道路舗装における現状と取り組み
(施工体制,排水性・保水性舗装,リサイクルについて)
(施工体制,排水性・保水性舗装,リサイクルについて)
国土交通省 九州地方整備局
道路部 道路工事課
舗装係長
道路部 道路工事課
舗装係長
巻 木 健 三
国土交通省 九州地方整備局
道路部 道路管理
課維持修繕係長
道路部 道路管理
課維持修繕係長
園 田 宣 昭
国土交通省 九州地方整備局
九州技術事務所 調査試験課
調査係長
九州技術事務所 調査試験課
調査係長
恵 藤 英 昭
1 はじめに
道路に多様な機能が求められる中で,歩行者や自動車へのサービス提供の場である舗装においても,安全性,耐久性等の性能のほか,快適性,景観との調和,環境の保全等に留意することがさらに必要になってきています。
また,良い物を安く造るという公共事業に求められる要請を満足するためには,新たな技術や材料が自由に使える環境の整備が不可欠になっています。
このような中,平成13年度に「舗装の構造に関する技術基準」が制定されたことで,これまで以上に道路利用者や沿道住民のニーズに沿った道路舗装が可能となりました。また,更なる社会的な課題でもある環境への取り組みもこれからの道路舗装における重要な取り組みの一つです。
また,舗装工事においては,公共事業を取り巻く経済・社会環境の急激な変化の中,望ましい施工体制の確立が今後の課題の一つです。
このような状況を踏まえ道路舗装に関する新しい取り組みについて以下に紹介します。
2 舗装工事における施工体制について
(1)現状の課題
舗装工事を取り巻く状況は,現在,舗装工事量が減少傾向にもかかわらず,依然として舗装業者数は増加傾向にあります。舗装業者数の過剰は,工事量減少局面では過当な価格競争を招く恐れがあります。このような状況下では企業利益が低下し,技術開発,人材育成などの将来に向けた投資意欲を失う恐れがあります。
しかしながら,発注者側としては,適正な価格のもと品質を確保する発注者責任があります。工事の内容や難易度に応じて適切な施工能力を有する業者を適正に選定する必要があります。施工能力を施工実績だけで評価することなく,発注者自身が業者の施工能力を見極めることが求められています。
(2)望ましい施工体制
舗装工事を確実に実施するためには,舗装技術の特殊性に鑑み,資格や経験を有する優秀な技術者と能力の高い技能者を確保できるかが重要です。また,施工に際しては,技術者と技能者のチームワークが大切であり,技術者の指示が徹底できることも重要です。
発注者側としては,施工能力のある舗装業者に発注するためには,普段の施工体制を発注者側が事前に把握し施工能力を適切に評価し業者選定を行うことが重要です。また,「舗装の構造に関する技術基準」の制定により仕様規定から性能規定に変更されたことによる新たな発注方式の導入等,望ましい施工体制の確立に向けた新たな取り組みを実施する必要があります。以下に,望ましい施工体制の確立に向けた施工業者側と発注者側の方策を整理します。
a.施工業者側の方策
〇発注者への施工体制についての情報提供
〇施工体制の整備
〇工事現場での施工体制の適正化
〇技術力の向上・維持
〇発注者への施工体制についての情報提供
〇施工体制の整備
〇工事現場での施工体制の適正化
〇技術力の向上・維持
b.発注者側の方策
〇施工業者の体制の普段からの把握
〇施工業者の技術力を評価できる発注方式の導入
〇施工能力を評価できる業者選定
〇現場での点検
〇発注の平準化
〇施工業者の体制の普段からの把握
〇施工業者の技術力を評価できる発注方式の導入
〇施工能力を評価できる業者選定
〇現場での点検
〇発注の平準化
(3)施工体制を評価した発注方式
九州地方整備局では,施工業者の施工体制を把握するため,平成14年9月にアスファルト舗装工事の有資格者507社(A等級83社,B等級424社)に対し,「アスファルト舗装工事施工体制実態調査」を実施しました。調査の内容は,技術者の状況(舗装施工管理技術者)や作業拠点の配置状況,施工機械・合材工場の配置状況,ISOの取得状況等について調査しました。
今回の調査結果を踏まえ,施工機械やプラントの保有状況,技術者の配置状況などを新たに加えた試行技術審査基準を平成14年2月末にまとめて,その試行工事として工事希望型指名競争入札3件(熊本,大分,鹿児島)を対象に実施しました。
今後も,ますます施工技術力,施工能力・施工体制が重要になっていくものであり,これまでの取り組みにとらわれることなく,望ましい方向に向けてさまざまな取り組みを実施していきます。
3 排水性舗装における性能規定・総合評価発注方式の現状について
排水性舗装は,空隙率の高い多孔質なアスファルトを表層(排水性混合物)に用い,表層の下に不透水性の層を設けることで,表層を通して雨水が速やかに排水施設へ排水し,路盤以下へは水が浸透しない構造となっています。
表層が一時貯留槽として機能するため,降雨から雨水が排水施設に流入するまでに時間差が生じ,下水や河川に排水を集中することによる負荷の緩和が期待されます。また,舗装面を雨水が流れないため,車両走行による水はねやヘッドライトによる路面反射の緩和等による視認性・安全性の向上が図られます。
排水性舗装は,多孔質なアスファルトを用いることで騒音低減能力を有することから,低騒音舗装とも呼ばれています。路面とタイヤ間で生じる音や自動車のエンジン音が空隙に入り込むことで音が減衰し騒音が低減されます。排水性舗装における現在の発注方式は,従来の仕様規定によるものと,この騒音低減効果を利用して騒音値を性能指標としだ性能規定発注方式あるいは,総合評価発注方式で実施しています。平成11年度から実施した性能規定および総合評価発注方式は,平成14年度までに56件の工事で実施しました。これまで騒音低減を目的として施工業者から提案された舗装構造提案の内容は,そのほとんどがバインダーや骨材粒径の工夫になっています。
排水性舗装における新たな取り組みとして,技術力・施工能力を評価する発注方式を実施しています。性能規定および総合評価発注方式では,いかに騒音値を低減できる舗装構造を提案し,それを現場で確実に施工できるか,技術力・施工能力がきわめて重要であることから,一定規模以上の工事において以下の事項を技術審査基準に加えた試行を実施しています。
〇追加事項
① 自社の研究所又は試験室を有すること。
② 自社技術での配合設計に基づく施工実績を有すること。
③ ―級舗装施工管理技術者を配置すること。
今後も,排水性舗装の機能向上と施工技術力,施工能力・体制の向上に向け,新たな性能指標,発注方式等に取り組んでいくこととしています。
4 保水性舗装について
保水性舗装は,都市中心部の気温が周辺部に比べて高くなっている「ヒートアイランド現象」を緩和する対策のひとつとして開発され,昨年8月九州技術事務所構内に国土技術政策総合研究所と独立行政法人土木研究所と共同で試験施工しました。また,保水性舗装の効果を把握するため,保水性舗装の比較舗装として排水性舗装を採用し,舗装体内の温度や舗装表面の気象を観測する機器を設置して,今年度も引き続き観測を行っています。
(1)ヒートアイランド対策は環境問題
「ヒートアイランド現象」について,環境省は「都市部の地表面における熱収支が,都市化に伴う人工排熱の増加や,地表面被覆の改変(舗装,建築物等)などにより変化し,都市部の気温が郊外に比べて高くなる現象」で「都市部およびその周辺の地上気温分布において,等温線が都心部を中心に島状に市街地を取り巻いている状態により把握することができる」としており,近年の都市の環境問題の一つとして大きくクローズアップされています。
ヒートアイランド現象の主な原因としては,コンクリート等による地表面被覆の増加や緑地の減少,空調機器等の人工排熱の増加などがあげられています。道路の場合は表面をアスファルト舗装することによって地表面が高温化するため,熱くなった地表面の熱が大気を熱することによるものです。
国土交通省は,2002年8月に「国土交通省ヒートアイランド対策連絡会議」を設置し,ヒートアイランド現象の解消に必要な観測・調査・分析,検討を行うこととし,「重点施策」の中の「ヒートアイランド対策」を講じるとしています。
(2)九州技術事務所構内試験施工と観測
九州技術事務所構内に保水性舗装と排水性舗装を施工し,気象観測装置を設置している状況を右上の写真に示しました。
下の平面図と断面図には,それぞれの舗装を「30m×30m」の広さで,表層と基層の舗装厚をそれぞれ5cmとして施工した状況を示しました。また,舗装の中央部(5m×5m)は路盤厚を25cmとし,舗装内温度を測定する「熱電対」という機器を埋設しました。
舗装内温度を測定する熱電対は、中央の観測サイトの深さ方向に4箇所(路盤下部,基層下部,表層下部,表層上部),観測サイト周辺は表層上部と表層下部の2箇所,平面的にはそれぞれ7箇所,総数40箇所に埋設しています。
舗装路面上には,排水性舗装と保水性舗装の中央部(以下「観測サイト」),及び風上,風下地点に風向風速日射反射計,グローブ温度計などの気象観測機器を,写真のように設置しています。
観測機器は下記の通りです。
① 気象観測は通年観測と夏季観測
気象観測は,7月~9月までの夏季観測を中心に行うとともに,通年観測も行っています。
・日射量 日射計(2台)
・日射反射量 日射計(2台)
・放射収支 放射収支計(2台)
・地中熱流量 熱流版(6台)
・路面温度 赤外温度計(2台)
・蒸発量 測定用コア(3個×2)
・黒球温度 グローブ温度計
・湿球乾球温度 湿球乾球温度計(2台)
・舗装内温度 熱電対(40本)
・気温・温度 温湿度計(16台)
・雨量 雨量計(1台)
・風向・風速 風向・風速計(6台)
・気圧 気圧計(1台)
② 蒸発量測定
保水性舗装の機能の測定は,保水性舗装内に保水した水分と排水性舗装の水分の蒸発量を比較する方法で行います。
具体的な手順は,次の通りです。
・散水車で舗装の15m範囲に散水を行う。
・保水性舗装及び排水性舗装の各観測サイト部からコアを3個ずつ採取する。
・それぞれのコアの重量を1時間毎に計測し,蒸発量の経過を測定する。
(3)観測結果
① 蒸発量測定結果
平成14年度は,10月2日に散水を行い蒸発量の測定を行った結果,保水性舗装部での蒸発量は,散水後ほぼ12時間で,また排水性舗装部では散水後ほぼ10時間で変化量がほとんどなくなっています。
② 舗装路面温度の比較
舗装路面温度は夏季観測期間(9月17日~10月16日)結果より,最高温度時では排水性舗装と比べて保水性舗装が7.5℃低い結果となっています。また,平均値では保水性舗装部24℃,排水性舗装部27.6度と,保水性舗装が3.6℃低い結果となっています。
(4)シミュレーション計算で解析
ヒートアイランド現象を緩和する効果の評価は,舗装路面上部の気温が対策によってどれだけ変化したかで行い ます。評価については,独立行政法人土木研究所のヒートアイランド解析用シミュレーション計算で行うことにしています。
下図は気温比較のイメージ図です。
5 リサイクルの現状と技術について
「建設工事に係わる資材の再資源化等に関する法律(平成12年法律第104号)(建設リサイクル法)」が平成12年5月31日に成立したのを受け,これまで建設工事に伴って発生する建設副産物の「発生抑制」「再利用の促進」「適正処理の推進」を図るため,さまざまな施策を展開してきました。
平成12年度に実施した九州地域における建設副産物実態調査の結果は次の通りです。
(1)リサイクル状況
リサイクル状況は,アスファルトコンクリート塊,コンクリート塊が進展して建設廃棄物全体のリサイクルを押し上げています。
① 平成7年度との比較
・建設鹿棄物排出量=平成7年度比3%微減
・建設発生土搬出量=平成7年度比29%大幅減
② 全国平均との比較
・九州平均83%は全国平均85%に比べ2%低い
・廃棄物種類別でのアスファルトコンクリート塊96%,コンクリート塊92%は全国平均(98%,96%)と同程度
・建設汚泥21%と建設発生木材22%の再利用率は,全国平均(41%,38%)に比べて低い
③ 九州各県の比較
表ー1に九州各県の建設副産物再資源化等率を一覧表で示しました。
・全体では,鹿児島県(89%),佐賀県,大分県(87%)が高い
・アスファルトコンクリート塊は宮崎県(99%),福岡県,鹿児島県(98%)が高い。
・コンクリート塊は佐賀県(96%),長崎県,宮崎県,鹿児島県(95%)が高い。
・建設汚泥は大分県(68%),建設発生木材は鹿児島県(40%)が高い。
(2)リサイクル率推進状況
九州での建設廃棄物の種類別再利用(リサイクル)率は順調に推進しています。
・アスファルトコンクリート塊は59%→96%
・コンクリート塊は41%→92%に上昇
(3)リサイクル技術と今後の課題
以上のように,リサイクル率は全国平均で58%から85%のように推進しています。その背景には発生材の破砕技術,再生合材の製造技術,再生骨材の加熱技術,再生用添加剤の開発や進歩が影響していることが考えられます。
① 再生加熱アスファルト混合物の現状
平成13年度の九州地方における再生加熱アスファルト混合物の製造状況は図ー3のとおり,鹿児島県,沖縄県以外は,再生加熱アスファルト混合物が新規加熱アスファルト混合物の製造量より多くなっています。
そのような中で,アスファルトの針入度は1992年度に比べて1999年度の調査では平均値で32から31に低下しており,局所的にはかなり低い針入度も報告されています。この原因としては耐流動舗装として改質アスファルトが多く採用されてきたことがあげられます。
② 排水性舗装の現状と課題
わが国における排水性舗装の施工は,昭和62年の東京環伏7号線にはじまり,約12年が経過しており,施工量は急激に拡大しています。
近い将来,供用性能の低下による修繕工事の増大が予想されていますが,排水性舗装には高粘度合物の再生とは異なる性質の研究,開発が必要であると考えられます。このような情勢をふまえて日本道路公団では平成11年度より路上再生,プラント再生についての試験施工を開始しています。
③ 他産業の廃棄物利用に関する現状
その他の廃棄物の利用に関しては,焼却炉で発生するゴミ焼却灰溶融スラグの再生利用技術が代表的であり,産業廃棄物の再生利用はスラグ類,石炭灰,廃ガラス,廃タイヤ等があげられます。
今後は,以上の再生技術に加えて,再生アスファルトの再生回数,通常のアスファルト混合物発生材の分別収集方法と場所,製造した再生骨材の貯蔵など,解決しなければならない課題が残されています。