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道路事業と交通騒音対策

建設省建設経済局 
調査情報課建設専門官
(前 建設省土木研究所
交通環境研究室長)
中 島 威 夫

建設省土木研究所 
交通環境研究室研究員
木 嶋  健

1 はじめに

高度経済成長以降,社会活動や経済活動の進展に伴って,道路交通需要は年々増加しており,道路の設備は着実に進んでいるものの不十分な状況にある。道路は,人や物資を輸送するといった輸送機能だけでなく,生活空間,公共施設の収納空間,景観形成としての機能等を有しており,社会生活を営む上で必要不可欠な存在である。しかし一方では,自動車交通に伴って発生する沿道環境の悪化という負の効果も有している。このため,道路計画を進める上では,安全で円滑な交通流を確保し,快適な道路空間を創造することと併せて,沿道の環境についても十分な配慮を行うことが重要である。現在では,一定の規模,要件を備えた幹線道路を計画する場合には,事前に沿道の環境に及ぼす影響を予測,評価し,これに基づいて必要な環境保全対策を講じることとなっている。
環境保全対策としては,自動車側における対策,沿道における対策,受音側における対策の3段階の対策が考えられる。道路管理者側で積極的に取ることができる対策は沿道対策であるが,沿道対策に着目した場合,道路計画段階,道路供用開始後それぞれの段階に応じて,取りうる対策が異なると考えられる。計画段階においては,道路構造による特徴に対応した対策の選定が可能であるが,供用開始後においては道路構造の変更は非常に困難であり,沿道に環境対策施設を設置して対応することになる。以下では,発生源における対策,道路あるいは沿道における対策を取り上げて紹介することにする。

2 発生源対策
走行車両の騒音発生箇所を詳細に見ると,エンジン,冷却ファン,吸排気,動力伝達機構,タイヤ,車体の風切り等非常に多岐にわたっているが,大きくは,エンジンとタイヤの2種類に分類される1)。従って,走行車両自体の騒音対策を検討する場合には,エンジンとタイヤの2つに着目するのが適当と考えられる。
エンジン音対策については,加速走行時の車両騒音規制を達成するため,エンジンエンクロージャ等の対策が実施されている。加速走行時においても,タイヤ音の影響は存在するが,定常走行時と比べるとエンジン音に対する割合は小さい2)。表ー1に加速走行騒音規制の変遷を表わす。これを見ると小型車,大型車のいずれについても,昭和46年当時と比べて規制が厳しくなっていることがわかる。しかし,加速走行時の騒音は,都市部等において依然として大きな問題であり,今後より一層のエンジン音対策を実施することが望まれる。

一方,タイヤ音対策については,昭和46年に設定された定常走行騒音規制により,間接的な規制が実施されている。しかし,一部のタイヤについて低騒音化がはかられたのみであり,走行騒音に占めるタイヤ音の割合が高いことを考えると,規制値にとらわれずにタイヤ音の対策を強力に推進していくことが重要であると考えられる。特に,乗用車の場合には,走行騒音のうちタイヤ音の占める割合がかなり高いことから,タイヤ音の対策はエンジン音対策以上に重要であると考えられる。また,高速道路等において,車両が高速走行する場合,タイヤ音の走行騒音に占める割合は一般道路箇所よりも高くなることが予想され,この意味でも,タイヤ音の対策は必要になってくる。
自動車単体から発生される騒音が減少すると,交通流とした場合の自動車交通騒音の減少も大きく見込める。自動車メーカーやタイヤメーカー等によって,車両騒音の対策方法について研究が行われているが,今後とも,これらの調査・研究を実施していくことが望まれる。

3 道路構造による違い
道路構造により騒音伝播が異なることが知られており,計画段階で騒音対策を検討する場合,構造検討と同時に対策検討を行うことが有意義である。
代表的な道路構造として,平面構進,盛土構造,切土構造,高架構造の4種類が挙げられる。これら4種類の各道路構造に対して,交通条件を一定とした場合の等騒音レベル線図は,図ー1に示すとおりである。これを見ると,路面高さによって伝播性状が異なっていることがわかる。盛土と高架構造の等騒音レベル線図は大体同様の領向を示している。低い受音位置では道路端からの距離の相違による騒音レベルの変化は余り現われていない。また,路面の高さが同一の場合に盛土構造と高架構造の騒音レベルを比較すると,一般的に盛土構造の方が騒音が低く出る領向にある。一方,切土構追の場合には,受音位置によらず,道路から離れるにしたがって騒音レベルは減少していることがわかる。平面構造の場合には,騒音を遮る障害となるものが存在しないために,図ー1の構造の中では,騒音レベルが最も大きくなっている。
このように,道路構造を,平面から盛土,高架,切土と変化させることにより,騒音レベルをある程度減少させることも可能である。しかし,受音位置によって騒音レベルの分布が異なっているため,計画段階における道路構造の検討にあたっては,それぞれの構造の特徴を十分に配慮することが必要である。

4 沿道対策
a)遮音壁
遮音壁(防音壁ともいう)は,道路交通騒音を低減させる対策として,広く用いられている方法である。これは,走行車両から発生する騒音が,受音位置へ直接伝播するのを妨げるために,車両と受音位置の間に障害物を設置することにより騒音を低減させようとする方法である。築堤盛土もこれと同様な考え方である。障害物を設置することにより,音が遮断され騒音が減衰する現象を,「回折減衰」と呼ぶこともある。この回折減衰による減音量は,音源と受音点の位置関係により求められる行路差を用いると,図ー2により容易に算出することができる。これを見てもわかるように,音源と受音点の間に高い障壁が存在すると,減音効果が大きく得られることがわかる。

現在用いられている遮音壁は,遮音型遮音壁ならびに吸音型遮音壁に大別される。遮音型遮音壁はコンクリート板等で作成されており,比較的重い構造となっている。従って,道路土工部分で適用されることが多い。一方,吸音型遮音壁は,グラスウールが内包されたアルミ構造となっており,遮音型遮音壁に比べて軽量構造となっている。従って,高架構造等においても適用可能である。遮音型遮音壁と吸音型遮音壁の音響特性を比較すると,遮音型遮音壁では遮音壁による音の反射があり,遮音壁の反対側で騒音が高くなる。写真ー1,写真ー2に遮音型遮音壁ならびに吸音型遮音壁の設置例を示す。

遮音壁は,ドライバーの視覚を遮り圧追感を与えるだけでなく,沿道地域に対しても圧迫感を与えると考えられる。このため近年では,内外の景観面での配慮を行った遮音壁が求められるようになってきている。景観面での配慮を行った遮音壁の例としては,表面に着色装飾をした遮音壁,形状や表面にアクセントをつけた遮音壁,遮音壁自体を透明構造としたものなどがある。遮音壁表面を着色する方法は比較的容易であり,所々において,地域特性とマッチした着色がなされている。表面の着色によって,ドライバーや歩行者に与える印象を柔らげることが期待されている。透明板遮音壁は,ドライバーに対する圧迫感の低減や日照の問題を解決することを期待している。しかし,透明板遮音壁は一般的に反射性を有しているため,遮音壁による反射が問題となる箇所においては,反射の防止を念頭においた設計を実施することが重要になる。遮音壁による反射の影響を軽減するために,遮音壁を曲面形状としたり,遮音壁の支柱に吸音処理を施したりする方法も取られている(写真ー3,4)。また,遮音壁表面に穴を開けて,表面の共嗚吸音効果を期待した例もある(写真ー5)。
また,新しい試みとして,遮音壁の減音効果を増大させるため,遮音壁の先端に吸音材(ノイズレデューサー)を装着して施工された例もある(写真一6)。これは,遮音壁先端部分の吸音材による擦過減衰を期待するものであり,同一の遮音璧高さであっても,受音位置によっては減音効果が増大するというものである。今後,このような遮音壁についても調査・研究を実施していくことが望まれる。

b)環境施設帯
環境施設帯は,音源である走行車両と受音位置を離すことにより,交通騒音の距離減衰効果を得ようとする方法である。また,環境施設帯には,植樹帯や遮音壁,築堤盛土等の障害物を設置することができ,これによる騒音低減効果も併せて期待することができる。植樹帯の騒音低減効果については,これまでに様々な報告がなされているが3)定量的にはまだ十分に把握されているとは言えない。今後とも,植樹帯の騒音低減効果について,より詳細な検討を実施することが望まれる。
一方,環境施設帯は,騒音低減効果の他に大気汚染物質吸収効果や拡散効果も有する。自動車から排出されるガスのうち,NOxやCO2等のガスを固定化する有力な方法であるとの報告もこれまでになされている4),5)。また,環境施設帯は,植樹帯を併設することにより,大気汚染物質拡散効果が増加するとの報告6)もなされている。環境施設帯は,騒音ばかりでなく自動車排出ガスにとっても有力な対策方法と考えられ,今後,この面での調査研究も実施していくことが望まれる。

5 排水性舗装
排水性舗装の類義語に透水性舗装というのがあるが,透水性舗装の定義は,道路用語辞典に,「主として降水を地中に還元するため,あるいは路面の排水性を助長するために透水性を向上させた舗装」と記述されている。つまり,透水性舗装とは,空隙を持たせることにより,路面に滞留する雨水を舗装中に透過させてこれを排除するものである。一方,排水性舗装は,透水性舗装が基層中にも雨水を浸透させる構造であるのに対し,雨水を基層面上に流出させて排除するものである。近年,排水性舗装の騒音低減効果に着目した調査研究が行われるようになってきている。排水性舗装は,舗装表面に空隙が存在しているが,この空隙の作用によって車両の騒音低減効果が得られると考えられている。現在のところ,目つぶれ,目づまりによる効果持続性の問題があり,実用化の段階には至っていない。排水性舗装の騒音低減要因を大別すると次の2つになる。
第1は,舗装表面の空隙による吸音効果である。表面に空隙が存在する排水性舗装は,吸音材として用いられているグラスウール等多孔質材料と音響的には同等の構造であると見なすことができる。従って,排水性舗装においても,空隙による吸音作用がある程度存在すると考えることができる。

第2は,舗装表面の空隙によるタイヤのエアーポンピング音の低減である。エアーボンピング音とは,タイヤトレッドと路面の間の空気が一時的に圧縮され,この圧縮空気が解放されるときに発生する騒音である。排水性舗装では,表面に空隙が存在することにより,タイヤと路面の間の空気が圧縮されず,これに起因する騒音が一般路面よりも減少すると考えられる。
一方,排水性舗装には,騒音を上昇させる負の効果も有している。排水性舗装の路面は通常の路面よりも粗いため,タイヤトレッドやタイヤ本体が一般路面の場合よりも加振され,これに起因する騒音が大きく現われると考えられることである。騒音低減効果に着目した排水性舗装を検討していく場合には,耐久性等の構造的な要因の他に,上記の要因も踏まえて検討していくことが望まれる。

6 あとがき
道路事業を実施する場合,沿道の環境を保全するということは,今後,ますます重要な課題になっていくものと考えられる。沿道の環境を改善するために,発生源,道路あるいは沿道,受音側における環境対策についての調査・研究を,今後ともより一層充実させ,事業に反映していくことが必要であると考えられる。

参考文献
1)例えば,日本交通政策研究会,「道路交通騒音について(現象編)」,1976年12月。
2)中山隆他,「大型トラックのタイヤカバーによる騒音対策」,高速道路と自動車29-6,1986年6月。
3)例えば,日本道路公団,(社)道路緑化保全協会,「緩衝緑地帯等における植栽機能の定量把握に関する研究(その4)」,1983年2月。
4)例えば,中島威夫他,「環境施設帯の大気浄化機能に関する研究」,土木研究所資料2983号,平成3年3月。
5)例えば,小澤徹三,「道路緑化による環境保全効果の定量把握に関する基礎的研究」,第19回日本道路会議論文集,1991年10月。
6)例えば,山田治他,「緑地帯の大気拡散効果に関する一考察」,第46回土木学会年次学術講演会概要集第4部,1991年9月。

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