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車両大型化に伴う山鹿大橋の補修補強工事について

建設省熊本工事事務所課
 道路管理第二課長
内 田 導 博

建設省熊本工事事務所
 道路管理第二課 修繕係長
下 山 道 秋

1 まえがき
山鹿大橋は,昭和28年に一般国道3号熊本県山鹿市大字山鹿の菊池川に架設された橋長176mの7径間鉄筋コンクリートT桁橋である。本橋は車両大型化の施行に伴い,新活荷重(25t)の供用に対する補修補強を行う必要が生じた。本橋は,昭和14年鋼道路橋示方書により設計されており,特に架け違い部という構造的弱点を有するゲルバーヒンジ構造であることから耐荷力不足となることが考えられる。また,ひびわれ・剥離等劣化損傷が生じ耐久性も懸念される。したがって山鹿大橋の詳細な調査を行い,現状での耐荷力・耐久性を判定し,新設計活荷重対応に必要な構造への補修補強工事を実施したものである。

2 山鹿大橋の概要
山鹿大橋の概要を表ー1に示し,一般図を図一1に示す。

3 橋梁調査
図ー2に示すフローに従って調査を行い,耐久性・耐荷力を判定して補修補強対策の必要な箇所の抽出を行った。その結果を以下に示す。

3.1 耐久性判定
① コンクリートの中性化の進行は鉄筋まで到達し,既に鉄筋は腐食環境下に置かれており,ひびわれ・鉄筋露出等部分的に鉄筋腐食に起因する外観的損傷が発生している。
② 豆板等施工不良箇所が各所に点在しており,局部的脆弱部を生じている。
③ コンクリート強度は180kg/cm2程度を有している。
以上の結果から,中性化による鉄筋腐食劣化の進行および施工不良箇所脆弱部による劣化により耐久性はかなり低下していると判定され,次の対策を図ることにした。
①鉄筋腐食防止②脆弱・欠損断面の修復

3.2 耐荷力判定
① 床版一床版厚は十分必要厚を保有しているが鉄筋量が不足し,曲げ耐荷力不足となっている。また損傷状態も,全体に曲げひびわれと思われる橋軸方向ひびわれが多く発生している。従って,新設計荷重に対し補強が必要である。
② 主桁一建設省「既設橋梁の耐荷力照査実施要領(案)」供用荷重照査Ⅱの判定結果から,現構造で,曲げ・剪断耐力ともOKとなり,新活荷重に対する暫定供用は可能と判定され当面は特に補強を行わずに供用が可能である。
③ ゲルバーヒンジ部一損傷状況から,支承移動不良に起因する応力集中による支承付近鉛直ひびわれおよび鉛直支圧耐力の不足に起因する受桁に放物線状ひびわれが発生しており,また構造的に切り欠き部は応力集中による損傷を生じやすいことから,新活荷重の供用に伴う交通荷重の大型化・増大化に対し欠陥部位となる可能性が高いため,ゲルバーヒンジ部は補強が必要である。

3.3 調査結果まとめ
耐荷力・耐久性判定結果を各部材毎にまとめると以下のフローのようである。

4 補修補強
4.1 補修方法
(1)鉄筋腐食防止一表面被覆工
コンクリート表面全体(床版・桁の補強箇所を除く)を樹脂塗装により被覆し,表面からの水・空気の侵入を遮断して鉄筋の腐食進行を抑制する。

(2)脆弱・欠損断面の修復一断面修復工
欠損・脆弱箇所をポリマーセメントモルタル(σck=210kg/cm2)により復旧し,設計断面を確保する。

4.2 床版補強
(1)補強工法選定
床版補強工法は,以下の理由により『下面増厚工法』とする。
① 不足する鉄筋を付加し,ポリマーセメントモルタルで被覆接着するRC構造による補強であり,現構造と同種であることから既設部と補強部の挙動がほぼ同一となり構造的に望ましい応力状態が得られること。
② RC構造であるため,補強後の二次損傷がひびわれとして顕在化し,外観観察が可能なこと。
③ ポリマーセメントモルタルであるため,表面被覆を兼ねることができる。
(2)補強断面照査
補強断面を図ー5,補強後の理論応力状態を表一2に示す。

4.3 ゲルバーヒンジ部補強
(1)補強方法選定
ゲルバーヒンジ部補強の補強方法としては次の方法が考えられる。
①ヒンジ支点反力軽減一天秤方式・吊支承方式
②ヒンジ構造改良一PC連結方式・RC連結方式各工法の概要を図ー6に示す。
本橋は,①架け替えは計画されておらず長期供用を予定しているため,異常時対応型の支点反力受け替え構造(天秤方式・吊支承方式)は適当でない。
②コンクリート強度が小さく,また脆弱箇所が多く点在しており,導入応力による局部破壊が予想されるため,PC連結方式による連続化は不適当である。このことから最も適当な工法として『RC連結方式連続桁構造』を選定した。

(2)連続桁構造の決定
連続桁構造に構造系を替えた場合の問題点は以下のことが考えられる。
① 主桁の応力状態が変化し,現構造での応力度より定着桁および橋脚支点上では減少するが,吊り桁では増加する。B活荷重での応力状態は表一3のとおりであり,定着桁および支点では許容値を満足するが吊り桁は許容値を超過する。

② 現支承条件では温度伸縮による水平反力が固定橋脚に集中し,過大水平力が作用する。
③ ヒンジ部遊間の連結が確実でなければ,有効な連続化は得られない。
よってRC連結による連続桁構造の場合次の対策が必要である。
 ①吊り桁部の補強(B活荷重対応)
  ・主桁下面補強鉄筋付加工法
 ②ヒンジ部の確実な連結
  ・ヒンジ部上下鉄筋配置
  ・遊間ポリマーセメントモルタル充填
 ③支承条件の変更
  ・全てゴム支承に取替え,支承条件を全支承常時可動地震時固定として,下部工ヘの水平力負担を軽減。
以上の条件より,図ー7に示す連結構造とする。この構造の場合と吊り桁部応力状態を表ー4に示す。

(3)ヒンジ部連結施工の留意点
①被覆および充填材は,既設コンクリート面との高い接着性がえられ,確実な一体化が期待できるポリマーセメントモルタルを使用した。
②ヒンジ部の連続化は,無載荷状態で行う必要があるため,夜間全面通行止めで1夜間で施工し,即日解放とした。このため,使用充填は短時間施工が可能な流動性が高く,3時間で所定強度が得られる超早強タイプのポリマーセメントモルタルを開発した。
③既設支承は,ピン支承(図ー8)で,撤去が困難であるためワイヤーソウを用いて切断撤去することとした。

5 補強効果確認試験
ゲルバーヒンジ部連結による構造変更の効果を確認するため,動的載荷試験を行った。
構造変更前後の鉄筋応力度および変位を計測し,その値の変化から連続構造の効果を判定した。
載荷試験結果を表ー5に示す。
試験より次の結果が確認できた。
(1)たわみ・主鉄筋応力度とも理論値と実測値は概ね一致する変化の状態を示しており,本工事におけるヒンジ部連結による連続化は,ほぼ理論上と一致する構造になっている。
(2)主鉄筋応力度の理論値と実測値が同一の変化の傾向を示していることから,吊り桁主鉄筋の補強効果はほぼ理論どおりの結果が得られているものと考えられる。

6 あとがき
本工事においては連結直後の状態では,理論上の構造とほぼ一致した連続構造に構造変更ができ,十分補強効果が得られたものと思われる。しかしながら,橋梁の本体コンクリートが経年によりかなり劣化した状態での補修補強であること。既設橋の構造変更であり試験的施工であるため構造上の問題が発生する恐れがあることから,今後繰り返し荷重の作用により,新旧コンクリート接着部の剥離の発生・連続化による応力状態の変化に伴う新たな損傷の発生等二次損傷の発生の可能性が考えられるため,長期に亘る計画的な追跡調査が望まれる。

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