道づくりは改革の時代へ
~これからの道路整備に求められるもの~
~これからの道路整備に求められるもの~
国土交通省 九州地方整備局
道路部 道路計画第二課長
道路部 道路計画第二課長
喜 多 川 孝
1 はじめに
道路整備の五箇年間の計画は,平成15年度から「社会資本整備重点計画」(計画期間:H15からH19まで)に統合された。これは,国土交通省の9本の事業分野別長期計画を統合し,コスト縮減,事業間連携の強化等を図り,計画策定の重点を従来の「事業量」から「達成される成果」に変更するなど,社会資本整備の重点化・効率化を一層推進するために策定された。(平成15年10月10日閣議決定)社会資本整備全体が様々な課題を抱える中,道路整備についても,より一層の重点化・効率化を図り,国民に信頼される道づくりが求められており,成果主義を予算に反映させるしくみづくりや効率的につくり,有効に道路を使う道路施策を進めるなど,道路行政の改革を進めていく。ここでは,道路行政の改革の内容を紹介し,これから九州に求められる道づくりについて考察する。
2 成果主義に基づく道路行政マネジメント
(1)「成果主義」の予算制度の導入
平成15年度以降五箇年間における道路の整備に関する事業については,社会資本重点整備計画に即して重点的,効果的かつ効率的に推進することとし,その事業の量は38兆円を上回らないものとすることが決定している。※表ー1参照(平成15年10月10日閣議決定)
また,より効果的,効率的かつ透明性の高い道路行政へと転換を図るため,道路行政に「成果主義」を取り入れ,見込まれる成果に対して予算を配分する「成果買取型」の予算制度を導入することとしている。そのため,予算の要求段階から渋滞の緩和や交通安全等の指標に基づく成果目標に対応した予算を明らかにし,計画通りに達成されたかどうかを評価することとしている。
また,平成16年度からは,評価結果により以降の予算に反映するしくみを導入する予定である。
※図ー1参照
(2)九州地方整備局の5年で見える道づくり
「ちゃく2プロジェクト2003」
「ちゃく2プロジェクト2003」
九州地方整備局では,利用者に見える道づくりを目指し,供用目標効果の明示と進捗管理を行うため,着々と着実に重点的に整備する事業を「ちゃく2プロジェクト」(“ちゃくちゃくぷろじぇくと”=通称“ちゃくプロ”)を選定し公表した。(平成15年8月4日公表)
ちゃくプロ選定要件として,
◆厳しい財政的制約を踏まえ,効果の高い事業の集中的・重点的な整備
◆道路規格の見直し,事業のスピードアップなどによるコスト縮減
◆選択と集中により5年以内に供用が可能な事業を選定し,供用目標と効果を明示
◆供用目標の達成に向けて,予算・体制の確保、毎年の進捗状況の確認,用地確保のための収用制度の適切な活用など,事業の進捗管理の徹底
を実施していくこととしている。
「ちゃく2プロジェクト2003」には,現在の事業中の箇所のうち,平成15年7月現在で要件を満たす事業区間を選定しており,今回選定しなかった事業についても,今後の進捗状況に応じて適宜追加することとしている。また,供用目標は,平成15年度予算とほぼ同程度の道路整備予算が確保されることを前提としており,今後予算規模が大きく変動した場合には見直しが必要となる。
3 これからの道づくりの新たな取り組み
(1)開かれた道路行政に向けて~「市民と行政との協働」の時代へ~
成果主義に基づく道づくりへの変革にあわせ,国民への道路行政運営の説明責任を徹底するため,道路に関する様々なデータを体系的に収集・共有し,インターネット等を通じた公開を充実することとしている。また,市民との関係についても「行政主導」型の道づくりから「市民と行政との協働」型の道づくりを進めていくことが必要になり,計画決定手続きの透明性,客観性,公正さを確保するため,構想段階からの「市民参加型道路計画プロセス」の推進や「公」と「私」の協力関係によって地域の要望に即した道路管理を地城と一体となって行う「市民参加型道路管理」の実施を進めていくなど,開かれた道路行政進めていく。
(2)九州の協働事例
◆道路計画段階での市民参加事例
〇「一般国道3号植木バイパス道路整備計画検討委員会」平成10年度
〇「一般国道57号熊本東環状道路計画検討委員会」平成12年~13年度
〇「一般国道10号鹿児島北バイパス磯の道づくりPI【注】委員会」平成15年度~
【注】PI:パプリック・インボルブメント(計画策定や意思決定の段階から、住民の参加を求め,住民など広く関係者の意見を反映)
◆市民参加型の道路管理:ボランティアサポートプログラム
〇ボランティアサポートプログラムは,地域住民団体等が道路管理者と協定を結び,道路の美化清掃活動等に参加し,用具の支給等を道路管理者が支援するプログラムのことで,九州の直轄国道管内では,82団体,約4,500人の方々が活動中。
(平成15年11月現在)
(平成15年11月現在)
◆NPO・地域住民との協働による地域活動
〇学校と連携した総合学習道を活用したイベント開催美化活動など,NPOや地域住民が道を活用した地域活動や道路管理に参画する機会を増やすための取り組みを行っている。
〇平成15年10月には,九州各地で道路の清掃や緑化活動,道に関係が深いNPO団体等28団体による「道のボランティア活動等に関する意見交換会」を実施した。意見交換会では,「九州内の各団体の情報交換,連携が必要」という意見が多く出され,平成16年2月を目途に民間主体の連絡会議「道(みち)守(もり)九州会議(仮称)」を発足することが決まった。
(詳しくは、ホームページ参照http://www.michimori.com)
(3)社会実験の有効活用
社会実験は,地域が抱えている問題を解決するため,地域の方々と新しい施策を考え,実際に体験することで施策を実施するどうかの判断をするもので,平成11年度から実施している。
平成15年度に実施する社会実験は,いづれも「車優先から歩行者・自転車優先への施策転換」を図るため、地域の人々の創意工夫による安全で快適な道づくりを目指しており,「くらしのみちゾーン」や「地域主体の道の活用 (NPO等との協働)」が進められている。
九州では,それぞれの地域の課題解決に向け,3地域の社会実験を行っており,実験を通じ地域それぞれの課題を解決する道づくりを進めていくこととしている。
特に,佐賀市日新地区において実施した,スピード低減を目的としたハンプ構造(実験は,22箇所設置)は,実験期間中に存置要望が出ており,進入禁止や速度制限の存続が決まっているなど,自ら体験することによる社会実験本来の効果が出ている。
また,一般道路から有料道路への交通等の転換を促進することにより道路の有効利用を図り,沿道環境改善や渋滞緩和,交通安全対策等を推進することを目的とした弾力的な料金設定の実施に向けての有料道路料金に係る社会実験も平成15年度から実施されており,実験の効果が期待されている。
(4)道路行政の評価・公開
道路行政においては,生活者・地域の視点に立った評価が必要であり,平成14年度より道路事業の成果を表す指標(アウトカム指標)の一つとして,道路サービスに対する利用者の満足度を5段階評価で表した「利用者満足度」を採用している。満足度調査は,毎年実施され調査結果を定点評価することとしている。平成15年度は,インターネットを利用して全国3万7千人の回答が得られ,昨年の調査結果と同様に回答者の半数が道路に「不満」(道路全般に対する満足度=2.6)を持っていることがわかっている。項目別には,「高速道路の料金=1.7」,「路上工事のやり方=2.2」,「歩行者の安全性=2.3」などの不満が大きいことが明らかになった。各県別などの調査結果の詳細は,道路局ホームページで公表している。
このように国土交通省では,事実を表すデータに基づく行政運営を進め,国民への道路行政運営の説明責任を徹底するため,道路に関する様々なデータを体系的に収集・共有するとともに,インターネット等を通じた公開(道路IRサイト【注】)を平成13年度より実施しており,今後さらに充実していく。特に,事業評価では,新たに事業に着手した段階・事業途中の段階,事業が完了した段階の3段階で事業の評価を行っている内容について公表している。
【注】道路IRサイト:民間企業のIR(Invester Relations)活動の考え方を取り入れ,財務関連データや渋滞損失データ,事業評価等の結果をわかりやすく提供する特別サイト
(5)新たな視点で見る道路整備効果
ホームページなどにて情報提供している道路の整備効果については,交通渋滞の解消による時間短縮,交通事故の低減といった直接効果の提供のみではなく,環境改善や救急医療・観光支援などの多様な効果についても整備効果事例集の中で情報を提供している。以下,整備効果事例集の中から新たな視点で整理されている効果をいくつか紹介する。
◆高速道路の整備によって遠距離地域へのいちごの出荷が増大
「九州横断自動車道」
「九州横断自動車道」
〇九州横断自動車の整備は,単に九州圏の農作物の動きを活発にするだけではなく,さらに遠方の大都市圏への出荷にも強い影響力を発揮し,佐賀県のいちごの遠方への出荷量では,昭和52年から平成7年の15年間に12倍以上増加した。
◆農村地帯がハイテク産業の町に「国分隼人テクノポリス」
〇鹿児島県国分市は,たばこが主な産業の農村地帯で,農業の衰退で人口が減少し,昭和46年には3万人以下になっていたが,昭和47年鹿児島空港が完成し,さらに昭和48年には九州縦貫自動車道「加治木~薩摩吉田間」開通で事態は大きく変化した。
〇高速交通サービスの利用が30分で可能になった国分市は,アクセスの良さをアピールし積極的に企業誘致し,開通後は企業立地が進み,平成6年の工業出荷額は1,700億円で昭和46年の30億円の50倍以上。また人口は1.68倍の伸びになった。
◆北大道路の完成により救命緊急医療圏の拡大「国道10号」
〇福岡,大分両県で緊急医療センター(三次搬送指定病院)は7箇所あるが,北九州・大分間の国道10号沿線には1箇所もなく,救命緊急医療については脆弱な地域であった。
〇昭和60年度から順次整備されてきた一般国道10号北大道路が,平成7年度豊前バイパス開通により全線開通し,北九州市~大分市の所要時間が約2時間も短縮し,重症救急患者の搬送時間の目安である1時間圏が拡大,京築地域から北九州市への患者搬送件数が,平成6年対比で平成8年は2.5倍と飛躍的に増加した。
◆道路整備は所得増加にも貢献「熊本第二空港線」
〇(通称)第二空港線[(主)熊本益城大津線]は,昭和46年に開港した熊本空港へのアクセス強化のため熊本市街地から空港へ最短距離で結ぶように計画された4車線道路で,熊本テクノポリス計画の核施設であるテクノリサーチパークとも直結し,テクノ回廊としての役割もになっているほか,南阿蘇地域への最短コースとして,産業観光に寄与している。
〇昭和63年に熊本都心部と熊本空港を15分で結ぶ第二空港線の開通により,空港に隣接する西原村は熊本市への通勤・通学依存率が上昇し,村民所得は阿蘇郡全体で最高になった。
◆道路整備により観光客大幅アップ「国道326号開通」
〇大分県南から宮崎県北地域を通過する国道326号が平成10年10月の全線開通により,大分市~延岡市間の所要時間は約40分間短縮した。
〇沿線の人口4,000人の宇目町では,道路整備にあわせた「道の駅」開業(平成7年4月)で,観光客および観光消費額が大幅に増加,県境を挟んだ地域間交流が活発になった。
◆新鮮な農産物,気軽に立ち寄れる雰囲気が人気の道の駅「鹿北」
〇道の駅「鹿北」は,国道3号の熊本県の北の玄関口の“小栗峠”にあり,平成9年4月開業以来,熊本市と久留米市の中間地点に位置することもあり,大型車交通量も多く大型車が駐車可能な駐車場,24時間利用できるトイレなど,ドライバーにとって絶好の休憩ポイントとして,交通安全の向上に寄与している。
〇また、物産館には地元の鹿北茶,筍,山菜,新鮮野菜,手作り加工品,工芸品が並び,農産物の生産や地域の活性化に貢献し,平成10年にはレストランも開業年間客数はレジ客のみでも24万人から44万人と約2倍に増加するなど,連日多くの人でにぎわっている。
◆障害者の方からも大好評のバリアフリー化「国道220号宮崎市橘通り」
〇宮崎市のメインストリート橘通り(国道220号)の約500m間,7箇所について,歩道と車道の段差解消,ハンプ式横断歩道(横断歩道を嵩上げすることで歩道を横断する車輛の速度を低減させ歩行者との事故を防ぐ),自転車道の段差解消などのバリアフリー対策を進め,障害者の方から好評を得ている。
〇平成9年度に完成し,完成後のアンケート調査では,参加者のほぼ全員が段差の解消の改善効果を認め,ハンプ式横断歩道についても74%の方が改善効果を評価している。
以上いくつか事例を紹介したが,道づくりに求められるものが多様化していく中で,道路整備の効果も様々な視点から評価していく必要があり,社会経済活動を支援する道路整備について深く研究・評価し,内容を公表していく仕組みを今後も確立していく必要がある。
5 おわりに
今回の報告では,道づくりの仕組みや考え方の変化を中心に事例等を交えながらまとめて見たが,御理解いただけたでしょうか。詳しくは、文中にて紹介したホームページ等を参照して頂きたい。
公共事業を取り巻く環境が大きく変わる中で、道づくりについても新たな展開の時期を迎えていることを理解してもらえれば幸いに思う。国民に信頼される開かれた道路行政,地域ニーズや国民の方々一人一人の声をより多く反映できる道づくりを目指して,今後一層の努力が必要となっている。