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軟弱地盤上の大規模捨土工事における計測管理

九州電力㈱玄海原子力発電所建設所
土木課長
元 田 啓 一

九州電力㈱土木部
水力開発課主任
桜 木 雅 仁

西日本技術開発㈱
開発部部長代理
木 寺 佐和記

西日本技術開発㈱
調査部主任
相 場  明

1 はじめに
九州電力株式会社は,佐賀県東松浦郡玄海町に玄海原子力発電所3,4号機の増設工事を,既設1,2号機に隣接して行っている(図ー1参照)。
この内土木工事は,昭和60年1月から土捨場準備工事を開始し,敷地造成工事,護岸工事,原子炉建屋等の基礎掘削工事,諸構造物の構築工事等を行ない,現在では,3,4号機の主要工事および捨土工事をほぼ終了した。
この増設工事に伴い発生する約300万m3の掘削土岩の処理をした土捨場は,原地盤は標高1~3mの湿田地帯であり,軟弱粘土層が最大厚さ約10mで分布している箇所である。捨土工事は,ここに盛土高約25mの捨土を行ったものであり,それに先立ち,粘土層の圧密促進のための鉛直ドレーン工,盛土斜面の安定を図るためのサンドコンパクションパイル工,深層混合処理工等の地盤改良工事を実施した。また,沈下管理や斜面安定管理を主目的とした計測管理を実施した。
本報告は,計測管理の全体概要と,計測管理結果の内の圧密沈下管理の結果について述べたものである。なお,斜面安定管理の結果については,他の報告1)を参照していただきたい。

2 工事概要
(1)地形・地質の概要
土捨場は,一方向が海に開き,三方向が標高30~50mの丘陵地に囲まれている。土捨場の基盤は第三紀層の佐世保層群に属し,その上部に,沖積層(軟弱粘土層)が分布している(図ー2参照)。
軟弱粘土層の性状は,ボーリング調査,静的貫入試験および室内試験によれば,図ー3に示すようであり,以下の特徴を有している。
① 粒度組成は,全深度にわたって粘土含有率が50~60%であり均一である。
② 深度0~2m間は,比重が2.4~2.6と小さい(有機物を含んでいる)。
③ 一軸圧縮強度は0.5~3.5tf/m2程度である。
④ 圧密係数は101㎠/dayオーダと極めて小さい。

(2)地盤改良工事
捨土工事に先立ち,軟弱地盤改良工事を実施したが,その概要は以下のとおりである(図ー4参照)。
① 本土捨場は,工事完了後再び農地として復旧するため,その時点までに軟弱粘土層の圧密沈下をほぼ終了させておく目的で,鉛直ドレーン工事を実施した(プラスチックボードドレーン,打設間隔,Ⅰ工区1.5m,Ⅱ工区1.3m)。
② 工程の都合上,土捨場中央部にできる高さ約15mの仮設盛土斜面の安定を図る目的で,サンドコンパクションパイル工事を実施した(杭径0.7m,杭間隔1.4m,改良率19.6%)。
③ 最終的な盛土高さは約25mとなるが,その最終盛土斜面の安定を図る目的で,深層混合処理工事を実施した(杭径1.0m,杭間隔1.0m,改良率78.5%)。

(3)捨土工事
昭和60年8月より開始した捨土工事は,上記仮設盛土斜面が最高高さ約15mとなった時期(昭和61年2月),最終盛土斜面が最高高さ約25mとなり法面整形工を実施した時期(平成元年3月)を順調に経由し,平成元年半ばには,予定の捨土量の大半の処理(約99%)を終えた。その後,残りわずかの捨土を受け入れ,現在は,圃場整備工事に着手している。

3 計測管理の概要
(1)目的と内容
計測管理は,盛土本体,軟弱地盤および地盤改良部などの土捨場の主要部分に計測計器を設置し,これから得られる情報を迅速に解析して施工に反映させ,工事の安全性を追求するとともに将来の維持管理上の基礎資料を得ることを目的とした。
主な管理内容はつぎのとおりである。

 ① 軟弱地盤の圧密沈下管理
 ② 工区境仮設盛土斜面の安定管理
 ③ 最下流最終盛土斜面の安定管理

(2) 計測計器の種類と設置位置
圧密沈下管理には主として沈下板,間隙水圧計の観測データを用い,また,盛土斜面の安定管理には傾斜計,地表変位杭,ひずみ計等の観測データを用いた。図ー5に計器設置位置平面図を示し,表ー1に設置した計器の種類,仕様,数量,計測目的等を示す。

4 圧密沈下管理
圧密沈下管理は,沈下板,間隙水圧計等の観測データと圧密理論から導かれる計算値との整合性を絶えず確認し,これをもとに捨土計画並びに沈下予測に反映させた。
(1)計測結果
捨土工事は昭和60年8月に着工し,平成2年3月にほぼ完了した。沈下計測は昭和60年8月より平成2年9月まで行っており,平成2年9月時における軟弱地盤の圧密沈下挙動は次のようであった。
① 圧密沈下は順調であり,最大沈下量はⅠ工区で2.3m,Ⅱ工区で3.1mに達している。
② 沈下速度はⅠ,Ⅱ工区ともに微少であり,沈下がほぼ終了に向かっていることをうかがわせる。
③ 沈下量をもとに算出した圧密度は,表ー2に示すようにⅠ,Ⅱ工区ともに97~99%であり,残留沈下量が微小であることを示唆している。

(2)沈下予測手法
圧密沈下量の計算は以下の手法で行った。
① 深度方向の軟弱地盤の性状の変化を反映させるため,地盤モデルは1層50cmの多層地盤とする。
② 各盛立段階の盛土荷重に対する圧密度を,バロンの近似式と一次元圧密計算式を用いて各層毎に算出する。
③ ②で算出した圧密度から有効応力を求めて累計し,全荷重に対する有効応力を算出する。
④ その有効応力に対する初期間隙比からの間隙比の変化をe~log P 曲線より求める。
⑤ 間隙比変化より沈下量を算出し,各層別に累計して総沈下量とする。
次に,計算に用いた圧密定数のうちe~log P 曲線については,圧密試験より求めたe~log P 曲線をそのまま用いることを原則とした。ただし,圧密試験を実施していない沈下板設置箇所については,コーン貫入試験で得られたコーン指数とe~log P 曲線の関係を整理し,コーン指数をもとにモデル曲線を作成した。また,圧密係数については,一次圧密のみを対象としたCvと二次圧密も含んだCv’の二つが圧密試験より求められるが,どちらを圧密計算に採用するかは議論の分かれるところであり,ここでは,その両方を用いた。なお,水平方向の圧密係数(Ch)は圧密試験で得られた鉛直方向の圧密係数(Cv)と同一と仮定した。表ー3は計算基本条件を示し,表ー4に計算に使用した4ケースの圧密係数の一覧を示す。

(3)実測値と計算値の比較
図ー6は,表ー4に示したケースの圧密係数について代表地点で沈下計算を行い,実測値と比較したものである。これによれば,沈下曲線の勾配はCvを用いたケース①よりもCv’を用いたケース②の方が実測値に近く,さらにケース②に鉛直方向の圧密効果を考慮したケース③では,初期を除き沈下曲線の勾配,沈下量ともに実測値にほぼ一致した。また,ケース④は,ケース③のうち初期盛土荷重に対して便宜的に過圧密領域のCv’を用いたものであり,初期を含めて実測沈下曲線をほぼ再現することができた。これらのことより圧密沈下挙動については次の点を考慮に入れれば計算値は実測値を再現することができ,当手法による予測計算値は十分信頼性が高いと判断された。
① 水平方向のみならず,鉛直方向の圧密効果も考慮に入れる。
② 圧密係数は,室内圧密試験で得られるニ次圧密も含めて算出されるCv’を用いる。

(4)予測計算結果
表ー4のケース③,ケース④の圧密係数を用いて前述の計算手法で圧密沈下の予測計算を行った。図ー7に実測値と計算値のフィッティング結果の一例を示すが,両者はよく一致している。また,その他の地点でもほぼこれと同様の結果が得られた。そこで,ケース③での予測計算結果をもとに残留沈下量を算出した。それによれば,平成2年9月以降の残留沈下量はすべての地点で10cm未満であり,圃場整備工事および圃場返還の維持管理に対する圧密沈下の影響はほとんどないと判断された。

5 おわりに
層厚10mの軟弱粘土量が約3mも圧密沈下するというケースにおける沈下の実態と計算についての報告を行った。各位の参考となれば幸いである。

参考文献
(1) 田中,山路,満島:軟弱地盤上の大型土捨場における計測管理について,電力土木,No.225,1990.3

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