート断面が剥離してゆくことが考えられる。この場合には,外観上も好ましくなく,コンクリート断面積で対応する圧縮領域において破壊が進んでゆくことが懸念されるし,コンクリートの剥離がこうじて塗装鉄筋が露出した場合塗装の効果が十分に期待できなくなる。下部工については,塩害による被害例がほとんどあがっていないことから塗装鉄筋の使用は見合わせることにした。
② 試験施工の効果確認の調査設計
本調査は,試験的に使用したエポキシ樹脂途装鉄筋の効果確認のため実橋に代わるモデル試験体を暴露し,向こう20年間にわたり表ー3のように追跡調査を行うものである。
5 下部工の設計
本橋の下部工基礎形式としては,鋼管杭,鋼管矢板井筒基礎が考えられるが,経済性の両面から鋼管杭基礎とした。また,鋼管杭の杭径については,φ1,200とφ1,500について経済比較を行いφ1,200を採用した。
鋼管杭の腐食代は2mmとしたが,土質調査の結果から本地区は土壌抵抗率,塩素イオン濃度,硫酸イオン濃度および酸化還元電位から判断して,かなり腐食性の激しい環境であること,従来の腐食代のみによる鋼管杭の設計寿命では対応できないことから,アルミニウム合金陽極を使用した流電陽極法を併用した。
6 あとがき
浦添橋梁(なうら橋)は平成4年度中の供用開始を目指して橋面部分を施工中である。塩害対策のほか景観にも配慮し,親柱,高欄,バルコニーなどに工夫をこらし,また橋名も一般公募し市民に親しみやすい橋として配慮している。
最後に,本橋の設計,施工にあたってご指導ご助言をいただいた関係各位に深く感謝します。