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菊池川の川づくりについて

建設省 菊池川工事事務所長
松 石 忠 俊

建設省 菊池川工事事務所
 工務課 工務第二係長
米 村 秀 継

1 はじめに
昨年7月に菊池川では大きな出水があり,30箇所余で災害復旧工事を行うことになった。このため,設計コンサルタント,地元漁協,有識者等からなる多自然型工法検討会で設計を行った。
また,施工に当たっては,施工業者と多自然型施工研究会を設置し,設計者と施工業者との意志疎通の円滑徹底を図った。
以下にこれまでの取り組み状況と今回の対応について概要を紹介する。

2 菊池川の概要
菊池川は,流域面積996km2,幹川流路延長71kmに及ぶ一級河川である。その流域は3市16町2村よりなり,流域内人口は約22万人である。
流域は古くからの農業地域で,米のほか果樹栽培も盛んであり,メロン,スイカ等は全国に出荷され,また歴史・文化遣産として江田船山古墳をはじめ,加藤清正考案による水はねが各所に見受けられる。
菊池川は水量と水質に恵まれ,上流域は景勝地として名高い菊池渓谷がありヤマセミ,カワセミ等の渓流性の鳥類が棲み,ヤマメ,タカハヤなどの魚類やカワノリを育む清冽な自然環境である。
中流域はアユのほか,七城町の町魚に指定されている希少種のオヤニラミや絶滅危惧種のニッポンバラタナゴ類も生息し,河床には天然記念物に指定されているチスジノリの生育等自然環境が多く残された河川である。

3 多自然型川づくりの取組みの経緯
多自然型川づくりは,平成2年11月の通達を契機に平成3年度災害復旧工事から取り組み,平成9年度までの実施状況は下表のとおりである。

うるおいのある川づくり懇談会
多自然型川づくりが地域に根ざしたものになっているか評価し,また今後の川づくりの方向性を見いだすため,「菊池川うるおいのある川づくり懇談会」を平成4年に発足した。
構成メンバーは土木工学・鳥・獣・植物・昆虫・魚類の専門家や漁協関係者・河川モニター,他に県および市町村関係者で構成され,平成9年度までに計7回開催した。

工事完成後は追跡調査を行い,当初の目的を達したもの,達しなかったもの等を1~7段階に評価して「菊池川うるおいのある川づくり懇談会」に提出し,懇談会のなかで評価を行い今後の川づくりに活かしていく。
評価の低い原因には,設計者の経験不足によるものまた,設計者の意図が現場施工業者まで伝わっていないこと等あり,設計と現場との意志の疎通の不足も反省点に上げられている。

多自然型川づくりの事例

4 平成9年7月洪水および被災の概要
梅雨前線の活発な活動により7月6日から13日にかけて菊池川上流部では1,000ミリを越える雨量を観測し,ほとんどの水位観測所で警戒水位を突破した。なかでも支川合志川は,HWLを越える既往最高水位を記録した。
このため管内で30箇所に及ぶ災害復旧事業と災害関連事業4箇所が採択された。
災害復旧工事は同時に多くの箇所の設計や施工行うため,以下の方法により設計および施工を行った。

5 設計時における対応
「多自然型川づくり」について職員および設計コンサルタント5社,漁協関係者を初め,有識者による勉強会を実施し,同時に「多自然型工法検討会」を設置した。

第1段階  魚類の生態と川づくりについて
      川づくりプラン様式ー2の作成(川の特性等現況調査の報告)
第2段階  様式ー3の作成(全箇所の工法の検討)
第3段階  施工要領図の作成(施工現場へ意図を伝える)

以上各々の段階で検討会を実施し,菊池川の川づくりの考え方と一連区間の設計思想の統一化を図った。
この「検討会」で決定された工法による川づくりは,地元漁協からも賛同を得,多自然型川づくりの意議をアピールできた。
また,設計コンサルタントが5社となったため代表幹事会社を決定し,事務連絡や意見の取りまとめ等を代表幹事会社で行った。
設計図面の完成後,関係する自治体の首長等へ工事内容の説明を行い,極力地元の意見要望等を取り入れることで地域と一体となった川づくりとした。また,多自然型川づくりを補助事業に取り入れるための参考となることも期待し,検討会に地元県土木事務所にも参加を呼びかけた。

6 施工時における対応
工事発注後,多自然型川づくりを施工する現場技術者のために「多自然型施工研究会」を設置し発注件数が多いため代表幹事会社を選定した。
研究会は各現場代理人や主任技術者等で構成され,自工区の徹底した工法の習得と自工区以外についても今後の川づくりのための勉強と位置づけてお互いに意見を交え知識や技術の向上を図ることとした。
「うるおいのある菊池川」を発注者と受注者一体で創りあげていくことが狙いである。

第1段階  川づくり勉強会と施工要領図の説明と理解
第2段階  施工時の現場指導
※ 第2段階では設計を行った各コンサルタントと漁協関係者等で設計思想どおりの施工がなされているか確認・指導を行った。
第3段階 工事完成時の確認

7 施工後の対応予定
多自然型川づくりは,数年~10数年後を目標としているため追跡調査が重要になる。
設計コンサルタントおよび施工業者も含めて現場状況の経過を確認していくことにより,今後の多自然型川づくりに役立てればと考えている。
菊池川における多自然型川づくりの関係図を図一2に示す。

8 終わりに
昨年(平成9年)の河川法改正により河川改修工事や災害復旧工事において自然環境に配慮することは,法的にも当たり前のこととなった。
しかし,現場では関係者の意識,知識,経験の不足等から一般的に未熟さが目立っているのが現状である。これらを少しでも克服するため今後とも種々の取り組みを行っていきたい。

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